束縛しないで
(1)

キリ番99999をGetされたなつめ様からのリク
「束縛されて」の続き







「はい、珊瑚」

 目の前にトンと置かれた湯飲み茶碗。
 そこから香る香りが高級品だという事が日頃日本茶を飲み慣れていない珊瑚ですら
 分かる。
 しかしなぜ自分はこんな状況を許しているのか。
 いや、許したくて許している訳ではない。
 自分の目の前にいる男を睨み付ける。

しかも何で夫婦茶碗なんだよ!

 爽やかな笑顔、男らしい容姿はそこら辺にいる芸能人より秀でていている。
 腰の位置は高く長い足。
 鍛えられ引き締まった体は見事に珊瑚とは違う。。
 モデルとしても十分通用するだろう。
 しかしその中で唯一おかしな所がある。
 
五分刈りだよ・・・・

 この髪型のせいで男前が半減。
 それでも十分に男前なのだが、違和感がありすぎる。
 出会った時、スーツ姿でその雰囲気も落ち着いていた為、五分刈りではあったがてっ
 きり社会人だと思った。
 目つきが悪ければ間違いなく極道の方。
 爽やか笑顔だからそう見られる事はない。
 そして一番重要な事は、この男、実は自分と同じ年で高校生だと言うではないか。
 
嘘でしょ
信じられない
あり得ない!

 しかし珊瑚は自分の目で確認した。
 竜也の学生服姿を。
 それは都内でもトップクラスである鳳学園の物。
 有名な進学校でもあり金持ちが通う男子校。
 通う生徒の殆どが政財界の息子やら、芸能界・古典芸能の跡取りやら。
 入学金も凄いが寄付金は一口100万だと聞いた日には、とてもではないが自分のよ
 うな一般人は通えないと確信している。
 余りの衝撃に思わず気絶してしまった。

 その高校に通うこの男。
 名前を剣竜也と名乗った。
 料理が上手で掃除洗濯も見事にこなす。
 趣味はアイロン掛けと聞いて違った意味で気が遠くなった。
 それ以外の事は全く分からないし、知ろうとも思わなかった。
 だから謎なままだ。
 目の前当たり前のように座っている。
 
 出会ったその日にSEXをして、というより成り行きでされてしまった。
 男前は床上手で、何もかもが始めてな珊瑚をあっという間に陥落してしまった。
 その日の翌日、珊瑚がまだ眠っている間に竜也は珊瑚が一人住むマンションに越して
 来た。
 しかも勝手に部屋の内装も変え。
 全てが高級品。
 一体どこの金持ちだ。

冗談じゃない!

 勝手に内装を変え、家族が戻って来た時どう言い訳したらいいのだと怒鳴ると、元の
 家具が預けてあるから戻って来るまえに元に戻せばいいと簡単に言う。
 今すぐ出て行って欲しいから、「勝手に家を出るなんて家族が許すはずないだろう」と
 言えば「住む場所さえ教えれば構わない」「愛する人に側にいる事が一番の幸せ」と
 かえって応援してくれたと聞いた時には、その家族を呪った。

 そんな訳で竜也曰く、『新婚生活』の始まりだそうだ。

 確かにこの3日吐きそうな位甘い生活。
 目が覚めるとお早うのキスをして、竜也の作った朝食を取る。
 そして嫌だと言っているにも拘わらず、着替えを手伝われ同じ時間に家を出る。
 当然出かける前には行って来ますのキスがある。
 高校が違うため一緒に登校出来ないが、竜也は車で登校している為にその車で珊瑚
 を送って行こうとする。
 方向が違う事と、送って行くと竜也が確実に遅刻してしまうと言って頑なに拒んだ。
 
この時間だけが自由だ・・・・・

 等と密かに喜んでいたのに、竜也は恐ろしい事を言い出した。

「愛する珊瑚と離ればなれだなんて、心が引き裂かれそうだ。 僕も珊瑚と同じ高校に
通うよ」

やーめーてーくーれー!

 なんだそのゲロ甘トークは。
 思わず鳥肌がたつ。
 「お前はイタリア人か!」と叫びたくなる。

それに同じ高校に通うだ?

 断固反対。
 断固拒否。

 そう簡単に転校などされては堪らない。
 これ以上ベタベタされては息が詰まる。
 それに珊瑚の通う高校は共学。
 この状態で同じ学校に来られた日には、「あいつホモだぜ」と指をさされてしまうに違
 いない。
 いや、女子がいるからかえってそちらに目がいき、離れてくれるのではないかと期待も
 したが、それはないと今では分かる。
 テレビを見ていた時、今一番人気のあるアイドルが出ていて「可愛いよな」と何気なく
 漏らした時「珊瑚の方が可愛くて綺麗だから」と真顔で言われてしまった。
 そして気分を害した竜也にベッドで散々目にあわされた。
 
あれは酷かった・・・・

 思い出すだけで赤面だ。
 兎に角竜也に来て欲しくなかったので、色々な言葉で宥めた。
 最後には「お願い」と可愛らしく頼んでしまった。
 そんな自分に鳥肌だ。
 それに竜也は簡単に転校出来ると思っていたらしいが、そうはいかなかったようだ。

 と言うのも、竜也は現在鳳学園野球部に籍を置いている。
 鳳学園は進学校でもあったが、スポーツも秀でていた。
 バスケ部はインターハイで常に上位で、優勝した事も何度も。
 サッカー部も全国大会まで行き、優勝まではしていないがベスト4に入ってったいた。
 バレー部も優勝しているし、個人でも例えば卓球部・剣道部・フェンシング部等でもそ
 れぞれが優勝だの入賞だの素晴らしい成績を収めている。

 しかしその中で唯一野球部だけがパッとしなかった。
 毎年予選で、あと一歩の所まで行きながら、いつも負けてしまい甲子園に行く事が出
 来なかった。
 しかし今回は野球部の部長と竜也が親友だった為、頼みに頼んで野球部に入って貰
 った。
 たかが竜也一人。
 されど竜也一人が入っただけでチーム自体が向上。
 あれよあれよという間に予選を勝ち越し甲子園に初出場。
 そして初出場にも拘わらず、鳳学園は甲子園で深紅の優勝旗を手にしたのだ。
 その立役者である竜也を鳳学園が手放す訳がない。
 夏は終わってもまだ春が、そして来年の夏がある。
 竜也がいれば連続優勝も夢ではない。
 監督がコーチが、部員全員で竜也を止めた。
 それでなくとも竜也は次男ではあるが、日本の頂点に君臨する剣グループの御曹司。
 その御曹司が通っているというだけで箔が付くのだ。
 珊瑚はその事を知らないが。 

「両親は変わるのは構わないと言ってくれているんだけど、学園側がなかなか許可して
くれなくて」

 是非ともそのまま許可しないで欲しい。
 反対している人間に頑張ってくれとエールを送りたい。

でも何でこんな事に・・・・・・

 甘い瞳で見詰める竜也を見てため息を吐く。

「珊瑚、僕達は新婚さんなんだからため息は吐かない。 幸せが逃げてしまうよ」

幸せなのはお前の頭だけだ・・・・
俺としては寧ろ逃げて欲しい
ていうか、逃げろ!

「行く」

 一分でも早く竜也から離れたいと、鞄を持って席を立ち玄関へと向かう。
 
「待って珊瑚」

 食べ終わった食器を食器洗い乾燥機に入れ珊瑚の後を追う。
 既に靴を履き出ようとしていた珊瑚は引き留められキスをされる。

「ん、ん〜〜っ!」

 舌を入れられ蹂躙される。
 とても爽やかな朝にするキスではない。
 持っていた鞄を落とし、背中を叩くが竜也のキスは止まらない。
 漸く終わった時いは息が上がっていた。

「おま・・・、いつ・・・・も、しつ・・こいんだよ・・・・・」

 グッタリと竜也の胸に倒れ込む。
 その背中を抱き、愛おしそうに珊瑚を抱きしめる竜也。

「これから半日は会えないんだから今の内に十分補給しておかないとね」

 チュッと髪の毛にキスを落とされる。
 悪びれない竜也に、ガクリと肩を落とした。
 竜也は珊瑚が落とした鞄を拾い持ち、エスコートするようにマンションのドアを開ける。

「さ、急がないと電車に遅れるよ」

 遅くなったのは誰のせいだと睨み付けるが、ニコニコと笑うだけで堪えていない。
 竜也は鍵を閉め、珊瑚の肩を抱き満足げにエレベーターで下へと下りて行った。
 
 マンションのエントランスには竜也が登校に使う車が既に着けられていた。
 後部座席のドアの前には運転手が立って竜也を待っていた。
 年は30代後半、髪を後ろに撫でつけ高級そうなスーツを身につけた男。
 身長は竜也とそれ程変わりはないだろうが、体格ががっしりとしている為より大きく
 見えた。
 これもいつもと変わらない風景。

「お早うございます。 竜也さん、珊瑚さん」

 きっかり15°のお辞儀。
 毎朝思うがこれも止めて欲しい。
 年上にお辞儀をされたり敬語を使われるのは非常に居心地が悪いのだ。
 竜也には構わない。
 何せお抱え運転手兼ボディーガードなのだから。

 いくら金持ちの通う鳳学園とはいえ、通学に車でボディーガードが着くとは一体竜也
 は何者なのだろう。
 聞いてみたいとは思ったが、面倒くさいので止めた。

 竜也は竜也。
 珊瑚は珊瑚。

 竜也はそんな珊瑚であるからこそ惹き付けられていた。
 珊瑚は竜也が自分の事を言って来れば聞くが、話さないのだからこのままでいいと
 思った。
 愛に温度差のある二人だった。

「お早うございます。 三村さん毎朝お疲れ様です」

 こんな離れた場所まで迎えに来て、送って行く。
 帰りはまた学園まで迎えに行き、このマンションへと送って行く。
 仕事とはいえご苦労な事だという気持ちを込め、丁寧に挨拶を返した。

「じゃあ珊瑚、寂しいけどまた夕方」

 頬にキスをして三村の開けたドアへ体を潜らせる。
 乗ったと同時に閉められ、三村が運転席へ回り込み乗り込む。
 そして車は走り去って行った。

やっと自由だ・・・・

 本当に朝から疲れてしまった。
 最初方向が違うならせめて駅まで一緒にと言われたが、駅まで送られれば嫌でも
 白鳳の制服を着た学生に会ってしまう。
 それでなくとも自分は何かと目立つ。
 竜也の車で送られ、もし万が一キスやハグを見られたら登校と同時にその事が音速
 で校内に知れ渡ってしまう。

 そんな事になれば、自称「珊瑚親衛隊」が何をやらかすか分からない。
 2年になり綾瀬達と付き合うようになり漸く解放されたのに、またあのうっと惜しい連
 中に付き纏われるのは堪らない。

 それにもし竜也と付き合っている事、一緒に住んでいる事が綾瀬や若菜達に知られた
 ら・・・・・
 ブルブルと寒気が。

恐ろしい・・・・・

 絶対に知られてはならないと決意を新たにした。
 時計を見ると既に5分経っていた。
 走らないと電車に間に合わない。
 全速力で駅へと走った。





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