幸せになりましょう(3)







 全くもって理解出来ない。
 何故、剣がこの場にいて自分の両親に挨拶をしている
 のか。
 それも結婚の。
 半ば放心状態の叶を抜きに、話しはドンドンと進んで
 行く。
 
「本来なら、この場に両親もいなくてはいけないのです
が、どうしても逢わなくてはならない人物がいまして。
少し遅れはしますが、この後の食事会には必ず出席す
るとの事です」

「気にしなくていい。 あいつが忙しいのは今に始まった
事じゃない。 日本経済を背負って立つ剣財閥総帥なん
だ。 この後予定がないのが不思議な位だ」

「有難うございます」

 叶は剣を見つめたまま。

「あらあら、叶さんそんなに鷹也さんの事を熱い目で、
ほほほほっ」

 春香に言われ我に返る叶。
 しかし、なんと言ったらいいのか分からない。
 ただただ剣の事を見つめる。
 その視線に気付いた剣。
 隣にいる叶に穏やかに微笑む。
 学校にいる時には見られる事のない顔。
 見つめ合う二人。

「まあ、二人とも、お熱いのね。 お母様達あてられてし
まうわ。 ねえ、雅人さん」

「・・・・・・・・・」

「そうだわ、叶さんお部屋にご案内したら? 鷹也さん
も私達といるより叶さんと二人の方が宜しいでしょうか
ら」

 剣は春香に言われた言葉に特に返答はせず叶を見
 つめるだけ。
 叶はどうしたものかと思うのだが、春香に急かされ剣
 を部屋に案内する事に。

「私の部屋は何もないがよいであろうか」

 念のために確認を。
 剣は嬉しそうな顔。
 初めて見る笑い顔が思った以上に魅力的で思わず
 顔が赤くなってしまう。
 それを知られるのが恥ずかしく急ぎ立ち上がる。
 
「では、父上、母上失礼します。 剣君ついて参れ。 あ
、いや、こちらに」

 学校にいる時も普段も普通に話そうとはしている叶だ
 が気を許してしまうと話し方が古風というか尊大とい
 うか、そんな話し方になってしまう。
 これも祖父母のせいなのだろう。
 尊大な物言いは祖父。
 古風な物言いは祖母。
 
 『藤之宮の御前』といえば政財界にこの人ありと言わ
 れる程影響力のある人物。
 誰もが恐れ敬う者。
 現在は表には滅多に出て来なくなったが、それでもそ
 の影響力は計り知れない。
 そんな畏怖される者だが、娘春香とその孫叶には甘
 い。
 特に叶には蕩けんばかりの顔。
 家に居る時は常に自分の膝の上に乗せ構っていた
 程。
 祖父のいない時には常に祖母と過ごしお茶、お花、琴
 、日舞などを習っていた。
 その為立ち振る舞いはとても美しかった。
 


「ここが私の部屋だ」

 言って障子を開ける。
 
 叶の部屋は和室。
 広さは8畳程。
 勉強の為の机、教科書等が入っている小さな本棚。
 後は座布団のみ。
 
 余りにも何も無い部屋に剣は驚いていた。

 そして隣の襖を開けると4畳半の茶室が。
 その部屋に剣を促す。
 
 叶は何を話していいか分からなかった。
 急な結婚の話。
 目の前に突然現れた剣。
 頭の中はパニック。

とにかく落ち着こう

 気持ちを落ち着かせるには茶を点てるのが一番。
 叶はお茶を点てはじめた。

 剣の前に茶菓子を出す。
 今一番の叶のお気に入りの菓子は滋賀県彦根市の
 銘菓『埋○れ木』。
 白餡を求肥で包み、和三盆糖と抹茶をまぶした繊細
 な味だ。

 流れるような一連の作業。
 道具を扱う手の美しさ。
 凛とした姿。
 一目見た瞬間から、剣を魅了した清廉なその姿。

 差し出された茶碗。
 
「いただきます」

 叶に一礼し、手に取り飲み干す。

 叶の方も、剣に見惚れていた。

 スッとした背筋。
 何か武道でも嗜んでいるのか、とても姿勢が良い。
 
 学校での剣を思い出してみた。
 誰もが剣を特別な存在として見ていた気がする。
 剣財閥次期総帥だからなのかとも思ったが。
 存在感が、取り巻くオーラが違うと。
 自分と同じ年なのに、何故こうも違うのかと。

 彼の周りには、人が集い、少しでも近づこうとしてい
 た。
 彼の片腕になりたいと。
 

 そんな彼が何故、男である自分に対し、結婚を申し
 込んで来たのか。
 自分では、将来の事を考えれば考えるだけ、ハンデに
 なる筈。
 彼の両親にしてみても自分が嫁では余りにも・・・
 しかし、両親公認だと。
 やはり、訳が解らない。

ムムムムム・・・・・・・
なにゆえ?

 叶の頭にはその言葉で埋め尽くされていた。





 
  




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