優しい鼓動
(11)









 和磨と二人きりになってしまった。

 買い物の時も、食事をしている時も和磨は「大丈夫か」と雫
 の体を気遣ってくれていた。
 
 本当は疲れて、喉も痛かったのだが心配かけないように
 大丈夫と言っていた。
 
 しかし、和磨も漆原も気付いており戻ってみると医師がいて
 「体力が落ちている」とまで言われてしまった。

 家具屋で体調を気遣われた時、「大丈夫だ」と言った雫に
 対し和磨は少し不機嫌だった。
 雫が無理をして笑っていた事に気付いていたからだろう。

 隠していた意味がまったくない。
 かえって迷惑をかけてしまった。

 自分は何処に行っても迷惑をかけてしまう。
 人の心に対し鈍感である事が情けなくなる。
 もっと人の心に敏感であれば、周りとも上手く付き合えた
 かもしれない。
 そして家族とも。

 今更思っても仕方ない事。

 しかし考えてしまう。

やっぱり、僕が気をつければよかった・・・
みんなに受け入れて貰えるようにもっと頑張っていればこん
な事にならなかったんだよね・・・・・・

 暗い思いに囚われていく。
 
「何を考えている」

 耳元に聞こえてくる和磨の声。
 低く落ち着いた声。
 だがどこか咎めるような口調。

 今まで非の無かった雫。
 なのに雫は全て自分が悪かったと思いこみ自分自身を責
 めている。

 和磨はその事は知らないが、自分自身を否定する雫に苛
 立ちを感じていた。

 一目見て手元に置きたいと思った者。
 なのに雫は自分自身を否定している。

居場所を与えてやったのに否定するのか
俺が雫という存在を認めているにも拘わらずそれを否定す
るというのか

 誰がなんと言おうが、和磨が認めたからには雫は和磨の
 物。
 体も意思も存在全てが和磨だけの。
 だから雫が自分を否定するという事は、和磨自体を否定し
 ているのも同じ事。

あってはならない

 そして雫に存在を否定する心を植え付けた者への怒りが。
 自分が認めた者を否定する者がいるというのか。

 雫は和磨の物。
 今までの事は仕方ないとしても、この先雫を傷つける事は
 許さない。
 それが家族や親しい者であったとしても。

制裁は覚悟してもらう・・・・・・

 見えない怒りが和磨を包む。 
 その和磨の怒りを感じ、怯える雫。

 何故急に怒り出したのかは分からないが、原因は自分の
 ような気がする。

 居る場所を与え、優しく手を伸ばしてくれた恩人ともいえる
 和磨まで不快にさせてしまった。
 そんな自分が情けなく嫌になる。

どうして僕は人を不快にする事しか出来ないの
兄さんの言う通り生まれて来なければよかったのかも・・・・

 一度自分を否定し始めたら止まらなくなって行く。
 それが和磨には分かったのだろう。

「雫・・・・・。 何を思ってるのかは知らないが、自分の存在
を否定する事は許さない」

「えっ・・・・・」

 思っている事を言い当てられ動揺する。
 
「どういう環境で、どう暮らして来たかは知らないが、俺はお
前という存在を認め居場所を与えた。 そしてお前も了承し
た筈。 与える前なら己を否定するのもいいだろう。 だがそ
の後に否定するのは、居場所を与えた俺自身を否定するの
も同じ事」

「違います!」
 
 即座に否定する。
 和磨を否定するだなんて、そんな事思ってない。
 感謝はしても否定だなんてありえない。
 
 和磨達は自分の存在を認めてくれたのだ。
 そんなふうに思わせてしまったとは・・・・・
 和磨が怒るのも無理ない。 

「ならば己の存在を否定するな」

「はい、ごめんなさい・・・・・」

 卑屈な自分を恥る。
 和磨は雫を引き寄せ抱きしめる。

 急に腕を引かれた為に雫はそのままソファーに座る和磨の
 腕の中へ。
 広く逞しい胸。
 背中と腰に回された力強い腕。
 
「分かればいい」

 先程とは違う穏やかな落ち着いた声にホッとなる。
 
「・・・・はい」

この腕は優しくて暖かい・・・・・

 雫に安心を与える腕。
 その胸にそっと頬を寄せ和磨の体温を感じた。





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