楽しいお茶会
(2)
50万Hits企画






 目的の物は購入出来た。

 100円ショップで売っている物と大差はなかった。
 ただ生鮮食料品があるかないかくらいの差。
 後は金額くらい。

 意気込みすぎたせいか、なんだか拍子抜け。
 中途半端すぎてモヤモヤ。

 折角出て来たのに、このまま又電車に乗って帰ってもスッキリしない事は確か。
 だからと言って他に買い物もないし。

 駅の改札を抜けホームへ歩いている途中思いつく。
 電車に乗って一駅行けば、珊瑚の叔父である雄大の経営するカフェがあるではな
 いか。

 確か雄大から「新作デザートを始めたから来てねv あと、入学祝いもしてあ・げ・るv」
 とメールが入っていたし。
 
 この時期は苺の季節。
 苺は若菜の大好物。
 甘い匂い。
 口の中に入れた時に広がる甘酸っぱい味。
 いや、今は甘酸っぱい物だけではない。
 甘い果汁のとろけそうな物も。
 
女峰・とちおとめ・とよのか・アイベリー!
これは行くしかないでしょう!

 携帯を出し今からカフェに行くと雄大にメールした。
 カフェに顔を出す時には「絶対連絡をしてくれ!」と雄大に言われていたから。
 若菜も明るくて楽しく、年上なのにちょっと子供っぽい雄大の事は好きだったので、
 行く時には必ず連絡をする事にしていた。

 あと来るか来ないかは分からないが、綾瀬と珊瑚と有樹にもメールを送る。

 全員にメールを送信した所に丁度電車がホームへと入って来た。



 一方、若菜からメールが送られて来た事に気付いた雄大。
 読んでにやける。

「千葉〜、若菜君が来るって〜v 着替え着替え」

 へらっと笑う雄大を見て、千葉の右眉がピクリと吊り上がった。
 何故雄大が若菜のアドレスを知っているのか?
 それは以前若菜が雄大の店でアルバイトしたから。
 カフェとはまた別な店、コスプレパブでアルバイトした時メールアドレスを交換した。
 実際はバイトが終了してからだが。

 何故コスプレパブでバイトをしたか。
 それは貴章の誕生日プレゼントを買うため。
 本来未成年である若菜達がコスプレパブで働く事は違法である。
 が、その時雄大の店では雇った女達が数名纏めて辞めてしまってピンチだったの
 だ。
 その時丁度甥である珊瑚が友人達と雄大の経営するカフェにやって来た。
 聞くとバイト先を探しているとの事。

 そこで雄大は思いついた。
 珊瑚ともう一人の友人はそこら辺にいる女達よりも美形。
 一人は最悪だが。
 未成年でも男でもこの際関係ない。
 コスプレパブなのだから女装させてしまえば全く問題ない。
 さぞ美人になるだろう。
 ここは一つ叔父の特権で強引に手伝わせる事に。

 女装した珊瑚達は予想以上に美しく、最悪と思っていた一人戸田若菜がとびきりの美
 人だった。
 しかも語学堪能。
 VIP専用コスプレパブは初日の売り上げはいつもの倍。
 次の日は前日のVIPが更なるVIPを伴って来たので店は満員御礼状態になった。

 雄大にとっては嬉しい悲鳴を上げる。
 珊瑚達のバイトが一週間と短いのが悔やまれるが仕方ない。

この一週間でガンガン稼ぐぞ―――!

 と思っていたのだが、その思いはその日で終わってしまた。

 若菜の恋人である久我山の御曹司、久我山貴章が登場したから。
 恋人に内緒で始めたバイトはあっさりバレたった二日で終了。
 本当なら続けて欲しかったが久我山貴章の迫力にそれを言い出す事は出来なかっ
 た。
 
本気で恐ろしかった・・・・

 バイトは禁止となったが、カフェには顔を出してくれている。
 雄大としてはあの美貌の若菜との縁を切りたくないと食べ物で懐柔。
 そして見事成功。
 新作が出来たら知らせるからと言いメールアドレスをゲットする事が出来たのだ。
 
 その必死な態度に甥珊瑚は呆れ、恋人である千葉の怒りを買った。



 電車に乗り一駅。
 若菜は改札を出てカフェへ向かう。
 目的地は直ぐ近く。
 
ん?

 遠く見えるカフェの前で飛び跳ねる物体が。
 何だろうと思い歩いて行く。
 近づくにつれなにやら声も聞こえてくる。

「お〜・・・・、・・・・・なく〜〜〜〜ん」



 更に近づく。
 飛び跳ねる物は人だった。
 飛び跳ねているだけではなく、両手を大きく振っている。

「若菜く〜〜〜〜ん!」

 雄大だった。
 その隣りには不機嫌な顔をした千葉が立っていた。



 ワッフル・アイスクリーム・ショートケーキ・パフェ。
 目の前に並べられた様々な苺のデザート。

 それらを目をキラキラと輝かせながら制覇して行く若菜。
 甘い物が苦手な者にとっては胸焼けを起こす光景である。
 しかし、甘い物が大好きな若菜には天国。

「ん〜〜〜〜、美味しい〜〜〜v」

 満面の笑みを浮かべながら現在はパフェを攻略中。
 このカフェのオーナーであり、親友珊瑚の叔父である雄大が若菜の目の前に座りウッ
 トリと眺めている。 

 休みなのか、この日の雄大はいつものようにスーツ姿ではなく、白いセーターに黒の
 パンツ。

 髪の毛もいつもは整髪料で後ろに撫で付けていて年齢もそれ相応に見えるのだが
 、洗ったままのサラサラな髪で、前髪が降ろされていてるせいか、30代半ばである
 にも拘わらず、20代後半と非常に若く見える。
 そして格好いいというより、可愛く見える。
 髪型一つで変わる人物がここにもいた。

 そしてその隣りには千葉が。
 やはり休みだったのか私服姿。
 こちらは私服でも年相応に見え、大人の男の魅力が溢れている。
 だがその顔は非常に不機嫌。
 腕を組み雄大を睨み付けていた。

 千葉は雄大の秘書で大学の同級生であり恋人。
 現在はこのビルの5階を居住スペースにし、一緒に住んでいる。
 
 雄大は昔から、男女関係なく可愛いもの、綺麗なものに目がない。

 現在の若菜の姿は鳥の巣の様な頭。
 伸びきった前髪から覗く現在ではお目に掛かる事のないような鼈甲の眼鏡。
 そしてジャージ。
 目も当てられないくらいダサイ姿。
 なのに雄大はウットリと若菜の事を見詰めている。

 初めて会った時は制服姿だったが、今と同じように目も当てられないくらい酷い姿。
 激しくその存在を拒否していたのだが、本来の輝く美貌を目にしてから一番のお気に
 入りになったのだ。

 その為にどんなに忙しくても、休みの日でも、若菜がカフェに顔を出せば必ず雄大は
 若菜の元へ走った。

 恋愛感情はない事は分かっている。
 しかし仕事でも、自分とのプライベートの時間をアッサリと捨て若菜の元へ走る。

恋人の俺を蔑ろにするとは・・・・・

 今日も二人でゆっくりイチャイチャしていていたところに、若菜からの『これから、カフ
 に行きますね』とのメールが入った途端イソイソと着替え、若菜が来るのを一足先にカ
 フェの前で待っていたのだ。
 そんな雄大に千葉の怒りは日々募っていく。

今日という今日は許さないからな、後で覚えておけ

 出来る事なら若菜を排除、もし苦は抹殺してしまいたいところであるが、そんな事をし
 ようものならば自分の方が抹殺されてしまうという事を千葉は分かっている。
 若菜の恋人久我山貴章は年下ではあるが、その存在感・威圧感はとても太刀打ちす
 る事が出来ない。
 そして大きな闇を背負っているのが感じられた。

 若菜には手を出す事が出来ないので、千葉は浮気癖のある雄大を睨むしかなかっ
 た。
 しかし、雄大は全く気付いていない。
 それがまた腹の立つ千葉だった。

 そんな二人の事など気にする事なく、若菜は目の前のデザートに心を奪われ、口の
 端にクリームを付けながら幸せそうに食べている。

 その時テーブルの上にマナーモードで置いていた若菜の携帯が震える。
 口の中に入っていた苺を慌てて飲み込む。
 携帯の画面には『綾瀬』の文字。
 先程入れたメールを見て電話をしてきたようだ。

「もしもし、綾瀬?」

『若菜、今一人なのか!?』

 何だか焦ったような声。
 どうかしたのだろうか、不思議に思う。

「う? 違うよ、雄大さんと千葉さんも一緒。 雄大さんのカフェで新作デザート食べて
るの。 あと合格祝いも。 凄く美味しいよ。 綾瀬は今どこ? お家?」

『ああ。 出かけるなら俺を誘えばいいだろう』

「う〜ん、そうなんだけど・・・・・」

『まあいい、今から行くからそこで待ってろ』

「うん、分かった。 また後でね」

 言って携帯を切る。
 携帯を机の上に置き、ふと雄大に視線を向ける。
 キラキラと目を輝かせる雄大に思わず体を引いてしまう。

「綾瀬君来るの?」

「・・・・・雄、人の話を勝手に聞いてるな」

 千葉の眉間に皺が。
 機嫌の悪さが倍になる。

 若菜の友人で甥珊瑚の友人でもある綾瀬が来ると聞いて、雄大は更に機嫌が良
 くなる。
 輝く美貌の若菜とは違い、クールな美貌の持ち主である綾瀬も雄大は気に入って
 いる。
 甥珊瑚もこの二人とはまた違う和風美人。
 もう一人の友人有樹は美人ではないが、かなり可愛い。

素晴らしい! 持つべきものは美人な甥だ。
ありがとう、珊瑚!

「別に聞こうと思って聞いた訳じゃない。 聞こえてきたんだ」

「雄・・・・・。 屁理屈を言うな」

「なんだと、どこがだよ」

「そこが、だ」

「何を〜〜〜〜」
 
 険悪な雰囲気の二人。
 だが次の瞬間雄大が何かに気付いたらしい。
 ニヤリと笑い千葉を見る。

「・・・・ははあ〜毅、お前妬いてるんだろ〜」

「そうだ」

「ばっ・・・・!」

 冗談で言ったつもりが即答され雄大の顔が真っ赤になる。
 いつにない雄大姿に『かわいい〜』などと思ってしまう若菜。
 と同時に何の臆面もなく言い切る千葉に感動。

「妬いて当然。 お前の恋人は俺。 他の奴なんか見なくていいんだ。 それなのに毎
度毎度お前は・・・・・」

「わぁ――――――! 馬鹿お前こんな所でそんな恥ずかしい事言うな!」

 慌てて雄大の口を手で塞ぐ。
 学校でもよく見かける光景。
 珊瑚と竜也も雄大達と同じ事をしている。
 やっぱり珊瑚の叔父だなと納得した若菜だった。


目の前でイチャつく雄大達は放っておき、若菜は着々と目の前にあるスイーツの数を
減らしていく。

「幸せ〜〜〜〜v」

 スプーンを握りしめ、何やら感激している。
 そしてふと視線を店の外へと向ける。
 若菜の見知った者が通り過ぎていく。

「あっ!」

 大きな声を出し立ち上がる。
 
 天気が良かったので若菜達は店内ではなく、外の席にいた。
 歩道とカフェは特に柵などでは仕切っていない。
 店の雰囲気もオシャレで割と入りやすい雰囲気。

 若菜達が座っている場所から歩道は2m程しか離れていないそのため、若菜が発し
 た声は歩道を歩く通行人にはよく聞こえる。

 現に今若菜の横を通り過ぎようとしていた人物はその声に驚き何事かと立ち止まって
 いた。
 周りに座っていた者達も一体何事かと若菜達を見る。

「佐倉さ〜ん」

 手を振る若菜。
 視線の先には薄い黄緑色のシャツにオフホワイトのパンツ姿の可愛らしい男の子が
 立っていた。





 
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