幸せになりましょう(6)






 初めてのキスは、思った以上に心地よいものだった。

 まさか自分が受ける側になるとは思っても居なかった訳だが。

以前読んだ書物には『初めての口吻はレモンの味がした』と書い
てあったがせなんだぞ

 叶の家族や、友人達が聞けば、『いつの時代の本だ』と突っ込
 むだろう。

それに・・・・・

 先程の剣とのキスを思い返す。



 頬に添えられた右の手。 
 もう片方の手は叶の右手をそっと握っている。

 近づく剣の顔。

おお、以外に睫毛が長いではないか
しかし、近くで見ても凛々しい顔立ち
羨ましいのお・・・・・

 などと思っていると、互いの唇が触れ合う。
 始めは触れるようなキス。
 弾力があり少し冷たい唇。
 そこで初めて気付く。

なにゆえ唇が・・・・
はっ!
これが世に言う接吻というものか!?

 初めてのキスに驚きながらも感動。
 しかし、何故自分が剣とキスをしているのかという疑問が湧
 いてくる。

 そんな事を考えていると、剣が離れていく。
 目を開いたまま固まっている叶を見て、クスリと笑う。

「叶さん、キスの時には目を閉じるんですよ」

 その言葉にハッとなる。
 確かに開いたままだった。

成る程、接吻の時には目を閉じるものであったか

「それはすまなんだ、なにしろ初めてゆえ、如何にしてよいもの
か分からなんだ。 しかし、なにゆえ接吻を?」

「私と叶さんは婚約者なんですよ」

「おお、そうであった」

 ポンと手を叩く。
 婚約者なのだから口づけするのは当然の事。
 マヌケな事を聞いてしまったと反省。

「次からは、しかと閉じるぞ」

 そして素直に剣の言葉を聞く。
 余りにも正直な言葉に剣は苦笑する。
 しかし、嬉しい言葉を聞いた。
 
 叶は初めてのキスだと言った。
 確信はなかったが、叶はキスはした事などないだろうと思って
 いた。
 なんというか、今まで見てきていたが、性に関しての欲望など
 全く感じられなかった。
 叶の周りは常に透明で汚れがなかった。
 これもそれも、叶の脇を固める二人の存在のお陰だろう。
 
 一人は叶の習う日本舞踊の南部流家元の息子行影。
 もう一人はモデルの獅堂壌。
 学校にいる時には常にこの二人が叶の隣りにいる。

 楚々した姫を守るべく存在している。
 守るというと聞こえはいいが、近づく者を徹底的に排除してい
 た。
 この二人が叶の事が好きなのは一目瞭然。

 叶のいない場所で牽制し合っているのは、誰もが承知の事実
 だ。
 邪魔な存在ではあったが、この二人は非常に役に立ってくれ
 ていた。

 お陰で叶が真っ白のままなのだから。

 目を閉じるという事も知らなかった叶。
 次からは目を閉じると言った。

 真っ白な叶に一つ剣の色が着いた。
 
 結婚を申し込み、それを受け入れた叶。
 今まで誰かに拒否された事などなかったが、もし拒絶されたら
 どうしようという不安があった。

 結婚の約束をしたとはいえ、5歳の時の事。
 しかも叶は忘れていた。
 男同士という事もあった。

断られたとしても、必ず叶さんを伴侶にしてみせる

 諦めるつもりなど全くなかった。
 それが戸惑いながらも、あっさりと結婚を受け入れてくれたの
 だ。
 これ以上の喜びはない。

必ず幸せにしてみせる
結婚して良かったと、後悔のないように

 ニッコリと笑って「もう一度キスをしてもいいですか?」と聞く。
 叶に顔が赤くなる。

改めて聞かれると恥ずかしいではないか

 でも嫌ではないので、コクリと頷く。
 
 顔を赤くしながらも自分を受け入れようとする叶を愛しく思う。
 
「目を閉じてください」

 耳元で囁かれる。
 息がかかりくすぐったい。
 と同時に背中がゾクリとなる。

なんじゃ?!

 初めての感覚に驚く。
 ほんの一瞬の事。
 それが何か分からない。
 不快ではなかった。

 気付くと剣の顔が直ぐ目の前に。
 反射的に目を閉じる。
 同時に唇に先程と同じ少し冷たい感触が。

 今度は初めからキスと分かっているせいか、触れた場所が熱く
 なっていく。
 触れた剣の唇も温かくなってきた気がする。

 再び頬に添えられた、自分とは違う大きな手。
 触れた唇から、どんどん体が熱くなり心臓がドキドキしてきた。
 呼吸もなんだか苦しくなってくる。

いかん・・・・
動悸、息切れ、目眩が・・・・・

 まるで何処かの薬のCMのコメント。

 ただ触れただけのキスが変わっていく。
 触れては離れ、角度が変わり。
 上下の唇を交互に優しく食まれる。

接吻とは触れるだけではなかったのか・・・・・

 食まれる度に先程耳元で感じた感覚が広がっていく。
 知らず体もピクリピクリと反応していた。
 
「ん・・・・・・っ・・・・」

 艶のある悩ましい吐息が零れる。

なんじゃ、今の声は
もしや私の声なのか
なんという声を・・・・・

 恥ずかしいが、剣との口づけは嫌ではなかった。
 ウットリとなり受け入れている。
 何も考えられなくなっている叶の少し開いた唇の間から、今度
 は剣の舌が入り込む。

 叶の舌に触れ絡められる。
 舌だけではなく上顎を舐め口腔内を犯す。

 その内叶の体から力が抜け、ズルズルと下へ落ちていく。

 頬に添えていた手を後頭部へ回し、握っていた手は叶の背中
 に回し剣は口づけを深くしていった。

 ピチャピチャという音が室内に響くが、頭の中がボオーっとな
 っている叶に聞こえる筈もなく。

 剣は存分に叶の舌と唇を味わい離れた。

「・・・はあっ・・・・・・」

 力の入らなくなった叶は、艶めかしい吐息を吐き剣に体を預け
 る。
 剣はそんな叶を愛おしそうに見詰め、優しく抱きしめ艶やかな
 髪に顔を埋め幸せを噛みしめていた。





  





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