3周年企画

おとぎ話のように

(11)






 初めて見た暁兎の元恋人は、最悪な性格だった。
 自己中心で、我が儘で何をしても許されると勘違いしている。
 そんな里沙と暁兎が付き合っていたのかと思うと、怒りが治まらな
 い。
 付き合っていた期間は短くとも、貴重な日々を無駄に過ごしていた
 のだから。

純粋過ぎて、人の裏など気付かなかったのか?
気付かなくとも、趣味が悪い・・・・
 
 そんな事を思うが、そういうウィリアムも、似たようなタイプとばかり
 今まで付き合っていたのだから人の事は言えない。
 だが、これが暁兎の事となると話は別だ。
 あのまま里沙と一緒にいたら、暁兎の純粋さが失われ、そして食い
 物にされていただろう。
 そうなる前に別れてくれて、本当に良かったと思う。

 人前であれ程いわれない事で罵声を浴びせられても、それに対し
 怒る事も、相手を非難する事もなく、気遣い恋人を大切にして欲しい
 と言える心の広さ。
 そして、はっきりと「付き合えない」と、「愛していなかった」と言える
 毅然とした態度と心の強さ。
 素晴らしい恋人を手に入れたと神に感謝した。



 隣に座る暁兎を見ると、困った顔をしている。
 暁兎が里沙に対して怒る事も非難もしないのだから、ウィリアムが
 里沙の事を言える筈もない。
 言えば必ず悲しそうな顔になるだろう。
 ここ数日で分かった事は、暁兎は決して人の悪口を言わないという
 事。
 
 人の事を妬み、悪く言う者は大勢いた。
 あからさまに口にしなくとも、表情には如実に表れる。
 だが暁兎にはそれがない。
 ただ困った顔になるか、若しくは悲しげな顔になるだけ。
 きっとそうなってしまうような環境にいたからだろう。

 人に悪く言われたからと、より人を傷つける者。
 それとは別に、言葉が相手を傷つける事を知っているからこそ、傷
 つけたくないと、何も言わない者もいる。
 傷つけられてきた者は、人から多くの悪意を向けられた事で、身を
 もって知っているからより敏感になる。

暁兎は多分後者
一体どれだけ傷ついたのだろう・・・・
これからは、僕がそんな悪意から暁兎を守る

 隣に座る暁兎をそっと抱きしめ、強く心に誓った。



 翌日から大学が始まると、沖縄で言っていたとおり、暁兎の生活は
 忙しいものへと変わった。

 これまでカフェでのバイトは週6日。
 授業が終わるとそのままバイトに行き、閉店まで働く。
 閉店時間は23時でその後片付け掃除などがある為、店を出るのは
 24時少し前で、終電数本前か終電。
 駅に着くとその足で深夜1時まで営業している銭湯に駆け込み、そし
 て帰宅。
 それからレポートだの何だのしていると、寝るのは大抵3時だと聞い
 た時には驚き暁兎の体が心配になった。
 それに、休みの日はゆっくりしているのかと思えば、夕方からは家庭
 教師のバイトと道路工事の警備をしていると言う。

 日本人はワーカーホリックだとは聞いているが、暁兎はまだ学生。
 両親がいなく、一人で生活していかなくてはならないのは分かるが
 何故そんなに働かなくてはならないのか。
 カフェで、それなりの時給で殆ど毎日働けばかなりのバイト料を貰っ
 ている筈なのに、家庭教師に道路警備までなどとなると、いつ体を
 休めるのか。
 そんな事をしていたら体を壊すと言うと、確かに初めの頃は体調を
 崩したが、今は慣れたから苦ではないと言われても、ウィリアムは
 納得出来ない。

 若くても体を壊す者は大勢いる。
 それに若いといっても年は確実にとっていく。
 そうでなくとも、社会人になれば嫌でも働かなくてはならないのだ。
 だから少しバイトを減らしたらどうかと言ったのだが、それは出来ない
 と言われた。

 あの家の家賃は2万で、生活費もそれ程掛からない。
 食費の方も夜はカフェで賄い料理を食べさせて貰っているから、そ
 の分貯金に回せると言う。
 給料の半分は使わずやはり貯金に回すが、それでは駄目なのだと
 言われた。

『家庭教師と警備のバイト料は、お世話になった施設に仕送りしている
んだ。 大した額じゃないけど少しでも負担を減らせれば・・・・。 だか
ら辞める訳にはいかない』

 園長は仕送りしなくても大丈夫だからとは言っているようだが、本当
 は経営はかなり苦しいようだ。
 国から補助は出ているようだが、施設には10人以上の子供がいる。
 皆育ち盛りで食費も馬鹿にならないし、建物の維持管理に光熱費、
 その他雑費などを纏めると莫大な金額になる。

 園は暁兎の実家であり、園長は親。
 幼い子供達は妹弟だから絶対なくしたくないのだと真剣に語った。
 施設から出て社会人になった者達の中にも、暁兎を同じように仕送
 りをして来る者もいるようだが、家庭を持つとどうしても送金は止ま
 ってしまう。
 だから少しでも自分が多く仕送りしなくてはならないと思っているよ
 うだ。
 ウィリアムはそれ以上言えなかった。

なんて強く美しいんだろう・・・・・

 感動し、暁兎から負担をなくす為すぐに動いた。
 施設の経営状態などを調べ、手を差し伸べる事にした。
 だが、暁兎の施設だけにそれをすると、暁兎はそれをよしとしない事
 は目に見えている。
 規模は大きくなり時間もお金もかかるが、全国のそういった施設を調
 べ対象にする事を決めた。

幸い僕にはそれだけの事が出来る力と財産がある

 全ての施設が、暁兎のいた場所のように優良ではないだろうから
 一定の基準を設け、それに該当する所にのみ援助をする事に。
 そして不正、虐待などが行われないよう不定期で調査させる事を決
 めた。
 突発だから隠しようのない事実が明らかになるのだ。
 基準に当て嵌まらない施設もはねつけるのではなく、改善するよう
 指導し、改善されれば援助する事にした。
 
これで暁兎の負担も減るだろう

 だが今はそれは言わない。
 言う事によって暁兎に負担になっては困るから。
 実際会社を設立し、活動をはじめるまで時間がかかるだろうから
 それまでは自分が支えになろうと決めた。

 今ウィリアムにできる事は暁兎が倒れないよう、栄養ある物を食べ
 させる事。
 そして少しでも体を休められるよう、大学とバイト先までの送り迎え
 をしよう。
 一緒にいられる時間は少ないが、朝目が覚めれば暁兎が隣にい
 るし、会話は車の中でも出来る。

 ただ、暁兎の体の事を考えるととてもではないが、体を繋げ愛し合
 う事など出来ない。

愛する暁兎が隣にいるのに、愛し合えないのがこれ程までに苦痛だ
とは思わなかった・・・・・

 まるで聖職者になった気分。
 その代わり毎朝晩、そして移動の間などでキスをし、愛を伝えた。



 そして2週間が経つ。
 あの後、バイトを辞めた里沙はユアンを恐れてか暁兎の前に姿を現
 す事はなかった。
 忙しく働く暁兎をフォローしながらも、共に過ごせる毎日はとても楽し
 く充実していた。

 沖縄から東京へと移動する帰る飛行機の中、ウィリアムは暁兎に一
 つお願いをしていた。
 本来ならそのまま鈴鹿に入る予定だったが、暁兎と離れたくない為
 東京に行く事にした。
 だが2週間後にはレースの為、鈴鹿に行かなくてはならない。
 しかし、暁兎と離れたくはない。
 我が儘だとは思うが、暁兎に鈴鹿について来て欲しかった。
 それを伝えると、暁兎は一瞬悩んだが了承してくれた。

 フランスではマシンが途中故障してしまいリタイア。
 つい先日行われたイタリアGPでは、最大のライバルであるベルフォ
 ートに優勝を譲ってしまったがそれ以外は殆どお立ち台に立ちシャ
 ンパンを浴びている。
 中でも、モナコで優勝出来たことが一番嬉しかった。
 あの難所を初制覇出来た事で自信をつけ、更に暁兎という最愛の恋
 人を手に入れた事で、この鈴鹿の優勝はほぼ決まったも同然。

 暁兎は約束通り、バイトを休みウィリアム達と共に木曜の夕方から
 鈴鹿へと入った。
 街全体がこの時期活気に溢れている。
 人の多さに、熱気に暁兎は驚いていた。

『みんなに紹介ておく。 僕の恋人の暁兎だ』

『ウィル!』

 スタッフが宿泊するホテルへ到着したウィリアムは真っ先に暁兎を
 紹介した。
 恋人と紹介され暁兎は慌てたが、ウィリアムは隠すつもりはない。
 今までにも男の恋人はいたし、暁兎と同じよう、彼等を会場に連れ
 スタッフに恋人だと紹介してきた。

 ここにいる彼等はメカニック、マネージャーとそれぞれ立場は違う。
 ベテランもいれば、まだ年若い者もいる。
 だが、このチームのメンバーは皆それぞれ素晴らしい腕、技術の持
 ち主でウィリアムを支えてくれている、同じ目標に向かう仲間。
 そんな彼等を暁兎に紹介したかった。
 
 一方、彼等の反応は微妙だった。
 恋人を伴うウィリアムに馴れていたが、また我が儘で邪魔な者が
 来たと心の中で、警戒しそしてウンザリした様子。
 だがらこの恋人として連れて来られた少年も、きっと我が儘を言い
 直ぐ追い返されるのだろう、少しの間我慢すればいいと皆思ってい
 た。

 だが、ウィリアムの様子に、今までの恋人達とは明らかに態度が違
 う事に気付いたようだ。
 そして暁兎が『ウィル』と呼んでいる事に。
 これまでの恋人達は、皆『ウィリアム』と呼んでいた。
 スタッフ達は一様に驚いていた。

 態度もそうだが、まず最初、暁兎の容姿に驚いていた。
 黒く大きな瞳が印象的な可憐な容姿の少年。
 今までの恋人達も皆美しい容姿を持ってはいたが、とても我が儘で
 横柄な態度。
 しかし暁兎は丁寧な挨拶をし、とても謙虚な心の持ち主。

『初めまして、片桐暁兎です。 すみません部外者なのに』

 暁兎の英語は、ウィリアム達と過ごした事で綺麗な発音に変わって
 いた。
 皆好印象を持ったようだ。
 中には、暁兎が猫を被っているのではないかと疑う眼差しの者もい
 た。
 それはウィリアムが連れてきた恋人達が余りにも酷かったから。
 
『ウィリアム、随分可愛らしい恋人だけど大丈夫なのか?』

 スタッフの一人が何やら心配げに聞いてきたが、彼等が言いたい
 事は分かる。
 この姿からはとてもウィリアムより年上には見えないから。
 暁兎を見ると、彼等が何が言いたいのかが分かったようで、少し落
 ち込んでいる。

『みんなが何を言いたいのかは分かっている。 僕が犯罪者になるん
じゃないか心配なんだろう? でも安心して欲しい、暁兎はこう見えて
僕より年上、23歳なんだよ』

 苦笑しながら告げると、その場に悲鳴があがる。

『23!?』

『ウィリアムより年上だって?』

『こんな幼いのに』

『信じられない・・・・・』

 暁兎を見ると相当ショックを受けているようだ。
 これだけ人数がいるのだから、誰か一人くらいは、年相応に見てく
 れるのではないかと期待していたのかもしれない。

暁兎、でもそれは無理だ・・・・

『みんな、あまり言わないで欲しい。 君達と違い暁兎は繊細なんだ。
傷ついてしまう』

 宥めていると隣で暁兎がボソリと日本語で呟いていた。
 ユアンがそれを訳すと『ウィルだってみんなと同じようなリアクション
 したじゃないか・・・・』だった。
 それを聞いて皆が爆笑し『なんだよ、ウィリアムも同じじゃないか』
 『恋人の癖に俺達より、酷い奴だよ』『暁兎、気にするな』と、ウィリ
 アムを悪者とし暁兎を慰めていた。

良かった

 暁兎は皆に受け入れられたようだ。

 そしてその日の夜は久しぶりに暁兎と体を繋げた。
 今までの分を取り返すかのように、何度もお互いを求め合った。

『あっ・・・ああああっ・・・ウィル・・・・』

『暁兎・・・・、愛してる」

『・・・・ん、好き。 俺も・・・・・、愛してる・・・・あああ・・・・』

 足を腰に絡めしがみついてくる。
 自分だけでなく、暁兎もウィリアムの事を欲しがっていてくれた事が
 何より嬉しかった。
 腰を大きく回し中をかき混ぜ、そして大量の熱を注ぎ込んだ。
 しかし、まだその欲望は収まらない。
 暁兎にもそれが分かったようだ。
 
『あ・・・・、まだおっきい・・・・』

 欲情に潤んだ瞳で見つめられ、そんな事を言われれば誘われている
 としか思えない。
 優しく愛そうと思っていたが、理性が吹き飛ぶ。

『暁兎!』

 まだ息の整わない暁兎の両足を抱え、ウィリアムは激しく蕾に欲望
 を突き入れた。
 こんなに余裕がないのは初めてだ。
 
『あっ、ああん・・・! ウィル・・・・、だめ・・・そんな激しい!』

『暁兎、いいよ・・・もっと乱れて・・・・・』

 胸の飾りを摘むと中がいっそううねり、ウィリアムの欲望に絡みつき
 奥へと引き込まれていく。

なんて良い体なんだ!

『ん・・・・・ああっ! いや、それ・・・・だめぇ・・・・・』

『・・・くっ!』

 これ程までに敏感で淫らな体になるとは思ってもいなかった。
 最高の相性だとウィリアムは歓喜し突き入れかき回す。

『絶対に離さない・・・・』

 そしてウィリアムは暁兎に溺れていった。

 余りにも情熱的に愛してしまったせいで、翌日半日暁兎はベッドか
 ら起きあがる事が出来ず、ウィリアムはユアンに盛大に呆れられ
 た。

 暁兎のお陰で、午後からのテスト走行は素晴らしい走りとなり、ウィ
 リアムも、そしてチームスタッフも満足していた。
 その時は何とか起きられるようになった暁兎を、初めて会場に連れ
 て行きピットの中へと招待した。

 間近で見るマシンとそのエンジンの爆音に驚きながらも、その瞳は
 キラキラと輝いていた。
 誰に言われるでもなく、ウィリアムのそして忙しく働くスタッフ達の邪
 魔にならない端に移動し作業を、テスト走行を見学していた。
 その大人しさに、 テスト走行が終了しウィリアムがピットに戻って
 来るまで暁兎の存在は忘れられていた。

『暁兎、どうだった?』

 ピットの隅にいた暁兎の元へ真っ先に駆け寄り感想を聞く。

『ウィリアムが無事で、他にも事故、怪我がなくてよかった』

 柔らかい笑みを浮かべ、最初にその言葉が出た事に驚いた。
 大抵の者は初めてピットに入り、レースを見終えると興奮し走りが
 良かった、格好良かったと騒ぎ立てるのだが、暁兎はまずウィリア
 ムが無事に戻って来た事を、そしてウィリアム以外の者に怪我が
 なかった事を喜んでくれた。

『君は、本当に優しい人だ』

 感激したウィリアムはチームメンバーがいるにも拘わらず、暁兎を優
 しく抱きしめ頬にキスを贈った。
 純情な暁兎。
 周りに囃し立てられ、頬を染め動揺している姿が可愛かった。
 
 チームメンバーもウィリアムが戻り、一番最初に暁兎に声をかけた
 事でその存在を思い出したようだ。
 誰の邪魔にもならず皆の無事を喜ぶ姿に、スタッフは驚愕していた。
 この態度に、もしかしたら今までと同じように突然我が儘になるので
 はないかと警戒していた者も、暁兎の事を受け入れてくれたようだ。

『ウィリアム、最高の恋人を手に入れたな』

 暁兎を称える言葉に、ウィリアムは満足げに微笑んだ。





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