束縛しないで
(2)

キリ番99999をGetされたなつめ様からのリク
「束縛されて」の続き







朝から疲れた・・・・・

 一日が始まったばかりなのに、珊瑚は既に疲れ切っていた。
 しかも気持ち悪い。
 電車に乗るのに全速力で走ったせいだろう。
 それに乗る電車は通勤通学で非常に混んでいる。
 そして朝からゲロ甘な竜也のせいでもあった。

あの年で何の恥ずかしげもなく「愛してる」は、普通言わないだろうが・・・

 思い出しただけで余計重くなって行く。
 何とか学校まで持たせなくてはならない。
 後少し頑張れば学校。
 そして保健室に直行し、ショートホームルームの時間だけ寝ていれば回復する筈。

・・・・多分
頑張れ〜

 自分にエールを送っていると、後ろから珊瑚を支える手が。

「あ・・・?」

 見ると綾瀬と若菜だった。

「お早う珊瑚、朝から倒れそうだな」

「大丈夫? 顔色悪いよ。 ほら、掴まって」

 両脇を支えられた事で少し楽になった。
 綾瀬と珊瑚が揃った事で、より登校している生徒の目が集まる。
 珊瑚自身、非常に整った綺麗な容姿をしているが、隣に立つ綾瀬はまた違った美
 貌の持ち主であった。
 男なのに、校内にいるどの女子よりも美人な二人は白鳳学園のアイドルだった。
 そしてまた違った意味で注目を浴びる人物が、綾瀬とは反対側に立つ若菜だった。

 櫛を通しているのかと疑うような鳥の巣のような頭。
 顔は前髪で半分以上隠れていて分からない。
 見えたとしても、前世紀の遺物と思われるような鼈甲の眼鏡。
 だがこの眼鏡、想像以上に高価な物。
 値段を聞き、思わず卒倒しそうになった。
 その金額ならば、どんな洒落た眼鏡でも買えるのに。
 だが若菜はこの眼鏡以外の物を掛ける気はないだろうし、今では珊瑚もこの眼鏡
 でいいと思っている。

 あり得ないくらいオタクな姿。
 見る者が引いてしまう。
 しかし、眼鏡の下には絶世の美貌が隠されている。
 今まで見て来た中で一番の美貌の持ち主。
 綾瀬も美人だと思うが、比べ者にならない。
 だが性格は天然だ。

 自分や綾瀬と友達になるまで、親しい友人が一人もいなかった。
 中等部からこの学園にいるにも拘わらず一人もいない。
 その不気味な外見のため、誰も近づかなかったのだ。
 同じクラスになっても余りの存在感の薄さに気付かない位。
 でもテストは毎回トップ。
 殆ど満点に近い数字。
 運動神経も悪くない。
 しかし存在感の薄い人物。

 なぜそんな若菜と仲良くなったのか、今でも良く分からない時がある。
 切っ掛けはもう一人の友人、有樹だった気がする。

 三人は注目されながら学園までの距離を歩いた。
 そしてそのまま保健室へ直行。
 幸い既に保険医が来ていたので中に入る事が出来た。
 50代後半の優しげな風貌の保険医は、珊瑚を見て「あらあら大変」と貧血を起こし
 ているのが分かったのか直ぐさまベッドに寝かせてくれた。
 綾瀬達は無理をするなと行って教室へと向かった。

何してんだろ、俺・・・・・

 横になりながらため息を吐いた。
 
 念のため一時間目も休み、その後教室へと向かった珊瑚。
 途中嫌な連中と会ってしまった。
 思わず小さく舌打ちをする。

「珊瑚ちゃん」

 全くもって馴れ馴れしい、自称「珊瑚親衛隊」
 名前を呼んで来たのは親衛隊長という野球部部長で、運動部部長でもある椎堂。
 同じ野球部とはいえ、竜也とは全く違うナンパな容姿の男。
 それは顔だけでなく性格も。

 高校から外部入学して来た珊瑚を見るなり口説いて来た人物。
 他にも言い寄る者がいたが、誰も相手にしない珊瑚に、それならばとアイドルに奉
 り立てられ協定を勝手に作った、はた迷惑な男。
 下心などなく、友人になりたいと思っているクラスメイトでさえ近づけないようにした、
 常に付き纏う害虫と言っても過言ではない男だ。

 2年になり綾瀬と同じクラスになるまで、若菜とは違った意味で友人が出来なかっ
 たのもこの男のせい。

呪い殺せるならそうしたい

 常に思っていた。
 友人となった綾瀬は、久我山グループの三男。
 そしてその容姿は美しく見る者を圧倒させる。
 だが珊瑚から見ると毒を含んだ美しさ。
 視線は冷たく鋭いし、口から出る言葉も容赦がない。
 睨まれれば忽ち凍り付くであろう。
 興味本位や、久我山に取り入ろうとしている生徒は決して近づけない。
 体中から「近づくなオーラ」を出している。
 そんな綾瀬と何故友人になったのか。
 自分でも不思議でならない。
 
 しかし綾瀬と友人になった事で、椎堂もそう簡単に珊瑚に近づく事が出来なくなっ
 ていた。
 珊瑚に近づくだけで冷酷な視線を投げつけられるのだから。
 今までのように、珊瑚に近づくなとはとても言えないようだ。
 綾瀬のお陰で楽しい学園生活を送れるようになったのだ。
 しかし綾瀬が居ない時に限って、椎堂が姿を現す。
 その後には空手部の本庄だの、柔道部山下だのがいる。
 本庄は親衛隊ではないが、山下は珊瑚親衛隊の一人だ。
 
今日は厄日なのか・・・・・

 ウンザリとしながらそのまま横を通り抜けようとしたのだが当然無理だった。。

「珊瑚ちゃ〜ん、今日も美人だね。 あれ、でも顔色が悪いよ保健室に行って休もう」

 馴れ馴れしく肩に手を回して来る。
 人の体温が気持ち悪い。
 触るなと言いたいところだが、先輩だし一応体を心配してくれているのだから我慢
 我慢と自分に言い聞かせ、しかしさり気なくその腕から逃れる。
 保険室に連れて行かれようものならば、何をされるか分かったものではない。
 
「ご心配ありがとうございます。 でも俺の体調は凄ぶる快調なので構わないで下さ
い」

「遠慮する事はないよ。 気を遣わないで。 本当に君は優しいね〜」

 丁寧な言葉でハッキリ言って迷惑だと言っているのに、相手にはその嫌みが通じ
 ていない。
  
馬鹿はこれだから困る・・・・・
お前達なんぞに、誰が気を遣うか
ホント、朝からウザイ、どっか行け!

 彼等の顔を見ているだけで、気分が滅入る。
 心の中で暴言を吐きまくる。
 ニッコリ笑って、「じゃあ失礼します」と脇を通り過ぎると、奴らは後ろから追いかけ
 て来た。

まだ何か用かよ!

 気付かないふりで、足を速めて行く。
 すると正面から綾瀬達が。

助かった・・・・・

 綾瀬の姿を見た椎名が「チッ」と舌打ちしたのが聞こえた。
 綾瀬も珊瑚の置かれている状況に気付いたようだ。
 氷の微笑みを浮かべ、颯爽と彼等の前に立ち毒を吐く。
 
「相変わらず珊瑚に付き纏っているんですか。 はた迷惑な人達ですね。 相手にさ
れないんですから、いい加減諦めた方がいいのでは? 嫌われますよ言いたい所で
すが、既に嫌われてますから」

「何をっ!」

 椎堂達が気色ばむ。
 だがそれ以上の事はして来ない。
 久我山というだけでなく、綾瀬は運動神経に優れ、武道にも秀でている。
 椎名達は実際に見た訳ではないが、体育の授業で柔道や剣道などの武道があっ
 た時、綾瀬はそれらの部員をいとも簡単に倒したと聞いていた。
 まだ綾瀬が一年であった時、体育の授業中、一年でありながらその柔道部で一番
 強いと言われている者を綾瀬はあっさり倒したとも。
 ただそこに立っている状態での綾瀬の隙のなさからも強さが分かる。
 それ故年下であるにも拘わらず、彼等は綾瀬には向かっていかないのだ。

「久我山君のお出ましなら仕方ない。 行くぞ」

 椎堂は本庄達を引き連れ、すれ違う時綾瀬を睨み付けその場を後にした。

「サンキュー綾瀬。 彼奴らしつこくって」

 助かったと礼を言う。
 
「若菜が珊瑚を迎えに行くと言ったから来たんだ。 一人でやるには心配だったから
一緒に来たんだが、かえってよかった」

 若菜の一言で綾瀬が動く。
 まあ一人で行動させると不安の思うのは、なにも綾瀬だけではない。
 特に眼鏡の下の美貌を知った後では。
 3人連れだって教室へと戻って行く。

「あ、珊瑚大丈夫?」

 もう一人の友人である有樹が席を立ち珊瑚の元へとやって来る。
 こちらも校内では有名な人物だ。
 綾瀬、珊瑚は校内一にを争う美人だが、有樹はやはり女子を差し置いて、校内
 一のカワイコちゃんだ。
 その後ろからは葛城彰が着いてくる。

 葛城は珊瑚達の一学年下。
 なのになぜか、2年である珊瑚達の教室に休み時間毎我が物顔でいる。
 それもその筈、葛城は有樹の恋人だから。
 この男と付き合うことになったと聞いた時、ハッキリいって驚いた。
 だって男なのだから。
 だが有樹の愛らしさを考えれば女より男と付き合う方が自然に感じた。
 しかしこの葛城は、5人の中で誰よりも背が高く落ち着き払っている。
 思わず年齢を偽っているのでは?としばし思う。

「相変わらず綾瀬のいない時を、見計らって害虫が近づいてたけどね・・・」

 害虫の言葉に有樹の眉がひそまる。
 その虫の中に有樹を襲い、葛城と付き合う切っ掛けを作った本庄がいるから。

「でも、綾瀬が来たから逃げたんでしょ?」

「・・・・・・」

 若菜に虫除けのように言われ、綾瀬は複雑だ。

「有樹、また後で・・・・」

「うん」

 そろそろ、休み時間終了のチャイムがなる為、葛城が教室を出て行った。
 休み時間毎に来る葛城の忠実さに思わず呆れた。

「・・・・相変わらずだな」

 言われた意味が分かったのか、「煩いよ」と顔を赤くしながら、有樹は席へ戻って
 行った。
 珊瑚達も席へ戻る。
 そこへタイミング良く、携帯が震えた。
 画面を見てゲンナリ。
 竜也からのメールだった。

『珊瑚と離れているのがこんなに苦しいなんて・・・。 早く会いたい。 愛してるよv』

 相変わらず吐きそうな位、甘い文章。
 馴れていない珊瑚には鳥肌ものだ。
 
『煩い』

 一言だけ書き返信した。

 本当ならば返信する事すら面倒くさい。
 しかし、しないと後が煩くてかなわない。
 送るまで5分置きに携帯が震えるのだから。
 授業中にも拘わらず震え続ける。

お前も授業中だろ!

 心の中で叫ぶ。
 休み時間毎にメールが入り、昼休みには電話が。
 綾瀬達のに知られたくないので当然こそこそとなり、かえって怪しまれた。



 こんな事になったのは、竜也と住む事になり、始めて学校へ行った日だった。
 別れて数分もしない内に携帯が鳴った。
 画面を確認せず出たら竜也。
 
「煩い」
 
 そのまま切ってしまった。
 しかし竜也はしつこかった。

それよりも、いつの間に番号を・・・

 きっと珊瑚が寝ている間に見たのだろう。
 アドレスを見ると、しっかり竜也の番号とアドレスが登録されていた。
 
拒否だな

 消しても、相手には番号は登録されたまま。
 珊瑚は竜也の番号を着信拒否設定にした、
 そんな事をしたが為にその日の放課後、竜也が正門まで迎えに来てしまった。
 その日はたまたま綾瀬達は生徒会だの、何だのと用事があったので一緒に帰らな
 かったからバレていない。
 多分。

 正門が異様に騒がしく、煩いなと近づくとそこには制服姿の竜也が立っていた。
 頭は坊主であれどその容姿、スタイルは並はずれたもの。
 しかも甲子園のアイドル。
 その後ろには光り輝くリムジンと、運転手兼ボディーガードの男がいた為に流石近
 づく者はいなかったが、女子は騒いでいた。
 しかも女子だけでなく、男子までもがいたのが驚きだ。
 
げっ!

 そのまま回れ右して逃げ去りたかったのだが、目があってしまった。
 名前など呼ばれては最悪。
 幸いな事に、回りの目は竜也に向いていた。
 珊瑚は自分の口元に人指し指を当て「しっ」と。
 そして指で先に行くよう指示した。
 竜也は目を少し眇めたが、珊瑚の指示通り正門前い着けられていた車に乗り移動
 した。
 騒ぎの横を通り抜け、竜也が待つであるだろう場所まで歩いて行く。
 探さずとも嫌でもその車は目立った。

 近づくと後部座席が中から開けられ、珊瑚は嫌々だが回りに見られたくない為、素
 早く乗り込んだ。
 乗ると案の定、携帯の事で責められた。

「酷いよ珊瑚。 どうして出てくれないのかな」

 この場合責めるのは自分だろうと思ったが、たった一日で竜也に口で勝てない事
 は身に染みた。
 しかも帰ってからはお仕置きだと勝手な事をいい、体を良いようにされてしまった。

『お願、い聞いてくれる?』

『あ・・・、ばかぁ・・・・こんな、ときに・・・・ああん・・・!』

『聞いてくれたら動いてあげる』

『きく、きくから・・・・あ、ああっ! いい! 竜也・・・・』
 
 中断された動きが再開され、思いきり竜也にしがみついてしまった。
 携帯の電源は切らない、竜也の番号を着信拒否しないと約束させられてしまった。



最悪だ・・・・・

 しかし破ればまたお仕置きをされる。
 あんな恥ずかしい事は二度と御免。
 それからは必ずメールも返信したし、携帯にも出られる時には出た。
 無理な時には折り返しメールした。





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