優しい鼓動
(45)









 日付が変わる直前、漸く自室へと戻って来た和磨。
 いつもより大分早い帰宅。
 だが雫は既に休んでいる。
 それで構わない。
 寝室の明かりを点けるとベッドに中にはスヤスヤと眠る雫の
 姿が。
 近づきその髪を、頬を撫でる。

 ここ数日まともに会話をしていない。
 全てはあの日、馬場で向けられた視線から始まった。
 一刻も早く雫の不安を取り除きたいのに、己の会社で起こっ
 た雑事で人を時間を取られてしまった。

 しかしその件については漸く片が付きそうだ。
 現金輸送車が襲われた事件は自作自演だった。
 怪我をした警備員が身内に頼み起こしたと判明した。
 理由は金が必要だったと。
 妹が何者かに攫われて仕方なく犯行を行ったと。

 妹が無断外泊をした翌日連絡が入った。
 そこで誘拐されたのだと分かった。
 犯行の電話があった後直ぐ警察に電話をしようとしたらしい。
 しかし、まるで見計らったかのようにまた電話が入り、『ポスト
 を見ろ』と。
 急いで外に出て郵便受けを見るとビデオが。
 再生すると、複数の男に囲まれ服を引き裂かれる妹の姿が
 映っていた。
 また連絡が入り、今はまだ服を裂かれるだけで何もされてい
 ないが、警察に連絡をしたらどうなるか分からないと脅され
 た。

 助けたければ指示に従え、上手く行ったら次の日にでも妹を
 帰そうと言われ、電話があった翌日犯行を行ったと。
 確かに次の日の夜、妹は帰って来た。
 だがもう一つの約束は守られなかったらしい。
 体中に情交の後。 
 強姦された事は確実。
 妹は心身共にボロボロになって帰って来たという事だ。
 それが今日だった。

 初めは判を押したように同じ事しか言わなかった。
 何度聞いても同じで警察は警備員を疑わなかった。
 だが和磨達は違う。
 目に疑いを持った。
 そして警備員の周りの変化を察知した。
 嘘は直ぐに判明しその日の内に解決したのだが、警備員の
 妹を誘拐した者達の素性が分からなかった。
 
 妹が帰されたのが深夜で目撃者がいない事。
 そして唯一犯人、監禁された場所を知っている思うとが心神
 喪失状態。

 しかし、最近あるクラブで金回りのいい大学生達がいるらしく
 その内の一人が女を監禁し輪姦したと回りに話していたと。
 多分この大学生が拘わっている事は間違いない。
 今日中に漆原達が連れて来るだろう。

 それまで少し体を休める事と、雫の体調が気になりいつもよ
 り早く帰って来たのだが。

今日は顔色も良さそうだな

 ここ数日帰って来ると雫はいつも苦しそうだった。
 時には魘され、時には涙を流し許しを請うていた。
 
『兄さん、御免なさい・・・・』

 悲痛な声に、雫を夢の中でも苦しめている兄を今すぐ抹殺し
 てやりたいくらいだった。
 しかし、彼等は今は側にいない。
 それにもしそんな事をした後、雫が知ってしまったら、今まで
 苦しめられて来たにも拘わらず涙を流し悲しむだろう。
 雫を悲しませたくない。
 和磨の願いはただひとつ。

 ここ数日は明け方近く部屋に戻り、魘されている雫を抱きし
 めるとピタリとおさまる。
 そんな事の繰り返しだった。 
 顔を見ると、今まで苦しそうだった顔が穏やかになっている。
 己の腕の中でだけ、雫が気を許している。
 それがこれ程まで和磨の心を穏やかにしてくれるとは思って
 もいなかった。
 
 初めて馬場で雫に出会い、今までとは違う何かを感じた。
 誰かに興味を持つなど、誰かに心を許す事など二度とないと
 思っていた。
 それを雫が変えた。

 光が眩しかったのか、それとも眠りが浅かったのか雫が目を
 覚ましてしまった。

「・・・お帰りなさい」

 フワリを微笑む姿が、ここ数日の疲れと苛立ちを消し去る。
 起きた顔を見ても今日の雫は調子が良さそうだ。
 顔色もいい。

 ここ数日で少し痩せていた。
 時間をかけ、初江は腕によりを掛け栄養ある物を作り雫に
 食べさせ、それとは別で母や澤部達がスイーツ等を買って
 食べさせていたお陰で大分体重も増えふっくらとして来たの
 に。
 太ったとはいってもまだ十分ではない。
 最低でもあと4sは増えて貰わないと。
 にも拘わらず、痩せてしまった。
 これでは抱きしめた時折れてしまうのではないかという危惧
 が。

 雫より細い女を抱いた事もあるが、その時は全く考えもしな
 かった。
 実際折れる事はなかった。
 だが雫はそんな女とは違い、本当に折れてしまいそう。
 とはいえ、この屋敷に来て直ぐの時、やせ細っていたにも拘
 わらず雫を抱き、翌日熱を出させてしまった。
 また同じ事を切り返さないようにと、雫の体の肉が付くまで
 挿入の行為まではしなかった。
 ここに来てようやく抱けるようになったのだ。
 誰かをこれ程まで気遣い、欲した事はなかった。

 まあその気鬱も明日まで。
 明日には一つは確実に減る。
 そうなれば以前と同じよう食事の席に付き雫の食事を管理
 出来る。
 同じ時間に寝て、腕の中で囲えば穏やかな眠りを与える事
 も出来る。
 
「起こしたか」

「いえ、まだ・・・・、ウトウトしていただけですから」

 雫の頬に当てていた手にそっと雫の手が重なる。

「・・・そうか。 明日は検査だ、早く眠れ」

「はい。 心配かけてごめんなさい」

 本当ならば和磨自身がついて行きたかった。
 だが今は一つでも気鬱を減らしたい。
 それに明日は母が雫に付き添うという。
 検査をする病院は、この屋敷に訪れ雫をの診察を行った一ノ
 瀬の病院。
 そして現在そこには現在は引退しているが、未だ政財界に
 大きな発言力そして影響を与える『藤之宮大吉』が検査入院
 とはいえそこにいるのだ。
 かなり警備は厳しい筈。
 念の為雫への警護の人数は増やすが。

「そう思うなら一日も早く良くなれ。 今のままではまた抱き潰し
そうで怖いからな」

 瞳を和らげ見詰めると、雫の顔が朱に染まる。
 この恥じらう姿が和磨を煽るという事を雫は気付いていない。
 他の者が同じ事をすれば興ざめだが。

「体が冷えてます。 早く暖まって来て下さい」

 顔を布団から半分出し言う姿もまた違う意味で和磨の目を
 楽しませる。

「一緒に寝て欲しいならそう言え」

 言ってクスリと笑うと「違います」と今度は本当に布団に隠れ
 てしまった。
 布団の上からポンポンと雫を叩き、「待っていろ」と言いバス
 ルームへと足を向けた。

 先にベッドに入っている雫を冷やさないくらいまで体を温め寝
 室へ入ると雫が肩にショールを掛けベッドに座っていた。

「寝ていろ、体が冷える」

 肩にショール、部屋には暖房が入り温かいがそれでも深夜
 は冷える。
 ショールを外し、横たえ布団を掛ける。
 和磨は体に残った水滴を拭いた後、そのまま雫の横へ入り
 込み腕の中へと囲む。
 いつもなら寝入った無意識の状態でしかすり寄って来ないの
 だが、今日は違っていた。

「どうした」

 「何でも」という雫にキスを。
 唇の上下を食み、舌をスルリと潜り込ませる。
 深くなれば体も高まっていく。
 そうなると抱かずにはいられない。
 その為加減をしながら雫の唇と堪能する。
 柔らかな吐息に、艶が籠もっていく。
 名残惜しいが唇を離す。

「早く良くなれ、そうでないと抱き潰してしまうからな」

 和磨からのキスにウットリとなっていた雫が、あからさまな表
 現に羞恥の為睨む。
 だが和磨にしてみれば可愛いもの。

「明日が検査でなければ、可愛がってやれるんだがな」

 艶の籠もった声で耳元で囁くと雫の体がピクリと。
 羞恥に顔を赤く染め「知りません」と言い和磨から顔が見えな
 くなるよう、胸元に埋めた。
 
 これ以上からかって拗ねられては困る。
 冗談だと言い、雫の髪にキスを落とし、改めて抱き直す。
 
「明日は早い、もう寝ろ」

「・・・・はい。 お休みなさい」

 小さな声で返事をし、雫は眠りに入った。
 今度の事が落ち着いたら雫を連れ、旅行にでも行こう。
 まずは近くから。
 報告では旅行に行った事ながいと言っていた。
 初めは戸惑い、断るだろうがきっと喜ぶだろう。
 その為にはまず全てを片づけなくては。
 寝顔を見て、改めて和磨は思った。





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