楽しいお茶会
(6)
50万Hits企画






 降りてきた雫は以前会った時と変わりない嫋やかな姿。
 見惚れる若菜。

 自分が雫と同じ年齢になった時、はたしてこうなれているだろうか。
 いや、『なってみせる!』と拳を握る。

 多分無理だろうと誰もが口を揃え言うだろう。
 だが思うのは自由。

 それほど静かでしっとりとした仕草。
 現在若菜の中で一番の憧れの人物だ。

 ドキドキしながら「こんにちは」と先の二人同様、礼儀正しく挨拶。
 だが当の雫は明らかに戸惑っていた。
 「こんにちは」と挨拶をしてはくれたのだが、直ぐさま漆原の側へ。
 完全に人見知り。
 目の前に立っている人物がメル友である若菜と全く分かっていないらしい。
 
 この雫の行動に、若菜は大きなショックを受けた。
 会いたいと思っていたのは自分だけだったのか。
 毎日メールをしていたが、もしかしたら雫には迷惑でしかなかったのか。
 確かに長い文章を送る自分と違って、送られてくるメールは短かった。
 会いに行った時も歓迎してくれていたのに、あれは社交辞令だったのだろうか。
 友達だと思っていたのに。

それって・・・、僕の勝手な思いこみ?

 ショックの余りの足下がふらつく。
 背中に軽い衝撃。
 力無く振り返るとその衝撃は澤部にぶつかったもの。
 普段ならここで直ぐさま謝るのだが、頭が真っ白になっているので、虚ろに見るだけ。

ちょっと立ち直れないかも・・・・・・

 ガックリと首が折れる。

 そんな遣り取りを見ていた漆原。
 二人の心の内が手に取るように分かる。
 もう少しこの状況を楽しみたかったが、それでは二人が余りにも可哀想。

 クスクス笑いながら説明を始める。

「雫さん、こちらの方は若菜さんです。 戸田若菜さん先日お会いして携帯番号とメール
アドレスを交換されていましたよね。 それに、毎日メールのメールが楽しみだって言っ
てましたよね。 以前屋敷に突然遊びに来た時も楽しくお話されてましたが」

「えっ!? ・・・・・・若菜君?」

 戸惑う雫。
 漆原と若菜と言われた人物を交互に見る。

 どう見ても若菜に見えない。
 確かにオタク姿の若菜も目にしている。
 最後に会ったのは半年前ではあるが、だからといって半年の間で若菜の姿を忘れる
 程記憶力が悪い訳ではない。
 ただ半年の間に髪の毛が伸びていて殆ど顔が隠れてしまっている。
 私服姿も見た事はあるが、その時は美しい顔をさらしていたし、顔が隠れた状態の時
 は制服でそれ程おかしな感じはしなかった。
 だが今の姿はよく見れば髪の毛も艶やかに輝き、着ている物もブランド品で綺麗に洗
 濯されており良い香りがするのだが、パッと見路上生活者にも見えなくないことはな
 い。
 その為若菜と気付かずいたのだ。
 


 初めて若菜と出会ったのは、神崎本家。
 今とは全く別の姿。

 和磨から「今日は久我山が来る」と言われた。
 初めて紹介された時、その容姿に目を見張った。
 言葉では表す事が出来ない美貌。
 女らしいとかではない。
 まるで彫刻のよう。
 と同時に恐ろしかった。

 雫は今まで様々な『悪』の感情を受けて来た。
 恨み、憎しみ。
 怖いと思った人達は大勢いた。
 だがこの和磨の友人は違う。
 何処までも闇なのだ。

 和磨の中にも大きな闇を感じられた。
 だがそれとは違う。

 少しでもこの人の瞳に光りが入る事を祈った。
 和磨と出会った事で雫の心は救われた。
 和磨に至っても『そうだ』と告げられた。
 自惚れているとは思うが初めて和磨と出会った時に比べ、和磨の雰囲気も柔らかく
 なった気がする。

 和磨の唯一の友人。
 幸せになって欲しいと思った。

 そして一年ぶりに会った彼は別人のようだった。
 顔には優しさが溢れていた。
 慈しみの眼差し。
 そして初めて見る笑顔。
 瞳には光が。

良かった・・・・・

 和磨の友人の心を救ってくれた人物を見る。
 名前を戸田若菜。

 和磨の時にも驚いたが、今回はそれ以上。
 見た事もない容姿。
 キラキラと光り輝いていた。
 その美貌を鼻に掛ける事なく天真爛漫。

 今回久我山と神崎の事に巻き込まれ誘拐されたという。
 一緒に誘拐された久我山の弟を守ろうとして怪我をしたと言っていた。
 こんなに綺麗な子に、よくも傷など付けられるものだ。

 それなのに若菜は恨み言を何一つとして言わかなかった。
 大切な友人を守れた事を喜び、貴章の心が傷ついた事を心配していた。
 
 そして貴章の心が傷つかないようにと、武道を始めようかと。
 その場にいた澤部に大笑いされ「無理」だと言われた。
 若菜はムキになり、腕まくりをしてポーズをとった。
 澤部と筋肉比べをしたりして・・・・・

 容姿と行動のギャップの激しさに可笑しくなった。
 思わず吹き出してしまった。
 普段、声を出して笑う事のない和磨までもが、声を出して笑っている。
 こんな自分に、和磨に驚いた。
 貴章に至ってはガックリと肩を落としている。

凄く人間らしい

 周りを明るくし、大切な者を守ろうと思う強い心。
 そして傷ついた心を癒す優しく暖かい人。
 自分もこうありたいと思った。
 


 目の前に立っている人物がやはり若菜とは思えない。
 何度も会っているのだが別人にしか見えないのだ。
 しかし、漆原は若菜だと言う。
 漆原が自分に嘘を付いた事などなかったが・・・・・

「雫ちゃん、信じられないかもしんないけど、これホントに戸田若菜だから。 この間もこ
れと似通った格好で遊びに来たでしょ」

 大笑いしながら、ガックリと肩を落としている若菜を指さす。
 「これ」と言われて腹が立ったのか、顔をあげ猛抗議。

「酷い! 『これ』って言った。 それにどうして僕を呼ぶ時『戸田若菜』ってフルネーム
で呼ぶの?」

「ん? じゃあ『若菜ちゃん』とでも呼べばいいのか」

 ニヤニヤしながら言う。

「・・・・・・鳥肌が立つ」

 両腕を擦る若菜。
 言ったとおり、見ると鳥肌が立っている。

「・・・・・・お前失礼だぞ」

 その会話に笑ってしまう。
 漆原も。

あ、この会話・・・・・・・

 何度も神崎の家でも聞いた遣り取り。

「若菜君?」

「はい!」

 元気よく返事が返ってきた。
 どうやら本人のようだ。
 それにしても半年の間でこうも姿が変わるものなのだろうか。

「変装してるの?」

 前々から思っていた素朴な疑問をぶつけてみる。

「えっ、違いますよ。 こっちが変装です」

 言って眼鏡を外し、前髪を上げる。
 すると先日見た輝くばかりの美貌が現れた。
 やはり戸田若菜だった。

でも、こっちが変装って・・・・・

 どう考えても逆。
 漆原もそう思っていたが敢えて口にしない。
 しかし澤部だけは違った。

「それって逆だし。 つか、素顔出してんのに変装とは言わんだろ。 やっぱお前、変」

「変じゃないもん! 言われた事ないし」

「そらお前、気使われてるんだって。 あからさまに言ったら可哀想って思われてるじ
ゃねーか?」

「違うもん!」

 ギャーギャー言い合う二人。

「わ〜か〜な〜〜」

 背後から響く綾瀬の声。
 若菜を追って渡ってきたらしい。

「あ、綾瀬・・・・・・」
 
 怒りを含んだ低い声に、恐る恐る振り返る。
 額にタコマーク。
 頭から湯気が出ているように見えるのは気のせいではないだろう。

し、しまった〜〜〜〜〜



「お前という奴は〜〜〜〜。 猪じゃないんだから、待てと言われたならちゃんと待て。
いくら車が来てないからって道路を横断するな。 もし暴走車が来たらどうするんだ!」

 矢継ぎ早に怒鳴られる。

「綾瀬だって渡って来たくせに・・・・・」

 横断歩道はここから100m先の場所。
 若菜の元へ直ぐ来れたという事は綾瀬の方もそのまま道路を横断して来た筈。
 それを小声で指摘するが。

「・・・何か言ったか」

 低い声、怒った事で迫力が増した美貌に逆らう事など到底出来ない。

「・・・・・何も言ってません」

 綾瀬の怒りは修まらない。
 憎くて怒っているのではない。
 万が一怪我などしようものならば。
 兄貴章の怒りが怖いとかそういう訳ではないのだ。
 大小に拘わらず怪我される事は、とても辛く悲しい。
 綾瀬にとっても若菜はとても大切で愛する大親友。

 以前誘拐された時、若菜は体を張って自分を守ってくれた。
 そしてその時怪我をした。
 怪我事態は打撲とかすり傷程度だったが、一歩間違えれば大怪我、いや若しくは死
 に至っていたかもしれない。
 運良くその場に澤部が居て若菜を助けてくれたが。
 若菜が投げ飛ばされ、障子を突き破った時、言葉には出来ない苦しみに襲われた。
 今この場所に若菜が居る事を、目に前に立っている澤部に感謝している。

「こんにちは、澤部さん、漆原さん先日はありがとうございました」

 丁寧に改めてお礼を言う。

「いいって。 それにしても綾瀬ちゃん今日も美人だね」

 腰をかがめ綾瀬の顔を覗き込む。
 失礼ともとれる態度だが、恩人なので我慢する。
 他の者なら睨み付け早々に引き取って貰うのだが。
 それにその呼び方。

 恩人とはいえ、そんなふざけた呼び方をされる謂われはない。
 止めて欲しいと言うべきだろう。

「澤部さん、酷い! どうして綾瀬の事は『綾瀬ちゃん』て呼ぶの。 僕はフルネーム
で呼ぶくせに」

 それは今ここでいうべき事なのか。
 
ずれてる、ずれてるぞ若菜・・・・・

 皆そう思っていた。

「あ〜〜〜〜、だからさっき『若菜ちゃん』て呼んでやっただろうが」

「やだ〜〜〜〜、気持ち悪い〜、鳥肌立つ〜〜〜」

「・・・・おい」

 若菜の反応に4人は無言になる。

じゃあどう呼べと?

 それはそうだろう。
 折角希望通りに呼んでやったのにそれを「やだ」「気持ち悪い」「鳥肌が立つ」などと言
 われては。
 澤部の立場は。

「『戸田さん』とか『若菜さん』とかがいい」

 無茶苦茶な事を言う。

「おい、どうして俺が年下のケツの青いガキに『戸田さん』だの『若菜さん』だの敬語で呼
ばなくちゃなんないんだ、オラ!」

「いいじゃない! 漆原さんはそう呼んでくれてるもん。 やっぱり綺麗な人は心も綺麗
で優しくって丁寧なんだよね〜。 澤部さんには無理か〜。 それに訂正するけど僕の
お尻に蒙古斑はありません〜。見たことないのに適当な事言わないでください」

「んだと〜、誰が蒙古斑の話をしてる! つうか、お前の青いケツなんぞ見たくもない
わ。 それとお前の方こそ年上を敬え。 だからケツの青いガキだって言われんだよ」

「ふ〜んだ、ふ〜んだ、ふ〜んだ!」

「けっ!」

 にらみ合い同時にそっぽ向く。
 呆気に取られる3人。

子供だ・・・・・・

 若菜は綾瀬にしがみつき必死になって言う。

「綾瀬〜、澤部さんが酷い〜、僕のお尻青いって言うんだよ。 一緒にお風呂入ったか
ら知ってるよね。 青くないよね〜」

こんな所に何言い出すんだー!

 思わず手が出る。

ゴツ

「痛い・・・・・」

 頭を押さえる若菜。
 
「煩い、それ以上口を開くな。 特に兄さんの前で俺と一緒に風呂に入ったと口にする
な。 でないとヨダレ出して馬鹿面して寝てる写真を兄さんの携帯に送りつけてやる!」

 アホらしい遣り取りに傍観していた綾瀬だったが「一緒に風 呂に入った」発言には
 焦った。
 確かに若菜と一緒に風呂に入った事はある。
 それは貴章と付き合う前のことで、他にも有樹や珊瑚も一緒だった。
 今ここに兄貴章はいないが、もしそれを聞かれたら。
 それに若菜はまだ眼鏡を外した状態。
 漆原、澤部、そしてもう一人。
 皆美形なのだ。
 通行人が立ち止まりその美貌に見惚れている。

この馬鹿者が!

 殴られた若菜は違う悲鳴を上げている。

ひいいぃぃぃぃぃ

「それだけは止めて・・・・」

 その様子を見て澤部が笑うが。

ガツッ!

「うおっ!」

 今度は澤部が声を上げる。
 漆原の冷たい突き刺すような視線。

「友ちゃん痛い・・・・」

 その音は漆原が澤部の脛を思い切り蹴った音。

「何大人げない事をしているんですか。 恥ずかしい。 だから若菜さんに常識のないが
さつな男だと言われるんです」

いえ、そこまで言ってないです

俺より毒舌

「見なさい、雫さんが呆れてるではありませんか。 前々から言っていますが、上に立つ
者がしっかりしていないと、下の者に示しが尽きません。 帰ったら・・・・」

「分かった。 俺が悪かった!」

 大きな体で必死に謝る。
 それがまた目立って。
 これ以上目立っては困るので止めさせる。

 そして綾瀬も若菜に眼鏡を掛けるように言う。
 その瞬間、ダサクてオタクな姿に。
 見た目が美しかっただけにその変わりように衝撃を受ける野次馬達。
 悲鳴が上がる。
 収集がつかなくなる。

仕方ない・・・・

 綾瀬は皆を誘いその場を移動。
 100m先の信号まで行き横断歩道を渡り珊瑚達のいるカフェへと向かった。
 
えらい遠回りだ・・・・・



 カフェに戻った綾瀬。
 かなり疲れ席に着くなり机に突っ伏した。

 たった数分で憔悴しきっていた。
 やつれた姿に誰も声を掛ける事が出来ない。
 そして、道路反対側では先程まで若菜達の周りに人だかりが出来、その後皆が阿鼻
 叫喚。

 一体なにが起こったのか。
 遠くの方からパトカーのサイレンまでもが聞こえてきた。

 それに、若菜と一緒にやって来た人達は道路反対側に止められた車から出てきた人
 物ではないか。
 彼らの乗って来た車は既にその場にはなかった。

 遠くで見てもかなりの長身。
 黒いスーツ。
 今はサングラスを外した顔は甘いマスク。
 モデルのような姿だが、やはり一般人とはどこか違う。
 それに一緒にいる残りの二人。
 綺麗な顔立ちだが、その眼差しは冷たく鋭い。
 やはり一般人ではない。
 だがもう一人の人物は・・・・・
 嫋やかな姿。
 落ち着いた物腰に柔らかい眼差し。
 どう見ても一般人。

組み合わせが分からない

 そう思っていると竜也が立ち上がった。

「こんにちは。 ご無沙汰しています」

 三人に向かって挨拶をする。

「知り合い?」

 若菜が代表して聞く。

「ええ」
 
「神崎と剣は親戚同士なんです」

 漆原が引き継いで説明をする。
 
「そうなんですか」

 納得する若菜に雄大が説明を求めてくる。

「背の高い人が澤部さん。 僕の命の恩人です。 その隣りが漆原さん。 二人とも神崎
さんになくてはならない側近さんです。 そしてこちらにいるのが雫さん。 神崎さんの大
切な人で僕のメル友で憧れの人です」

 言って腕を組み顔を覗き込む。
 大勢の前に連れてこられ怯えていたが、絡められた腕から伝わる若菜の体温に安心
 する。

「もしもし、若菜ちゃん。 神崎さんて、清風会?」

 雄大が恐る恐る聞くと・・・・・

「はい、そうです」

 清風会という言葉に皆の顔が引きつる。
 雄大達は以前会った事はあるが、やはり普段関わり合う事のない職種。
 珊瑚は聞かされていたので、驚いてはいないが、佐倉兄弟は顔面蒼白。
 なんといっても極道の方々。

そんな人達と知り合いの若菜ちゃんて・・・・・

 三人をテーブルに案内しおすすめのスイーツを説明。
 それぞれが注文を。
 しっかりと雫の隣りに座り話しかける。

「今日は、神崎さんは一緒じゃないんですか?」

 か細い声ながらも返事をする。

「ええ、午前は予定が入っていて」

「今日はお買い物ですか?」

 頷く雫。

「前にある、宝石屋さん?」

 頷く雫。
 
 その後も若菜が話し、雫が頷くという状態が続いた。
 えらく内向的な雫に、皆どう話しかけていいいやら悩んだ。
 暫く二人だけの不思議な会話が続く。
 
 そして会話が途切れた。
 それを切っ掛けに素が疑問を若菜にぶつけた。

「さっき、命の恩人て聞こえたんだけど」

「はい、以前綾瀬と一緒に誘拐されたんです。 その時誘拐犯の人に思い切り投げ飛
ばされて、あわやって所を澤部さんが受け止めてくれたんです」

 ニコニコと笑いながら話す若菜に一同唖然。
 
戸田君、それって笑いながら話せる事じゃないと思うんですけど・・・・

そうだよね、兄ちゃん・・・・

若菜ちゃんあんた凄いよ

同感

 竜也と珊瑚は翌日綾瀬から聞いていたので驚きはしなかっ たが。
 綾瀬は急な頭痛に襲われていた。

「そ、そうなんだ。 じゃあ、今なんだけど、戸田君達のいた所で凄い叫び声がしたの
は?」

 今度は灯が聞く。

「あ、それはですね、僕が眼鏡を掛けたから・・・かな?」

 それは一体・・・・・・

「この姿だと雫さんが僕だって分からなかったんで、一旦眼鏡を外したんです。 いつの
間にか周りに大勢人がいて、綾瀬に眼鏡を掛けろって言われて掛けて前髪下ろしたら
周りにいた人が叫び出して。 なんでだろう?」

分かる分かるぞ、その気持ち!
俺も初めて見た時は驚いた。
眼鏡一つでこうも変われるかと。
イリュージョンだぜ!

 雄大が頷く。
 見ると周りも。

 雫達の注文した品が届きそれぞれの話に花が咲いているところに携帯が鳴る。
 素が慌てて取り出し「げっ」っと奇妙な声をだす。
 皆の視線が集まる。

 なかなか取らない。
 そんなにいやな人物なのか?
 見ていると素がため息をつき、気合いを入れ出た。

「仕事はどうした?」

第一声がそれかよ!

 可愛い顔に似合わず性格はキツイらしいと思う雄大。
 その隣りで灯が携帯を睨んでいる。
 灯にも相手の人物が分かったらしい。

「えっ、今から? 着いた?」

 バッと体を入り口へ向ける。
 携帯電話を耳に当てた男前が。

「げっ・・・・・」

 携帯を耳から離し近づいて来る。

「げっ、とはなんだ。 恋人に対して失礼だろ」

 低音の心地よい声。
 素の恋人のようだ。

「出たな一ノ瀬。 仕事はどうした。 僕と素の時間を邪魔するな」

 灯にはかなり嫌われているらしい。
 
「こんにちは一ノ瀬先生」

 漆原が挨拶をする。
 こちらとはどうやら知り合いらしい。

先生?
学校の、それともお医者さん?

「今日は当直じゃなかったのか!」

「その予定だったんだが、どうしても変わって欲しいという奴がいてね」

 嘘くさい言葉。
 どうせ灯と会うのが気にくわなく強引に変わったに違いないと、佐倉兄弟は思った。

 すると周りが急に静かに。
 見ると入り口に貴章と和磨の姿が。
 190以上の身長に鋭い眼差しの和磨。
 身長は和磨よりは低いがそれでも185cmはある貴章。
 その美貌はまさに圧巻。
 二人の存在に皆が釘付けに。
 その後ろには綾瀬の恋人悠二の姿も。

 貴章が言っていた午前の予定というのはどうやら和磨との事らしい。
 雫も先程、和磨は午前は予定があると言っていた。
 どうやら、あの宝石店で待ち合わせしていたようだ。
 
 和磨の登場に雫が静かに微笑む。
 鋭い眼差しが和らいで見える。

 若菜は椅子から立ち上がり、急いで貴章の元へ。

「貴章さん!」

 言って抱きつく。
 貴章はそれを優しく抱き留める。
 そして恒例のキス。

「うお〜〜〜〜〜」

 周りから奇妙な叫びが。

だからそれは外では止めてくれ・・・・・・

 毎回思う綾瀬の小さな願い。
 
兄ちゃん、おとぎの国の王子様がいる!

素・・・何だか目が拒否してる

若菜ちゃん眼鏡を外してくれ〜

久我山貴章、相変わらずの迫力・・・・・

 和磨は雫の隣りへと。
 そして何故ここにいるのかと聞く。
 待ち合わせは向かいの宝石店だった筈。
 
 漆原が簡単に説明。
 その説明を聞いた貴章が若菜を見る。

「若菜眼鏡を外したのか」

 そう、外してしまった。
 理由はどうであれ、貴章に外すなと言われていたのに。

「・・・・・ごめんなさい」

 俯く若菜を雫がフォローする。

「すみません、若菜君が悪い訳じゃないんです。 会ったとき僕が若菜君の事が分か
らなくて。 それで若菜君は眼鏡を外して。 僕が悪いんです」

 雫の言葉を聞いて納得。
 確かに眼鏡をしている時としていない時では別人。
 それが分からなかったのは当然の事。
 若菜に至っては雫に分かって貰えず思わず外してしまったに違いない。

今回は仕方ない

「謝る必要はない。 仕方ない事だ。 若菜も」

 その言葉に、貴章が怒っていない事に安心。
 貴章を和磨を紹介した若菜。
 二人は一ノ瀬とも知り合いだったらしい。

 お互いのパートナーが揃った事でその場で解散になった。
 
 若菜としてはもう少し雫とおしゃべりをしたかったが。
 貴章の車に乗り何を買ったか、何を話したかを話し始めた。
 短い時間ではあったが会いたかった人に会えた事が嬉しかった。

「またみんなと一緒に会えるかな」

 ポツリと呟く。
 隣りから貴章に手が伸びて若菜の手を握りしめた。
 その手が大丈夫、又会えると言ってくれている。
 貴章はいつも若菜が欲しい答えを与えてくれる。
 気持ちが軽くなり嬉しくなった。
 今度はいつ会えるか分からないが、その日を楽しみ取っておこう。
 隣りにいる貴章を見て、そっと手を握りかえしニッコリ笑った。





 
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