優しい鼓動
(21)









キス!

 和磨にキスをされてしまった。

 両手で口を覆い和磨を見上げる。

 心臓が壊れてしまうのではないかというように、ドキドキが
 止まらない。

 宗之にキスをされた時には、悪寒と吐き気しか感じられなか
 った。
 だが和磨から受けたキスは恥ずかしく、心がドキドキとなる。
 
 その理由は一体なんだろう。
 優しいからだろうか?

 やはり和磨は今までの人達とは違う。
 
「どうした」

 キスをしてきた和磨は至って落ち着いている。
 
「・・・・・キス・・・」

 顔を真っ赤にし言うと、少し意地悪そうな顔になる。
 でもその顔は雫にとって嫌な物ではない。

な、何?

 和磨に腰を抱かれ引き寄せられた。
 その拍子に口元から手が離れる。
 
「あっ・・・・」

 和磨の胸元に頬を寄せ、手を添える。
 触れた場所から和磨の体温を感じる。

温かい

 すると顎を取られ、上を向かされる。
 
「今さら何を。 俺はお前を着替えさせた時に肌を見ている。
それに魘されていた時、口移しで水を与えた」

口移しで水を?

 確かに悪夢を見て魘されていた。
 苦しくって、寒くて心が痛くて。
 その時体の中に清浄な物か流れ込んで来た。

 冷たい物が、乾いた心と体の中を潤してくれた。

あれは水・・・・・?

 何度も何度も雫を潤してくれた。
 そしてその時、聞こえてきたではないか。

 『俺がいる・・・・・。 何も心配するな』という声が。
 あの声で悪夢から救われた。

 そしてその時、自分は何をした?
 水が欲しいと強請らなかったか?
 なくなった水を求めて去りゆく物を追ったではないか。
 冷たい水ではなかったが、温かな物が舌に触れた。
 雫の舌に絡んで、体を熱くしたではないか。

 あの温かい物が、和磨の舌だと気付いてしまう。
 そして包み込んだ温かい物が、和磨の腕だという事にも。
 自分はそれに、必死でしがみついたではないか。

あれは現実だったんだ・・・・

 今は触れただけのキス。
 しかし昨日は舌を絡ませるハードなもの。
 
 あの時、正気ではなかったが触れた感覚は憶えている。

「思い出したか?」

 雫の気配から、思い出した事を和磨は感じたのだろう。
 更に顔を真っ赤にし、羞恥に瞳を潤ませていた。

 本人には自覚はないが、その顔は和磨を誘っているとしか
 思えない艶と色気を放っていた。

 先程はタイミングを外されてしまったが、今度は雫が何かを
 言う前に唇を塞いだ。

「ん・・・・・・」

 放つ声も色っぽい。
 今痩せた状態でこの色気。
 もう少しふくよかになれば、更なる艶を発するだろう。

 先は長いが、今でも十分に楽しんでいる。
 これまでとは違い、かなり丁寧な取り扱いをしている自分を
 苦笑してしまう。

 雫の口の中は甘い。
 柔らかい舌も、唾液までもが甘く感じる。

「ん・・・・ふっ・・・・」

 吐息までもが甘い。

 雫は必死で和磨にしがみついている。
 震えてはいるが拒んでいない。
 その仕草が和磨を煽る。

 いつの間にか夢中になり、雫を貪っていた。

 すっかり二人から排除されてしまっていた漆原。
 二人が甘いのはいいのだが、見ていると雫の息が上がって
 きている。
 しがみついているように見えるが、和磨が腕を放せばそのま
 ま崩れ落ちる事は間違いない。

 この先、和磨にとって特別な人になるだろうとは思っていた。
 だがまだ一日しか経っていないのに、すっかり和磨の中に入
 り込んでしまっているではないか。

 今までにない感情がある。
 誰かに対し、こんなに情熱的な和磨を見た事がない。
 やはりあの時、雫を和磨に引き合わせて良かった。

 和磨は冷酷な人間だ。
 本人もそれを自覚している。
 しかしそれだけではこの巨大な清風会を纏める事は出来な
 いという事にも気付いている。
 分かっていはいても、そう簡単に人の心は変わらない。

 昔は裏の世界一色だった清風会。
 だが今は日本の頂点にある剣グループと血の繋がりがある。
 
 その為に現在は表の方で裏とは全く関係ない会社を作り、和
 磨はそのトップにいる。
 裏だけではなく、今は一般企業の社長も兼ねているのだ。
 だから少しでも、人の感情という物を知って欲しいと思った。
 いずれ清風会の頂点に立つ、相応しい人物。
 頭脳も、その統率力も本当に素晴らしく、年下ではあるが、漆
 原は和磨に心酔していた。
 
 そして雫に出会った。
 和磨の心を動かす人物に。
 今更ながら、自分のとった行動を褒めてやりたい。

しかし・・・・・

 二人を見て苦笑する。

「和磨さんそろそろ離して差し上げないと、雫さんが苦しそうで
すよ」
 
 漆原の言葉に和磨の動きが止まる。
 唇が離れると酸素が急に体に中に入ってくる。
 「はぁ・・・・・」という吐息を漏らし、そのままグッタリと和磨に
 体を預けもたれ掛かる。
 
 足にも力が入らない。
 頭の中もボーッとしてしまっている。
 和磨の腕がなかったら座り込むという醜態をさらしてしまうだ
 ろう。

 すると体がフワリと持ち上がる。
 立っていられない自分を和磨が抱き上げたのだ。

 正気な時なら、恥ずかしさに頬を染めているだろうが、今の
 雫には無理な事。

 逆に和磨の腕が心地よく、ウットリと体を預けている事すら
 分かっていない。

 そんな雫を見て、漆原は微笑んだ。
 そして、和磨の雫を見る瞳は温かかった。





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