月夜の下、あなたと
(11)

100万Hits企画






 アルコールを口にした灯の頭はフワフワしており、夢か現実
 かが分からなくなっていた。

 藤木やショウの前、あと素の事を考えている時の灯は言いた
 い事をスラスラと言えるが、それ以外ではとてもではないが
 言う事など出来ない。
 特にクラウスの前では固まってしまう。
 だが今はアルコールが入っているお陰を今一現実から頭が
 遠ざかっているために、思っている言葉出てくる。
 本人は心の中で呟いているつもりだろうが、実際には言葉
 となり口から出ていた。

「夢みたい・・・・」

 ボソリと呟いた言葉にクラウスが問う。

「何が、ですか?」

 声をした方を見上げると、目鼻立ちのくっきりとした憧れの
 男の顔があった。
 両手で優しく頬を挟み、ジッと見詰める。

「かっこいい・・・・」

 うっとりとした口調。
 見上げる瞳は潤んでいる。

 灯の妖艶な姿に、クラウスの息が止まる。
 相手は酔っているのだと分かっていても、誘われているよ
 うに思えてしまう。
 理性で抑えているが、かなり苦しい。

 そんなクラウスの葛藤など知らぬ灯は思うがまま行動する。
 頬から手を離し、今度はその広い胸に顔を埋め頬摺りをし
 両手を背中に回し抱きつく。
 
「いいな・・・・、格好良くって、こんなに体格も良くて。 僕の理
想の体型だ。 こんな体になりたかったな〜」

 こんな体をしていれば一ノ瀬から素を簡単に守る事が出来
 たかもしれない。
 こんなウジウジした自分ではなかったかも。
 そう思うと羨ましくてついつい体をなで回してしまう。

「くっ・・・・」

 詰めるようなクラウスの声。
 だが灯は気付かない。

「それに、凄く堂々としてて羨ましい。 僕なんか素の事がな
かったらただの弱虫だし、暗いし、貧弱だし良いところ全然
ないよ・・・・・」

 言っていて情けなくなったのか涙声。
 今度はクラウスが俯いた灯の頬に両手を当て、顔を上げさ
 せる。
 互いの瞳がぶつかりあう。
 熱を含んだクラウスの瞳に、顔に熱が。

「あなたはそのままでいい。 そのシャイな性格はあなたに
とても合っている。 その容姿も・・・・」

 低く艶のある声に、背筋がゾクリとなる。
 髪を撫でる手から甘い痺れを感じるのは気のせいだろう
 か。
 
「濡れ羽色の艶やかな髪。 黒く潤んだ瞳。 ふっくらとした
桜色の唇。 どれもあなたの美しさを引き立たせている。 体
も・・・・・」

「ぁん・・・」

 背中を撫でられ自然と反る。

「こんなに敏感だ」

 耳の下をチュっと軽く吸われる。

「やぁ・・・」

 腕の中で体を捻る。
 突き放すような動きではなく、身悶えるような仕種。
 全てがクラウスを刺激する。
 まだ早いと思ったが、クラウスは自分の思いを灯に伝えた。

「一目見て、あなたの虜になりました。 灯・・・、あなたを愛し
てしまった」

 何事にも強気で、自分の思いを貫き通し、そして成功を収め
 て来たクラウスだったが、事灯に関しては弱気な自分がい
 た。
 戸惑いながらも、それは決して不快ではなかった。

「灯、この先の人生をあなたと共に過ごしたい」

 今拒まれたとしても諦めはしない。
 何度でも、この思いを伝え灯を手に入れようと誓う。
 だがあっさりその願いは叶う。

「僕も・・・・、あなたの側にいたい」

 なんて都合のいい夢なんだろう。
 この出来事はすっかり夢だと思いこんでいた。

 あのクラウスが自分の事を好きだという。
 今まで憧れていたと思っていたが、「愛している」という言葉
 に自分もクラウスの事が好きだったのだと気付いた。
 そうでなかったら、こんなに長くクラウスの事を思っていられ
 る筈がない。
 素の事を置いて、サーキット場に行く筈もない。

初めて見た日から、きっと好きだったんだ・・・

 酔った頭で確信した。
 こんな素敵な夢ならずっと見ていたい。
 現実ではあり得ないだろう。
 ろくな会話も出来ない。
 直ぐ倒れるし、性格も二重人格だし、顔も素みたいに可愛く
 ない。
 全くもって良いところのない自分。

夢って素晴らしい〜

 夢の中でだけでもいいから側にいたい。
 幸い夢の中のクラウスは「この先の人生をあなたと共に過
 ごしたい」と言ってくれた。
 実際では叶う事はないだろう。
 なぜならクラウスはSW社の社長であり、ローゼンバーグ
 財閥の次期総帥。
 いずれ家柄のしっかりした令嬢と結婚するのだ。
 夢の中なら自分だけの物。
 こんなチャンスは二度とない。
 迷う事なく「一緒にいたい」と返事をした。

 その言葉を聞いて、クラウスは今まで見た中で一番幸せそ
 うな顔で笑った。

「ありがとう」

 その顔を見た灯も今ままでで一番最高の笑顔を向けた。
 クラウスもしっかりと灯を抱きしめる。

「灯、あなたを一生大切にします。 確かに私はローゼンバー
グ財閥の次期総帥だが、結婚はしない。 総帥は元々一族の
中から優秀な者が選ばれているのだから。 私が結婚しなく
ても誰にも迷惑は掛からない。 私はあなただけを愛すると
決めたのです」

 心に思っていた事がどうやら口に出でいたらしい。
 灯の不安を取り除いてくれた事で、更に心がクラウスへと
 傾いて行った。
 だが念には念を入れ確認する。

「ホントに、結婚しない? 後からやっぱり結婚しますなんて
言わない?」

 子供のように愚図る灯。
 他の誰かが同じ事をしたら鬱陶しいと切り捨てるだろう。
 だが、これが灯だとその執着が思った以上にクラウスの心
 に歓喜をもたらした。
 
これ程までに惹かれているとは・・・・

 灯が嫌だと言っても手放す気などない。
 誰にも見られないよう、閉じこめてしまいたい。

これが恋なのか

 初めて味わう思いに戸惑いながらも、心地よかった。

「勿論です」

 ハッキリと言い切ったクラウスに灯は顔を輝かせる。

「嬉しいっ!」

 夢だけど、クラウスは結婚しないと言ってくれた。
 それが本当に嬉しくて素直に喜びを表した。
 酔っているためか、心の扉があっさりと開かれる。
 思っている事がスラスラと出てくる。
 喜びを伝えたくて大胆にも、クラウスに抱きついた。
 
 抱きつかれたクラウスも幸せというものを肌で、心で感じて
 いた。
 酔っているからこそ、本当の気持ちが出てくる。
 心が聞けた事と素直に体で表す灯が愛おしく、抱く手に力
 が入る。

 大きな腕に包まれて、温かい体温を感じているうちに睡魔
 が押し寄せてくる。
 そしてクラウスの顔も。

やっぱり、凄くかっこいい・・・・・

 唇が触れる寸前「大好き」と呟く。
 一瞬クラウスの動きが止まる。
 温かい唇が触れたと同時に意識が途切れた。

 触れた唇が思った以上に柔らかく、うっすらと開かれた唇
 から舌を潜らせる。
 触れる寸前に灯の唇から零れた「大好き」の一言。
 何気なく零れただけに、その言葉には真実みがあった。
 
 自分に憧れている事は知っていた。
 ならば灯は自分を好きになると確信した。
 クラウスだから許される、傲慢ともとれる思い。
 しかし実際灯は自分の事を好きだと言ってくれた。
 共にいたいとも。

 決して違えるような事はしない。
 誰になんと言われようが、灯だけがパートナーと決めた。
 思い込め口づける。
 大人しくされるがままの灯。
 時折艶めいた声が漏れるが、何かおかしい。

「灯?」

 口づけを解き、灯を見ると口元に微笑みを浮かべながら寝
 ていた。

 スヤスヤと眠る姿に苦笑する。
 艶めいたと思ったら、今度はまるで子供のように無邪気な
 寝姿。
 灯には翻弄されっぱなしだ。
 
 起こさないように寝室へと運ぶ。
 そっとベッドに下ろすが起きる気配はない。
 このままでは寝苦しいだろうからと、灯へと送った服を脱が
 せる。
 やはり起きる気配はなかった。

本当に美しい・・・・

 脱がせた服の下からは、真っ白な素肌が現れる。
 瑞々しくしっとりとしたきめ細やかな肌。
 一ノ瀬から、灯が29歳だと聞いているが、とてもそうは見
 えない。
 22.3と言われても違和感はないだろう。
 弟の素もとても26歳には見えないし。
 
 クラウスも服を脱ぎ、灯の横へと体を滑り込ませる。
 そして腕の中に包み込む。

 アルコールで赤くなった顔。
 先程灯の口から零れた言葉もアルコールによってのもの
 だと分かっている。
 素の状態であれば、決して口にはしないだろう言葉。
 幾ら酔っていたからと、後で言われようが聞いてしまった。
 なかった事になどしないし、させない。

「灯は私のものだ」

 微笑みを浮かべ眠る灯の頬にキスをする。
 手に入れた愛しい者。
 明日起きた時の反応が楽しみだ。
 灯を抱え直し、その体温を感じながらクラウスも眠りへと
 落ちていった。
 
 



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