楽しいお茶会
(3)
50万Hits企画






「あれ?戸田君」

 大声を出したのが若菜だと気付く。
 若菜が呼び止めた人物は若菜が通う眼科の職員である佐倉素。
 若菜はそのまま素の所まで歩いていく。

「こんにちは、お買い物ですか?」

「そう。 このちょっと先の店で兄と待ち合わせ。 戸田君はどうしたの?」

「ここのカフェで新作スイーツを堪能中です」

 言って雄大達を指さす。
 すると雄大が手を振ってアピール。
 素が雄大達のいるテーブルを見るとそこには色々な種類のスイーツが。
 ゴクリと喉がなる。
 こちらもかなり甘い物には目がないようだ。

「佐倉さん、まだ時間があるなら一緒に食べませんか? いっぱいあるんで食べきれな
いかもしれないんで」

「え、でもあの人達は?」

「雄大さん達はこのカフェの人なんです、であそこにあるスイーツは僕のなんです〜。 
大学の合格祝いにって雄大さんがこれも!」

 指差したテーブル中央には、ホワイトチョコレートのプレートに「祝・大学合格!」を書か
 れた巨大デコレーションケーキが置かれていた。

「デカ! しかも、全部!?」

 驚きもするだろう。
 テーブルの上には他にも手つかずのスイーツがまだ6皿もあるのだから。
 その席に座っている若い方の男が佐倉に向かって手をヒラヒラと振り「一緒にどう?」
 と誘いを掛けてくる。

 出来る事なら食べたい。
 でもこのままここに居て、ケーキを食べてしまえば、兄との待ち合わせに遅れてしまう。
 いや兄の事だからもう既に来ている筈。
 ここからだと待ち合わせ場所までは5分もかからないのだが。
 
 兄と待ち合わせをしていなくても、見ず知らずの自分が同席しそのスイーツを食べると
 いうのもあまりにも図々しいではないか。

「折角さそって貰って悪いんだけど。 兄も待ってるだろうから」

 断ったのだが。

「そうですか・・・・・。 どこで待ち合わせですか?」

 諦めない若菜。

「ん? この先のアンジェってカフェ」

「カフェ? それならここに変更しません? 同じカフェだしスイーツ食べ放題。 凄く美
味しいんですよ。 今日は新作の試食も兼ねてるんです。 お兄さんにも会いたい〜。
駄目ですか?」

 自分より背の高い若菜を見上げ少し考える。
 系列は違えど同じカフェ。
 この場所には良く来るがこの店に入った事はない。
 それに食べ放題。

 いつも待ち合わせはこの先にある店だ。
 お気に入りのデザートがあるからなのだが、若菜の示したテーブルの上にあるスイー
 ツもとても美味しそう。

「ちょっと聞いてみるね」

 言って携帯を取り出し掛ける。

「もしもし、兄ちゃん? もう着いた? あのさ、場所変更してもいいかな。 うん、そこか
ら直ぐ近くの所にジュエリー・ウィスティアリアあるでしょ。 そう、トシ兄ちゃんの。 その
前のカフェ。 いい? んじゃ待ってるね」

 切って若菜を見上げる。
 不安そうな若菜。

「お言葉に甘えていいかな?」

 ニッコリ笑って言う素に「勿論!」と元気に返事をした。
 若菜に手を引かれ隣りに座る。
 目の前に並べられたスイーツに目を輝かせる。

 テーブルには若菜の他に自分を誘ってくれた男ともう一人男が座っていた。
 二人共、タイプは違うがすごぶる男前だった。

 若菜が紹介をしていく。
 若菜の正面にいる雄大は更にご機嫌。

 目の間に座った男の子、サラサラな栗色な髪、アーモンド型の大きく少しつり上がった
 目、赤くふっくらとした唇。
 黙っているとちょっとキツそうに見えなくもないが、笑った顔はとってもキュートで、ハ
 ッキリ言ってかなり可愛い。

さすが若菜君の友達だ、レベル高すぎ!

 テーブルの下で小さくガッツポーズをとっていた。
 その隣りで千葉が嫉妬の炎を燃やしていた。

「佐倉素さんです。 僕の通ってる眼科の職員の方なんです」

「え?」

 雄大のこの声に、素の右眉がピクリと上がる。
 この反応の意味にいち早く気付いた千葉は、雄大が余計な事を言わないようにと雄
 大の足を軽く叩く。

「なんだ?」

 何か呼んだか?と千葉の仕草に反応。
 見事に意識がそれた。

 若菜は雄大の反応は無視。
 素の僅かな反応に気付かずそのまま紹介していく。

「僕の前に座っている人が喜多川雄大さん。 僕の友達の叔父さんでこのカフェのオー
ナーさん。 隣りが千葉さん。 雄大さんの秘書さんで、恋人なの」

「初めまして、佐倉素です。 すみません急にお邪魔して」

「いえいえ、可愛い子は大歓迎、痛っ!」

 満面の笑みを浮かべ口説きモードになった雄大の足を千葉が思い切り踏む。
 余りの痛さにテーブルに突っ伏す雄大。

「初めまして、千葉毅です。 隣りにいるのが喜多川雄大。 このカフェのオーナーです。
今日は若菜さんに新作スイーツの試食をして貰っているんですよ。 あと、大学のお祝
いも兼ねて。 大勢の人に食べて頂いて感想を言って頂けると今後の参考になりますか
ら是非君も食べて感想を教えて下さい」

 年上にも拘わらず、こんなに丁寧に話しをしてくれる千葉に好感を持つ。
 なにせ素の周りにいる年長者は、タイプは違えど態度がデカイ。 

年上の常識人に初めて会った気がするかも

「ありがとうございます。 あの、俺の方が年下なんで・・・・その・・・・」

「あっ、大丈夫。 千葉さんいつもこうだから気にしないで」

って、お前が言うかい!

 誰もが心の中で突っ込んだ。

そう言えば、戸田君何か言ってたな。
『千葉さんは雄大さんの秘書さんで、恋人なの』って・・・・
恋人?!

 こんなに簡単にカミングアウト。

しかも本人達でなく、他人がアッサリばらしていいのか?

 二人を見ても若菜がバラした事に腹を立てていなければ、動揺もしていない。
 堂々としている姿は感動ものだ。

「あの・・・・・お二人は恋人同士なんですか?」

 と聞く素に「そう!」と若菜が答えた。

 そして『って、またお前かい!』と心の中で突っ込みが入った。
 その後雄大と千葉の二人は『反応鈍っ! まさかこの子も天然なのか?』と嫌な汗
 が出た。



 素の兄も直ぐ来るだろう。
 
 かなり前ではあるが、若菜は佐倉兄に2度程会った事がある。

 使い捨てのコンタクトレンズの定期検診と購入の為に素の勤める横田眼科に行った
 時に居たのだ。
 
 一度目は眼鏡の時。
 2度はコンタクトの時。

 2度目に会った時「こんにちは。 佐倉さんと待ち合わせですか?」と挨拶したら「え?
 ええ、そうですが・・・・。 お会いするの初めてですよね」怪訝そうな顔で言われガッ
 カリした。 直ぐに素がフォローしてくれたのだが、かなり驚いていたの覚えている。

でも、なんで驚いたのかな?

「佐倉さんのお兄さんて凄く綺麗なんですよ。 ね」

 素は大好きな兄を褒められ満面の笑み。

か、可愛い〜〜〜〜

 千葉に足を踏まれ撃沈していた雄大は何時の間にか復活していた。
 素のキュートな笑顔に打ち抜かれる。
 
 かなりだらしない顔になった雄大を見て千葉の回りはブリザード。
 その気配気付き慌てて雄大は顔を引き締める。

「うん、身内馬鹿と思われるかもしれないけど、兄は綺麗で格好いいんだ。 顔だけじゃ
ないいんです、運動神経も良くって、頭もいいんです。 今は翻訳の仕事をしてるんです
けど英語だけじゃなくってスペイン後にドイツ語まで読めて話せて。 学生の頃は生徒
会長なんかもやってたんです。 もう自慢の兄で大好きなんです!」

ダン!

「「・・・・・・・・・・」」

 唖然とする雄大と千葉。

 素の兄自慢は途中からヒートアップして行き、最後には両手を握りしめテーブルを叩
 いた。
 その衝撃で各皿が大きな音を立てる。

 ゼイゼイと肩で息をしながら、目の前に置かれた水を一気に飲む。

・・・・・・ブラコン

だな

それもかなり重傷

だな

 千葉と雄大は視線で会話。

「いいな〜、そんなお兄さん欲しい〜 羨ましい〜」

 机の上に『の』の字を書く。
 若菜の場合自分が長男。
 いくら欲しくてもこればかりはどうにもならない。
 
 更に兄を褒められた事で素の機嫌も最高潮。
 えへえへと笑いながら「でも戸田君の所だって〜。 妹さんは凄い美少女だし、弟さん
 もハンサムだし。 お母さんは美女だしお父さんは男前じゃない。 そっちの方が羨ま
 しいよ」と若菜の家族を褒め始めた。

「そうでなんですよ〜。 えへえへっ」

 家族を褒められた若菜も素に負けないくらい喜ぶ。
 皆美人で格好良く優しい。
 これまた若菜も自慢する訳ではないが「最高の家族」だと思っている。

今度はシス・ブラ・マザ・ファザコン!?

そっちもこえーよ
でも美形家族?見て〜〜〜〜!

おい!

 またもや視線で会話する雄大達。
 その時「素!」という声が。
 声のした方向に視線を向ける。
 遠目から見てもかなりの美形。
 その美形が走ってこちらに向かってくる。
 その姿を見て「兄ちゃん!」と素が立ち上がる。
 兄の元に走る素。
 そしてヒシッと抱き合う。

「待ったかい」

「ううん、全然。 それよりごめんね。 待ち合わせ場所急に変更して。 直ぐ分かっ
た?」

「ああ、俊之の店の前って言ったから直ぐに分かったよ」

 抱き合ったままお互いのおでこをくっつけた状態。 

 背は素より頭半分高く、すらっとしている。
 少し長めの絹の様に細く真っ黒な髪で、陶磁器のように白く滑らかな肌。
 美人という言葉は嘘ではなかった。
 だが・・・・・

兄弟でこの包容はどうよ?

兄弟っていうより、恋人?

恋人でもこれはないだろう

そうだな、お前はやらないな

煩い!

 ガゥッと千葉に唸る。
 
 どうでもいいが二人はかなり目立っていた。 
 店にいる者だけではなく、通りを歩いていた者までもが足を止め見ている。
 自分達の事ではないが恥ずかしいので止めてもらいたい。
 でも二人の世界をどう中断させたものかと思っていると。 

「こんにちは」

 いつの間にか二人の抱擁に割って入る若菜。

強い・・・・・

 包容を解く二人。
 一瞬ムッとなる佐倉兄。
 だが邪気のない若菜の笑顔に佐倉兄も笑顔で答える。

「こんにちは。 あれ? 君は一度会った事があるよね」

「はい! 戸田若菜です。 以前、佐倉さんの職場でお会いしました。 覚えていてく
ださったんですか?」

「うん。 君、凄いインパクトあったから」

インパクト?
それって一体

 分からず首をかしげる若菜に素が説明をする。

「戸田君、眼鏡掛けてる時と掛けてない時の顔って別人だもんね」

「ああ」

 ポンと手を打つ。

「変装前と変装後ですね」

・・・・・変装って?

 皆の疑問を代表し雄大が聞いてみる。

「僕が戸田若菜だって知られたくない時にあの姿になるんです。 コンタクトして前髪
をちょっと上げれば別人でしょ」

いや、それ違うし

そうそう、それって本来の姿に戻っただけ

誰か教えてやれよ

無理

 素、佐倉兄、雄大、千葉が離れた場所で視線で会話した。
 そして、いっせいにため息を吐く。

「え、なになに? どうかしたの?」

「気にしないでいいから。 取り敢えず座らない?」

 素が促す。
 皆が席に座った所で改めて自己紹介をした。

「初めまして、素の兄で佐倉灯といいます」

「俺は喜多川雄大。 君美人だね〜。 いでっ!」

 灯の美貌惹かれに真っ先に自己紹介した雄大。
 軽い口調態度に灯と素が冷たい視線で返す。
 嫉妬に燃えた雄大には今度は頬を抓られた。
 そして「浮気する人は嫌いです」と一番のお気に入りの若菜の一言にトドメをささ
 れた。





 
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