優しい風

(7)





 家に着くまで終始機嫌の良かった宗之。
 
 その横で雫はグッタリとしていた。
 宗之から離れる事の出来なかった事実。
 それにストレスと、睡眠不足。
 後は普段まともに食事をとっていなかったお陰で、雫
 はすっかり車に酔ってしまった。

 今住んでいる場所から実家までが遠いのもその一因
 だろう。
 ちょっとした旅行の距離なのだから。
 途中休憩をとってくれたが、車酔いをさますには時間
 があまりにも短かった。

 寝てしまえば楽なのかもしれないが、隣りに宗之が
 いるという事だけで緊張し眠る事が出来なかった。
 漸くうとうとした頃に家に着いてしまった。 

 割と早く家を出たのに、自宅に着いた時には夕方
 近かった。
 
 車を玄関に付け宗之が先に降りる。
 雫も降りなくてはいけなと思ってはいるのだが、中途
 半端な睡眠と車酔いの為、身体が思うように動かな
 い。
 モタモタしていると、宗之はドアを開け雫を抱き上げ
 た。

「やっ!」

 咄嗟に出てしまった拒否の言葉。
 我慢すれば良かったのかも知れないが、全身が宗
 之を拒否している。
 嫌悪で身体が強張る。


 雫の体調が優れない事は分かっている。
 途中雫が車酔いをしたと言った為休憩しながら来た
 のだから。
 だが、今腕の中にいる雫は車酔いのせいで顔色が
 悪いのではない事は分かっている。

 どんなに雫が自分の事を拒否しようとも、結局は自
 分の物。
 拒否の声も耳に心地よく響く。
 この声が、快楽を得た時にどんな艶のある声で響く
 のか。
 強張り震えている身体も、この手に掛かった時どん
 な色を放ち、乱れるのか。

もう十分待った・・・・・

 そろそろ、自分の立場を分からせておいたほうがい
 いだろう。
 今まで無理強いする事もしなかった。

 雫が自分の事を嫌っている事も分かっている。
 それに対し、自分は怒りもせずにいたのだ。
 そんな事を考え腕の中で震える雫を見ていた。

「そんなに俺の事が嫌いですか?」

 その言葉に、雫の身体が大きく反応した。

「俺に触れられて、鳥肌が立つ位嫌いなんですか?」


 分かってはいるのだ。
 こんな反応をしてはいけない事くらい。
 この先、家族の生活の事を考えれば我慢しなくては
 いけない事も。

 頭では分かっていても、身体がどうしても反応してし
 まう。
 全身が宗之を拒否してしまうのだ。

 治まらない鳥肌。
 それを指摘され顔も蒼白になっている。
 誤魔化しようもない。
 だが雫は首を振り、そんな事はないと装う。

 クックと低い声で笑う。
 細められた目は甚振る輝きを発している。
 今まで直接向けられた事のない表情。

恐い・・・・・・

 確実に宗之の態度が変わって来ている。

「いいですよ。 どんなに俺を嫌っても。 でも覚えてい
て下さい。 俺の気持ち一つで全てが決まるという事
をね」

 近づいて来る顔。
 身体を一層硬くし、瞳をギュッと閉じる。
 
助けて!

 そう思っても誰も助けてはくれない。
 相談出来る友達もいない。
 家族に至っては、雫は融資を受ける為の道具。

 目尻に涙が浮かぶ。
 
 唇に生暖い感触。
 目を閉じていた為、始めそれが何か分からなかっ
 た。
 だが、次に濡れた感触が。
 ギュッと閉じられた雫の唇をなぞってくる。
 何かが這っているようなおぞましい感覚。

 それが宗之の唇であり、舌である事に気付いた時
 には、雫の目から涙がこぼれ落ちていた。

 宗之が雫の事を好きだというなら違ったのだろう。
 ほんの少しでも良かったのに。
 そうしたらこの思いも違っていた筈。

 喜んでとまではいかないが、家族の為に宗之の物
 になったかも知れない。
 なのに宗之の心には、雫の事が好きだという気持ち
 がなかった。
 
 雫の外見が気に入った。
 自分との釣り合いが取れている。

ただそれだけ・・・・

 雫の心など全く無視しているのだ。


 宗之は、強く結ばれた唇を強引にこじ開ける事はせ
 ず、触れたり舐めたりして味わった。
 柔らかい唇。
 涙を零す顔にそそられるが、今はこれで許してやろ
 う。
 

 このままでは自分は壊れてしまう。
 嫌だ。

助けて・・・・・・

 雫はその言葉を、何度も心の中で繰り返し続けた。



 
 
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