2周年企画

眼鏡を買おう!
(8)






『え、でもレンズはその時によって度数変わるから』

『どんな度数でも対応出来るように、全ての度数があるから
大丈夫だ』

 かなりの溺愛ぶりだ。
 若菜もクラッとなっていた。

お祖父ちゃん、全部って何枚あると思ってるのさ・・・・・

『それだけじゃないぞ。 若菜がいつ眼鏡を壊して来ても大丈
夫なように、この本店にいる者全てが眼鏡の加工が出来るよう
訓練を受けている。 あと全ての者を2年間眼鏡処方師の学校
に通わせたからここでも処方出来る。 若菜の為にフレームだ
って沢山デザインしたが、アランに却下されたな。 アラン曰く、
似合いすぎて駄目らしい。 なのに若菜はちっとも来てくれない
し・・・・』

 大物だと、皆が尊敬し恐れるフィルマンが拗ねている姿に
 貴章は驚いていた。

『で、でも小父さん。 殆どいらないのに、そのレンズどうする
の・・・・・?』

『安心しなさい。 ダリューでも眼鏡を掛けている者はいる。 そ
の者達が使っているから。 使った後は補充しているから、い
つでも全てのレンズがある』

『でも小父さん・・・。 それって、お祖父ちゃんが買って置いて
あるんでしょ?』

『そうだ。 しかし、使わなければそれは古くなる。 レンズが
劣化するのもそうだが、常に新しい物が出ている。 それと交
換しながら新しい物を置いている。 多少足は出るが、そこは
アランも皆が若菜の為に資格を取ったのだからと、格安で販売
している』 

お祖父ちゃんも凄いよ・・・・・
フィル小父さんも凄いよ・・・・

『ベルモンド、若菜の服を』

『畏まりました』

 言って部屋の電話を取り、内線をかける。
 少しして部屋のドアがノックされた。

「若菜一旦眼鏡を外しなさい」

 素顔を隠す為に作った眼鏡なのに、何故外すのかと思った
 が貴章に言うとおり外した。

『何故外させる?』

『素顔で入って来たのに、この場で別な者がいたら不審に思う
でしょう。 それに服装を見れば同一人物だと分かってしまう。
どちらの姿も印象深いものだから、若菜の素顔を知り好意を持
つ者が普段の姿を知って近づかれては困るんです』

 それもそうだ。
 若菜が眼鏡を外したのを確認し、『入れ』と声を掛けた。
 「失礼します」と入って来たのは10人。
 その手には服だの靴だの鞄などが山のようにあった。

『・・・・・小父さんこれ・・・・』

 若菜の顔が引きつる。

『勿論全部若菜のだよ。 さ、着て私に見せてくれ』

 楽しそうに言った。

 二人祖父の溺愛ぶりに貴章も唖然としていた。

 一体何着の服に着替えさせられたのだろう。
 
 最初は普段着から。
 カジュアルなパンツ、セーター、シャツにジャケット。
 パンツだけで5本。 
 ジャケットも6着。
 今の季節に会う淡い色で軽い素材の物が何着か。
 しかし、これから段々暖かくなっていくのに、ダウンにレザー
 までもが入っていた。

これはちょっと・・・・・・

 それを言うと『日本の天候は変わりやすい。 まだ寒い日もあ
 るだろうから』とよく分からない事を言い押しつけられた。
 
 それが終わると今度はスーツ。
 お出掛け用と普段用にパーティー用。

『小父さん、着ないと思うけど・・・・・』

 普段着と言われても、こんなスーツを着て何処に行けと?

『何を言うんだ。 パーティーに行くのに、若菜に古い服など着せ
られる訳ないだろう』

『そうじゃなくて、パーティー自体に行かないし、ないから』

『晃司の奴、なんて甲斐性のない・・・・。 アランにキツク言って
貰わないと』

 祖父の所なら分かるがここは日本。
 そうそうパーティーなど、あるはずもないのだ。
 大好きな父をそんな事で叱って欲しくない。
 だから慌てて説明した。

 渋々ながらも納得したようだ。
 しかしスーツの事は別で、若菜は貰う事になった。
 そして着替える。

 どの服も若菜には良く似合っていた。
 洋服によって様々な若菜が現れる。

 可愛らしく、元気に。
 容姿を華やかに美しく。
 時にはストイックに。

 何を着ても目を奪われる。
 フィルマンも、後ろで控えていたベルモンドも時に見惚れ、大
 満足。
 様々な若菜を堪能した。
 貴章も若菜の姿には文句のつけようもなかった。
 が、やはり自分だけが独占したかった。

 しかし肝心の若菜は一人複雑。
 3人とも、若菜が着替える度に似合っているとは言ってくれて
 いるが、どうしてもそうは思えない。

 コンタクトを外してしまった為に、着替えた姿を鏡で見て見る
 がぼやけていて分からない。
 鏡に近づけば分かるが、近づくと自分の全体の姿が見る事が
 出来ない。
 仕方なく、その度に眼鏡を掛けて鏡を見るが全然、似合ってな
 い。

 フィルマン達はきっと気を遣って似合っていると言っているに
 違いない。
 余りのも似合わないから、不憫になって言っているのだろうと
 まで思っていた。

「はぁ〜〜〜〜」

 溜息を吐く。
 
「どうした」

 すっかり元気のなくなってしまった若菜に、貴章が聞いて来
 る。

「全然駄目・・・・。 僕、似合ってない」

 若菜の言いたい事が分かった貴章が説明してくれた。
 この服は眼鏡を掛けていない姿に合わせた物だという事を。
 だから似合わなくて当然だと。
 
「若菜によく似合っている」

 この一言で気分が浮上した。 げんきんな若菜だった。
 しかし、そうなるとこの服を貰うのは困る。
 何故なら素顔禁止令が貴章から出ているのだから。
 眼鏡を掛けて似合わない服など、宝も持ち腐れでしかない。

 それを言うと「私が一緒にいる時には眼鏡を外しても構わな
 い」と言ってくれた。
 一人では危ないが、自分が一緒であれば危険な事は何も
 ないし、誰にも若菜を近づけないからと。

 それならと、貰う事に決めた。 なかなかちゃっかりしている。

 一通り着替えが終わった後、フィルマンが二人のサイズを測
 りたいと言ってきた。

 やはり二人の服を作るらしい。 貴章としては遠慮したかった。
 若菜の体に触れて欲しくない。
 例えそれが服の上であっても、親しい小父であっても。
 そして自分にも触れて欲しくない。

 そんな貴章の気持ちが伝わったのか、若菜が『二人で測り
 っこするから小父さんは触っちゃ駄目』とフィルマンに向かっ
 て言った。

 この言葉には、さすがのフィルマンも訝しんだ。
 オーダーメードで作る服は、フィルマン自らががサイズを測る
 ところから全て行っている。

 人間の体は左右対称ではあるが、全てが同じではない。
 利き手利き足はどうしても太くなっている。
 見た目では分からないが、測ると数字で違いが確認でしる。
 肩や、腰の微妙な上下のズレなどもあるから。

 若菜もそれは知っている。
 若菜自身それを体験しているし、若菜の家族の服を作った
 時、青葉が丁寧な測定に我慢できず、不満としてフィルマン
 に言い、その言葉が返ってきたのだ。
 若菜もその場にいて聞いていた。

 それを知っているにも拘わらず、若菜はそれを良しとしなかっ
 た。

『ご免ね、小父さんの服だから小父さんが測るのは当然の事
なんだけど、貴章さんは僕のだから触っちゃ駄目。 測る時凄
く細かく測るでしょ。 僕以外には触って欲しくないの。 それ
に小父さんなら触らなくても、見ただけである程度サイズ分か
るでしょ? 出来上がり前の最終補正は僕には出来ないから
お願いするけどそれ以外は駄目』

 真剣な眼差しの若菜。
 その瞳の奥にある真実を感じ取り、測定は二人に任せた。
 
 若菜しか受け入れられない貴章を悲しい目で見た。
 情熱と言うには暗い思い。 執着というのは軽すぎる。
 貴章には若菜だけ。
 だがそこまで思える貴章が羨ましかった。
 そして若菜はそんな貴章の心を上手く支えている。
 強い絆を二人の間に見た。 

 フィルマンは触らないかわりに、細かく指示を与えた。
 若菜はブツブツ文句を言いながらも、楽しそうに作業を進め
 た。
 貴章は指示を的確にこなして行った。
 触られる事に時折くすぐったさを感じ身を動かし、貴章に「大
 人しくしていなさい」と注意を受けていた。
 じゃれ合う二人を愛おしげにフィルマンは見詰めていた。

 今日一番の目的である眼鏡も出来上がった。
 大好きなフィルマンにも久しぶりに会う事が出来た。
 予定外ではあるが洋服も沢山貰った。
 貴章が支払うと言ったのだが、可愛い若菜へのプレゼントな
 のだからその必要はないと、フィルマンは断固として支払い
 を拒否した。
 今回はその好意に甘える事にした。
 
 洋服を全て貴章の車へ積んで貰う。
 出来る事ならもっと一緒にいたかったのだが、若菜は少しで
 も貴章と二人で過ごしたかった。
 本当なら貴章は仕事だが、今日は若菜の学校が創立記念
 日で休みな為に、貴章は午後の仕事を休みにしてくれたのだ。
 それだけでも十分貴章には迷惑をかけているのに、自分の
 軽はずみな行動でその仕事さえ中断させてしまった。
 貴章は大丈夫だとは言ったが、仕事の邪魔をしてしまった事
 に変わりない。
 今日は貴章にため、できるだけの事をしようと決めたのだ。





Back  Top  Next





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送