眠り姫
(6)

37000をGetされたあっこ様より

「本当の気持ち」





 竜也は橋本の言う事など全く聞いていない。
 表面上は特に変わったところはないが、竜也はピリピリと神経
 を尖らせている。
 
珊瑚に懸想するとはいい度胸だ・・・・・

 どう始末しようかそれだけを考えていた。
 
 橋本の話はまだまだ続きそうだ。
 それを今まで黙っていた貴章が制した。

「そこまでにして貰おう」

 そう言って若菜を車へ連れて行く。
 
 今は昼休み。
 正門に集まる白鳳学園の頭脳・容姿のトップ集団に気付く者
 が出てくる。
 更に今は貴章がいる。
 窓に張り付くクラスメイトに他の者が気付き、同じ様に張り付
 く。
 そして別の者が、同じ様に気になり外を見て張り付く。
 そして窓には鈴なりの人だかりが出来ていた。
 もっと近くで見たいと思う者はわざわざ玄関まで。
 皆が貴章の姿に恍惚となっていた。

 隣にいる若菜の事など、誰も目に入っていない。

「待ってくれ!」

 まだ引き留めようとする橋本に一瞥をくれる。
 その瞳の冷たさに、その場にいた全員が固まった。

 そして貴章は助手席のドアを開け、若菜を座らせシートベル
 トをつけ、頭に響かないようそっとドアを閉め自分も運転席に
 乗り込んだ。

 まだ固まったままの集団。

「若菜は今日私の家に泊める」

 この言葉は綾瀬に言ったのか、それとも青葉に言ったのか。
 いち早く反応したのは当然青葉。

「あっ、待て! 若菜は俺が連れて帰る!」

 言った時には既に遅く、車は出発した。

「こら―――――――! 若菜を帰せ―――――!」

 虚しく響き渡った。
 貴章がその場からいなくなり、皆の呪縛が解けたようだ。

「恐え〜〜〜〜」
「恐かったよ〜」

 珊瑚と有樹の二人は貴章の恐ろしさにいつの間にか手を握
 りあっていたらしい。
 それに気付いた竜也が直ぐさま放す。

「なんだよ」

「・・・・・どうして有樹さんなんですか?」

「はぁ?」

 言ってる意味が分からない。
 それに、どうして不機嫌なのか・・・・

「隣に僕がいるのに、どうして有樹さんと手を握ってるのかと聞
いてるんだけど」

 どう見ても嫉妬している竜也に冷や汗が流れる。

有樹にまで嫉妬するなよ〜〜〜〜〜
 
「僕達も早退しますから、後宜しく」

「え、おま、ちょっと!」

 嫌がる珊瑚を連れて門を出て行ってしまった。

「有樹何してるんだ」

 騒ぎの中心に有樹がいると聞いて彰は急いでやって来たら
 しい。
 
「彰〜〜、恐かったよ〜」

 言って抱きついてくる有樹を受け止める。
 珍しく素直な有樹。
 目に溜まった涙が、彰を煽ったらしい。

「え、彰? え?」

 そのまま有樹を何処かへと連れて行ってしまった。

「青葉なにしてるの?」

 青葉の一つ上の姉紗英も騒ぎを聞きつけやって来た。
 クラスメイトの一人に弟青葉が正門で騒いでいると言われ。
 そこに超絶美形の男もいる事も忘れず伝えられた。

 兄若菜が体育の授業中ボールを受け倒れた事は、兄の親友
 である綾瀬からメールで連絡が来ていたので知っていた。
 昼早退して病院に行く事も。
 
 見かけはともかく、本当は運動神経の良い兄が避けられない
 筈がない。
 朝見た時寝不足の顔をしていたからきっとそのせいだろうと
 紗英は踏んでいた。
 事実そうだった訳なのだが・・・・・

 慌てて行くと人だかりは大分減っていたが、まだ大勢の者達
 がそこに留まっていた。
 中には夢見心地な者も。

 靴を履き替え正門へ行くと弟青葉が地団駄を踏み悔しがって
 いた。

「くそ〜〜、目の前で若菜を連れて行かれるとは〜〜〜〜、お
のれ久我山貴章〜〜今に目にもの見せてくれる〜〜〜」

 その言葉で全てを把握した。

凄いわ・・・・・・あんなに忙しいのに。
若菜ちゃんが絡むとどんな事も投げ出してくるなんて・・・・・
・・・・・・愛ね

 まだ騒いでいる青葉。

「ごめんなさい、綾瀬さん。 馬鹿な弟で」

「・・・・いや、相変わらずだなとは思うが。 最近特に酷くなった
気もするね・・・・・」

 乾いた笑いの二人。
 確かに貴章という存在によってブラコンがパワーアップされた
 のは事実だろう。

 紗英は青葉の制服を引っ張ってその場から無理矢理放した。
 綾瀬はその後ろをついて歩きそのまま職員室へ。
 竜也と珊瑚が早退した事を伝えに。
 
 その頃、貴章の視線を正面から受けた橋本はまだ正門で固
 まったままだった。
 偶々出て来た教師に声を掛けられるまで。



「貴章さんお仕事は?」

「今日の仕事は全て終わった・・・・・」

 秘書が聞いたら嘆いてしまうその言葉。
 終わったのではなく、全てキャンセルしたのだから。
 当然若菜もその事には気付いている。
 しかし、貴章が終わったと言えば終わった事になるのだ。
 複雑な若菜。

「僕、一人で病院に行けるから・・・・・」

 貴章は無言で車を走らせる。
 とても居心地が悪い。
 
綾瀬のバカ〜〜〜どうして貴章さんに知らせちゃうんだよ〜〜

 報告は綾瀬がしたのだと思いこむ若菜。
 確かに綾瀬からも連絡は行っているのだが、もう一つ別なル
 ートからも連絡が行っている事を、若菜は知らない。

 そのもう一人とは校医の佐竹だった。

 車は上条病院へと着けられた。
 昼休みにも拘わらず受付に声を掛けると直ぐに外科へ連れ
 て行かれた。
 中に入ると、前回若菜が全身打撲をして擦り傷を負った時貴
 章のマンションに呼び出され来た医師だった。

「こんにちは」

 ニッコリ笑う医師に「えへへっ」と笑って誤魔化す若菜。

「早く検査しろ」

 横柄な貴章の態度も全く気にしない。
 検査伝票を書き一緒に検査室へ。
 大丈夫だと言う若菜に貴章は頑として聞かず、移動は全て
 車いすだった。

「・・・・・お前変わったな」

 前回の時にも言われた言葉だった。

 検査結果は全て「異常なし」
 初めて貴章の表情が和らいだ。

「有難うございました、上条先生」

 礼を言って病院を後にした。


 貴章のマンションへ連れて行かれた若菜。
 早々にベットへ連れて行かれ布団の中へ。
 常に貴章が横にいて、食事、飲み物を運んでくれた。
 勿論貴章の手で。
 そして時折キスをして。

「幸せv」

 夜には晃司から電話が掛かって来たが運悪く若菜は寝てい
 た。
 余りにもしつこく、煩かったため為貴章に電源を切られてしま
 った。

 電話の向こうでは一向に電話に出ない若菜に始めはイライ
 ラしていたが、最後は涙目で「若菜〜〜〜」と情けない声を
 出していた。
 青葉も一緒に。

 そんな男達を、妻と娘は白い目で見ていた。



 大好きな貴章の腕の中で旅行の夢を見て幸せそうに微笑み
 貴章はそんな若菜を愛おしそうに見つめていた。

 今回若菜の学校に校医として入った佐竹。
 貴章が自分の目で確かめた優秀なガード。
 その佐竹から若菜が頭のボールを受け倒れたと聞いた時、迷
 わず仕事をキャンセルした。

 新規開発の会議もあった。
 社長が居なければ話しが進まないと他の重役に言われたが、
 自分が居ない事で話も進まない無能は必要ないと言い切り、
 重役達を蒼白にさせた。

そう、無能は切るだけだ・・・・・・

 そして、若菜に怪我を負わせたという若者。
 プライドばかり高そうで、本質を全く見ようとしていない。
 そして己の否を認めた振りをしているだけで、心の底からの謝
 罪がなく、言い訳ばかりしていた愚か者。

綾瀬や竜也に言って二度と近づかせないようにしておこう・・・・

 若菜の髪の毛を優しくなで、キスを。

「・・・た・・・きさん・・・・・好き・・・・」

 どんな夢を見ているのだろう。
 若菜は微笑んでいた。
 幸せそうに微笑む若菜を抱きしめ、貴章も眠りへと落ちていっ
 た。







Back   Top   Next






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送