3周年企画

おとぎ話のように

(9)






 恋人となり、初めて甘い一夜を過ごしたウィリアムはすごぶる機嫌
 が良かった。

 初めて暁兎を愛した日、抑えがきかず何度も挑んでしまったために
 相当な負担を体に与えてしまった。
 昨夜も、ふとした事で理性を失いかけてしまったが、何とか壊さずに
 すんだ。
 恥ずかしがりながらも暁兎は拒む事なく受け入れてくれ、いつになく
 舞い上がってしまった。

 初日より感度も良くなり、ウィリアムを包み込む内壁は素晴らしい締
 め付けをみせ、あまりの心地よさに不覚にも一度目は入れて間もな
 くして達してしまった。
 暁兎を気持ちよくさせる筈が、自分が気持ちよくなってしまったのが
 ショックだった。
 2度目は余裕があった為に、思う存分暁兎の良い所を重点に攻め
 嬌声をあげさせ乱れさせた。
 歓喜に涙を流す暁兎はとても美しかった。 
 
 今日の予定は、昨日中止した水族館。
 だが、この事はまだ暁兎には教えていない。
 着いた時の驚き、喜ぶ顔が見たいから。

 この水族館のオーナーとは顔見知りである為、先にユアンに連絡を
 入れさせておいた。
 オーナーは不在ではあるが、到着し館内を回る時には案内がつく事
 になっている。
 人混みに入る為、いつもよりガードの数を増やしてウィリアム達は出
 掛けた。
 そして到着し、そこが水族館だと分かると、予想通り暁兎は喜び目
 をキラキラと輝かせた。
 その幼くあどけない姿に、分かってはいるのだが本当に年上なのだ
 ろうかと疑ったくらいだ。

『ありがとう、ウィル』

 頬を桃色に染め、素直に喜びを表す暁兎がとても可愛く、愛おしかっ
 た。
 
『お待ちしておりましたバウスフィールド様。 オーナーから連絡を受け
ております。 ようこそお越し下さいました』

 館長と、数名のスタッフに迎えられ驚いていた暁兎を促し、水族館の
 中へと入って行く。。
 国内最大の水族館は、平日にも拘わらず大勢の観光客が訪れ賑わ
 っている。
 館内は少し薄暗い為、皆サングラスを外し中を見て回る。
 初め、魚を見る事に夢中だったが、その内観光客の数名がウィリア
 ム達に気付き騒ぎ出す者が出てきた。

「すげー、本物のバウスフィールドだ」

「テレビとか、雑誌で見るより、格好いい!」

 そしてこぞって、デジカメや携帯で写真を撮りはじめる。
 暁兎はウィリアムが有名なレーサーだとは知らないので、キョトンと
 していた。
 だが次第に大声で握手やサインを求めて来る者が周りを取り囲みは
 じめた事で怯えだしてしまった。
 ボディーガードによって守られているが、これだけ人数が多くては
 危険だと判断し一旦避難することにした。
 
「痛っ!」

『暁兎!?』

 見ると暁兎の服や髪を引っ張る者の姿が。
 愛しい者に害をなす彼等に怒りが湧き起こり、その手を叩き落とし
 た。

『触るなっ!』

 館内に響き渡る、その場を一瞬で凍らせる怒気を含んだ声。
 暁兎が傷つけられた事で、いつもの穏やかな姿は消え冷酷な姿が
 現れる。
 叩き落とされた者達は、その激しい怒りに驚きながらも顔を青くして
 いた。
 その場が一瞬静まりかえり、囲んでいた者達が怯んだ隙に、係員の
 誘導によって裏へと避難した。

『すまない、暁兎。 怪我はないか?』

『うん、大丈夫。 ちょっと驚いたけど、怪我はないから。 ウィルって
有名だったんだ。 ごめん、知ってればこんな、人が大勢いる場所に
こなかったのに・・・』

 別室に移動した事で、暁兎も落ち着いたらしい。
 そして暁兎は何も悪くないのに謝ってくる。
 苦い思いをしながら、怪我がないか確認しどこも傷はなくホッとし
 た。

『でも幾ら有名人でも、プライベートくらいは静かにして欲しいよね。 
他の人にも迷惑だし。 それに、断りもなく無断で撮るのも失礼だ。 
ウィルが怒るのも当然だ』

 暁兎は純粋に怒っていた。
 自分が髪を引っ張られた事ではなく、ウィリアムや静かに見学して
 いた人に迷惑をかけた者達に対して。
 常日頃から思っている事を暁兎も同じように感じてくれた事が嬉し
 い。
 相手の気持ちを真っ先に考えられる事の出来る、心優しい暁兎。
 益々惹かれた。

『ウィリアム様、このまま見学を続けられるのは・・・・』

 ユアンの言いたい事は分かった。。
 この場から出て、また見学をしようものなら、同じように騒ぎが起こ
 るだろう。
 それではまた暁兎を怖がらせてしまうし、今度こそ怪我をさせてし
 まうかもしれない。
 それも自分のせいで。

僕はそれを望まない

 だが暁兎はどうだろう。
 ここに来た事をとても喜んでいた。
 それなのに、入ってほんの僅かしか見ていないところで避難する嵌
 めになってしまったのだ。
 物足りないし、全部見て回りたいだろう。

 なのに、暁兎は『危ないし、戻っても、ウィルが不愉快になるだけだ
 から帰ろう。 それに水族館はここだけじゃないから』と言って、やは
 り自分の事ではなくウィリアムの身を案じてくれた。
 心優しい暁兎に感動し、より心を奪われる。
 
 ホテルに戻る車の中で、暁兎の口から衝撃の言葉が告げられた。

『ごめん、ウィル。 俺、明日帰らなくちゃならないんだ・・・・』

 突然の言葉に、ウィリアムは何を言われたのかが分からなかった。

『俺、沖縄旅行は3泊4日のフリーツアーで来てて、明日までなんだ。
3時台の飛行機に乗って東京に戻らないといけない・・・・。 ホントご
めん。 戻ったらメールか、電話するからアドレスと番号教えて欲しい
んだけど』

『な・・・・・』
 
 言葉が出て来ない。
 確かに暁兎の言う事は分かるが、恋人になったばかりなのにいきな
 り離ればなれになるのはどうなのか。

暁兎は僕と離れて平気なのか!?

 両肩を掴み思わず叫びそうになる。
 だが我慢し、大きく深呼吸をして息を整えた。

『暁兎は、平気なのか・・・・・』

 声は震えていないだろうか。
 低く唸るような声に、暁兎の顔から、サッと血の気が引く。
 
『そんな訳ない! 寂しいに決まってるじゃないか。 でも俺は沖縄に
住んでいる訳じゃない。 それに、今はまだ大学は休みだけど、明後
日からは授業も始まる。 バイトもしないと生活だって・・・・』

 最後の方は小声となり、暁兎は俯いてしまった。
 掴んだ肩が震えている。
 その姿を見て、暁兎も自分と離れたくないのだと分かり、怒りも収ま
 る。
 そっと顔を上に向けると、その瞳には涙が浮かんでいた。
 華奢な体を強く抱きしめる。
 
そうだ、暁兎が悪い訳じゃない
暁兎だって離れる事を寂しがってくれている・・・・

 悲しませてしまった事を酷く後悔した。
 そして暁兎も自分と同じく、離れたくないと思ってくれていた事が嬉
 しくてしかたない。

『ごめん、暁兎。 気持ちを疑った訳じゃないんだ。 僕がこんなにも
暁兎が好きなのに、暁兎は離れても平気なのかと思ったら悔しくて』

『酷いよウィル・・・。 ウィルだけじゃない。 俺だって、ウィルが好き
だし、離れたくない。 でも仕方ないじゃないか・・・・』

『暁兎っ!』
 
 悲しげに瞳を潤ませ胸に縋る暁兎。
 初めて好きだと言って貰えた。
 確かに抱き合っている時、その瞳、体が好きだと伝えてくれていた
 が、言葉に出して貰えたのは今が初めて。
 歓喜のあまり、暁兎の唇を奪う。
 その場に運転手がユアンがいようが関係ない。

「ん・・・、っふ・・・・」

 飲みきれない唾液が暁兎の顎を流れ落ちる。
 声が、唇がとても甘い。
 暁兎もそれに応え、情熱的に唇を合わせ、二人の世界に浸っていた
 のだが、助手席に座っていたユアンのわざとらしい咳払いに暁兎の
 体が大きく跳ね正気にかえってしまった。
 仕方なくキスを中断し、ユアンを殺気のこもった目で睨み付けるが
 知らぬ顔。
 
主人の恋を邪魔するつもりか!

 苦々しく思い暁兎を見ると、顔を真っ赤にして俯いていた。
 周りに人がいた事を忘れていたようだ。
 23歳とは思えない程初々しい暁兎に愛しさが募る。
 腕の中に抱き込む。

『暁兎の気持ちはよく分かった。 それならば、僕も一緒に東京へ行こ
う。 幸い沖縄での仕事も終わっている。 どちらにしてもここから離
れるのだから、次の予定まで一緒に東京で過ごそう』

 暁兎は驚き、下から見上げてきた。

『でも、俺普段は大学があるし、夜はバイトが入ってる。 一緒に東京
に戻っても、会えない・・・・』

 同じ東京にいて会えないとは言わせない。
 確かに暁兎には暁兎の生活があるのだから、それを止めろなどとは
 いう事は出来ない。
 本当は援助したいと思っているが、暁兎はそれを良しとしないだろ
 う。
 だがらと言ってはいそうですか、残念です、我慢しますとも絶対に
 言えない。
 やはり互いの妥協は必要だ。

『分かってる。 暁兎はどれも休む事が出来ないのだろ。 しかし、僕
も暁兎に会えないのは我慢出来ない。 そこでお願いがある。 次の
仕事が始まるまでの数週間は一緒に過ごそう。 東京のホテルに
宿泊するから、暁兎も一緒に泊まって欲しい。 同じ屋根の下にいれ
ば、短い時間でも顔を合わす事が出来るし、二人の時間も持てる』

 決まりだと言って、ユアンに東京でのホテルの手配するよう指示を
 した。
 幸い買収した系列のホテルが東京にもある。
 
『素晴らしい、幸運だ』

 お願いと言いながら、既に決定となった事態に暁兎は困ると言って
 きたが、これは譲れない。
 
『暁兎は寂しくないのか? 僕には耐えられない』

『そんな事ない。 俺だって離れたくないよ。 でも・・・・・』

 俯く暁兎。
 奥ゆかしいのは美徳であるが、折角恋人となったのだから、こんな
 時は嬉しいと喜び賛同して欲しい。
 
『暁兎様、私からも是非お願いします。 ウィリアム様はこんな大きな
姿をしていらっしゃいますが、とても寂しがりや。 それに、数週間後に
は、とても大きなレースを控えています。 心身共に万全な体勢で望
んで頂きたいのです』

 流石年の功だけあって、ユアンは暁兎の関心を引く方法を知ってい
 る。

『レースって?』

 乗ってきた暁兎に、ユアンは満足そうな目。
 こういう所が油断ならないと、ウィリアムは眉を顰める。
 
『ウィリアム様はF1のレーサなのです。 10月、第2週目の土.日に
鈴鹿にて日本最大のグランプリが行われるため、今回日本に来まし
た。 沖縄にいるのは、別の仕事があった為です。 そこで幸運にもこ
の地であなたという恋人を得る事が出来、ウイリアム様は精神的に今
までになく安定をしています。 今ここで暁兎様と離れてしまえば、ま
だ未熟なウィリアム様の事、レースにも大きな影響が出るでしょう。 
最悪な場合、事故にでも・・・・・』

『だ、駄目です! そんな事故だなんて・・・・・』

 俯いていた顔を勢いよく上げる。
 その顔は蒼白で、ウィリアムにしがみついて来た。
 そして体は小刻みに震えている。
 
 確かにレースの最中は死と隣り合わせだが、今それを言って無駄
 に暁兎を怖がらせる必要はないだろう。
 前に座るユアンを睨み付ける。
 流石にユアンもここまで怖がらせるつもりはなかったようで、素直に
 謝罪した。

『思い上がりだと思われたくはないけど、俺が一緒にいる事でウィリア
ムが安心するなら、一緒にいる』

 やり方は良くなかったが、結果、暁兎が東京で共に過ごしてくれる
 事となったのだから、よしとした。
 ユアンが一足先にホテルで待機しているスタッフに連絡を入れ、到
 着と同時に移動する事を伝えた。
 そして那覇市内にホテルに部屋を手配。

 ホテルへ到着すると、支配人達が待機しており、細かい指示を与え
 出発した。
 暁兎が乗って来たレンタカーは、ユアンの指示によってチームスタッ
 フの一人が運転し、後ろからついて来た。

 途中、世界遺産を回って行こうかとしたのだが、他の遺産も城壁し
 か残っていないし、似たような場所だからと遠慮し、そのまま那覇
 市へ向かう。
 那覇市内に入り、まず始めにレンタカーをDFSへと返却しに。
 ユアンがこちらで返しておくと言ったのだが、借りた本人でないと手
 続きが出来ないと言われ、ウィリアム達も同行した。
 今度はサングラスを掛けたまま。
 外してまた騒ぎになり暁兎の迷惑、そしてまた危険が及ばぬよう
 にと。
 確かに正体はばれる事はなかったが、別な意味で目立っていた。

 暁兎は欲がない。
 レンタカーの返却がDFS内にあるから、買い物でもと言ったのだが
 欲しい物はなにもないと言う。
 それでなくとも、ホテルで沢山の服を買わせてしまったのだから、逆
 のウィリアムにプレゼントしなくてはいけないと、本気で悩んでいた。

 今までの恋人達は皆、買わせるばかりで、プレゼントなど貰った事
 などなかった。
 本当に暁兎は心優しく礼儀正しい。
 最高の恋人を手に入れ、ウィリアムは満足していた。
 




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