休日の過ごし方
(2)

20万Hits企画




 少し離れた離れた場所で、堀田が感動している。
 いつも自分だけが好きで追いかけている気がしてならない。
 だがこんな時に自分は誌音に愛されていると思う。

「俺の男」

 なんていい響きなんだろう。
 思わずウットリ。
 
しかし!

 この状況は納得出来ない。
 
俺だって抱きしめて欲しい!

 そう思っていると、つい言葉がポロッと零れた。

「・・・・・ズルイ、誌音」

 誌音の身体がビクリとなる。
 不本意と言わんばかりの龍生の声。
 しかし反応したのは「ズルイ」という言葉。

「ズルイ? ・・・・何? 何か文句あるの?」

 素を抱きしめている事に対して言っているのなら容赦しない。
 自然と声も低くなる。

「だって誌音、俺に抱きついてくれたりしないだろ〜。 いつも俺から抱きついてるし。 偶
には俺にも抱きついてくれよ・・・・・」

そっちか。

 素を抱きしめた事で、焼き餅をやいて貰える。
 龍生の一番は自分だという事は分かっている。
 分かってはいるのだが、優しく、強く、頼りがいがあって顔もいい。
 龍生は本当にモテルのだ。
 少し目を離した空きに逆ナンされるは、依頼者に惚れられるは・・・・
 本当に毎日が落ち着かない。
 いつも龍生にはヤキモキさせられてるのだ。

 でも本人に対して、直接あからさまに嫉妬を表さない。
 プライドが許さなのだ。
 でも相手が前の前に居るとこうやって牽制してしまう。

 龍生には昔も今も自分だけを追いかけて欲しい。
 龍生に誰かが近づくと浮気に走る。
 そして嫉妬させる。
 実際に浮気はしないが、今は良き多くの友人に協力してもらい、浮気相手になって貰っ
 ている。
 
 嫉妬されるのは嬉しくて仕方ない。
 それだけ自分を愛していてくれると感じられるのだから。
 だから調子に乗ってやってしまった。
 その後の事など考えないで。

「素君だから抱きしめてるに決まってるでしょ。 こんなに可愛いんだから。 抱きしめるの
にも丁度いいし。ほら、腕の中に収まるんだよ。 龍生なんか、可愛くもないし、全然収ま
らないじゃない。 ね〜〜」

 言って素の頬にキスをする。

「くすぐったい」

 クスクスと笑う。
 とても愛らしい笑顔に回りも魅了される。
 とても絵になる二人。
 羨ましいと思っている者もいる。
 ただ一人を覗いて。

「止めろ誌音! 止めるんだ。 今すぐ止めろ!」

 叫ぶ堀田。
 顔は青ざめている。

 こんなに慌てる姿は滅多にない。
 もっと焼き餅を焼かせようと、頬に髪にキスをする。
 クスクスと笑いあう二人。

「誌音、本当にそれ以上は止めろ。 命が惜しければ今すぐ止めろ!」

ん?

 最後の言葉に引っかかる。

命が惜しければ?

 思った瞬間悪寒が。
 全身に鳥肌がたつ。
 見ると素も鳥肌が。

一体・・・・・

「うあっ!」

 素から一気に放された。
 気が付くと龍生の腕の中。

「げっ!」

 見ると目の前に天敵が。
 不機嫌なオーラを発しながら、素を抱きしめていた。

「出たな、この悪魔!」

「誰が悪魔だ」

 声もかなり不機嫌な一ノ瀬だった。
 

「あ、洋人」

 後ろから抱き込まれる素。
 力強い腕。
 広い胸。
 やはり誌音とは違う。
 
「あれほど人に抱きつかれるなと言ってあるのに、お前という奴は・・・・・」

「うげっ・・・・・」

 とても機嫌が悪い。
 見た目だけでなく、声も低く、身体から不機嫌のオーラが溢れ出ている。

 抱きしめられるのは苦手。
 だが、一ノ瀬の腕の中は安心できる。
 但し一ノ瀬の機嫌の良いときのみ。
 機嫌の悪い時には地獄。

 そして今一ノ瀬の機嫌は悪い。
 一刻も早く洋人から離れたい。
 何をされるか分からないから。

 藻掻く。
 藻掻く!

 藻掻けば藻掻く程、洋人の腕には力が入り、絶対抜け出せなくなっていた。
 
 余りにも素が抵抗する為手っ取り早い方法を使う。
 後ろ向きの素。
 片手で顎を掴み後ろを向かせ唇を塞いだ。

「ん! んん・・・・・・・」

こらぁ――――! ふざけるな――――!
外で、人前で何をする――――!

 素の心の叫びは届かない。
 唇の隙間から舌を入れ蹂躙される。

 何だかんだ言っても洋人のキスは気持ちいい。
 次第に頭がボーッとし、回りが分からなくなっていた。

「人前で、こんな公共の場でなんて事を・・・・・。 この恥知らず! 人でなし! 悪魔!
素君を離せ!」

 ギャンギャンと煩い誌音。
 素との甘い一時を邪魔される事ほど嫌なものはない。
 見ると誌音が堀田の後ろに隠れながら叫んでいた。

鬱陶しい・・・・・

 身体からすっかり力の抜けてしまっている素。
 唇を離すと立っていられない状態。
 それを後ろから一ノ瀬が抱きしめ支えていた。
 
 盾にされた一ノ瀬の、鋭い視線を受ける堀田は苦い顔。
 いつもの事だが、誌音は一ノ瀬に遭うと必ず堀田を盾にする。
 そうしないと嫌がらせに合うから。

 物理的攻撃ではなく、視線と言葉の心理攻撃。


・・・・・・・子供か、お前は・・・・・

 青い顔で、震えながら堀田の後ろに隠れ喚く誌音見て思う。
 とても自分達と同じ30歳には見えない。
 容姿もそうだが、その行動が・・・・・
 


 一ノ瀬と誌音の出会いは大学生の時。
 堀田を介してだ。
 誌音は一ノ瀬を初めて見た時から嫌いだった。
 顔はいい。
 性格もいい。
 頭もいい。
 クラスメイトや、教授からは好かれ、信頼も置かれていた。

 だが、本能が告げていた。

あいつは絶対二重人格だ!
絶対に性格悪い!

 警戒し、誌音だけは懐かなかった。
 堀田の事は好きだ。
 その堀田の親友。
 仲良くしなくてはいけないのかもしれない。
 でもしたくない。
 口調は確かに柔らかく、始めの頃は誌音にも優しく話しかけ、接してくれていた。
 誌音は違った。
 始めから口調はけんか腰。
 
 そして遂にその日が来た。

「あまり煩くすると犯すぞ」

 回りの誰にも聞き取れないくらいの声で耳元で囁かれた言葉。
 顔はにこやかに笑っているが、目がマジだった。

犯る。 こいつなら確実に犯る!
やっぱり二重人格だ――――!

 堀田の為にとってある清い身体。
 こんな奴に犯られてたまるか。

 それから為るべく一ノ瀬には近づかないようにしたが、何せ親友同士。
 無理な話。
 それに一ノ瀬の態度も変わった。

 何かと誌音を苛め出したのだ。
 それは堀田との事。

 いろいろな事があったが、付き合い始めた二人。
 その切っ掛けとなったのは一ノ瀬。
 一ノ瀬がキューピット。
 だが悪魔でもあった。
 

「この俺に対して悪魔とは、よく言った」
 
 鋭い目を向けられビクリと身体が飛び上がる。
 そして堀田を前に押しだし守らせようと。

「まあまあ、いつもの事だろ」

 宥める堀田。

「煩い、悪魔を悪魔と言って何が悪い! お前のせいで何度俺達が別れそうになった
事か。 龍生がどんなにモテたかとかしつこく言うし!」

「昔の事だ。 今でもモテテるぞ。 俺としては性格はキツイ、浮気は当たり前のお前と
は是非別れて欲しい」

 意地の悪い顔で、意地の悪い事を言う。

「なんだと! 誰が別れるか! 大体お前が悪いんだ。 好きで浮気なんかするか。 お
前が龍生の元カノ連れて来たりするのが悪いんだ!」

「相手は結婚してるんだ、何の問題もないだろう」

「自分に寄ってきた奴ら押しつけたり!」

「仕事を依頼したんだ、当然だろう」

 毛を逆立怒る猫の様な誌音。
 激昂する誌音を宥める堀田。
 サラッと受け流しながら、誌音の機嫌を逆撫でする一ノ瀬。
 腕の中で唖然とする素。 

そんな事したのか・・・・・・・・
・・・・・洋人、最悪だよ。 性格悪すぎ・・・・・

 洋人とのキスで朦朧としていた素だったが、余りの話しの酷さに、意識が戻る。

 そんな事をされた誌音に同情。
 

 だがそんな事をしたのには理由がある。
 誌音が一ノ瀬に対し反論したり言うことを聞かなか
 った為。

 嫌みな事を言っているが、実は一ノ瀬の言っている事の方が正しかったり、誌に降りか
 かる危険を回避するように遠回しに忠告していたのだ。
 それが理解出来なくて厄介事に巻き込まれる。
 そしてそれを堀田と一ノ瀬が裏で片付けていたのだ。

 その事に気付いていない誌音に対し嫌がらせをしていただけ。
 知らない誌音には一ノ瀬は、堀田と自分を別れさせようとしる悪魔にしか思えないのだ。


「ふん。 そんな事よりお前も誌音も勝手に素に触るな、減る」

 独占欲丸出しの一ノ瀬。
 毎度の事だが、誰かが素に触れる度に言われる言葉。

 最初の頃は「減るか!」と叫んでいた素だが、いい加減疲れた。
 今では何も言わない。
 白い目で一ノ瀬の事を見詰めるだけ。
 
 一ノ瀬と誌音二人が揃って分かった事。
 誌音は嫌っているのではないと・・・・・
 一ノ瀬に至っては遊んでいるという事。

誌音さん、可哀想・・・・・

 自分の事を忘れ誌音に同情する素。


「現に素君の事騙した癖に!」

おお、そうだ忘れてた!

「そうだよ洋人! 騙したってどういう事? チケット元々持ってたの?」

 舌打ちをし、堀田と誌音の二人を見る。
 よくもバラしたなと言わんばかりの非難の目。
 された方は気分が悪い。
 自分達は何も悪い事はしていないし、言ってもいない。
 事実を述べただけなのだ。
 騙した一ノ瀬の方が悪いのだから。
 誌音は頑張って睨み付けた。
 そこから先は堀田が受け継ぐ。
 誌音に嫌がらせをするだけならまだしも、それは自分に来るのだから。
 誌音の浮気という形で。

 堀田にはいい迷惑だ。

「お前、SW社の御曹司から毎年チケット送られて来てるくせに、さも自分が手に入れた
言い方したな・・・」

SW! SWってあの!?

 国内大手の自動車メーカー。
 今では国内だけでなく、海外でも高い評価を得、BMW、やベンツのも負けていないS
 W。
 毎年、このモーターショーに参加している。
 そして今年も。
 
その御曹司と『お友達』!?
 
 車好きな素。
 初めて尊敬の眼差しで一ノ瀬を見た。


 背中から抱きしめられていた素。
 腕の中で向きを変え、正面から抱き合うかたちをとる。
 そして、自分では気付いていないが目をキラキラと輝かせながら一ノ瀬に聞く。

「ねえ、本当にSWの人と友達なの?」

「ああ」

「ホントに? 御曹司っていう事はクラウス・ローゼンバーグの事だよね? 昔はスポーツカ
ーZ−Rのお陰で国内トップまで行ったのに、バブル全盛期調子に乗って車種で、αクラス
だのβクラスだのって店舗分けて失敗して経営難に陥ったヤマシタに救いの手を差し伸べ
て見事復活させたんだよね。 でもドイツのローゼンバーグ財閥の令嬢、御曹司にはお姉さ
んなんだけど、Z−Rが好きだからっていって救いの手を差し伸べたって。 吸収はしないけ
ど、ドイツ本社からCOO(最高執行責任者)として息子のクラウス・ローゼンバーグが来て
立て直したんだよね。 その時まだ24歳だったって。 その時雑誌で読んで尊敬して、凄く
憧れたんだよね。 昔みたいに目を引く車はないけど、でも確実にユーザーを取り戻したん
だよね。 雑誌で特集組まれてたりしてさ。 今月も経済誌に乗ってたな〜。 物事の考え
方、着眼点とかはさすがだよね。 だから33歳なのに社長兼CEO(最高経営責任者)にな
れるんだろうね。 そんな凄い人と洋人知り合いなんだ〜」

 熱く語りきった素に龍生と誌音は半ば呆然。
 車が好きだとは言っていた。
 普通よりは詳しいのだろうと思っていた。
 だが今言った言葉は、違うだろう。
 
令嬢がR−Z好き?

 普通知らないだろう。
 素は眼科勤務。
 医学雑誌は読んでも経済誌は買わないし、読まないんじゃないか?
 それに、COOもCEOなんて言葉も普通の口からは、そんなにスラスラ出ないだろう?
 
いやその前に、当時幾つだよ・・・・

「素ちゃん・・・・詳しいね・・・・」

「え、そうですか? こんなの詳しいうちに入らないですよ」

 首だけ動かし堀田を見る。

「俺知らないし」

 この返事には素が驚く。
 一ノ瀬と知り合いなのだから、堀田も当然友人なのだと思っていたのだ。

「お友達じゃないんですか?」

「俺が?」

 そんな訳ないだろうという態度。
 職業柄色々な人物と出会う。
 一般、財界人、芸能人まで。
 だがここまでの大物とは知り合いではない。

「お友達は一ノ瀬だけ。 俺も誌音も会った事もないよ」

「そうなんですか・・・・・洋人って凄いんだ・・・・・。 あれ? でも、年が違うよね」

 言って一ノ瀬を見る。
 一ノ瀬は30歳。
 クラウスは33歳。
 
「いや、ドイツにホームステイしていた時にたまたま知り合ったんだ」 

「ドイツにホームステイ・・・・・」

 何だか次元が違う。

「高校時代、夏休みを三回程向こうで過ごしてたな。年は違うが、パーティーに顔を出し
てる内に親しくなった」

「はへ〜〜〜〜」
 
 尊敬の眼差し。
 そんな目で見られるのは悪くないのだが・・・

「洋人って凄いんだ〜。 お坊ちゃま〜。 でも、分かる気がする」

 一人頷き納得。
 お坊ちゃまと言ってはみたが、その言葉は非常に違和感が。
 兎に角、家が裕福だったのは間違いない。
 一度連れて行かれた家は、都心なのにかなり大きかった。
 話しが少しずれてしまったので、修正。

「そうそう。 それで俺が車好きになったのは、兄の影響なんです。 兄とは3つ離れてい
るんですけど、高校の時から車とかの雑誌買って読んでたんですよ。 で、兄が一生懸命
見てたんで、一緒になって見てたら何時の間にか好きになってたんです。 車の事も、ク
ラウスさんの事も兄の方が詳しいですよ。 確かその時の雑誌まだ持ってる筈です。 24
歳の若さでCOOになったって凄く興奮してましたから。 あんなに興奮している兄を見た
のは初めてだったから、凄く覚えてます。 それに凄く格好良かったし。 今も凄くカッコイ
イですよね。 収穫前の稲穂色の髪。 太い眉に厚めの唇。 力強い一重の目。 体格の
凄くよくって、肩幅も広くって。 軍服とか似合いそう〜」

 当時を懐かしく振り返り、クラウスの軍服姿を想像したのか、またもや一人頷き納得してい
 る。

他の男を褒め始めるとはどういう事だ!

 それでなくても、あの兄には腹が立つのだ。
 ブラコンもいいところ。
 しかも、クラウスの事をいい男だと言い切るとは。
 ハッキリ言って面白くない。
 不機嫌丸出しの顔になる。
 二人に向いていた素の顔を強引に自分に向ける。 

「素、それ以上言ったら帰るぞ」

「えっ、なんで!? ていうか、首が痛い!」

 何故帰るなどと言われるのか分からない素。
 抗議も聞き入れない一ノ瀬にムッとなる。

 嫌っている兄の事を言われ、クラウスを褒めた事に
 一ノ瀬が気分を害したのだと気付いていない。
 堀田や誌音はその事に気付いているのに。
 
 折角楽しみにして来たモーターショー。
 それを見ないで帰るのは、車好きの素には相当なダ
 メージ。
 だが、ここで素が先に口を開けばケンカになるのは
 目に見えている。
 既に険悪な態度の二人。

 一ノ瀬の事は好きではないが、素の事を気に入った
 誌音が話題を逸らす。

「素君て、お兄さんがいたんだ」

「はい、3つ上なんです。 凄く優しくて頭も良くて、弟の俺が言うのもなんですけど、綺麗でカ
ッコイイんです。 自慢の兄で」

 照れながら笑う素はとても可愛らしい。
 兄の事が大好きで仕方ないという事がとても伝わって来る。

「何してるの? 学生さん?」

「・・・・・えっ?」

学生さん?って・・・・・兄の事?

 何だか嫌〜な予感が。

「お兄さん、凄いね。 そんな昔の雑誌よく手に入ったよね。 今33歳だから9年前の雑誌で
しょ。 手に入れたのが、高校の時なら3、4年くらい前?」

 ニコニコ笑いながら素に話しかける誌音。

・・・・・・やっぱり

 誌音は完全に間違えている。

「あれ? でも、一ノ瀬の恋人って前に聞いた時、25だって言ってたけど・・・・・? あ、でも一
年経ってるから26歳か。 おかしいな〜、どう見ても・・・・・。 名前佐倉素って龍生に聞いた
んだけど・・・・・。 そっか、聞き間違えだ!」

「待て、誌音! その先は――!」

 堀田が慌てて止める。
 年齢は素には禁句なのだ。
 間に合わなかった・・・・

「16歳だ! えっ、16? 一ノ瀬犯罪だぞ!」

 一ノ瀬を見て罵倒した誌音。

ブチッ

「誰が16歳だ―――――――!」

 素が切れた。


 素はご機嫌だった。
 大好きなモータショーに来られた事。
 そしてこの後には、大好きなフルーツを食べに行く予定。
 高級フルーツが待っているのだ。

 だが、ご機嫌になるまでには相当時間がかかったが。


 誌音が考えもせず発した言葉が素の機嫌を最悪に
 したのだ。
 
 素も分かってはいるのだ。
 自分の顔が童顔な事を。
 実際は26歳歳にも拘わらず、その年齢に見られない事も。
 分かってはいるのだが・・・・・・・

「誰が16歳だ――――――!」

 切れてしまった。

 突然切れた素に言った誌音は呆然。
 何故素がこんなに怒っているのかが分からない。
 怒ったとしても、可愛らしい素の顔ではあまり迫力はない。
 子犬がキャンキャン叫んでいる風にしか見えない。
 放っておけばいいのかも知れないのだが、素の事を気に入った誌音としては、何とかして宥
 めようという気持ちが。
 どうしようかとオロオロしてしまう。

 素の方は後ろから一ノ瀬に抱きしめられている為に誌音の元へ行く事は出来ない。
 腕の中で藻掻き「ガルルルル〜」と唸っている。

 一ノ瀬はそんな素を見て微笑ましそうに。
 堀田は額に手を当てて仰いでいた。

「え、なんで16じゃないの。 違うの龍生?」

 堀田に助けを求める。
 
「また言った!」

 誌音の言葉にまたもや反応する素。

え、なんで?どうして????

 オロオロと素と、堀田を交互に見る。
 一ノ瀬は馬鹿にした顔で誌音を見ている。

「・・・・・誌音、その言葉は口にするな。 素ちゃんの機嫌が直らなくなる・・・・」

「え、でも・・・・」

 言うと一ノ瀬が鼻で笑いながら言った。

「馬鹿だ、馬鹿だとは思っていたが、本当にお前は馬鹿だな」

 余りの言いようにカチンとなる誌音。

「なんだよ!」

 一ノ瀬に食って掛かろうとした誌音を、堀田が後ろから抑えた。
 そしてため息を吐く。

「一ノ瀬・・・・・、お前人のこと言えないだろ」

 そう、確かに人の事は言えない。
 一ノ瀬も初対面の時には同じ事を言って素を激怒させたのだから。
 その時の一ノ瀬の宥め方は身体を使って。
 そして、堀田も同じように素の怒りを買った。
 堀田の場合は身体を使って、などという事は出来る筈もなく、暫く口をきいてもらう事も出来
 ず、あの手この手でご機嫌をとり漸く機嫌を直して貰う事が出来たのだ。

 堀田に責められたが、一ノ瀬は知らん顔。
 昔の事など、自分のおかした失敗など、頭に中から消去していた。

「誌音、いいか。 聞いて驚くな」

 堀田の腕の中で暴れていた誌音だが、真剣な口調に身体が止まる。
 そしてゴクリと息を呑む。

「こう見えても、素ちゃんは26歳なんだ」

「嘘〜〜〜〜〜〜〜!?」

26!
こんな可愛い顔で26!?
16歳じゃないのか?
いや、高校生にしか見えないし・・・・・
26歳と16歳。 
10歳も違うし〜

 誌音はパニックを起こしていた。
 だが一ノ瀬も素は26歳だと言った。
 この二人に、時に一ノ瀬にはからかわれた事はあったが嘘は吐つかれたことは無い。
 それにこの素の怒りよう。
 そこで本当に素が16歳ではない事が分かった。
 謝ったが二度にわたり「16歳」と言われた事で、素の怒りは頂点に。
 許して貰えなかった。

 必死に謝る誌音。
 そんな誌音に助け船を出したのは、当然恋人であ
 る堀田だ。
 ここでフォローしなければ、後で自分に誌音の怒りが降りかかってくるから。
 小声で誌音の耳元で「素ちゃんはフルーツと、甘い物が好物だ」囁いた。

 それなら大丈夫、自分も好物だ。

「ごめんね、本当にごめんね。 お詫びに美味しいフルーツ御馳走するから。 知ってた? こ
こから直ぐ近くの舞浜に『千疋屋』があるんだけど。 この後行かない?」

「・・・・・えっ?」

 『千疋屋』という言葉に、一ノ瀬の腕の中で暴れていた素がピタリと止まった。
 フルーツ好きの素には愛して止まない店舗の一つ。
 当然美味しい。
 フルーツだけでなく、アイスクリーム、シャーベット、ジュース、どれをとっても本当に美味し
 いのだ。

 目がキラキラと輝き誌音を見る。
 あまりの変わりように誌音は引いてしまう。
 一ノ瀬と堀田は逆に見慣れており、愛らしく見える。
 それだけこの二人はこの手で素を宥めてきたのだ。
 そして一ノ瀬はこの素の笑顔にメロメロなのだ。

 誌音の後を引き継ぎ、堀田が素のご機嫌を取りはじめる。
 その甲斐もあり素は怒りを忘れ満面の笑み。
 モーターショーにの後には「千疋屋」に決定となった。





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