3周年企画

おとぎ話のように

(1)






「暁兎、愛している・・・・」

 こんなに愛情を込め、名前を呼んで貰えるとは思ってもいなかっ
 た。
 覆い被さる彼の体は逞しく、暁兎を包み込む。
 見詰めてくる深く蒼い瞳に心が奪われる。
 フットライトの僅かな光でも、彼の黄金色の髪はキラキラと輝いて
 いた。
 そして間近で見る彼はとても美しかった。
 
 暁兎自身、これ程までに誰かを愛する事があるとは思ってもいな
 かった。
 全身でウィリアムにしがみつく。
 力が入った事で繋がっている場所もキュッと締まった。
 体内深く入り込んだウィリアムの大きさを実感し、体を撓らせる。
 心地よい締め付けにウィリアムの欲望がよりいっそう膨らむ。

「・・・・アキ、素敵だ」

「あぁ・・・あ、 ん・・・ウィル・・・おっきい・・・・」

 深く浅く繰り返し内壁を擦られる。
 中から蕩けてしまいそう。
 失恋し、旅に出てその先でこんな激しい恋に出会うとは。
 相手が男でも構わなかった。
 一目見て恋に落ちてしまったのだ。

「あぁ、ん・・・ウィル、ウィル・・・おかしくなっちゃう・・・・・あ・・・」

「いいよ・・・、もっとおかしくなって、もっと僕に溺れて」

 言って腰の動きが早くなり、より奥へと突き上げてくる。
 これ以上は耐えられない。
 暁兎も自ら腰を揺らし、ウィリアムの腹に欲望を擦り付けた。

「あ・・・だめ、あ、ああ―――」

 激しい絶頂が暁兎の体を突き抜け蜜を放つ。
 一瞬遅れで体内最奥に燃えるような熱を受ける。
 
 この場限りの恋かもしれない。
 それでも構わないと思った。
 今、この一瞬だけでもウィリアムに愛されたかった。

「愛してる」

 余りにも小さな声で聞こえていないかも知れないが薄れ行く意識
 の中暁兎はウィリアムに囁いた。
 




 待ちに待った旅行当日。
 暁兎は空港ロビーで呆然と携帯を見詰めていた。
 今この状況を誰かに説明して貰いたいくらい頭が混乱していた。

「…どうして?」

 その言葉しか出てこない。
 携帯を握りしめた手は震えていた。
 通話の切れた携帯電話を、食い入るように見詰めた。
 そう言いたくもなるだろう。
 なぜなら昨日まで、暁兎は幸福の絶頂であった。

 大学最後の夏休みに入る前、暁兎は少し気になっていた同じバイ
 ト仲間の里沙から告白され、晴れて恋人同士になった。
 暁兎にとっては初めての恋人。

 二人ともどちらかと言えば大人しいく控えめ。
 まだキスもしていないが、毎日顔を会わせデートを重ね日々愛を深
 めて行った筈。
 卒業まではまだ時間はあるが、お互いの就職先も決まった。
 仕事が始まれば1、2ヶ月は互いに忙しく、しばらくの間会えないか
 もしれない。
 だからその前に、少しでもお互いを知り合い、離れていても安心
 できる関係になれればと彼女に言われ、学生時代の最後の夏を
 楽しみ思い出を作ろうという事になったのだ。

 そして今日から三泊四日で旅行に行き、遂に結ばれる予定だっ
 た。
 彼女も恥ずかしがりながらも、この旅行を楽しみにしていてくれ
 た。
 初めての者同士だが愛があればきっと乗り越えられると思ってい
 た。
 だがそう思っていたのは暁兎だけだったようだ。
 


 旅行会社から貰って来たパンフレットを見ながら、二人でこの時期
 なら沖縄がいいねと言い決め、一緒に旅行会社に申し込みに行っ
 た。
 そしてその翌日、里沙は「新しい水着、選んで欲しいの」と、少し恥
 ずかしそうに言い暁兎も照れながらデパートの水着売り場へと足を
 運んだ。
 色白の里沙にはどれも似合いそうだったが、その中からフリルの付
 いた水玉の可愛い物を選んだ。

 そのまま書店へ行き、沖縄の旅行ガイドを買い、あそこにもここにも
 行きたい、食べる場所はここがいいねと言い、昨日も寝る前の電話
 で話していた。
 この時期台風が心配だったが、何とか大丈夫だねと笑っていたの
 も昨日だった。
 
 当日、待ち合わせ場所は、羽田空港のチケット発券機前。
 少し早めに着いた暁兎は里沙の到着を今か今かと待っていた。
 しかし待てど暮らせど彼女は来なかった。
 手続きは出発20分前。
 後10分と迫っていた。
 何かあったのではないかと、彼女の携帯に電話を入れてみた。
 
『もしもし?』
 
 出たのは男だった。
 頭の中はパニック。
 もしかして、間違えたのかと本気で思った程。
 しかし、間違える事などない。
 暁兎は着信履歴から携帯にかけたのだ。
 
「あの・・・、里沙の携帯、ですよね・・・・」
 
『ああ・・・。 おい、里沙起きろ。 男からだぞ。 つうか、お前また誰
か引っかけたな』
 
 携帯の向こうにいる男は呆れた声。
 側にどうやら里沙はいるようだ。
 そしてその隣で寝ているらしい。
 寝ぼけてはいるが、間違いなく里沙の声がした。

『だって、豊しつこいんだもん。 起きられないよ』

 聞いた事もない、甘えた声で男に文句を言っていた。
 
『馬鹿、お前がしつこいんだよ。 寝るって言ってんのに俺の上に
乗っかってガンガン腰振って喘いでたくせに』
 
『だって〜、豊のおっきくって最高に気持ちいいし』
 
 一体どういう会話なのか。
 内容は分かる、だがそれを事実だとは認めたくない。
 暁兎とは手を繋いだだけで頬を染めていた里沙からは想像も出来
 ない位淫らな会話。
 
『やだ、こんな時間! 嘘、どうしよう。 豊、何で起こしてくれなかっ
たのよ!』
 
 時間に気付いたようだ。
 里沙は豊と呼んでいた男を怒鳴りつけていた。
 こんな里沙も、暁兎は知らない。
 
『何でもいいけど、お前、男から携帯掛かってきてるけど』
 
『嘘! 早く言ってよ。 もしもし!』
 
 里沙が通話に気付き、暁兎に向かって話しかけて来た。
 暁兎の声が震える。
「・・・・里沙・・」

『やだ! 暁兎君!?』

 里沙は掛けて来た相手が暁兎だと分かり、パニックになってい
 た。
 一頻り、「どうしよう」としか言わない。
 聞きたい事は山のようにあった。
 二股をかけられていたのは事実。

 からかわれていたのか、それとも本気だったのかは分からないが
 里沙には、もう一人暁兎以外に相手がいるのだ。
 しかもその相手とは肉体関係まである。
 恋愛に関して初心者であった暁兎には、その乱れた里沙の思考
 が許せなかった。
 暁兎の心は決まった。

「さよなら」

 里沙が何か叫んでいたがそれを無視し通話を切り、電源を落とし
 た。
 携帯を握りしめる。
 
『搭乗手続きをされていないお客様は、急ぎ手続きをして下さい』

 アナウンスが聞こえてきた。
 時計を見ると手続き終了まで後1分。
 暁兎はカウンターへと足を運んだ。





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