3周年企画

おとぎ話のように

(2)






 飛行機が離陸する。
 地上がどんどん離れて行く。
 傾斜が、大分前友人達と行った遊園地のジェットコースターを思い
 出した。
 あれは登り切った後そのまま落ち、あっという間に終わってしまった
 が。
 


 携帯を切った後、結局暁兎はそのまま搭乗手続きをした。
 里沙の分はキャンセルして。
 
 本当に楽しみにしていたのだ。
 飛行機に乗るのも、沖縄に行くのも初めて。
 気持ちも弾み里沙には内緒で、全てグレードアップしていた。
 驚き喜ぶ顔が見たくて。
 それが全て無駄になってしまったが。

 飛行機の座席もゆったりとした席に。
 この先、二人で何度でも旅行に行けたらと、今乗っている航空会社
 の会員にもなった。

「はあ・・・・・」

 一人虚しく窓の外を眺める。
 10分もしないうちに、窓の外には富士山がその美しい姿を現した。
 飛行機だと、こんなに早く富士山まで来るのかと感心した。

 真上から見る、美しい富士山の姿を見ても気持ちは晴れない。
 飲み物を運んできた客室乗務員に毛布を頼み、コーヒーを飲んだ後
 受け取った毛布を被り目を閉じた。
 眠れるかどうかは分からないが、兎に角今は何も考えたくなかっ
 た。

『後、20分程で当機は那覇空港へ到着いたします』

 耳に入ってきた機内アナウンス。
 眠れるか心配であったが、朝早かっただけにいつの間にか眠ってい
 たようだ。
 窓の外を見ると、本州では見る事の出来ないエメラルドグリーンの
 海が広がっていた。

「凄い綺麗・・・・」

 幸せな旅行から一転、失恋旅行になったが沖縄の海を見ているとど
 うでもよくなって来た。

もう、里沙の事は忘れよう・・・
人を見る目がなかった俺が悪いんだ

 そう言って自分を慰めた。
 飛行機から降りると湿気が体を覆う。
 9月ももう終わりなのに、まだ沖縄は暑いようだ。
 南国の花と空港内の職員のかりゆしウェアが沖縄に来たのを実感
 させる。

 荷物を持ちエスカレーターで2階へ上がり、空港と繋がっている出
 来てまだ新しい交通機関のモノレールの駅へと向かった。
 レンタカーを借りる為に、移動しなくてはならないから。

 レンタカーの受付は、空港から離れたDFS(免税店)の中にある。
 その為、モノレールを使ってそこまで移動しなくてはならない。

 国内で唯一空港内ではなく外にある免税店。
 里沙はそこにも行きたがっていた。
 だが暁兎だけとなった今では、行く事はない。
 車内アナウンスに沖縄の音楽が流れ、観光気分を盛り上げる。

 免税店のある駅で降り、建物の中に入りレンタカーカウンターへ向
 かう。
 係員からナビの使い方、それ以外の説明を受けた後鍵を貰い、暁
 兎は那覇の街から移動した。

 58号線を使い、そのまま予約してあるホテルへと向かう。
 普段殆ど運転をしないから少し心配だったが、道は広く複雑でなか
 ったので安心して運転出来た。

 しかしホテルのチェックインは14:00から。
 時計を見るとまだ11時過ぎ。
 仕方なく、一人、途中にある観光地を周った。



「疲れたな・・・」

 目的地であったホテルへと到着した暁兎。
 ホテルの駐車場に着き、エンジンを止めた途端疲れにどっと襲われ
 た。
 やはり一人で行った観光地巡りは虚しかった。

 58号線から途中、脇道に入り岬に寄ってみた。
 切り立った崖にある灯台。
 直ぐ後ろには大きなホテルがある。
 灯台内の急な階段を上って外に出ると、そこからは何処までも続く青
 い海が。
 岸壁には白い波がぶつかり、絶景だと思った。
 もっと見ていたかったが、風が以外と強かったので5分もしないうちに
 下りた。

 そしてまた別な場所の観光地であるその断崖からは、対岸にある有
 名な万座ビーチが見る事が出来た。
 民族衣装を着た女性が立っており、一緒に写真も撮る事が出来る。
 「どうですか?」と聞かれたが、当然断った。

 一人旅らしき観光客も何人か見かけたが、彼等は皆楽しそうだっ
 た。
 暁兎も、この旅行が初めから一人旅だと決まっていたなら、彼等と
 同じように一人でも楽しむ事が出来ただろう。

 観光している間に昼が過ぎてしまったが、食欲などでる筈もなくその
 まま車を北へと走らせた。
 


 ハンドルに顔を伏せ、ため息を吐く。
 馴れない車の運転、朝早くから家を出たのと心労でヘトヘトになって
 いた。
 このホテルでもまた変更を告げなくてはならない。
 二人で予約していたが、一人キャンセル。
 それを聞いた受付の人は一体どう思うだろう。

 ドタキャンされた可哀想な奴と思われるかもしれない。
 そう考えただけで気分が重くなる。
 同時に情けなくも。
 相手の本質を見抜けなかった愚かな自分。
 本当に好きな相手ではなかった為、罰が当たってしまったのだろう
 か。
 ため息を吐く。

「やっぱり来ない方が良かったかな・・・・」

 今更言っても、もう沖縄に来てしまっている。
 顔を上げホテルを見る。
 グレードアップしただけあって見るからに豪華だ。
 以前、日本で行われた首脳会談に選ばれた場所なだけある。
 
 こんな所にいつまでいても状況は変わらない。
 車から降りホテルへと入って行く。
 自分には不釣り合いなくらい豪華で落ち着いた雰囲気のロビー。
 外国人も多く見られ、皆がセレブに見える。
 その中で一人、暁兎だけが場違いな気がし、萎縮してしまう。
 しかし、リゾート地なだけあって、彼等の服装が畏まっていない事が
 救いだ。

 ソファーにかけ、ウエルカムドリンクを飲みながらチェックイン。
 感じの良さそうな青年が暁兎に応対してくれた。
 そして最も言いたくなかった言葉、一人キャンセルになった事を告げ
 る。

「畏まりました」

 教育が行き届いているのか、怪訝そうな顔や、理由を聞かれる事
 もなかったの事に安心した。
 一人で泊まるのだから豪華な部屋は必要ない。
 部屋を変更して貰った。

 部屋に案内され鍵を開け中へと入る。
 一人でも充分広く、白が基調の清潔感溢れる南国リゾートな部屋。
 寝ころんだままでも沖縄の海を眺める事が出来るようになっている。
 テラスも広く籐の椅子が置かれており、のんびりと眺める事が出来
 る。
 外にはブーゲンビリアの花が美しく咲き乱れ、沖縄の景色をより強
 調していた。
 係員が一通り説明をし部屋を後にした。
 暁兎はテラスに続くドアを開け、置かれた籐の椅子に座り海を眺め
 た。

「・・・・綺麗だな」

 何も考えず、海風に当たりながら景色を眺めていた。
 結局、夕日が水平線に沈むまでその場に居続けた。
 本州であれば、日が暮れれば肌寒い季節だが、ここは沖縄。
 まだ外は暖かく、風も心地よかった。

 少し空腹を感じ、時計を見ると既に19:30をまわっていた。
 朝から何も食べていないので、流石にお腹も空いてきたようだ。
 館内案内を見てみるとレストラン閉店まではまだ時間はあるが、混
 み合う事もあるから予約した方がいいと書かれていた。

「予約、してないと駄目なのかな・・・」

 もし駄目なのであれば仕方ない、明日まで我慢しよう。
 一応内線を使いフロントで聞いてみる。
 予約はしていなくても大丈夫だと、混んでいれば少し待つと言われ
 たが食べないよりはましだろう。

 少し時間を空ければ、きっと空いている筈。
 テレビをつけ、部屋の静けさを紛らわす。
 20:30になる頃、暁兎は部屋を出てレストランへと足を運んだ。

 数あるレストランの中から鉄板焼きの店を選んだ。
 目の前でシェフが調理をしてくれる。
 今日、初めて人とちゃんと会話をした気がする。
 感じのいいシェフで、会話も上手く沖縄のお勧め場所を教えてくれ
 たりした。

 明日の事など全く考えていなかった暁兎は、彼が勧めてくれた場所
 でも巡ってみようかと思った。
 値段は少し高かったが、厳選された食材と、シェフのお陰で楽しい
 一時と美味しい夕食を味わう事が出来た。

 そして部屋に戻る途中、少しだけ心に余裕が出来た。
 ライトアップされたホテルが幻想的で、少しだけこの景色を楽しもう
 と思い、その場に立ち止まった。





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