眠り姫
(2)

37000をGetされたあっこ様より

「本当の気持ち」





 号令が掛かり授業が終了となる。
 肩を落とし教室から出た柏村を確認した後、綾瀬は慌てて若
 菜の元へ。

「若菜心臓に悪い事は止めてくれ・・・・・」

「・・・・・僕やっぱり何かやった?」

 メガネに隠れた瞳が綾瀬を上目遣いで見る。
 ションボリとした若菜にため息を吐く。
 やってしまったものは仕方ないし、若菜の天然も直しようのな
 いもの。
 
「『やった』、というより『言った』」

 珊瑚が代わって言う。

「珊瑚」

 綾瀬に窘められる。

「若菜ってホント頭いいね。 僕はサッパリ分からなかったよ」

 いつの間にか有樹も若菜の元へ。
 先程の若菜の回答に惚れ惚れしていた。

「よくあんな短い時間に二つも回答が出そろいましたね。 僕
は一つが精一杯ですね。 もう少し時間があれば何とか分か
りましたが」

 有樹に引き続き竜也にも褒められた事で若菜の沈んでいた
 気分は一気に浮上した。
 
「僕ね、数学って大好きなんだ。 何処が好きかっていうとね・・
・・・」

「ストップ。 若菜が数学が好きな事はよ〜く分かった。 兎に
角、余計な事は言うな。 何か言われても『はい』『いいえ』しか
言うな。 いいな」

 何だか良く分からないが、綾瀬の迫力に押されコクコクと大
 きく頷く。
 顔が綺麗なだけに凄むと迫力がある。

「それと、寝るな」

「え〜〜、それはちょっと〜」

「我慢しろ。 いいな」

「難しいかも・・・・」

「寝たら、よだれ垂らして寝てる写真を撮って兄さんに送ってや
る」

「えっ!?」

 さすがにこの言葉は効いた。
 大好きな貴章によだれ付きの寝顔を送られる・・・・・
 血の気が引いて行く。
 そのお陰で眠気が一気に飛んでいった。

「や、やめて綾瀬・・・・それだけは・・・・・・」

「だったら寝るな」

「寝ない、絶対に寝ない。 全然眠くないからお願い!」

 綾瀬の手を握りしめ懇願する若菜。

鬼の様な奴・・・・・
僕も嫌・・・・・

 珊瑚は毎日同じベットで寝ているから、もしかしたらそんな顔
 を見られている可能性もある。
 但しその事は竜也に確認したくない。
 下手な事を言って、それ以上に恥ずかしい事を言われようも
 のなら暫く立ち直れないから。

 有樹も彰によだれ顔を見せるなんて事は絶対に嫌だ。
 恥ずかしくて二度と顔を合わす事は出来ない。

恐ろしい・・・・・・

 そんな事を考えているとチャイムが鳴った。
 


 綾瀬の脅しのお陰なのか、2時間目の古文の時間、眠くなり
 そうな話にも拘わらず無事終える事が出来た。

 そして3時間目体育。
 ふたクラス揃っての合同授業。
 この日はバレーボール。
 さすがにこの時間には眠気は襲ってこないはず。
 
 更衣室へ行き、竜也の厳しい監視のなか4人は着替えをし
 た。
 そうしないと着替えられないから。
 男子達は綾瀬達が男と分かっていても、見たいのだ。
 この学校の中で女子を抑えダントツの美貌を持つ3人。
 半袖シャツから除く白く滑らかな肌。
 色っぽい項。
 竜也がこの学校に編入してくるまでは綾瀬がこの役目を行
 っていたのだが、綾瀬の冷たい目で見られたいと思う輩が
 多く全く意味がなかった。

 しかし竜也は背も高く、野球をしていただけあって体格も良
 い。
 この4人に対しての眼差しは優しくても、他の男達、特に珊
 瑚に好意を寄せる者には冷たかった。
 しかも相手は剣財閥の御曹司。
 下手な刺激はしたくない。
 そんな訳で今は誰も見る者はいないのだが、念のために見
 張っている。

 着替え終わった面々は体育館へ移動して行った。
 


「今日はコート2面使って試合をするぞ。 各クラス2チームに
分かれろ」

 体育教師に言われ2チームに分かれる。
 若菜と有樹は同じチーム。
 綾瀬・珊瑚・竜也とは別になってしまった。

「あ〜あ、別れちゃったね。 頑張ろっか」

 試合コートに有樹と行く。
 相手チームは既にネット側に整列をしていた。

「では試合開始前にお互い礼!」

「「「「お願いします」」」」

 礼をした後決められた位置に着こうとする若菜を呼び止める
 声が。
 相手クラスの確か・・・・・・

「何?橋本君」

 若菜をライバル視する『橋本基一』
 成績ではいつも若菜に負けている。
 どんなに勉強を頑張っても2番。
 前生徒会長で顔も良く、身長は180pちょっと。
 スポーツも抜群で元バレー部のエースアタッカー。

 中学の時は常に成績もトップだった。
 この都内1、2を争う白鳳学園をも余裕で合格圏内。
 新入生代表も絶対自分だと思っていたのに。

 当日新入生代表を見た時、こんな奴に負けたかと思うとプラ
 イドがもの凄く傷つけられた。
 入学式なのに髪の毛は鳥の巣のようにボサボサで顔が半
 分隠れていた。
 髪の毛の間から除くメガネは、今時お目にかかれないような
 ダサイ代物。
 話す声もボソボソと非常に暗かった。

こんな奴に!

 入試の時実力を出し惜しみしたせいに違いないと思う事に
 し、初めての中間試験には自分がトップだと思っていた。
 やはりトップは若菜だった。
 そして今も若菜はトップ。
 運動神経も悪くない。
 人には分からないように手を抜いているように思われた。
 何もかもが許せない。

 本当なら自分も若菜達と同じAクラスの筈なのにBクラスなの
 も。
 この学校のクラス割りは成績順。
 若菜は学年トップなので当然Aクラス。
 
 橋本も若菜に続き学年2位なのだが、2年の2学期の中間
 と3学期の試験が受けられなかった事が原因でBクラスに。
 2学期の時は盲腸、3学期の時はスノーボードで肋骨を折
 って入院したせい。

 いくら自分が上手くても後ろから突っ込まれては避けようが
 ない。
 転んだ時に自分のボードが当たったのもどうしようも出来な
 い事。
 留年という最悪の事態は免れたがBクラスになるなどとは想
 像もしていなかった。

 珊瑚達と仲がいいというのも許せない事の一つ。
 珊瑚に憧れていたから。
 3年になって珊瑚の隣に竜也が立った事で諦めた訳だが。

「手加減しないからな・・・・・」

 そう言ってその場を後にした。


「ね、ねえ・・・・橋本君てバレー部のエースでしょ」

「うん、そうだよ。 凄いんだよ〜。 橋本君の打つジャンピン
グサーブなんか誰も取れないんだよ。 去年は全国大会で決
勝まで行って惜しくも負けちゃったけど。 橋本君が最後の最
後で怪我しちゃったから。 今年は橋本君が抜けちゃったから
どうかな〜〜」

 そんな凄い人物が相手クラスにいるだなんて。
 しかも若菜に宣戦布告しているし。

「若菜、橋本君に何したの・・・・・?」

 この後起こるだろう、恐ろしい試合に有樹の顔は青ざめてい
 る。
 当の若菜は全くきにしていないのが救いなのかも知れない。

 少しだけ考える。
 やはり分からないし、何かやった記憶もない。

「さあ?」

 にこやかに笑う若菜だった





 


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