求める心
(5)


キリ番44444をGetされたレイコ様からのリク





 朝霧の選んだメガネは恭夜の良く似合っていた。

 選んだ物は二つ。
 一つはメタルフレーム。
 一つはプラスティック。
 プラスティック素材のフレームはアルマーニ。
 色はブルー。
 通常なら浮いてしまうだろうその色は全く違和感もなく、軽
 薄そうに見えてしまう所を落ち着いた感じで見せていた。
 もう一つのメタルフレームは恭夜を優等生に見せている。
 場合によっては冷たい印象にも。
 間違っても暴力的な人物に見せる事はない。

「金髪も良かったが、黒髪にしてこのメガネを掛けてる方が
お前には似合ってるぞ。 というか、若い頃のお前の親父、
響二そっくりだな」

「・・・・・・・・・」

 昔の父親の写真など見た事はない。
 浅葱は二人に似ていて、敬は母親似。
 恭夜はそっくりそのまま父親似だそうだ。
 冗談ではないと思うが事実らしい。

「急に自分を変えようと思った理由は聞かないでやるから
飯に付き合え」

 ハッキリ言って付き合いたくはないが仕方ない。
 そのまま恭夜達は都内にある高級ホテルの中にある鉄
 板焼きの店に入った。
 二人揃って食前酒を注文する。
 朝霧は恭夜が中学生と分かっているのにそれを止めな
 い。
 寧ろ歓迎しているようだ。
 昔を思い出しているらしい。

 そこで父の昔の話しを聞かされた。
 恭夜と似たような事をやっていたようだ。
 
そんな所まで似てるのか・・・・・

 だが面白くもあった。
 自分と同じだという父がいつどうやって、今の様に変わっ
 たのか。
 
 朝霧によると、それは母に出会ってからだと。
 母に出会った父は会ったその日から自分を変えたという。

 恭夜の様に金髪ではなかったが髪はオールバックで雰
 囲気が殺伐としていたんだと。

オールバックの親父?

 想像出来ない。
 自分の姿をオールバックへと置き換え想像する。

「・・・・・・・・・・」

 それが短く清潔感溢れる髪型にし、メガネを掛けたと。
 優等生の出来上がり。

 全く自分と同じ。
 違うのは年齢。
 恭夜は中学で、父は高校3年で。

 早く相手が見つかった分、恭夜は幸せだと言われた。
 そうかもしれない。
 日々喪失感が強くなって行く自分。
 生きている事自体に意味を感じなくなってきている。
 今現在でこんな思いでいるのに。
 父はそれが、後3年も続いたのだ。

だが見つけた

 今、恭夜が稔を見つけたように、父は母を見つけた。
 少し父に対する考え方が変わる。
 父が母を見つけ、生きる意味を見つけたように、恭夜も
 稔を見つけ変わろうとしている。
 この変化が楽しく思えるのは気のせいではない。

 食事が終わってからも、まだ話し足りないのか、朝霧は
 場所を移し飲み始めた。
 そして、一通り昔の話しをし満足したようだ。

「自分を変えようと思う事は良いことだ。 特にお前にとっ
ては。 外見は確かに変わった。 後はもっと自分に余裕
を持て。 そうすれば中身も変わる。 相手を思いやる心
を忘れるな。 お前の相手も、お前がどんな姿をしていよう
が受け入れてくれるだろう」  

 そう言って分かれた。
 
変わる?
余裕も持て?

 今の自分には余裕がないとそう言いたいのか。
 一ノ瀬も同じような事を言っていた。
 「今のお前じゃ、また逃げられるぞ」と。

 こんなに稔の事を思っているのに、それが受け入れられ
 ないという。
 自分の何処が悪いのか。
 そんな事は今まで考えた事もない。
 良い機会なのかもしれない。
 どこを変えたらいいのか分からないが、取り敢えず今まで
 の自分とは正反対の自分を演じてみよう。
 それで稔が手に入るなら苦にもならない。
 取り敢えず身近な所から。

 そう思いながら歩いていると、前方から見知った者達が
 歩いて来る。
 恭夜が顔を出すクラブの常連。
 必ず寄って来る女達。
 だが恭夜に声は掛てくる事はない。
 恭夜の周りには別な者達が取り巻いていたのだ。
 それもそうなのだが、見た目は確かにいいのだが、発せ
 られる殺伐とした雰囲気に近づく事が出来なかったのだ。
  
丁度いい

 距離が近くなり一人の女が恭夜に気付く。
 周りの女達に慌てて声を掛けている。
 別な女達も恭夜に気付き「格好いい」「イケてる!」など
 と騒ぎ始める。
 そして立ち止まり恭夜を待つ。 
 知らぬ顔をして恭夜は横を通り抜ける。
 すれ違う時あからさまな視線。
 だが誰一人として恭夜に気付かない。
 そしてすれ違った恭夜を追いかけて来て『暇なら一緒に
 飲みに行かない?』と声を掛けて来た。

 ここまで分からないとは。

滑稽だな

 見た目を、雰囲気を変えただけで、これ程に簡単に声が
 掛けられるものなのか。
 あまりにも愚かな女達に侮蔑の視線を投げかける。
 その瞳の鋭さに、女達は逃げ出した。

 家に着いた時間は恭夜にしてみればかなり早い。
 日付が変わっていないうえに、まだ10時。
 恭夜以外の家族がリビングに集まり団欒している。
 ここ2年、この時間家にいた事がなかったから忘れていた
 が、大抵この時間は家族団欒の時間帯。
 家族仲はいいのだ。
 
 恭夜も今は離れている事が多いが、根本的な所で家族
 には逆らった事はない。
 皆もそれが分かっているので、恭夜の事を可愛いと思っ
 ている。

 そしてリビングに顔を出すと、案の定驚かれた。
 だが特に聞いてくる事はしなかった。
 父は意味深な目を向けている。
 急に真面目な姿になった理由が分かるからだろう。
 母は穏やかに微笑んでいる。
 母も分かったのかもれない。
 父から聞かずとも、おしゃべりな友人から父の事を聞い
 ているに違いない。

 浅葱は「似合うよ」と一言。
 敬は「それならいいんじゃない」と言う。
 
 これで問題なく稔と同じ場所にいられる。
 たった一年、短い時間ではあるが。
 学校以外の場所でなら会うことは出来るだろう。
 敬と友人なのだから。
 
 敬は一端気に入ったものは手放さないから。
 高校を卒業し、別な大学に行くことになったとしても、敬
 は稔と友人をしている筈。
 時間を作ってでも稔と会うだろう。
 そして自分も全ての時間を使おう。

 だが、学校だけはどうにもならない。
 中学生と高校生の違いは大きい。
 自分が高校生ならば今直ぐにでも編入するだろう。
 だが今の恭夜ではどんなに頑張っても無理。

後半年の我慢





 
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