月夜の下、あなたと
(12)

100万Hits企画






 心地よい眠りから覚めようとしている。
 出来る事ならこのまま目覚めたくなかった。
 夢だけではない。
 自分を包み込んでいる、この温かくて優しい場所から離
 れたくなかった。

 ここにいれば何時までも幸せな気分でいられると、何故
 かそう思えた。
 
 覚醒しきらない頭で夢を思い出す。
 憧れているクラウスから「愛している」と言われた事。
 そしてその言葉によって、それが憧れではなく「好き」と
 いう気持ちだった事に気づいた。
 夢の中のクラウスはこの先の人生を共に過ごして欲
 しいと言ってくれた。
 そして灯もそれに対し「はい」と返事を返した。

それって恋人同士って事だよね

 夢の中では恋人同士。
 クラウスを独り占め。
 
『恋人』
なんていい響きなんだろう

 思わずクスクスと笑う。
 意識が段々覚醒して行く。
 本当に良い夢だったと思っていると、聞こえる筈のない
 声が聞こえて来た。

「どんな素敵な夢を見ているのだろうね」

 腰に響く低く甘い声。
 この声も大好きだ。
 しかしなぜクラウスの声がこんな間近で聞こえるのだろ
 う。
 閉じていた瞳をゆっくりと開く。
 目の前には大きな壁が。

あれ、こんな所に壁あったかな・・・・

 褐色の壁。
 表面は滑らかだが、凹凸があり固くしかも温かかった。
 よく見るととても美しい筋肉がついた、鍛えられた胸だと
 気づいた。
 視線を上げると目の前にクラウスの顔が。
 どうやら自分はクラウスの腕の中にいるという事が判明
 した。

何で!?

 彼自身も寝起きだろうが、寝乱れた感じはない。
 それよりも男の色香を放っていて灯を誘惑しているよう
 だった。
 思わずクラクラしてしまう。

 いる筈のないクラウスの姿に、まだ寝ていて夢を見てい
 るのだと思いこむ。

そうか、僕はまだ夢を見ているんだ
なんだ〜、でもホント良い夢

 夢の中のクラウスは二面性を持つ灯を見たにも拘わらず
 自然に受け入れてくれた。
 しかも、それを可愛いとまで言ってくれた。
 何処までも甘いクラウス。
 そんな訳でつい甘えてしまった。
 逞しい体に腕を回し抱きついた。
 その胸の広さにフカフカさは全くないが、子供の頃素に無
 理矢理抱きつかされた遊園地の熊の着ぐるみを思い出し
 た。
 懐かしくて頬摺りをする。

「本当に可愛らしい。 あなたは何処まで私を虜にするんだ
ろう・・・・」

 柔らかい仕種で顔を上げられる。
 目を眇めたクラウスと視線が重なる。

ホントに素敵・・・・

「クラウス・・・・」

 熱の籠もった視線に灯もうっとりと見返す。
 熱々の恋人同士な自分が気恥ずかしかった。
 だが頭の中で何かがおかしいと感じていた。
 それはいつどうやって自分のマンションへ戻って行ったの
 か。
 そして今感じている感触。
 いつも灯はパジャマを着て寝ている。
 なのに直接シーツの上に寝ている気がする。
 見るとやはり灯はパジャマを着ていない。
 
「あれ? 僕、夢の中だと裸で寝てるんだ。 知らなかった」

 この状態を灯が夢だと思っている事に気付いたクラウス。
 通りで積極的だ。
 そうなると何となく意地悪してくなって来た。
 これが夢でなく現実だと知った時、灯がどんな反応をする
 のか。
 灯の頬、額、そして唇に指で軽く触れながら囁いた。

「抱きつかれるのは嬉しいが、夢だと思われているのは心外
ですね。 昨夜晴れて恋人同士になった事も夢だと思ってい
ませんか?」

え?

「昨夜、あなたは私に『生涯のパートナーになる』と言った。
あれは嘘ではありませんよね」

ええっ!?

 今までのは夢ではなかったのか。
 いや、自分に都合良すぎて夢だと思いこんでいた。
 しっかり目を見開き、背中に回していた手でベタベタと触
 る。
 このしっかりとした感触は夢ではない。

夢・・・・・じゃ、ない・・・・?

 一気に頭の中が晴れる。

ちょっと待って―――――!
なに、何が起こったの?!
何で僕、クラウスに腕枕なんかされて一緒に寝てるの!
「恋人になる」って、ホントだったの!?
僕とクラウスが恋人?
あり得な―――――い!

 頭の中はパニックだが、目の前のクラウスには知らぬ間
 に微笑んでいた。
 
「ないない、絶対あり得ない。 僕とクラウス・ローゼンバー
グが恋人同士? 絶対ないから!」

 などとブツブツ呟きはじめていた。
 その言葉を聞いて、今まで灯の反応を楽しげに見ていた
 クラウスの顔が凍り付いた。

「・・・・絶対ないとは、どういう事ですか」

 ヒヤリと背筋が凍るような声。
 灯の体が凍る。
 こんなに冷たい声を聞くのは初めて。
 クラウスの顔を見る事が出来ず震える。

 突然震えだした灯に、自分の失敗に気付く。
 アルコールと、夢だと思っていた事で大胆になっていたが
 本来の灯はとても内気な性格。
 正気の戻ればこうなる事は予想出来たはず。
 浮かれすぎていて忘れていた。

「ああ、あなたのせいではないのに。 私を許して下さい。 
昨夜あなたが私の恋人になってくれると言ってくれたので
浮かれすぎていました。 あなたはアルコールを口にし、酔
って正気ではなかった」
 
 怯える灯をあやすように、髪にキスをする。
 そしてしっかり抱きしめ、耳元で囁く。
 
「もう一度言います。 あなたの人生を私に下さい。 あなた
夢だと思っているでしょうが、これは夢ではありません。 そ
してあなたが一番気にしている、私の結婚は絶対にありま
せんから。 どうか私のパートナーになって下さい」

 優しいキスを受けている内に、震えも治まっていく。
 クラウスにこんなに切ない声をさせてしまった事が苦しか
 った。
 
ほんの少しでいい、勇気を出そう

「ご、ごめんなさい・・・・、僕、夢だと思っていたから・・・。 
本当に失礼な事をしてしまって」

「そんな事はどうでもいいんです。 あなたが私に告げたあ
の言葉は嘘だったのですか」

「あの言葉・・・・」

 思い出して欲しいと懇願される。
 それが夢の中でした告白の事だと分かった。
 嘘ではない。
 クラウス好きだと自覚したのはほんの少し前だが、こうし
 ている今でさえ、どんどん惹かれているのが分かる。
 思い悩んでいると体勢が変わる。
 両手をベッドへと貼り付けられる。
 押さえつけられる形になり怯えたが、覗き込んでくる顔が
 切なそうで、その思いは消えた。

あの言葉、本当なのかな・・・・
ホントに僕を恋人だと思ってくれるのかな

 2度も結婚は灯のため、悲しませないためにしないと言っ
 てくれた。
 クラウス程の男が、その言葉を違える事はしないだろう。
 こんな自分を欲してくれている。

「僕は・・・・・」

 灯の言葉を聞き逃さないよう真剣な顔。

「僕は・・・・・」

 不安で不安で仕方ない。
 好きだと告げていいのだろうか。

「私は、灯、あなたを愛している。 あなただけだ」

 灯の勇気を後押しする言葉。
 クラウスは待った。
 灯の口から言葉が欲しかった。
 アルコールを飲ませれば直ぐに本音が聞ける。
 言葉など聞かずとも、灯がクラウスを好きだという事も。
 しかしそれでは駄目なのだ。
 内気な灯だからこそ、その言葉は重要。
 流されるのではなく、自分の意志で告げて欲しい。
 そして互いを理解し合いたい。

 目が覚めた時のあの感動。
 腕の中で愛おしい存在の灯が楽しそうに笑っている姿が
 如何に自分にとって幸せか。
 見つめていると白磁気のような頬がバラ色染まる。
 そして遂に求めていた言葉が告げられる。
 ごく小さな声で。

「あなたが・・・・、あなたを、愛しています・・・・」

 遂に言ってしまった。
 言葉に出すとよりその思いが強まる。
 もうなかった事になど出来ない。
 クラウスを信じ、付いて行こうと決めた。

「灯!」

 待ち望んでいた言葉に破顔し、腕を取られ抱きしめられ
 た。
 クラウスより小柄な灯はスッポリと埋まってしまう。
 この喜ぶ姿に嘘は見られなかった。
 おずおずと背中に腕を回す。

良かった・・・・・・

 灯の顔が綻ぶ。
 花が綻ぶような可憐な微笑み。
 クラウスが見ていなかった事が残念だ。
 こうして抱き合う事も代え難いが、やはり顔を顔を見たい。
 互いの思いが通じ合い見つめ合う。
 
「灯」

「はい」

 自然と互いの顔が近づく。
 キスを予感し、灯は瞼を閉じる。
 そして触れる唇。
 最初は重なるだけ。
 何度も何度も角度を変え触れる。

キスってこんなに気持ちいいんだ・・・・

 初めてのキスにすっかり酔っていた。
 
「ん・・・・」

 そして自然と零れる吐息。
 その声に触発されたのか、重なった唇をトントンと突かれ
 る。
 突かれた事で唇が薄く開く。
 そこから滑り込むように入って来た舌。
 驚きに逃げてしまいそうになる灯を、クラウスは押しとどめ
 る。
 逃げる舌を追われ、絡め取られる。
 時にキツク、時に優しく。
 
「んふ・・・」

 互いの唾液を交換し合い、飲み込めなかったものが零れ
 顎を伝う。
 息が上がって来たのを見計らいキスが解かれそして顎に
 零れた唾液を舐め取られた。





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