幸せになりましょう(4)







 剣の顔を凝視したまま固まっている叶。

 見られている方の剣はとても嬉しそうな顔。
 いい男は真剣な顔をしている時は勿論、微笑んでいる
 顔も魅力的なのだなと関心していた。
 今まで自分の顔、姿に不満など感じた事などなかった
 が、剣を見ているとなんだか羨ましくなってくる。
 だが、いくら自分がそう思っても今更姿形が変わるも
 のでもない。
 
 こんなに間近で見た事はないが、ここまで整った顔
 は見たことがない。
 叶の父も、兄も男らしく精悍な顔立ちで格好いいと思
 う。
 学校の叶の周りにいる者達もそれなりに整っている。
 だが剣は別格だと思った。
 思わず見惚れてしまう。
 見た目、家柄全てが最高なこの男が、本当に何故。

「叶さん? 叶さん」

 目の前の剣に視線は向いているが、考えすぎて剣を
 忘れてしまっていた。
 もてなしを忘れるとは、失礼な事をしてしまったと慌て
 て反省。

「すまぬ。 考え事をしてしまった」

 頭を下げ詫びようとするが剣に止められる。
 
「叶さんが私に頭を下げる必要はありませんよ」

「しかし・・・・・」

「察しはつきます。 私が叶さんに何故結婚を申し込ん
だのか?でしょ」

 全く持ってその通り。
 
素晴らしいぞ、何故私の考えている事が分かるのだ
もしかして、これが世に聞く超能力というものなのか?

 そんな訳ない。

 剣には、叶の顔を見れば大体何を考えているのか
 位分かるのだ。
 ずっと叶だけを見続けてきた剣には。

 だがそんな事は叶には分からない。
 心の底から驚き、感動していた。
 

 
 学校でも、家でもそうだが、表情の乏しい叶。
 乏しいどころか表情が変わらない。
 いつも淡々とした顔なのだ。

 自分ではそんなつもりはない。
 驚いた時には驚いた顔。
 可笑しい時には笑ってもいる。
 怒る事、怒ったことはないからその表情は出来ない
 が、自分では精一杯喜怒哀楽を表しているのだ。

 だが回りにはそれが分からないらしい。
 幼稚園の頃から付き合いのある友人達も「叶さんの
 笑顔を見たことがない」と言われるし。
 ついこの間のパーティーでも「叶さんには笑顔が似
 合います」と言われたのだ。
 言ったのは誰だったのか?
 顔は見た事はあるのだが、名前は思い出せない。
 そこそこ若かったのは覚えているのだが。
 
 唯一分かるのは家族くらい。
 剣は家族以外で初めて叶の事が分かったのだから。
 とても嬉しい。
 こんな、ほんの些細な事だが、叶の心は剣に傾き始
 めた。

 だから思い切って尋ねる事に。

「少し尋ねてもよいであろうか」

「何なりと」

 剣はニッコリと微笑んで見せる。
 その微笑みに勇気を得た叶は単刀直入に聞いてみ
 た。

「見ての通り私は男だが、それでもよいのであろうか」

「勿論です。 叶さんだからこそ結婚を申し込んだんで
す。 それでは駄目ですか?」

 逆に問いかけられてしまう。
 駄目かと聞かれても困ってしまうが。
 だが剣が叶に結婚を申し込んだのは事実。
 両家の両親もそれを認めている。
 叶自身戸惑ってはいるが嫌だとは思っていない。
 それならそれでいいのかも。

 やはり何処までも「長い物には巻かれろ」な叶だっ
 た。

「いや、駄目ではないが・・・・・」

「ではお受けして下さいますか?」

 真剣な剣の態度に叶の心は決まった。
 この男が伊達や粋狂で言う筈がない。
 話した事などなくても、何故だかそう思える。
 
「最後に一つ聞かせてほしい。 私だから結婚を申し込
んだと言ったがそれはどういう意味なのだ?」

 ここは重要なポイントだ。
 是非とも聞いておかないと。

「あなたは忘れていますが、僕達は子供の頃結婚の
約束をしていたんですよ」

 初耳だ。
 自分の事なのに全く覚えていない。
 非常に驚いている。
 驚いているのだが口調は淡々としていた。

「・・・・・そうであったか」

「ええ、あれはお互いが5歳の時でした。 丁度僕の
家でパーティーが開かれそこに叶さんがご家族の方
々といらっしゃったんです。 それにその時僕は天使
のような叶さんに恋をしたんです。 同じ年齢の子供
は僕と叶さんだけ。 当然仲良くなったんです。パーテ
ィーが終わりあなたが帰る時には胸が張り裂けそうで
した」

 そう言っていったん話しを切り熱い眼差しで叶を見
 つめてくる。





  





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