楽しいお茶会
(1)
50万Hits企画






 空は快晴。

 季節は春といっても4月初旬、天気は良くともまだ寒い。
 だが今日は比較的に暖かく、過ごしやすい。
 散歩に買い物に出かけるにはもってこいのお出かけ日より。

 無事高校を卒業した若菜は明後日から大学生になる。
 大学は日本最高峰の大学。
 そこには、若菜の親友である綾瀬と、やはり親友である珊瑚の恋人である竜也も一
 緒だ。

 珊瑚と有樹はそのまま高校と同じ敷地内にある白鳳大学に通う事になった。
 いつも側にいた、心許せる親友達と離ればなれになるのは身を切られる思いだが、離
 れたからといっても親友である事には変わりないからと言われ笑顔になった。
 
 竜也に至っては、何が何でも珊瑚と同じ大学に通いたかったようだが、珊瑚には日本
 最高峰の大学の壁は厚かった。
 珊瑚は頭が悪い訳ではない。
 学年総合で上位にいるのだが、若菜、竜也、綾瀬の3人は飛び抜けて頭がいいのだ。

 彼等と共に勉強し、教えて貰い頑張ったのだが、あえなく玉砕。
 珊瑚を溺愛する竜也にしてみれば同じ白鳳大学に通いたいところだが、実際には同
 じように白鳳大学に通う事は出来ない。
 次男であっても、竜也は日本の政財界の頂点に立つ剣グループ人間なのだから。
 兄を支え、そして竜也自身も剣グループの一部の会社のトップに立たなくてはならな
 いのだから。
 家族が白鳳大学に通う事を許しても周りが認めないだろう。
 
 竜也自身、周りからどう言われようが関係ないのだが、尊敬する父・母・兄が自分の
 せいで不愉快な目に合うのだけは避けたいと言っていた。
 それに珊瑚とは大学が離れても、家に帰れば側にいる。

なんて羨ましい!

 若葉だって貴章との同棲を願っているのだが、大学を卒業するまでは家を出る事が
 出来ない。
 一度何気なく、全く深い意味などなく「一人暮らしか〜、いいよね〜」と言ったところ、
 晃司と青葉が泣いて止めたので取り敢えず大学を卒業するまでは自宅を出る事は
 やめた。
 家族は大好きだから特に不満はないのだが、それでも貴章との甘い生活に憧れてい
 たりするのだ。

 白鳳大学には珊瑚だけではなく、親友である有樹も一緒。
 一人だけであったなら、竜也も全力で阻止するだろうが有樹も一緒だからという事で
 渋々納得していた。
 それに、白鳳には有樹の恋人である彰もいる。
 若菜達の一つ下でまだ白鳳高校の三年だが、高校と大学は同じ敷地内にあるし、他
 にも竜也の息の掛かった者が珊瑚達の同級生として入っている。
 何かあれば直ぐ彼等から連絡が入って来る事になっているので取り敢えず安心らし
 い。


 新しい環境へ胸躍らせ、やはりここは古い物ではなく新しい文房具だろうと若菜は買
 い物へと出かける。
 
 本当ならこんなに差し迫った日ではなく、もっと前に買いに行けばよかったのだが、
 この春休み、綾瀬達と卒業旅行に行きそこでちょっとした事件が発生し自宅へ戻る
 のが遅くなってしまい買い物に行く事が出来なかったのだ。
 
 まあ、終わった事とはいえ思いがけず貴章と旅行に行く事が出来たし、周りから見る
 と砂糖を口から吐き出しそうなくらいの甘さだったので若菜はご機嫌だった。
 愛する貴章との甘い生活がこの数日で、若菜をより美しくさせ輝かせた。
 
こんなに幸せで困っちゃうv

 頭の中がお花畑な若菜だった。

 それに去年は新しい友人も出来た。
 神崎和磨。
 漆原友之。
 澤部好哉。
 そして雫。

 雫だけが素直に喜ぶだろう。
 後の三人がこれを聞いたら・・・・・
 和磨は何も言わないだろう。
 漆原はニッコリ微笑んで「光栄ですね」と言うだろう。
 何せ、漆原が遣える和磨が唯一認める者、あの久我山貴章の恋人なのだから。
 澤部に至っては、速攻で否定するだろう。
 若菜は澤部にとっては未知の生き物らしい。

失礼な
  
 綺麗で清楚な雫。
 名前と同じように儚げな印象の人。
 若菜より6つ年上の24歳。
 和磨の伴侶で既に神崎の籍に入っていると聞き、羨ましさに身悶えてしまった。

 誘拐された時、世話になったお礼をしに行った和磨の自宅。
 そこで和磨の隣りにひっそり寄り添う様に座っていた。
 和磨が包み込む様に肩を抱いていたのを見て、羨ましいなどと思いジッと見てしまっ
 ていた。
 この時若菜も貴章の腰を抱かれていたのだが、「隣りの芝生は青かった」状態。
 若菜の視線に気付いた雫は戸惑っていた。
 後で聞くと極度の人見知りだと知ったのだが。

 そんな事とは当然分からない若菜は雫に笑いかけても反応が返って来ず、寂しい思
 いをした。
 だが、その後やって来た澤部と話しに夢中になっている内に周りから笑いが。
 何が可笑しかったのかさっぱり分からなかった若菜だったが、それが切っ掛けで雫
 が笑い、その笑った顔がとても優しくて綺麗で大好きになった。

 話す口調が柔らかく、若菜と同じく甘い物が大好きという事で話しが盛り上がり、思
 った以上に楽しい時間を過ごす事が出来た。
 その時に携帯の番号とメールアドレスを交換し、今ではすっかりメル友になっている。
 時には雫に会いに行ったりする事もある。



 出かけるにあたっての当日。
 戸田家男子は相変わらず若菜を溺愛しており「ついて行く!」と喚いていたのだが、
 父晃司は乗務になっており、弟青葉は練習試合が。
 若菜が家に帰ってから一週間、ベッタリとくっついていた二人だったが、さすがにそう
 もいかなくなったのだ。

 何とか日にちを変えてくれと懇願していたが、若菜としては今日は天気もいいし、思い
 ついたその時行動するのが好きだった為、二人の願いをあっさり断った。

「若菜が冷たい・・・・・」

 などと言い、泣く二人を笑顔で送り出した若菜だった。

 二人と出かけるのは嫌いではない。
 が、青葉と晃司が一緒だとなかなか買い物が進まないのだ。
 余計な買い物は多いし(若菜の服を買いあさる晃司)、歩く先々で呼び止められ(晃
 司と青葉が逆ナンされる)一向に目的に辿り着けないから。
 ここに母佐織、もしくは妹紗英がいれば違うのだが。
 (晃司の買い物を止めてくれるし、この二人がいて声を掛けてくる勇気ある女達はさ
 すがにいない)

 新しい物を買いに行く事はとても楽しい。
 気持ちまで新しくなる気がするから。

 若菜が買う文房具がどれも安い。
 全て100円ショップで購入しているのだから。
 だが今回は100円ショップではなく、99円ショップなる物が出来たため、その店に
 買いに行くのだ。

 初めて行く店。
 それがどんなに高かろうが、安かろうが関係ない。
 売っている物は同じでも、色、形が違ったりしている。
 100円ショップでは取り扱っていない物もあったり。
 何が置いてあるのか楽しみなのだ。

生鮮食品なんかも売ってるんだよね〜
あ・・・・、でも物によってはスーパーで買った方が安かったりとかするみたいだし注意し
ないとね、損しちゃうもん

 考え方が微妙に主婦な若菜。

 ワクワクしながら財布を握りしめ、いつもの格好で出かけた。
 
 

 意気込んで乗った電車。

 何も文房具用品を、しかも99円ショップに行くだけでなのに、わざわざ電車に乗って
 まで行く必要はないのではないか。
 
 綾瀬や珊瑚なら確実に行かないだろう。

 乗った電車の中で、若菜は周りからとても注目されていた。
 やはりその姿のせいだろう。
 髪の毛はブラシをかけていないためボサボサ。
 しっかりと寝癖がついたまま。
 そして顔が半分以上隠れている。
 隠れていない部分からは、恐ろしいくらいダサイ眼鏡が。
 
今時そんな眼鏡のフレーム売ってるのか?
取り扱ってる事自体が恐ろしい。

 などと思わせる一昔前の成金の親父が掛けていたような鼈甲のフレーム。

 しかしよく見れば、隠れていない口元は艶々ピンクのふっくらで、思わずキスをしたく
 なるような魅力的な唇。
 肌もきめ細かく滑らかで、陶磁器の様な色の白さなのだ。

 眼鏡だけではない。
 今の若菜はまるっきりオタクの様な姿。
 着ている服もジャージ。

 電車に乗って出かけるのに、何故ジャージ。
 友人達、特に貴章と出かけたりする時に絶対にしないその格好。
 一人で出かける時には服装に非常に無頓着な若菜だった。

 だが、このジャージ、実は誰もが知るブランド、プラダ。
 ジャージだけではない。
 今日の服装、靴も、バックもみ〜んなプラダだったりする。
 プラダのパンフレットにもモデルが同じ格好をして載っているいるが、こちらの方は誰
 が見ても洗練されてステキと思うだろう。

 なのに若菜が着ると、どうして量販店で売っているような安く、ダサイジャージに見え
 てしまうのか。

 今着ている服だけではない。
 若菜の持ち物は全てブランド品なのだ。

 父晃司が「若菜には高級な物が良く似合う」と言い、ブランド品のみ購入しているの
 だ。
 服だけではない。

 シャンプー・石鹸はブランド物だと香料が入っているために、万が一でも肌が荒れて
 は困るという事で使用不可。
 洗い上がりに潤いが残る自然で蜂蜜成分の入った物を使用。
 
 タオルも若菜のきめ細かい肌を覆うような肌触りが良く、吸水性も優れた物を取り寄
 せている。
 
 運動する時や、ハイキングに行く時様の靴は足形を取って作成。
 足を痛めないようにとの事で。
 それ以外は既製品のブランドの靴。

 兎に角晃司は徹底していた。
 そして褒めた。
 「凄く似合ってるよ。 若菜の為に作られた服だね」と。
 
 青葉も褒めた。
 ウットリしながら「若菜が一番綺麗だよ」と。
 眼鏡を掛けた若菜を見て、そう思えるは家族だけ。
 特に晃司と青葉。
 
 外している時なら、その美貌に誰もがそう思うだろうが、今の若菜を見て誰がそう思
 うだろう。
 
 今も若菜をさらにオタク化されているのは髪型、眼鏡のせいだけではない。
 猫背で俯き加減な姿勢。
 極めつけは、本を読みながら時々肩を震わせているせいだろう。

 少し離れた場所にいる、女子高生達が若菜の事を見て「やだキモ〜イ」などと言って
 いる。

 男子学生達は「あいつ、ヤバクない?」と。

 また、別な場所にいる母子に至っては、子供が「ねえ、あの人変だよ?」と若菜の
 事を指さし、母親に「しっ! 見ちゃ駄目よ!」と言われていたりする事など、若菜は全
 く気付いていなかったりする。

 読んでいる本は、若菜のお気に入りのファンタジー小説。
 今最も人気があり、剣と魔法の世界で、時には笑いもある、それは楽しい本なのだ。

 周りから見ればオタクな奴が、オタク本を読んでニヤついているという、不気味な光
 景にしか見えないのだ。
 多分そのせい。

 お陰で若菜の周りには人がいなかったりする。





 
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