流される日常
(4)

40000Getされたyo-yo様より
「運命の人」足掻きながらも馴染んでいく拓巳の新婚生活






何が「お父様と呼んでくれないか」だ・・・・・
仕事場だろう!
会社のトップだろう!

 切れた拓巳。

「ここは仕事をする場。 そして社長はこの会社のトップ。 
そんな場所で『お父様と呼んでくれ?』舐めてるんですか?」

ひぃぃぃ〜〜〜〜

 拓巳以外の社員が凍り付いた。
 親子になったとはいえ、自社の社長に向かって吐かれたこ
 の暴言。

 拓巳の事をいくら気に入っているとはいえ、さすがにこれに
 は良一も激怒するのでは。

 拓巳も良一も無言。
 正面から向き合い、見ている者にはにらみ合っているよう
 にしか見えない。
 フロアーに緊張が走る。

 この緊迫した雰囲気をといたのは秘書の代田。

「拓巳さんの言う通りです。 ここでは社長と一社員なのです
から。 それに、どうやら家では呼んで頂けるようですから
ご自宅に帰った後でお願いします」

え?
誰が呼ぶと?

 代田の言葉に良一も納得。
 しかも何やら感動している。
 良一は拓巳の手を取り握りしめた。

「そうだな。 すまなかったね。 職場に家庭を持ち込むとは
、この私とした事が・・・・・。 拓巳君は仕事と家庭をキッチリ
分てるのに。 それに私の社長としての立場、威厳までも考
えてくれているのに・・・・・。 私が浅はかだった。 拓巳君
という素晴らしい嫁を貰った為に浮かれすぎていた。 有難
う、家では遠慮せずお父様と呼んでいいんだよ。 こんなに
大勢の前で呼ぶのは恥ずかしいだろうからね。家では遠慮
せず思い切り呼んでいいのだからね」

・・・・・・・おい

 拓巳の本当の気持ちは何処へ。
 お父様なんて呼びたくはないのに。
 結婚披露パーティーの時は面倒を避ける為、仕方なく呼
 んだだけなのだ。

「お父様」だなんて寒い呼び方、誰がするものか!

 拒否すべく口を開こうとするが、良一達に遮られた。

「良かったですね、社長。 職場では無理ですがご家庭では
呼んで頂けるんですから」

「こんなに嬉しい事はない。 拓巳君、後で鯛を届けるから
楽しみにしててくれ。 良太郎が拓巳君の料理を絶賛してい
てね、全くいい嫁を貰った! はっはっは。 代田この後の
予定は」

「はい、13時30分より・・・・・」

 言いたい事だけ言って、二人で予定を確認しながらその
 場を去っていった。

ひゅるるるる〜〜〜〜〜

・・・・・・何だったんだ

 社長達が去った後のフロアはとても静まりかえっていた。
 時折聞えてくる無駄口も全くなかった。
 とにかく皆が緊張していた。
 拓巳から発せられる不機嫌のオーラ。
 ブリザードが吹き荒れている。
 仕事以外の事を言おうものなら、どんな恐ろしい仕打ちが
 待っているやら。
 キーボードを叩く音。
 電卓を叩く音。
 紙に走らすペンの音だけが響いていた。
 時折鳴る電話の音にビクビクしながら。
 かかって来た電話に小声で対応し、その声の小ささに相手
 が聞えないと大きな声で。
 その声が受話器がら漏れ慌て抑え拓巳を窺う。
 たった数時間で誰もが胃潰瘍になるのでは、と思われる程
 緊張し、神経をすり減らした午後だった。
 
早く17時になってくれ―――!

 一人一人の顔にその願いが表れていた。
 
 17時を知らせる時計の音が鳴り響いた。
 瞬間、皆が机に倒れ伏す。

終わった・・・・・・

 地獄のような半日が漸く終わった。
 最近特に神経をすり減らしている気がする面々だった。
 
 これからもこんな事があるのかと思うと、部署異動を希望
 したくなってしまう。
 でもしたくない。

 愛想もなく、仕事にも厳しく、仕事もバリバリ出来き、嫌みな
 くらいの拓巳だが、目の保養は絶大。
 言葉に刺があっても、突き刺さるような冷たい視線を向け
 られても「ありがとう」と言われ滅多に見せない微笑みを向
 けられると、やっぱりここが一番などと思ってしまう。
 異動なんてとんでもない。
 拓巳は経理課にとって特別な存在。
 
 年に3回、あるかないかだが・・・・・

 だがその微笑みを見る事が出来た時には、一気に幸せが
 訪れる。

 例えば、別の部署から拓巳のいる経理課へ異動して来た
 竹内。
 結婚して10年。
 子供が欲しかったがどんなに頑張っても授かる事が出来な
 かった。
 夫婦揃って不妊治療にも通っていた。
 それでも出来ず、もう諦めようと言っていた矢先。
 年に3回見られればいい拓巳の微笑みを見る事が出来た。
 愛する妻がいるにも拘わらず見惚れてしまった。

「竹内さん、来て早々磯谷さんの微笑みを見られるなんてラ
ッキーですね。 御利益ありますよ」

 後輩に言われた言葉に『何故磯谷の微笑みに御利益?』
 と思っていたのだが、その微笑みを見て暫く経った時、マ
 ナーモードにしていた携帯が振るえた。
 見ると妻から。
 仕事中には決して連絡する事のない妻からの電話に出る
 と興奮し要領を得ない。

『あなた!子供!子供!』

 根気よく聞くと『妊娠したの! 赤ちゃんができたの!』と。

「なに―――――!?」

 勢いよく立ち上がり叫んだ。
 信じられない。
 10年頑張って出来なかったのに。
 嬉しい!
 本当に嬉しかった。

「おめでとうございます」

 竹内が子供を欲しがっていたのはみんな知ってた。
 皆が祝福してくれた。

「ね、良いことあったでしょ」

 後輩の言葉に磯谷の席を見る。
 「おめでとうございます」と祝いの言葉を言われた。
 先程見た微笑みとは違うが、普段よりは穏やかな顔。
 思わずパンパンと手を叩き拝んでしまった。

 
 その他にも彼氏、彼女が出来た。
 懸賞が当った。
 初期癌が見つかって助かった。
 その日買った宝くじが当っ等々。

 兎に角顔もそうだが、拓巳は経理課、自分達にはなくては
 ならない存在。
 生き神様。

ついていきます、どこまでも〜〜〜〜

 そう思わせる人物だった。





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