優しい場所

(3)





 部屋の中には澤部ただ一人が雫に付き添っていた。
 入って来た和磨に小さく頭を下げる。
 いつでも移動できるよう準備が整っていた。

「・・・・帰るぞ」

 目を閉じている雫に告げる。
 その言葉に外にいた組員達の泣き声が大きくなる。

 雫の遺体が載せられたストレッチャーを澤部と漆原の二人が
 押し、病院裏へと着けられた車へと乗せる。
 少し離れた場所から顔見知りの刑事が、雫に向かって手を合
 わせ頭を下げていた。
 そして踵を返しその場から去って行く。

 状況が把握出来たのだろう。
 病院の周りにいた刑事達も程なくして、ここから去って行く筈
 だ。

 車は静かに病院を離れる。
 そして雫の家でもある神崎家へと向かう。
 征爾、剣達の車が後から続く。
 到着し門を潜ると、屋敷に詰める全員と訃報を知らされた清風
 会に連なる組のトップ達が和磨達を出迎えた。

 白い布団に横たえられた雫を見て、声を押し殺し泣く者も。
 この屋敷に来て一ヶ月ちょっとにも拘わらず、殆ど顔を合わせ
 る事などなかった筈なのに、雫は彼等に受け入れられていた
 ようだ。

これ程まで受け入れられていたにも拘わらず、お前はいつまで
たっても自信がなかった・・・・

 雫の髪をそっと撫でる。
 その優しい仕種が余計彼等には痛かった。

 本来であれば通夜を執り行うべきなのだろうが、和磨はそうし
 なかった。
 夏場であれば、色々な問題上そういう訳にはいかないのだが、
 今の季節は冬。
 これで最後なのだと思うと、一日でも長く雫と過ごしたかったか
 らだ。

 磨梨子達もそんな和磨の気持ちが分かるだけに、反対せず
 にいた。
 雫の遺体は本家奥座敷へと運ばれた。
 
 和磨は横たえられた雫の側に座り、安らかな顔を見つめてい
 た。
 時折、確認するよう頬に手を当て髪を撫でる。

 どのぐらい時間が経っただろう。
 
「浅井から連絡が入りました。 全員日垣のビルへ移し終わり
準備が整ったとの事です」

「・・・・・分かった」

 漆原の声に立ち上がり、雫を見下ろす。

「行ってくる」

 一言言葉をかけ、障子を開ける。
 そこには漆原の他に、磨梨子達の姿が。
 病院で見せた涙はなく、清風会総帥の妻の顔となっていた。

「・・・・・雫を頼む」

 そう言って和磨は本家を後にした。



 日垣にビルに入ると浅井が和磨達を出迎えた。
 案内された部屋には雫の家族、加奈子達全員の姿が。
 皆それぞれ縛られ動けないようになっている。
 和磨の姿を見て、加奈子は「助けて!」と叫んだ。

愚かな女だ・・・・

 これまで散々、何の罪も、落ち度もない人間をいたぶって来
 たにも拘わらず、それが自分の身の上に起ころうしていると
 助けを求める。
 今まで何人の人間が、今の加奈子と同じように助けを求めた
 事か。

 東部銀行頭取の娘に生まれ、金も容姿にも恵まれた女。
 甘やかされた為に、我が儘に傲慢に育った。
 なまじ金があったため、回りに金をばらまき、逆らう者、邪魔
 だと思う者を次々と排除してきた。
 そこいらにいる極道よりも質の悪い女だ。
 止める者がいないため、その行為はどんどんエスカレートして
 いき、決して手を出してはならない所にまで手を出した。
 にも拘わらず、自分は悪くないと言う。
 助けろと言う。

「浅井、用意しろ」

 冷酷な眼差しを向け、促す。
 許しては貰えない事を悟り、加奈子は半狂乱で叫ぶ。
 自分の娘のした事だが、せめて関係のない妻だけでも助けて
 欲しいと篠原は懇願してきた。

「娘の不始末は親の不始末でもある。 出来ない相談だ」

 取り付く島もない。
 そして雫の家族も和磨に助けてくれと叫ぶのだが、和磨のより
 冷酷な視線に震え口を閉ざす。

「家族であるにも拘わらずそれを否定し、あまつさえその命まで
奪っておきながら助けろとは・・・・」

 初めて出す残虐な笑みに、その場にいる誰もが息を呑む。
 雫の命を奪いながら、自分達は助かろうとするその身勝手さに
 和磨の怒りが頂点に達した。

「親が子供を守らずして誰が守る。 特に母親は自らの腹でその
命を育て、激痛に耐えながら新しい命を生み出す。 その命の重
さ、一番良く分かっている筈。 にも拘わらず、夫の、先に生まれ
た子供達の機嫌を伺い一番幼い子供を見捨てるとは。 一家の
柱である父親ならば、兄弟の歪んだ部分を諫め修正するのが
役目。 それを一緒になり、挙げく増長させた。 その結果がこ
れだ」

 事実を突き付けられ雫の両親は項垂れる。
 一時の憎しみの為に取り返しの付かない事を起こしてしまった
 のだから。
 和磨の言う通り、諫めていればこんな事に彼等の愛する妻・母
 を危険な目に合わせる事もなかっただろう。
 どれ程後悔しても、雫を蔑ろにした日々は消せない事実。

「親を助け、年の離れた弟を守り、迷わないよう手を引き、導くの
が先に生まれた兄弟の役目。 それを母親を取られたと言い憎
み、友人を取り上げた。 それがどれ程傲慢で身の程知らずな事
か・・・・。 借金に借金を重ね、それを作ったお前達が何の責任
も取らず、何の罪もない雫を売るとはな・・・・。 己が犯した罪、
償って貰う。 やれ」

 控えていた浅井が和磨の指示を受け、部屋のドアを開ける。
 大勢の男達が中に入り加奈子達に目を留める。
 中には政治家、財界人の姿も。
 皆、欲望でギラついていた。
 その中には憎悪の瞳で加奈子を見る者もいた。

「彼等は、皆、と言っても、森議員に恨みを持つ人達です。 中に
は篠原のお嬢さんに恨みを持ってる人もいますが」

 加奈子達を見渡し、浅井が説明していく。

「殺すのは余りにも簡単なので、仕置きにすらなりません。 な
のでもっと違った方法で仕置きさせて頂きます。 彼等にはここ
にいる女性達を犯して頂きます。 男性陣にはそれを見て頂きま
しょうか。 勿論拷問もありますから」

 内容はとても残酷なのに、浅井は優しい微笑みを浮かべてい
 る。
 聞き間違いではと思ってしまう程。

「まず最初に、篠原夫人にはこちらの方々のお相手をして頂きま
しょう。 彼等は皆、森代議士に陥れられ恨みを抱く人達です。 
今回この企画を聞き、喜び積極的に参加して下さいました」

 組員に指示し、晶子を男達の中に放り込む。

「キャ―――――――!!」

 晶子の悲鳴が部屋の中に響き渡る。
 衣服が引き裂かれる音。

「晶子―――!」

「お母様―――!」

 篠原親子が叫ぶ。
 それとは別に雫の母も悲鳴を上げる。
 同じ女である為、それがどれ程残酷な事であるか分かるよう
 だ。

「加奈子お嬢様、貴方には彼等のお相手をして頂きます」

 向けられた優しい声。
 だがそれがいかに残酷であるか知っている。
 涙を流し震えながら、視線を向ける。

「彼等の中の何人かは、知っているのではありませんか?」

「し・・・ない・・・・知ら・・・・いわ・・・・・」

 恐怖で歯がかみ合っていないようだ。

「そんな事はない筈ですが。 ほら、彼を覚えていませんか? 彼
は貴方の為に人をひいた事まであるんですよ。 こちらの彼は、
貴方の為に会社のお金を横領までして貢いだのに。 そしてこち
らの方の妹さんは、貴方の指示で輪姦されて自殺までされたん
ですよ」

 本当に覚えていないのかと目を眇める。
 そして彼等に向かって加奈子を突き飛ばす。
 加奈子を見下ろす目には憎悪が。
 
「殺すのは駄目ですが、それ以外なら何をしても構いませんよ。
犯すもよし、痛めつけるのもよし」

 言って浅井は加奈子の側にしゃがみ込み、髪を鷲掴みし顔を 
 上げさせる。

「大勢の男のに犯され精を受け、誰の子とも分からない子供を孕
むっていうのもいいでしょうね。 プライドの高い貴方にはこれ以
上ない屈辱でしょう。 さあお好きなように」

 浅井の号令と共に、男達が群がる。
 悲鳴が上がり、そして晶子同様服が引き裂かれる音が。
 それとは別に、バシっと殴られる音も。

「狂う事など許さない。 生かし最低限の自我とプライドは残して
おけ」

「いや―――っ、やめて―!」

 和磨の指示を受け、男達が暴走しないよう見張らせる。
 最後の言葉は加奈子達に向けられたもの。
 聞こえていようがいまいが関係ないと思い呟いた言葉だが、そ
 れは加奈子の耳にもしっかり届いていた。



 蝶よ花よと育てられ、どんな我が儘も聞き入れられきた。
 都合の悪い事は、全部代議士である祖父がもみ消してくれた。
 回りには常に大勢の取り巻きがいて、加奈子は彼等の女王で
 あった。

 それが今、初恋である和磨の前で大勢の男に犯され、好きで
 もない男の子供を孕ませるのも構わないとまで言われてしま
 った。
 狂う事も許さないとまでも。

 将来必ず和磨の妻になると決めていた。
 回りに男達はいたが、体だけは指一本触れさせる事なく、初め
 ては和磨に捧げようとまで誓っていたのに、それが叶わず、自
 分を憎む男達によって汚される。

「ギャ―――――!!」

 全てが狂ってしまった。
 雫が和磨の前から消えてしまえばいいと思っていただけ。
 家族が現れれば、邪魔な雫はそのまま連れて行かれると思っ
 た。
 なのに目の前で雫は刺され倒れた。
 今までにも、加奈子が邪魔だと思った者が加奈子の取り巻き
 のよって排除され、そして自殺した者もいた。
 だがそれらは加奈子の目の前では行われなかった。。
 だから死んだと言われても実感はなく、いなくなってよかった位
 にしか思っていなかった。
 
 目の前で人が死ぬのを初めて見て、その恐怖を知った。
 自分のせいではない、刺したのは雫の兄弟であり、自分は悪く
 ないと、許して貰えると思っていたが許されなかった。

 これから先も華やかな人生を送って行くと思っていたが、もう
 それも叶わない。
 終わることのない虜辱。
 いつ妊娠するか分からない恐怖。
 エステで磨かれた自慢の肌が、ベルトで打ち据えられ、裂け
 血が流れ出る。
 ある者は、ナイフで皮膚の表面だけを切り裂いていく。
 これが死ぬまで続けられるのか。
 
こんな筈じゃなかった!

 膣に肛門に激痛が走る。
 男達の肉棒が口にも押し込められ、精液を注がれる。
 全身男達の精液で汚れていく。 

 加奈子の隣では母がやはり同じように男達に犯されている。
 そしてその姿をビデオで撮られている。
 多分加奈子も。
 どんなに泣いても元の生活には戻れない。

 途中戻って来た森が加奈子達の姿を見て放心状態になって
 いた。
 
 好きで憧れていた和磨がこんなに残酷だとは。
 ただの実業家ではなかったのか。
 今更だが本当の和磨を知らなかった事を後悔した。
 視線だけで和磨に縋る。
 だが和磨は冷酷な瞳で見ているだけだった。



 加奈子の父、篠原の兄弟が勤める会社も、既に潰れているだ
 ろう。
 再就職しようとしても彼等は就職出来ない手筈になっている。
 生活に困り多額の借金を負う予定。
 いずれはそれを苦に自殺するだろう。

 森一族にしても同じだ。
 同じ代議士である森の弟も、今頃は漆原によってリークされた
 公共事業の談合が表沙汰になりマスコミを騒がしているだろ
 う。
 そしてその息子も今までもみ消した事件、そして覚醒剤所持が
 明るみとなり今頃警察に掴まっている筈。

 屋代家族に視線を向ける。
 和磨の視線に、彼等は母を妻を庇うように座っているが直ぐ引
 き離された。
 雫の母で、血のつながりがあるから目元はどことなく似ている
 が、関係ない。
 彼等は雫を捨てたのだ。
 その時点で、家族の繋がりなど切れたも同然。
 躊躇いなどなかった。

「・・・・出てこなければ、まだましな人生を歩めただろうが」

 和磨は雫を刺した仁志を見下ろす。
 残虐な瞳。
 瞳から狂気は消え和磨の恐ろしさに震えていた。

「やめてくれ・・・・。 母さんに、手を、出さないでくれ・・・・・」

 縛られた状態。
 膝で歩き和磨の元へ行き、土下座し懇願する。

「ゲスが・・・・」

 雫を奪っておきながら、都合の良いことを言い出す仁志を和
 磨の隣に控えていた漆原が容赦なく蹴り飛ばす。

「仁志!」

 家族が身を案じ叫ぶ。
 壁に叩き付けられた仁志は呻き、その場に倒れ込む。
 和磨はゆっくりと仁志に近づき、肩を踏みそのまま思いきり力
 を込めた。
 鈍い音がしたと同時に、仁志の口から悲鳴が。
 和磨が肩を踏みつぶした音だった。

「お前の犯した罪のせいで、大好きな母がどうなるかその目で見
ておくがいい。 どれだけ自分が愚かな事をしたか、毎日体を削
られ、確かめるといい」

 雫の母が男達に中に放り込まれる。
 先に放り込まれた晶子達と同じよう、男達の手が衣服を引き裂
 き虜辱されていく。
 母が妻が目の前で男達に犯される姿に、仁志達は叫び泣い
 た。

 一通り虜辱を見せた後、今度は男達に制裁が加えられる。
 激しい拷問。
 殺すなと言われた通り、ギリギリの線で生かし与え続けられ
 た。
 特に仁志に至っては、和磨が言った通り、体の一部が切り取ら
 れていく。

 この日はまず右手親指。
 当然麻酔などない。
 出血死されては困るから、止血の手当だけはされた。
 そして次の日は人指し指。
 日が経つにつれ、仁志の体からパーツがなくなっていった。
 拷問され、目の前では母が犯される。
 気が狂うことも許されない。
 
「殺してくれ――!」

 耐えられず叫ぶ仁志。

 和磨の瞳には何の感情も伺えない。
 何もかもが虚しい。
 失った心は元に戻らない。

そして雫も・・・・・
 
 屋敷には大勢人はいるが、寂しいだろう。
 浅井に任せ、和磨は漆原を連れビルを出る。
 そして雫の待つ屋敷へと戻って行った。
 




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