楽しいお茶会
(5)
50万Hits企画






 珊瑚に引っ張られ両頬が赤くなった若菜。
 頬を押さえ半べそをかいている。

 一方、引っ張った珊瑚。
 引っ張り足りなかったのか不満げな顔。
 どうせなら両頬が赤く腫れるまで引っ張りたかったのに、途中で竜也と綾瀬に止めら
 れたのだ。



これでもかー
これでもかーー!
うりゃ〜〜〜〜!

「うぎゃ〜〜〜〜!」

 叫ぶ若菜。
 そんな二人を唖然と見ていた面々。
 竜也は冷静だった。
 頬を引っ張っていた手をやんわりと抑える。

「珊瑚、その辺で止めないと若菜さんの頬が変形するよ」

「是非見たいね!」

 若菜に視線を向けたまま言い切り、怒りを発散させるべく手に力を入れ再開しようとす
 る。

 今度は綾瀬に止められる。

「腹が立つのはよく分かる」

 綾瀬の言葉にも実感がこもっている。
 今現在、眼鏡を掛けたままの若菜は確かにダサク、十分オタクに見える。
 だが、その下に隠された美貌は綾瀬の知る中では一番。
 そでが「普通」と言われた日には。

俺だって腹が立つ!

「俺としても出来る事なら心ゆくまで引っ張らせてやりたいが、若菜の顔が腫れると俺に
被害が及ぶから止めてくれ」

 手はそのまま外さず、顔を綾瀬に向け「どうしてさ! 綾瀬は関係ないだろ」と怒鳴る。
 だが綾瀬の顔は真剣だ。
 何だか嫌な予感が。

「それは兄さんがキレるからだ」

「!」

 そう、綾瀬が一緒にいたにも拘わらず怪我などしようものならばどんな仕打ちがある
 か。
 自分に来ない事は分かっている。
 そしてその矛先が綾瀬の恋人楠瀬 悠二に向けられる事も。

 『過労死だけはさせたくない』

 愛がある綾瀬だった。

 珊瑚は綾瀬の兄であり、若菜の恋人である久我山貴章を思い出す。
 人間離れした美貌の持ち主。
 こんな美貌を見たのは若菜の時依頼。

 若菜の素顔を見た時余りの美貌に立ったまま一瞬気を失ってしまった。
 光り輝き、見る者全てを魅了する微笑み。

人間か・・・・・?

 などと本気で思ってしまった程。
 貴章を見たときも同じように、その造形の美しさにやはり人間なのかと思った。

 ただ若菜の時とは違い気配の鋭さ、威圧感に恐怖を覚えた。
 視線で人が殺せるとしたら、珊瑚はその場で死んでいただろう。
 そのくらい瞳は暗く、刃物のよう。
 全身に震えが走った。

 だが若菜が「貴章さん」と呼び隣りにいるだけで、その殺伐とした雰囲気が修まり柔ら
 かくなった。
 劇的な変化。
 貴章の世界は若菜を中心に回っていると思っても過言ではないと珊瑚は思っている。

 去年、綾瀬達が誘拐され、『若菜が身代わりになって怪我をした時キレて手が付けら
 れなかった』と、あの綾瀬が顔面蒼白で震えながら話していたではないか。
 それに、つい先日も珊瑚は貴章が切れたのを見た。
 あの時の恐ろしさは一生忘れる事はないだろう。

た、確かにマズイかも・・・・・

 また夢で見て魘されるのは勘弁だ。
 汗がダラダラと流れてくる。
 竜也を見るとこちらもかなり困った顔をしている。
 普段どんな時にも顔色を変える事なく俺様な竜也が本当に困った顔をしている。

命の危機!

「す、すみません、冷たいおしぼり二つ! 急いでください!」

 必死な形相の珊瑚に同情し、明日は我が身と思う面々だった。
 貴章の存在を知らない佐倉兄弟だけは顔面蒼白の彼らを見て不思議そうな顔をして
 いた。


 冷たいおしぼりをこまめの取り替え、頬を冷やしたお陰で現在若菜の頬から赤みが殆
 ど消えた。
 暫くすればその赤みも完全に消えるだろう。
 ホッと一安心する面々。
 中でも珊瑚は生命の危機を脱した事にその喜びは計り知れない。
 普段は邪険にしがちな恋人竜也に対し、見事に甘えていた。
 というより壊れていた。

 新しく頼んだスイーツを前に「竜也はどれが食べたい? これなんか美味しそう」「あ、
 俺もそれ食べたい。 半分こしよっ。 あ〜ん」などと普段の珊瑚からは考えられない
 行動。

 それに喜んだのは竜也。
 外にいる時は勿論、家の中でさえ「来るな」「触るな」「引っ付くな」などと邪険にされて
 いるのだ。
 「照れ屋」だから仕方ないと思いながら、偶には珊瑚の方から甘えて来て欲しいと思っ
 ていただけに、今この状況は美味しい。
 ここぞとばかりに二人の世界に入っている。

兄ちゃん、ここにバカップルがいる・・・・

そうだね、ここまで堂々としていると見てて気持ちいいかもね

あ〜、いいな〜珊瑚、僕も貴章さんとイチャイチャしたい〜

・・・・・いつもしてるだろう

雄も見習え

出来るか!

 各自、またもや視線で会話していた。

 そんな時道路を挟んだ向かい側に車が二台止まった。
 非常に特徴のある車。
 若菜は思わずジッと見詰める。

 その視線に皆も見る。

あれって・・・・・

如何にもって感じの車だね

みんな目を反らせ

雄・・・・・お前が一番見てるぞ

 黒のベンツが2台。
 窓ガラスには黒のスモークが張ってある如何にも「ヤバイ系」の車。

 皆が視線を反らすなか、若菜一人がジッと見ていた。

「若菜ちゃん、あんま見たらヤバイって」

「そうだよ、戸田君。 もし万が一目が合った何言われるか」

 佐倉兄弟に言われる。

 後ろのドアが開き、中から人が降りてくる。
 離れた場所にいても分かる長身。 
 黒のスーツにサングラス。
 やはりどう見てもヤバイ系。
 身のこなしがよく隙がない。 

 すると若菜が「あっ!」と大きな声を出し勢いよく立ち上がる。

「戸田君!」

 焦る素。
 
 若菜の声が余程大きかったのか、道路反対側にもいたに拘わらず、サングラスの男
 がこちらを見た。
 急いで歩道に行く若菜。
 誰も止められない。

ひぃ〜〜〜〜〜〜

 綾瀬と竜也以外の全員が蒼白になる。

「澤部さ〜〜〜〜ん!」

 反対側の歩道の人物に向かって、両手をブンブンと大きく振る。

「げっ! 戸田若菜」

えっ、知り合い?!

 視線が一斉に若菜に向けられる。
 いかにもそっち系の方と若菜の繋がりが分からない面々だった。



「あっ、こら若菜!」

 突拍子ない若菜の行動に止めようとする綾瀬。
 だがその言葉はスルー。
 丁度車通りがなかったため、若菜は走って澤部の元へ。
 綾瀬も慌てて若菜を追う。

「こんにちは、澤部さん」

 目の前に行き行儀良くお辞儀する若菜。
 澤部は若菜にとって命の恩人ともいえる人物。
 背が高く色男で強くて。
 なんと言っても話が合う。
 若菜の大好きリストに乗っている。
 それが偶然にも会えた。
 嬉しくて仕方ない。

 一方の澤部といえば、若菜は得体の知れない人物。
 清風会の傘下にある一つの組に不穏な動きがあると報告を受け潜入していた時に出
 会った。
 
 澤部は和磨の右腕として働いているが普段表に出ることはない。
 表に出る時には別な者が澤部として立っている。
 そうする事によって何かが起こった時に直ぐ対処出来るから。

 そして潜入した組は久我山グループに恨みを持ち、揺さぶりを掛ける為に久我山家3
 男久我山綾瀬を誘拐するという計画だった。

 久我山グループの長男久我山貴章は、和磨が認めた唯一、幼い頃からの友人。
 怖いものなどないと思う澤部を心の底から恐怖した者。

 清風会の中でも『久我山には手を出すな』なと言われるくらい、危険人物No.1。
 例え友人の和磨でも貴章の邪魔をしようものなら全力で潰しにくるだろう。
 その弟を誘拐。

それはマズイだろ・・・・・

 澤部はメンバーの一人に選ばれた。
 決行日夜、久我山家の少し離れた場所に車を止め綾瀬が出て来るのを待つ。

 タイミング良く門から出てくる者が。
 身長、体型は久我山綾瀬に似ているが猫背。
 この時点で澤部はその人物が別人である事が分かった。
 しかし周りにいる者達には分からない。
 顔を確認しようにも背後からのライト、そして顔は俯いているために確認できない。

 なのに周りの者はその人物が久我山綾瀬だと思いこみ近づいて行く。

久我山グループで、兄弟でも溺愛されてる子供が歩きで出てくる訳ないだろ。
気付けよ・・・・・

 間違いで誘拐されてはその子供がかわいそう。

『違います』って言っても奴等にゃ通用しないだろう本人と隠すために嘘をついてると
しか思わないだろうな

 なのにその子供は「久我山綾瀬さんですか」と聞かれ「はい」と肯定した。

ありえねーだろ!
つか、馬鹿だろ!

 その馬鹿の顔を拝もうと近づく。

うわ、なんだこの救いようのないオタク野郎は

 ある意味感動。
 しかし・・・・・

久我山綾瀬だ?
あの美貌をナメテんのか、オラ!

 だが直ぐに冷静になりその人物が久我山綾瀬ではない事を周りに言う。
 これで終わりだと思ったのだが「まあ、細かい事は気にしなくていいですから。 さあ急
 ぎましょう」ととんでもない事を言い出すではないか。

 衝撃のあまり「え? お前違う奴だろ、いいのか?」などとマヌケな返事を返してしまっ
 た。

 その後本物が出て来たが。
 仕方なく二人纏めて攫う事になった。

 屋敷に着いた後、直ぐ漆原に連絡を入れた。
 この組の警戒心のなさとレベルの低さに呆れた程。

 漆原から和磨と久我山に連絡が直ぐに行く筈。
 それまでおかしな事にならないように様子を見なくてはいけない。

あの兄弟馬鹿だからな

 人質が囚われている部屋へと向かう。
 
見張りいないし
ん?

 近づくにつれ怒鳴り声が。

やべ、遅かった?

 慌てて部屋の前へ。

「ウザイんだよ!」

 声と共に障子が破れ人が飛んできた。
 丁度澤部の腕の中に。

危ね―――

 離れた場所から大勢の足音が。
 目的の人物が登場したようだ。
 連絡を入れ15分も経っていない。
 待機してたのか?と思う位素早い。
 おかしな行動を起こさないよう二人から視線を離さないでいると突然赤い色が。
 畳に転がり更に赤い色が増えていく。
 
 後ろを振り返ると久我山貴章がそこにいた。
 手にはサイレンサーを付けた拳銃が握られていた。
 躊躇なく引き金を引く。
 直ぐさま殺す事なくジワジワといたぶるように。
 瞳には光がなく何処までも闇が広がっている。
 心の底から恐ろしいと思った。
 
 「素人さんな筈なのに、過激だな・・・・・・」と出来るだけ軽く言ってみたが。

 それを止めたのは和磨だった。
 この中で止められる者は和磨くらい。
 一時的なものだろうが。

 だがここまで切れる程の事とは一体。
 我に返った貴章が澤部の元へと近づいてくる。
 動きが緩慢。

なんだ?

 澤部が抱いている者へと手が伸ばされる。
 震えていた。

 目の前で冷酷に人を撃っていたとは思えないくらいの変わりよう。
 澤部の腕からそっと受け取る。
 泣き出すのではないかと思った。
 人間としての感情が一気に表れていた。
 貴章にとって唯一の者だと分かった。

 その人物は何処までも心が広く優しかった。
 自分が傷ついているにも拘わらず、綾瀬を気遣い貴章の心を心配した。

・・・・・人間顔じゃないな

 と思っていたのに。

 後日神崎本家に来た若菜を見て腰を抜かした。
 不細工なんてとんでもない。
 眼鏡の下にはお目に掛かった事のない美貌が隠れていた。
 輝く美貌。
 傷ついた心を包み込み癒す優しい心。

これなら久我山貴章が人間らしくなるのも頷ける

 だが天然だった。
 そこら辺にいる芸人よりかなり面白い性格。

調子狂う

 違った意味で苦手。
 まあ頻繁に会う事もないだろうと思っていたのに、あれから何度も顔を合わせている。
 時には神崎の屋敷までやって来る。
 誰もが恐れる清風会の本部にも物怖じせずやって来た時には本当に驚いたが、限り
 なく迷惑だった。

何故だ・・・・
しかも出たよ、不細工バージョン

「お買い物ですか」

 ニコニコ笑う若菜。

「ええ、そうです」

 別な人物の声。
 見ると和磨のもう一人の片腕漆原が降りて来た。
 澤部の時と同様「こんにちは」と深くお辞儀をする。
 
「こんにちは。 若菜さんもお買い物ですか?」

「はい、でも今はみんなと新作スイーツ食べてました。あと、大学合格のお祝いもしてく
れて」



 言って向かい側のカフェを指さす。
 
「こらー、若菜ー!」

 車通りが激しくなり渡れない綾瀬が叫んでいた。

「ああ、綾瀬さんも一緒ですか」

「はい。 あの・・・・雫さんは」

 この二人がいるという事は雫が一緒かもしれないと思った。
 先の誘拐事件で、神崎の家にお礼に言った時にいた人物。
 和磨に寄り添うように座っていた。
 しっとりと落ち着いた感じの綺麗な人。

 お友達になりたいと思ったのだがどうやら人見知りがあるらしくなかなか話す事が出
 来なくて。
 何が切っ掛けだたのかは分からないが、途中笑ってくれて。
 その顔が艶やかで。
 たわいない話も嫌がる事なく聞いてくれて、帰り際お互い携帯の番号、メールアドレス
 の交換をした。
 今ではすっかりメル友で、時には会いに行く事も。

 車のフイルムが濃すぎて、中に人がいるのかどうか分からない。

 『いないのかな』と思っていると漆原がドアを開けた。
 中から雫が降りてきた。





 
Back   Top   Next





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送