3周年企画

おとぎ話のように

(8)






 翌日も沖縄は快晴。
 朝目覚めた時、間近にウィリアムのハンサムな顔があった事に驚い
 た。

寝顔まで格好いいなんて、狡いな・・・・

 見惚れていると、目を覚ましたウィリアムと目が合ってしまい、思わ
 ず誤魔化すように笑いながら『お早う』と挨拶をした。
 綺麗な瞳で見つめられ、暁兎の顔は赤くなり一気に鼓動も早まる。
 
『お早う、暁兎。 よく眠れたみたいだ。 顔色も随分良くなった』
 
 暁兎のように誤魔化した笑いではなく、優しい微笑みを浮かべ、前
 髪を梳いてくる。

寝起きでこの笑顔は反則だ・・・
でもやっぱり、ウィリアムさんの手は気持ちいいな

 上目遣いで見つめる姿がどれだけウィリアムを煽っているか、それを
 鋼の精神で抑えている事に暁兎は気付いていない。

 ウィリアムの言う通り、昨日も朝から夕方にかけて眠り、そして夕食
 が終わった後も日付が変わる大分前に眠りについた。
 充分体も癒された。
 だが、疲れた原因が原因なだけに、かなり恥ずかしい。

『良かった、これなら出掛けられそうだ』

何処に?

 昨日の夜、食事をしている時には何も言っていなかったのに、何処に
 行くのだろう。
 その前に、この至近距離な状態をどうにかしないと、心臓がパンクし
 てしまいそうだ。
 あからさまに離れるのは、ウィリアムを傷つけてしまうかもしれない
 から、そっと、さり気なく離れようとしたのだが、あっさり腕の中に引き
 戻されてしまった。
 更に距離が近づき、お互いの額が触れて、今にもキスしそうな状態。
 
うわぁ・・・・

 などと動揺しているうちに、本当にチュッと軽くキスをされた。
 火が点いたように、暁兎の顔が赤くなる。
 こんな軽いキスではなく、もっと深いキスも交わした。
 しかし、それは快楽に溺れている時であり、恥ずかしさなど感じてい
 る暇はなかった。
 でも今は正気で、しかも部屋の中は明るい。

 里沙とは恋愛はしていたが、それは暁兎の思い込みだったし、手を
 繋ぐところ止まり。
 それがウィリアムとは一気にセックスまで行ってしまったのだから。

 一日経っているとはいえ、寝起きの頭で目の前にこのハンサムな顔
 があると、その出来事を思い出し頭の中がパンクしてしまいそう。

 そんな暁兎を救ってくれたのがユアンだった。
 二人が起きた気配に気付き、ドア越しに声を掛けてきた。

『お食事の支度が出来ております』

助かった・・・・

『は、はい。 今すぐ行きます』

 返事をし、腕の中からスルリと逃げる。
 ウィリアムもそれ以上は手を出してこなかった。
 そろりとベッドから足を降ろす。
 昨日は足に力が入らず、そのまま崩れ落ちてしまったが、今日は大
 丈夫なようだ。
 暁兎の荷物が片付けられているクローゼットへ行き、扉を開ける。

「なに、これ・・・・」

 昨日はなかった服が、そこにズラリと掛けられていた。
 見ただけで、それが誰の物かが直ぐに分かる。
 ウィリアムが着るには、明らかに小さすぎる物ばかり。
 となると、これは全て暁兎の物という事になる。

『昨日と同じシャツを着せる訳にはいかないから、新しい物を用意し
た。 暁兎がこれを着るのが嫌で、Tシャツにするのは構わないけれ
ど、それだと僕の付けた痕は隠れないから。 ああ、これなんか似合
いそうだ』
 
 扉の前で固まる暁兎に、ウィリアムが後ろから近づき淡いブルーの
 シャツを手に取り差し出した。
 どう考えても確信犯。
 暁兎はため息を吐き、差し出されたシャツを受け取り素直に着た。
 二人共着替え終わり、暁兎はエスコートされ昨夜食事をしたテラス
 へと向かう。

『お早うございます。 ウィリアム様、暁兎様』

 昨日同様、一部の隙も見あたらない姿のユアンが挨拶をしてきた。

『おはようございます、ユアンさん。 ・・・・あの、できれば普通に話して
頂けると嬉しいんですが・・・・』

 ユアンは暁兎よりもずっと年上の36歳。
 なのに「様」付けで、丁寧な口調はどうも居心地が悪い。
 ウィリアムはユアンの主人であるから丁寧な口調は当然だとして、
 暁兎はただの一般人。

 なのに、ユアンにそれは出来ないと言われてしまった。
 理由は『ウィリアムの恋人』だからだそうだ。

恋人・・・・・

 耳慣れぬ言葉に動揺してしまう。
 確かにウィリアムに、恋人になって欲しいとは言われたが、暁兎は
 それに対して返事をしていない。
 というのは、怖かったから。

 突然訪れた幸せ。
 恋した相手がそこにいて、相手も自分を愛してくれている。

でも本当に続くのか?

 そんな疑問が心の中をしめる。
 突然訪れたなら、突然終わるかもしれない。
 今まで、彼には沢山の恋人がいたようだから。
 沢山恋人がいたという事は、もてるという事だが、一人に対してのサ
 イクルが短いという事でもある。
 もしかしたら、自分もそうなるのではないかと思うと、とても素直に「は
 い」とは言えない。

 暁兎がウィリアムに対して、気持ちが冷める事はないだろう。
 人の気持ちなど、明日、明後日まで同じとは限らないし、友人に言っ
 ても、変わらない気持ちなんてないと言われるだろう。
 だが暁兎自身、その思いは変わらないと断言出来る。
 言葉でどう言えばいいのかは分からないが、心がウィリアム以外を
 望んでいない。
 
 例え別れたとしても、暁兎の心の中からウィリアムは消える事はな
 いだろう。
 この先、何人、何百人の人と出会っても、暁兎が恋をするのはウィリ
 アムだけ。
 暁兎の心はウィリアムもの。

でも、ウィリアムさんはどうなんだろう・・・・

 暗くなった暁兎に、真摯な瞳で見つめてくる。

『暁兎、君がどう思おうが、僕の恋人は暁兎だけだ。 だから暁兎に
も言って欲しい。 僕が恋人だと・・・・』

本当に信じていいのか・・・
 
『ウィリアムさん・・・・』

『違う、ウィルと教えた筈』

 視界の端に映るユアンも、大丈夫だというように頷いている。

・・・・信じてみよう

 ギュッと両手を握りしめ、暁兎はウィリアムの瞳を見つめ告げた。

『ウィル・・・。 俺を、君の恋人にして下さい』

 暁兎が名を呼び、恋人にして欲しいと言った事で、ウィリアムの顔
 がその美しい黄金の髪と同じように輝いた。
 抱きしめられ、誓いの証しとばかりに、皆のいる前でキスをされた。
 慣れない暁兎の顔は真っ赤になり、その場にいた者達はその初々し
 さを微笑ましく見ていた。

 食事を終え、起きた時ベッドの中で言われた通り暁兎達は外出を
 した。
 出掛ける時、このホテルの役員と思われる者が数名、ウィリアム
 達の見送りに出て来た事に驚いた。
 たかだか外出するだけで、この扱い。

一体、何者?

 だが暁兎は何も聞けなかった。
 聞いてしまった事で、この関係が変わる事を恐れたから。

 暁兎達が乗っているのは、見た目も値段も高級な外車。
 これもウィリアムと出会わなければ暁兎の人生の中では乗る事も
 なかっただろう。

『何処に行くの?』

 ウィリアムは何も言わず微笑むだけ。
 そして着いた場所は、暁兎が行ってみたいと思っていた今帰仁(な
 きじん)にある世界遺産。

「ここは・・・・」

 車から降り、世界遺産の碑の前に立つ。
 振り返りウィリアムを見ると『ここを訪れたかったんだろ?』と何事も
 なかったような言う。

『ありがとう』

 心からそう告げると、ウィリアムは優しい微笑みを返してくれた。

『さあ、行こう』

 言って繋がれたウィリアムの手。
 気温も暑く、沖縄の太陽は肌を突き刺すような日差しだが、彼の手
 はヒンヤリとしていて気持ちよかった。

 瞳の色が薄いウィリアム達にとって、この沖縄の日差しは眩しすぎ
 るらしく、皆サングラスをかけ目を保護している。
 綺麗な瞳が隠れてしまうのは残念で仕方ないが、それが王子様か
 ら野性的な姿に変貌しドキドキさせた。

どうしよう・・・、俺、ウィリアムが本気で好きだ

 一旦気付いてしまった気持ちは早々収まらない。
 頭の中が好きという気持ちで埋まって、グルグルまわる。

「見て、凄い美形!」
「ホント、王子様みたい・・・・」
「違うわよ、ワイルド系じゃない?」

 ふと聞こえて来た言葉に我に返り周りを見回すと、訪れていた観光
 客が皆、暁兎達を見ていた。
 実際は暁兎ではなくウィリアム達を。
 
 日の光を浴び、輝く黄金の髪。
 なによりも、サングラスをかけていても、隠しきれないハンサムな容
 姿。
 普段は王子様ぜんとした姿だが、柔らかな瞳が隠れた事によって、
 優雅な獣の姿がそこにあった。
 急に遠く見える存在になり、寂しくなる。

多くを望んじゃ駄目だ

 強く自分に言い聞かせた。
 観光客の視線は、後ろにいるユアン達にも向けられていた。
 この暑さの中、汗もかかずキッチリと三つ揃いのスーツを着込んでい
 るのが異様だからだろう。
 だが彼等もサングラスを掛けてはいるが、そこから見える容姿は非
 常に整っている。
 そして彼等は先に歩く暁兎達を守るかの様に歩いているのだから、
 目立ってしかたない。
 ウィリアムはそれらの視線を一向に気にする事なく、城跡の階段を
 上って行く。

 そして高台に到着。
 遺跡と海が広がっていた。
 沈んだ気持ちを切り替え、今は城壁と階段しか残っていないが頭中
 で在りし日の城の姿を想像していると、ウィリアムが暁兎の顔をのぞ
 き込み眉を顰めた。

『どうかした?』

 それには答えず ウィリアムは『車に戻る』と言って、暁兎の手を引
 き元来た道を下りはじめた。
 
『なに、どうした?』

 突然の行動に戸惑っていると、その途中で漸く『日焼けしている』と
 簡単に説明が。
 確かに少しヒリヒリするが、あまり気にする程でもない。
 アルバイトでは真夏の炎天下の中、道路工事の警備員をした事もあ
 るのだから。
 場所も日差しも全然違うが、今と同じように赤く日焼けをしながら道
 路に立っていた。

 だから『大丈夫だよ』と言ったのだが、ウィリアムは聞く耳持たず、
 早々に車へと戻されてしまった。

『こんなに真っ赤に・・・』

 ウィリアムは悲しげに呟き、急ぎ手当し始めた。
 車内に備え付けられている冷蔵庫から氷と水を取り出し、やはり積ま
 れていたタオルを使い暁兎の顔を冷やしてきた。
 火照った顔に冷たく冷やされたタオルは心地よく、思っていた以上に
 日焼けしていたのだと気付き、大人しくウィリアムの手に身を任せ
 た。

 そして、その後の予定は全て取り止めとなり、早々にホテルへと戻っ
 た。
 軽い日焼けなど怪我でも病気でもないのに、ウィリアムは大げさな事
 に医師まで呼んでいた。
 診断は、当然日焼けで、しかも極軽い物。
 言われた暁兎は恥ずかしかった。

 午後は部屋で、ユアンの用意したアフタヌーンティーを楽しみ、ホテル
 内を散策したり、併設されているマリーナからグラスボートに乗り、透
 明で美しい海中を堪能した。
 本州の海では積極的に泳ぎたいとは思わなかったが、これ程までに
 美しい海であれば、泳ぎ潜ってみたいと密かに思った。
 
 そして夜は昨夜と同じく、部屋のテラスから夜景を眺めての食事。
 唯一違うのは、今日は一人で入浴した事。
 昨日とは違い、今日は体が動くし、ウィリアムとの入浴は恥ずかしく
 目のやり場に困る。
 本物は見た事はないが、ウィリアムの裸は、美術の教科書で見たダ
 ビデ像のように美しく鍛えられていた。

 この体に抱かれたんだと思うと、とてもではないが落ち着いて入浴な
 ど出来ない。
 あんな恥ずかしい思いは昨日だけで充分。
 幸い浴室は二つあったので、ウィリアムが軽く汗を流しに行っている
 間に、暁兎も別な浴室で慌ててシャワーを浴びた。
 そんな暁兎の姿にユアンは苦笑していた。

 困ったのが寝る時で、他にも寝室があるからそこで寝ると言ったの
 だが、『恋人となったのだから別々に寝るなんて事は許さない』と言
 われ、結局同じ部屋で寝る事になってしまった。

『暁兎、そんなに隅にいたら落ちてしまう』

 確かにギリギリの所で寝ていた。
 だがそれは恥ずかしいから離れているのだ。
 なのに強引に腕の中に抱き込まれてしまい、身動きが取れない。

『さあ、お休みのキスを』

『ウィ、ウィルッ!』

 ちょっと待ってと焦っている間に、唇を奪われる。
 初めは触れるだけの軽いキスだが、段々深くなっていき、それが心
 地よく体から力が抜けてしまう。
 後はもうされるがままで、覚えたての快楽に体が、気持ちが落ちて
 いき、結局甘い一夜を過ごす事になった。





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