優しい鼓動
(18)









 夢を見た・・・・・・
 
 光の中で、大きな鳥の羽に包まれて眠る自分がいた。

 漆黒の羽。

 他の者が見たら禍々しく見えるかもしれないその羽だが、
 雫にはその羽はとても美しく思えた。

 その羽の温かさを雫は知っている。
 その羽が自分を守ってくれている事を知っている。

 守られる事を知らなかった雫には、最初戸惑いもあったが
 そんな思いを吹き飛ばす程力強いものだった。

 だから雫はその羽に自分の身を任せた。
 その羽に自ら身を寄せた。

「おは・・・・・・す・・」

 近くで話し声が聞こえる。
 眠りから急に覚醒していく。

 与えられた部屋で眠りについた時には一人だった。
 なのに今、直ぐ側から人の声が聞こえてくる。
 一人ではない。

「ん・・・・」

 重い瞼を開けようとして声が自然に漏れた。
 すると「まだ寝ていろ」と言う声がし、頭を優しく撫でられ
 た。
 その行為がとても気持ちよく、思わずまた眠りにつこうと
 したのだが・・・・・・

え・・・・・・・・?
なに?
誰?

 驚きの余り、一瞬で覚醒した。
 重かった筈の瞼が一気に開く。
 目を開けると目の前に黒い布が。
 視線を辿って見上げると、居るはずのない和磨の姿が。

どうしてここに?!

 雫に与えられた部屋で寝ているのに、どうして和磨がここ
 にいるのかが分からない。
 そのまま視線を移動させると、寝る時に見た内装とは全く
 異なっていた。
 
 雫に与えられた部屋は緑が基調となっていた。
 だがこの部屋は青が基調になっている。
 深い青。
 まるで海の底にいるような感じ。
 
 何故自分がこの部屋にいるのか、理由がサッパリ分から
 ない。
 視線を更に移動すると漆原の姿が見えた。
 驚いた顔をしている。

 それはそうだろう。
 居るはずのない雫が、和磨の部屋に居て、同じベッドで
 寝ているのだから。

 漆原も驚いてるが、雫はそれ以上に驚いている。
 どうしたらいいのか分からない。
 緊張の余り貧血を起こして行くのが分かる。
 目の前がテレビの砂嵐のようになり、音が遠くなって行
 く。

 周りが分からない状態だが、自分の体がふわりと浮くの
 が分かった。
 そして髪を撫でられる感触が。

 その感覚が優しくて、気持ちが落ち着いて行く。
 目の前の砂嵐が落ち着いてきて、耳に音も戻ってきた。

 目の前が慣れて来ると、自分が和磨の膝の上に乗せられ
 横抱きにされていた。
 そしてジッと見詰められている。
 ドキドキと心拍数が上がっていき、自然と顔も熱くなって
 いく。
 
 二人からは自分の顔が真っ赤になっている事がハッキリ
 と分かるだろう。

 恥ずかしくて、和磨の上から退こうとするが腕に力が込
 められている為に降りる事が出来ない。

 オロオロとしていると、頭上から「今日からこの部屋で寝
 ろ」と和磨に告げられた。
 
「えっ? あの・・・どうして・・・・・」
 
 なぜ急にそんな事を言い出すのか。
 その疑問を口にすると・・・・・・

「お前は・・・・一人で寝ると魘されるだろう」

 体がビクリとなる。
 悪夢を見るのはこれまでにもあった事。
 魘される自分の声で起きる事もよくあった。
 そして昨日も悪夢を見ている。
 それを和磨に聞かれていたとは・・・・・
 蒼白になる。

「だからここに運んだ」

 和磨の部屋に居る理由は分かった。

「途中から悪夢はなくなっただろ」

 その言葉に大きく目を見開き、ハッと和磨を見上げる。
 そうだ、途中から確かにあの辛い夢から解放された。
 そして声が聞こえてきた。

 『俺がいる・・・・・。 何も心配するな』『側にいる』という力
 強い声が。
 そして優しく包まれる自分がいた。

あれは神崎さんの声・・・・・

 和磨のお陰で悪夢から解放されたのだが、それとこれと
 は別の事。
 長い間悪夢を見続けていた雫。
 そう簡単に悪夢から解放されるとは思わない。
 そんな自分を同じベッドで寝れば、また和磨に迷惑を掛け
 てしまう。
 だからそれは出来ないと言おうとしたのだか・・・・
 
「分かったな」

 有無を言わさない口調。
 和磨の中では既に決定済みのようだ。
 何を言っても却下されるだろう。
 だから素直に「はい」と返事をした。

 雫の返事に満足したのか、和磨は『良い子だ』というよう
 に髪を一撫でし、膝の上からそっと布団の上に降ろす。

 そしてベッドから降り別のドアを開け入っていった。
 少しするとシャワーの音が聞こえてきた。

 その音に自分の置かれた状況を思い出す。
 ドアの所には漆原が立ったまま。
 先程の驚いた表情ではなく、優しく微笑みを浮かべてい
 た。
 
 和磨との遣り取りを全て見られていた事が、とても恥ずか
 しく慌ててベットから降りる。
 そして足早に漆原の前を通り、ドアから出て宛われた部
 屋へと戻った。





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