眠り姫
(7)

37000をGetされたあっこ様より

「本当の気持ち」





 翌日、若菜は貴章の車に送られて登校した。
 
 「大丈夫だから」と言う言葉は却下され。

 お陰で正門は昨日以上にパニックを起こす事に。
 若菜の事を心配した、戸田家父まで待っていたから。

 門まで行くと、そこには人垣が出来ていた。
 車を止めると、その人垣の視線が若菜達へ。

な、なに?

 視線を煩わしく思っている貴章だったが、先に車を降りるとざわ
 めきが瞬時におさまる。
 誰もが昨日と同じ様に見惚れていた。

 貴章が助手席に周り、ドアを開ける。
 まるでお姫様のような扱い。
 誰が出て来るのだろう。
 皆がドキドキと胸をトキメかせる。

 そして出て来たのが学年トップで、学校一ダサイと言われる戸
 田若菜。

「いや――――!」
「何で――――!」
「・・・・・嘘」

 怒号のような悲鳴。
 学校を揺るがすような悲鳴が響き渡った。

 当の本人達は全く気にしていない。
 と、いうより、皆が何故叫んでいるのか分からないから。

うるさい・・・・・・

 そんな人垣をかき分ける人物が。

「「若菜〜〜〜〜」」

 父晃司と弟青葉。
 
 抱きしめようと手を伸ばすが、アッサリと交わされる。
 貴章が自分の腕の中に囲ってしまったため。

「・・・・・おのれ・・・」

 にっくき敵。
 晃司と青葉が貴章を睨み付ける。

 その後から、母佐織、妹紗英もやって来る。

「お早うざいます。 昨日は大変ご迷惑おかけしたみたいで、ごめ
んなさい」

 若菜に似た容姿の佐織に、ニッコリと微笑まれ貴章の表情も軟
 らかなものへ。

「駄目よ、若菜ちゃん、ボーッとしてたんでしょ」

「えへへっ」

 妹の鋭い指摘に笑って誤魔化す。

「こらこら! 何和んでるんだ! 妻と娘まで誑かそうとするとは・・
・・・・・ 若菜、その男から離れなさい!」

 憎々しげに言う晃司。
 隣に居る青葉も威嚇している。

 とても友好的ではない二人の態度。
 貴章を含め、3人の周りを不穏な雰囲気が取り巻いている。
 騒がしかった周りも静まり帰っていた。
 続々と登校して来る生徒達も、異様な雰囲気に足止めされて
 る。
 そして、綾瀬、有樹、彰、珊瑚、竜也の面々も到着。
 中心にいる貴章達を見て『ハブVSマングース』そんな思いが過
 ぎった。

 見える筈のない稲妻や雷鳴まで聞こえてくるようだ。


 全く気付いてない若菜。
 貴章に抱きしめられ、知らないうちに胸にすり寄り、手も腰に回
 し自らも抱きついていた。

 それがどうしても気にくわない。

目の前でよくもイチャイチャと!

「あっ・・・・・」

 晃司に言われ初めて気付いたと言わんばかりの若菜。
 残念だがここは学校。
 離れようとするが貴章の手が腰に回ったまま。

 今まで黙っていた貴章が口を開く。

「初めまして、久我山貴章です」

 確かにこうやって面と向かっては初めて。
 確かにいい男だと思う。
 若菜の事も本気なようだ。

しかし! それとこれとは別だ!
父親の威厳、思い知らせてやる!

キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン

 すっかり出鼻をくじかれてしまう晃司。

「あっ、予鈴だ。 行かなきゃ」

「私も失礼しよう」

 名残惜しげに離れる二人。
 視線を移すと友人達の姿が。

「おはよ〜〜綾瀬〜、みんな〜〜」

 呑気な声周りも我に返る。

「・・・・・・お早う」

「じゃあ、貴章さん気を付けてね。 行ってらっしゃい」

「ああ、連絡する」

 車に乗る貴章。
 手を振る若菜。
 まるで新婚さんの朝の玄関での風景を見ているようだ。

「急がないと遅れるよ。 じゃあね、お父さん、お母さん」

「・・・・・・・・・」

「行ってらっしゃい」

 父親の威厳はなかった・・・・・

 

 教室の中は正門での出来事で持ちきり。
 「戸田と一緒にいた美形は誰だ?」とか「戸田家の面々は皆素
 晴らしく顔がいい」とか色々。

 隣に座っていた女子がHR最中、勇気を持って若菜に聞いてみ
 た。

「ねえ戸田君、朝一緒にいた男の人誰?」

「え? 貴章さん?」

「そう、その人」

「綾瀬のお兄さん」

「凄〜い! 美形家族〜! さすが久〜我山君のお兄さんなん
だ〜羨ましい〜〜〜」

「え、何々?」

「あの人久我山君のお兄さんなんだって」

「え〜〜、そうなんだ〜〜〜〜」

 教室の中が一気に騒がしくなる。
 謎の美形の正体が判明した事で。

 教師が注意するが騒ぎは暫く収まらなかった。



 一時間目の授業が終わった後、若菜を呼ぶ声が。
 見ると隣Bクラスの橋本が立っていた。

 席を立ち行こうとするが、綾瀬に止められてしまった。
 竜也にも。

 若菜はどうして、二人が止めるのか分からなかったが、この二
 人は昨夜貴章から橋本を近づけるなと連絡を受けている。
 それを忠実に守っているのだ。

 いつまで経っても来ない若菜。
 若菜を止める綾瀬と竜也に気付いた橋本が、教室の中へと入
 って来る。
 若菜の前に二人が立ちふさがる。

「何の用だ」

 綾瀬が橋本に冷たい視線を投げ付ける。
 その視線・態度・言葉に一瞬怯む。
 そして大きく深呼吸。

「昨日は本当にすまなかった。 頭、大丈夫だったか?」

 頭を下げ愁傷な態度。
 だが、綾瀬と竜也の態度は変わりない。

「検査結果には異常なかった。 もういいだろう、教室へ戻れ」

 あくまでも若菜には近づけないらしい。
 仕方ないと思うが、橋本はどうしても若菜に聞きたい事があっ
 た。

「・・・・分かった。 戻る前に一つ戸田に聞きたい事があるんだ。
昨日保健室にいた人の事なんだ。 あの人が誰か知らないか?
朝から探しているんだが何処にもいないんだ。 なあ、知らない
か?」

・・・・あの人?

「誰の事?」

 二人の後で首を傾げる。

「俺、4時間目の授業が終わって直ぐ、戸田に謝ろうと思って急い
で保健室に行ったんだ」

まさか・・・・・・・

 嫌な予感に捕らわれた綾瀬達面々。

「戸田はもう早退した後みたいで・・・・・ベットを見たらそこに俺の
眠り姫を見つけたんだ! なあ、お前知らないか?」

 予感は当たった。
 素顔で寝ていた若菜の姿に間違いない。
 青葉が若菜のメガネを外したせいだ。

青葉のせいだ・・・・・・・
あれだけ自分でも、若菜にメガネを外すなと言っていたのに、自
分で外してそのままにしてたら、隠してる意味が無いだろう!

 思わず青葉に殺意を抱く。

 若菜を見るとキョトンとした顔。
 それが自分の事だとは全く気付いていないらしい。
 それが唯一の救い。

「僕が出て行くまでは誰もいなかったけど」

「・・・・・・そうか」

 見るから落胆する橋本。
 だが、まだ諦めてないらしい。

「いや、でももう一度思い出してくれ。 本当に誰も来なかったの
か? そうだ! これ、これ見て思い出せ!」

 言って自分の携帯を取り出す橋本。
 二つ折りの携帯を開き若菜に見せる。
 綾瀬と竜也も覗き込む。

「!!」

 若菜の寝顔が携帯の待ち受け画面になっていた。
 花フレームで飾られ「俺の眠り姫v」と加工されていた。
 
こ、これは・・・・・・

まさか撮られていたとは・・・・・

あ、僕だ。

 後ろから覗き込んだ珊瑚と有樹は鳥肌を立てていた。

恐い、恐すぎる・・・・・

 橋本がこんな寒い事をする奴だとは思ってもいなかった面々。
 そして、この携帯をどうやって抹殺しようか、それだけが頭の中
 を回っている。

 普段は空気を読めない若菜だったが、この時は点さすがに何か
 感じる物があったらしい。

「・・・・・ごめんね、やっぱり知らない」

若菜が空気を読んでる!

 彼等を見守っていた、有樹と珊瑚が頬に手を当て驚く。

「そうか・・・・・ あ・・・・怪我なんともなくて良かったよ。 ホント悪
かったな・・・・・・」

 肩を落とし橋本は教室を後にした。

「あの携帯・・・・・」

「・・・・・抹殺ですね」

 綾瀬と竜也の二人、顔を見合わせ頷いた。



 
 後日その携帯は、青葉によって使えない状態にされてしまった。
 
 橋本が泣いたのは言うまでもない・・・・・





 


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