優しい鼓動
(29)









 和磨と雫の二人、手を繋ぎ並んで廊下を歩いていく。

 始め部屋を出る時、和磨が昨日同様、雫を抱き上げ連れて
 行こうとしたのだが、雫が恥ずかしいし自分でちゃん歩ける
 からと必死にお願いをして、それはなくなった。
 
 だが部屋を出る時、抱いて行かないのだからと、手を繋が
 れ移動する事に。
 
 それも恥ずかしいからと言ってみたが、屋敷の中で誰も見
 ていないし、抱き上げ連れて行くのを止めたのだから手は
 繋ぐと言って却下された。

 本当はその前にも一悶着。

 昨夜和磨に体を洗われ、恥ずかしく拗ねて布団に潜り込ん
 でいた雫。
 それを引っ張り出しパジャマを脱がし着替えさせ始めた。
 突然の出来事に固まっていた。
 上を脱がされ、先に用意していたシャツを着せられボタンが
 止められていく。
 
 今度は下のズボン。
 脱がされる段階で漸く我に返り、自分で着替えるからと言っ
 て必死に抵抗した。
 
 なのに和磨は聞こえないふりをして着替えさせていく。
 もう既に何度か和磨に体を見られてはいるが、それでも羞
 恥がなくなった訳ではない。

 せめて和磨達が言うように、もう少し太って貧相な体でなく
 なってからの方がまだいいと思った。
 本当はそれも見せたくはないのだが、どちらか絶対と言わ
 れたら後者の方だ。

 結局抵抗虚しく、和磨の手で全て着替えさせられてしまっ
 た。
 着替えが終わった後の雫の顔は羞恥のため真っ赤に染ま
 り、涙が浮かんでいた。
 そして和磨はそれを宥めるように雫の瞼にキスをする。
 別な意味で雫の頬が染まり、また和磨が今度は唇にキス
 をする。
 それが繰り返された。

 許容オーバーになり朝なのに、すっかり疲れてしまってい
 た。

 流石に雫の顔を洗うというところまではしなかったが、髪の
 毛に丁寧にブラシを掛けられた。

 兎に角、雫を構っていた。
 
 

 手を繋いで食堂に入って行くと、既に漆原が座っていた。
 そしてその左隣りには、昨日一日姿を現さなかった澤部の
 姿もあった。

「おはよーございます。 和磨さん雫ちゃん。 俺が一日いな
い間に随分和磨さんと仲良くなったんだねー」

 爽やかな笑顔を振りまき、手をヒラヒラと振り、雫達に挨拶し
 てくる。
 
 雫の頬が赤く染まる。

 澤部は普通に深い意味などなく言ったつもりだったが、雫
 にはからかわれているように思え、慌てて手を離そうとす
 る。
 だが手は離れず、今度はそのまま和磨に抱き込まれてし
 まった。

 より密着してしまい、どうしようとオロオロする。

 漆原の手が僅かに動いたと思った瞬間、澤部が仰け反っ
 た。
 
「フンガッ!」

「朝から煩い」

 漆原が冷たく言い放った。

 澤部は顎を擦りながら「・・・・だからって、アッパー喰らわさ
 なくても」恨めしげに言うが、漆原は無視した。

「お早うございます、和磨さん、雫さん。 昨日は良く眠れまし
たか?」

 漆原も特に深い意味はなく聞いただけだったのだが、雫
 には昨日と今朝の出来事を知られているのではないかと
 勘ぐってしまい、澤部の時以上に顔を真っ赤に染めた。
 目には涙までもが浮かんでいる。

 漆原達にしてみれば、なぜそんな反応が返ってくるのかが
 分からず戸惑っていた。

「・・・・・・・あ〜、友ちゃん。 俺らなんかおかしな事言ったか
な?」

「いえ、特に」

 二人して少し考え込む。
 すると、澤部が「あっ!」と大きな声を出した。

「煩い」

 またもや漆原に殴られる。

「友ちゃん、最近手が早いぞ」

 無言で受け流す。
 自分でも確かにそう思うが、まあそれは澤部が全て悪いの
 だという事で考えないようにした。

「で、なんですか?」

「サラッと流すなよ・・・・・」

「で?」

 抗議を聞く気のない漆原に、ブツブツ文句を言う。
 が、今は自分の思いついた事を早く確認したいので、一端
 中断。
 澤部の目がニヤリと三日月になる。
 
 余りにもスケベそうな顔に漆原の顔が引きつり、椅子を大
 きな音を立てて引く。

「あ、もしかして襲われちゃった?」

「えっ!?」

 この言葉に漆原の方が動揺していた。
 言われた雫に至っては意味が分かっていなかった。
 和磨の腕の中できょとんとしていている。
 
襲われた?
誰が?
何に・・・・・・?

「和磨さん、手が早すぎ。 友ちゃんもそう思うよね〜」

「私に振るな! それよりもそのスケベ面は止めろ」

「いや〜ん、スケベだなんて〜。 エッチって言って」

 大きな体をクネクネさせる澤部に「気色悪いんだよ!」と
 言い殴っていた。

・・・・手が早いって・・・・・!?

 漸く意味が分かった雫。
 顔だけでなく、耳も手も首までが真っ赤に染まる。
 慌てて「違います」というが、声が小さすぎて二人には聞こえ
 ていない。
 誤解を解かなくてはと思っているのだが、どうしたらいいの
 か。
 和磨を縋るような目で見上げる。

 顔を真っ赤にし、瞳を潤ませ縋るような目で見られるのは弱
 い。
 それが喜びだろうが、羞恥だろうが兎に角、雫の涙には弱
 い。

 それに、澤部の言っている事は間違っているから取り敢え
 ず雫の為に訂正をした。

 漆原はほっとしていた。
 二人が伴侶になったのは嬉しい事。
 体の関係もあっておかしくないのだが、今はまだ早いと思っ
 ている。
 和磨が一緒にいるのだから安心ではあるが、心身共に不安
 定なのだから。 

「え、違うんですか?」

 あからさまにガッカリする澤部。
 漆原は思わず殺意を抱いた。

 その時「あら、何が違うの?」柔らかな声が食堂に響く。
 見ると和磨の両親が入って来た。

 漆原と澤部の顔が切り替わる。
 現在神崎の頂点に立つ者。
 漆原の主は和磨であるが、やはりこの二人は別。

 椅子から立ち上がり、「お早うございます」と頭を下げる。
 雫も和磨の腕の中から慌てて抜け出し、二人に挨拶をする。

「お早う皆さん。 それで何が違うの?」

「え〜〜〜〜・・・・・」

 今までしていた話を、この二人に聞かせていいのかと悩む
 澤部。
 昨夜の内にあらかた漆原からは聞き、二人が伴侶となり征
 爾達もそれを認めたという事も。
 だからと言って、『二人がエッチしたみたいなんですよ』なん
 て事はとてもじゃないが言えない。

 目が泳ぐ。
 汗が流れる。

よっちゃんピ〜〜〜ンチ・・・・
 
 その時和磨が口を開いた。

「風呂と着替えだ」

「はい?」

和磨さん、それじゃ分かんねーよ・・・・

 余りにも簡潔すぎて余計分からない。
 だがこの言葉を聞いて雫が大きく反応した。
 
「風呂?」
 
 澤部が言う。
 雫が耳を押さえる。

「着替え?」

 今度は漆原が。
 雫はその場にしゃがみ込んでしまった。

エッチはしてない。
でも風呂と着替えに反応・・・

 ピンと来た澤部。
 どうやら漆原も分かったようだ。

 なぜなら澤部自身同じ事をした事があるから。
 その時は和磨とは違い、自分は思いきり欲望に走り楽しん
 でいたのだが。

「あ〜〜〜〜、それって一緒にお風呂に入って和磨さんに体を
洗われて、でもって着替えまでして貰って恥ずかしい?」

 一生懸命耳を押さえていたが聞こえていた。
 こんな事を皆に知られ、恥ずかしさの余り涙が零れた。

「澤部!」

 漆原が怒鳴る。
 澤部の言った事は正解だと分かったが、雫が泣き出してしま
 ったため皆が睨み付けた。

「うえっ!?」

みんなが思った事を代表して言ってみただけなのに、何故怒
る〜〜〜〜

 皆に睨まれ澤部はオロオロとしていた。

 すると、和磨はしゃがみ込んでしまった雫を抱き上げる。
 そして椅子に座り膝の上に乗せ、あやすように背中をトント
 ンと叩いた。

 この和磨の行動に皆が止まった。
 初めて見る和磨の姿。
 漆原と澤部の二人は、初日に同じような光景を目にしていた
 し、征爾や磨梨子も昨日見ているからさほど驚きはなかった
 がそれでもこの行動には驚いた、

 人をあやし、優しく見守るその姿は冷酷である和磨からは
 想像出来ないものだった。

 雫が特別だとは思っていたがこれ程までとは・・・・・

 誰もが思った事。

 静まりかえった食堂に、突如賑やかな声が聞こえて来た。

「ただいまー」

 見ると黒のパンツスーツに身を包んだ、抜群のプロポーショ
 ンを持つ華やかな容姿の若い女が立っていた。






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