束縛しないで
(4)

キリ番99999をGetされたなつめ様からのリク
「束縛されて」の続き







 注文の品が全て揃った所でおもむろに珊瑚が口を開いた。

「で?」

 椅子の背もたれに寄りかかり、腕組みをして話を促す。
 初対面なのだからなるべく穏便、且つ丁寧に行きたい所ではあるが、ここ数日の生
 活の変化と疲れ、ストレスで気を遣うのが面倒になっていた。
 いつもは背負っている巨大な猫も今は外している。
 そしてそんな珊瑚の態度に一番早く反応したのはマネージャーらしき可愛い男。

「なにその態度!」

 なにと激怒しようが関係ない。
 人の事を勝手に呼び出し、勝手に着いて来たくせにいい度胸だと足を組み、フッと鼻
 で笑う。

「感じ悪い! ちょっと顔が綺麗だからって自惚れるのも大概にした方がいいんじゃな
い」

 自惚れるも何も、自分の顔がいい事くらい分かり切った事だけに今更自惚れるもな
 いだろう。
 それにこのマネージャーの方が、その容姿をフルに活用し色々な事をやっていると
 珊瑚は思った。

男子校でチヤホヤされて女王様気分?
ああ、ウザイ・・・・

 事実、回りの野球部員達はこのマネージャーを宥めている。
 それに今は顔の話しなどどうでもいい事。

「人を呼び出しておいて、用件も言わず怒り出す馬鹿には用はないんだけど」

「なっ!」

 珊瑚の毒舌に、美少年は怒りの為に顔を真っ赤にし絶句する。
 他の男達も唖然としていた。

「大体、こんなに大人数で来なきゃ行けない理由はなんなの? 一人でも十分なんじ
ゃない。 学校まで来られるの、迷惑。 それに、あなた方、なんでこんな時間に来
られる訳? 学校終わってから来てたらこんな時間には来られないんじゃないの? 
まさか、俺に会うだけでこの人数が早退したの。 暇だね」

「なんだと!」

「公共の場で騒がない。 回りに迷惑」

 いち早く我に返った者が、珊瑚を威嚇する。
 体格がいいだけに迫力はあるが、綾瀬の冷たい視線に慣らされた珊瑚には全く通
 用しなかった。

「大体お前が竜也さんを誘惑したせいだろうが! そのせいで竜也さんが野球部を、
鳳学園を止めると言っているんだ!」

やっぱりその事か・・・・

 いつかは来るだろうと思っていたが、以外と早かった。
 だが珊瑚にとっては言い掛かりも甚だしい。
 
「知るかっ。 言っておくけど、俺は竜也に何も言ってないから」

「竜也さんを呼び捨て!?」

 その場にいた鳳の生徒達が殺気立つ。
 彼等にとって竜也は特別らしい。
 珊瑚は気にせず話しを続ける。

「悪いけど、俺は凄い迷惑。 勝手に俺の家に入り込んで来るわ、部屋の内装も替え
るわ。 家の中だとベタベタ張り付いて来て暑苦しい。 挙げ句学校を変わる? 冗談
じゃない。 これで学校まで同じになったら俺の安らぐ時間が全くなくなるだろう! 鬱
陶しい・・・・。 邪魔だ迷惑だ! と言う訳で応援するから竜也が転校しないよう頑張
って阻止してくれ」

 一気に言い終えて喉が渇いてしまった。
 注文し、氷が溶けて少し味が薄くなってしまったアイスコーヒーを飲む。
 言う事だけは言ったのだからもうここには用はない。

「それじゃ」

 席を立ち上がる。

 珊瑚の迫力かそれともその内容にショックを受けたのか、彼等の殺気は既になく
 なっており静まりかえっていた。
 だが立ち上がった珊瑚に、まだ話しは終わっていないとマネージャーが顔を赤くし、
 怒りに震え引き留めた。

「デタラメ言わないでよ! 竜也さんがそんな事する訳ないだろ。 クールでお兄様
同様皆から尊敬される竜也さんが、そんなベタベタな甘甘な訳ないでしょ」

 鳳にいる時の竜也の姿が想像出来ない。

いや、待てよ。
一番最初ホテルで合った時の竜也は確かに大人びていて、知的でクールなイメージ
だったな・・・・
あれか?

 その姿ならなんだか納得出来た。

こいつ、夢、見てんだろうな・・・・・

 本当の竜也の姿を知らない男が少し可哀想になった。
 それがつい顔に出てしまったらしい。

「感じ悪い・・・・。 どうして竜也さんがこんな人を選んだのか僕には分からない」

「分かって貰わなくても結構。 大体あんた、人の事とやかく言ってるけど。 その性
格直した方がいいから」

「何だって!」

「何も知らないのに相手を決めつける事。 自分の理想を相手に押しつけるとろくな
事ないから。 顔がいいからと思って油断してると、年とってから悲惨だよ。 友達は
いない家族からも倦厭される。 ご近所さんだって近所付き合いはしたくないと思わ
れるから。 顔が不味くても性格がよければいいし、顔も良くて性格もよければなお
結構。 それが出来ないなら余計な事は言わない事だね。 実際あんた取り巻きは
いても友達はいないんじゃない?」

 当たっているだけに余計怒りをかった。

「なにそれ、自分が竜也さんと付き合ってるからって自慢したい訳? あんたの方が
性格直した方がいいんじゃない! 大体あんた見たいな庶民と竜也さんが釣り合う
筈ない」

庶民だと?
当たっているけど本人に言うとはなんて失礼なやつだ
釣り合うか合わないかなんて知るか!
まあ、性格は釣り合わないだろうな
向こうはかなり正直な性格だし
でも何処か微妙に計算されているか?
あの笑顔が胡散臭い気もするけど・・・・
う〜〜〜ん

 席に座り直し、腕組みしながら考える。
 珊瑚は巨大な猫を背中に飼っている。
 猫の大きさなら誰も負けない筈。
 嫌いな相手でもニッコリ笑える事は実践済み。
 だが竜也にもそれを感じる事がある。

「いい? 竜也さんは高校野球界に彗星の如く現れたヒーローなんだよ。 将来はプ
ロに進んで野球界を支えて行く人なんだ。 それだけじゃない。 天下の剣財閥の御
曹司なんだよ。 そこら辺にいる金持ちとは訳が違うんだから!」
 
 美少年が騒いでいるが珊瑚は全く聞いていない。
 理想と現実を頭の中で改めて実感していた。
 その内出来るだろうと思っていた恋人。
 容姿には拘らず、性格が良ければいいなと思っていた。
 そんな女性とゆくゆくは結婚し、一戸建ての家に住んで子供も出来て、などと思って
 いたのに。

 竜也は初めて会った時、優しくて包容力があり少しドキドキ。

いや、実はかなりドキドキ?

 でも相手は男。
 どうこうなるなってこれっぽっちも思っていなかった。
 なのに今ではベタベタの恋人同士。

まさかこんな関係になるとなんて思ってもいなかったし・・・・

「聞いてるの!」

あ〜煩い・・・・・

 それだけに赤の他人、それも今日5分程前に初めて会った男になぜ、ここまで言わ
 れなくてはならないのかと、非常に頭にきていた。
 無言で携帯を取り出し登録されている番号を呼び出しかける。
 珊瑚が話す前に話し始めた。

『珊瑚。 何処にいるの。 遅いよ。 でも嬉しいよ、初めてだね珊瑚から連絡しくれる
なんて。 僕が恋しくなったの?』

 初めて珊瑚から掛かって来た電話にかなり浮かれているようだ。
 その浮かれようが腹立たしい。

「・・・・煩い。 今どこにいる」

 冷たくバッサリ、竜也の愛の言葉を切り裂く。
 だが竜也は全く気にしていないようだ。
 
『もう家に着いているよ。 夕食の支度を始めようとしてたところ。 今日はイタリアン
にしようかと。 ポルチーニのパスタと・・・・』

「夕食の支度なんかどうでもいい。 今から言う場所に直ぐ来い。 10分以内で来
い。 来ないと今日から別々に寝てやる!」

 場所を教え携帯を切る。
 皆の目が珊瑚に向けられている。
 驚く者、怯える者、怒りを露わにする者。
 まあそれはそうだろう、ここにいる彼等は全員が竜也にそれぞれ違った意味で懸
 想しているのだ。
 その竜也に対しあの口の利き方なのだから。

「竜也さんが、料理してるのか?」
「嘘だろ?」
「今の電話、一緒に寝てるって・・・・」

 外野がボソボソ何やら煩いが無視だ。
 余計な所でカロリーを消費してしまった事でお腹が空いてしまった珊瑚。
 呼び出しボタンを押し、注文を追加する。
 かなりマイペースな珊瑚に彼等もどうしていいやら分からないようだ。
 その中で唯一真田が声を掛けて来た。

「一つ聞きたいんだが・・・・」

「なに?」

「さっき、君が言った事は本当なのか?」

 言った事は覚えているが、順番など覚えていない。
 一体さっきとはどのさっきなのか。
 丁度そこに頼んでいたマンゴーヨーグルトが。
 喜喜としてスプーンを手にし、すくおうと。 

「迷惑しているって・・・。 君が竜也さんを自分と同じ高校に来るように言ったんじゃ
ないのか?」

その事か

「最悪」

 言われた時の事を思い出し吐き捨てるように言う。

「確かに竜也は顔もいい。 学校も俺の通う学校とは寄付金の桁も違う。 あんた達
を見てると竜也がどれだけ尊敬され、誰からも必要とされて人気者かって事も凄く分
かる」

 言ってデザートを一口食べる。
 今までは十分美味しいと思っていたが、実際竜也が用意してくれたマンゴーとは
 全く違う。
 
イマイチすぎる・・・・

 すっかり口が肥えてしまった自分が嫌になる。

「でもあいつは家庭内ストーカー」

「・・・・はい?」

「同じ家の中にいるにも拘わらず移動するたびに一緒に着いて来る。 それだけじゃ
ない。 学校以外は必ず何処に行くにも竜也が一緒。 服を買いに行けば試着室ま
で入って来る。 俺の一人になる時間が全くない。 俺だって偶には一人になる時間
が欲しいよ。 前は風呂に入る時は本を持って入って、お気に入りのバスオイル入れ
てのんびり一時間は入っていたのに、今じゃ一人で入れない。 トイレにしても偶に
危ない時がある。 学校以外一人になる時間ないじゃないか。 それを学校まで一
緒になったら、竜也の事だ。 きっとどんな手を使うのか分からないけど、絶対同じク
ラスになるんだ。 そして席なんか隣になって・・・・・」

 最後の方は独り言になっている。
 俯き手元にあっるデザートをグチャグチャとかき回す。
 聞いている彼等はその言葉が全く想像できないのか、話しの内容を聞き顔を引き
 つらせている。
 別な意味にとれば、ラブラブではないかと。

あり得ない!
想像したくない!

 知的で優雅で上品な竜也が「家庭内ストーカー」
 その場にいた彼等の心の叫びだった。
 しかし同時に彼等に厭な汗が流れた。
 これだけ溺愛している竜也の恋人に、自分達はとんでもない事をしているのではな
 いかと。
 それが例え言葉だけであったとしても。

「あ・・・・・」

 珊瑚と反対側に座っていた彼等の顔が青ざめる。

「それはね、珊瑚を愛しているからだよ」

 珊瑚の後ろに私服姿の竜也が、微笑みを浮かべ立っていた。





Back  Top  Next




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送