流される日常
(3)

40000Getされたyo-yo様より
「運命の人」足掻きながらも馴染んでいく拓巳の新婚生活






カタン

ドタドタドタ!

 慌ただしい足音。
 
来たか!

バン!
 
 音と共に勢いよく開けられたリビングのドア。
 
 ここからが勝負。
 隙を見せてはならない。
 ほんの一瞬の隙が命取りとなる事を拓巳はこの一週間で学
 んだ。

 キッチンで夕食の用意をしながら身構える。

「ただいま、拓巳さん!」

 玄関で靴を脱いで、手に持った鞄も置くこともせず、良太郎
 はキッチンにいる拓巳に一直線で向かって行く。
 
あれ程言っているのに!

 拓巳は無視し夕食の準備を。
 手には勿論包丁が握られている。

 背後に迫った良太郎。
 鞄を放り投げ、拓巳を抱きしめようと両手を広げる。
 後一歩の所で良太郎の動きが止まった。

 拓巳が振り向きもせず、肩越しに包丁を突きつけたから。

 目の前に突然現われた包丁に、ダラダラと汗を流す良太
 郎。

「た、拓巳さん・・・・危ないです・・・・・・」

「五月蠅い」

「刃物は人には向けてはいけないと習いませんでしたか・・・
・・・・?」

「習った気がするな」

 二人の状態はそのままで会話だけが進んで行く。
 大きく開かれた両手で、冷や汗を流す良太郎の姿は、周り
 から見たらかなり情けないだろう。

 表情を変えず後ろ向きなまま、肩から包丁を突きつける拓
 巳の姿はかなり恐いものがある。

「包丁・・・・退けて下さい・・・・・」

「いいだろう。 その前に、何度言ったら分かる。 帰ったらま
ず着替えて、手を洗ってうがいをしろと言ったのを覚えていな
いのか? 外で埃の付いたスーツ、バイ菌だらけの手で俺に
触るなと言った筈だか。 その耳は飾りか?」

「うっ・・・・・。 言われました・・・・・」

「分かっているなら今直ぐやれ」

「分かりました・・・・・」

 言ってすごすごと遠ざかって行く良太郎の気配。
 大きくため息を吐き、包丁をまな板の上に置く。
 時間にしてほんの1、2分の事だろうが疲れた。
 筋肉も強張っている。
 それを手で揉みほぐす。

 家に居るのに、全くもってゆっくり出来ない。
 最後に肩をボキボキ鳴らし、中断していた夕食作りを再開。

 今日の晩ご飯は鯛を使った料理。




 
 拓巳の勤める会社の社長である義理の父である良一が昼
 過ぎ、秘書の代田を伴い経理課へ。
 突然現われた社長に、フロアが一瞬にして静まりかえっ
 た。

このフロアに一体何の用が・・・・・・・

 皆が社長に気を取られる中、一人黙々パソコンに向かう拓
 巳。
 良一も他の者に目を向ける事なく、拓巳の元へ。

 そこで皆が気付く

ああそうか!

 忘れていたが、この会社の社長令息良太郎と結婚したとい
 う事は、社長とは義理とはいえ親子。
 しかも、社長は拓巳の事が、大のお気に入り。

 しかしここに来るのは、あの結婚パーティー以来。
 まあ忙しい人だし、社長なのだから、早々関係のないこの
 フロアに来る事はないのだが。

 皆が二人に釘付け。

 良一に気付かない拓巳。

「拓巳君」

「・・・・・・・・・」

 カタカタカタ
 キーボードを叩く音。

磯谷君、気付くんだ!

 上司の山内は冷や汗を流す。
 仕事に没頭するのは構わないが、今だけは気付いて欲し
 い。
 上司である自分も、よくこうやって話しかけても気付かれな
 い事があるから。

 しかし自分と社長では違う。

気付いてくれ〜〜〜〜

 泣きの入る山内だった。

 良一はめげなかった。

「拓巳君・・・・」

 今度は拓巳の耳元に囁き息を吹きかける。

「うゎー!」

 飛び上がった。

 耳を押さえ振り返ると、良一がニコニコと立っていた。
 その後ろには、代田が。

「なんですか!」

社長に向かってなんて口を・・・・・・

 誰もが思った。

「だって、拓巳君気付いてくれないから」

 ちょっと拗ねた口調。

「可愛くないから止めて下さい。 で、何か用ですか?」

 立ち上がった拓巳は腕を組んで仁王立ち。
 この親子に甘い顔をしてはいけない。

そんな口をきかないでくれ〜〜〜

 山内は胃が痛かった。

「拓巳君は今日何時に終わるのかな?」

「・・・・・定時ですが」

「なら、6時には家に帰ってるね」

「ええ・・・・まあ・・・・」

 拓巳のマンションは会社から電車で約15分の場所にある。
 実家から通勤していた時には約1時間半もかかった。
 ラッシュはあるが短い時間なだけに、非常に楽だ。
 近くにはデパートもあり、スーパーもある。
 実家近くにあったスーパーとは違い、高級な食材を取り扱っ
 ている。
 値段も高い。
 でも良い。
 定時に終わって買い物をして帰っても6時には家に着く。
 
「実は良い鯛が手に入ってね」

「・・・・・・・・・・・・」

そんな事を言いにわざわざ来たのか?
忙しいスケジュールの合間に?

 頭痛が。
 さすがにこの言葉には皆も唖然としていた。

 良一だけがニコニコと笑っている。
 後ろにいる代田は真面目な顔。

「社長・・・・・」

 拓巳からの冷たい視線と口調。
 顔を顰める良一。
 気分を害したようだ。

 ハラハラドキドキ見守る面々。

「拓巳君・・・・・」

 真面目なキリリと引き締まった顔に。
 一体何を言われるのか。
 皆が息をのむ。

「お父様呼んでくれないか!」

 一同ガクリと崩れ落ちた。





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