恋は盲目

(22)






 その日の予定は午後は日高へ移動し、牧場で乗馬を体験する予定
 となっていた。
 だが、移動の途中で相沢の携帯にトマムのホテルで問題が起きた
 と連絡が入り、相沢は戻らなくてはならなくなってしまった。

 このままトマムへ一緒に行くかと聞かれたが、相沢は仕事で戻るの
 だからそれは出来ない。
 戻っても、別行動になるから構わないと言ってくれたが、それでも日
 帰りにはならないだろう。
 行けば必ずそこで一泊はする事になる。
 そうなるとなると、また余計なお金を相沢に使わせてしまう事にな
 る。
 さすがに『これ以上は・・・』と思っていた。
 最初の予定は富良野の別荘で過ごす事になっていたのに、それが
 何をどう間違えたのか、移動移動大移動となってしまった。

 確かに楽しかった。
 小樽運河は情緒溢れていたし、寿司もネタが新鮮で美味しかった。
 サロマ湖では蟹三昧で、暫く蟹は食べなくてもいいかなと思うくらい
 様々な種類の蟹を食べ尽くした。
 霧の摩周湖では霧のかかっていない、美しい姿の湖を堪能出来た
 し、その後世界遺産になっている知床へ行き、その雄大な自然と野
 生の鹿やキツネなども見る事が出来た。
 阿寒湖ではマリモも観察したし、こうしてまた牧場へと来る事も出来
 た。

 こうして振り返ってみると、様々な観光地へと連れて行って貰い北
 海道の特産物を食べ尽くして来た。
 それら全ての支払いが相沢。
 困るから少しくらいは受け取って欲しいと言ったのだが、相沢は決し
 て受け取らなかった。
 敬達に至っては財布を出す仕種すらない。

こいつらどういう神経してるんだ?

 呆れてしまう。
 トマムへ一緒に行けば、相沢が全ての支払いをするのは目に見え
 ている。
 とてもではないが一緒になど行ける筈もない。
 本当の事を言えば、「子供がそんな遠慮するな」と相沢は言うだろ
 う。

 もう充分北海道は堪能した。
 まだ一週間は経っていないが、このまま東京へ帰ってもいいのでは
 ないかと今は本気で思っている。
 だが、敬は一週間と言ったら、一週間経たないうちは東京には戻ら
 ないだろう。
 自分の言った事に対して、間違った事ではない限り、決して発言を
 訂正しないのはこれまでの付き合いで良く分かっている。

 やはりここは富良野に戻るべきだろう。
 富良野に戻れば別荘があり、余計な宿泊費はかからないし、かかる
 のは自分達の食べる食費くらい。
 移動するとしても自転車がある。

富良野に戻るしかない

 稔は説得に入った。
 
「相沢さんに、色々な所に連れて行って貰ったのも凄く楽しかったんで
すが、一カ所でゆっくりするのも色々な発見があると思うんです。 残り
はまた富良野に戻って、まだ見ていない富良野を見たいと・・・・。 そ
れに、今度こそ流れ星を見つけてに願い事をしたいんです。 だから・
・・・」

「了解。 富良野で下ろせばいいんだろ」

 最後まで言わずとも、相沢は稔の気持ちを理解してくれた。
 あれだけ良くして貰ったのに、申し訳なく思う。
 今日で離れてしまうが、相沢には東京に戻ってから敬に連絡先を聞
 きお礼をしようと思った。
 直接相沢に聞いても、相沢は稔が何を考えているのか気付いてし
 まい「子供がそんな気を遣うな」と言って終わらせる事は目に見えて
 いるから。

「すみません」

 頭を下げる。
 
「いいかな、敬、恭夜」

 北海道に誘って貰いながら、勝手に残りの旅行先を決めてしまっ
 た。
 悪いとは思うが、稔にも譲れない部分がある。
 敬達を見詰めると、彼等はあっさり了承してくれた。

「構わないよ」

「俺も。 稔さんが一緒なら何処でも構わない」

 恭夜の最後の発言は聞かなかった事にして、稔は彼等に頭を下げ
 た。

「ありがとう」

「じゃ、行き先も決まった事で、移動するか」

 新冠をそのまま通り過ぎ千歳まで移動した。
 富良野へ寄ると言ったが、地図を見ると富良野に寄ってはかなり遠
 回りになってしまう為、千歳空港駅で下ろして貰う事にした。
 
 途中、敬が初日車で迎えに来た男に連絡し千歳まで迎えに来させ
 ようと言い、携帯で連絡を入れようとしたが、稔はそれを止めた。
 折角だから電車で移動しようという事になり、千歳から電車で移動
 する事になった。

 全く文句を言わない二人に相沢はやはり驚いた。
 丁度この時間帯だと、富良野に行くには最低4回は乗り換えをしな
 くてはならない。
 これ程面倒で時間の無駄な事はない。
 二人もそれが分かっているから、普段は空港から車で富良野まで
 移動しているのだ。

 なのにそれを口にはせず、稔の言葉を優先し電車での移動を了承
 した。
 この数日、彼等と共に行動をし、異常なまでの稔への執着を見て
 馴れたと思っていたのだが甘かった。
 だが相沢も余計な事は言わず、千歳空港駅で彼等を下ろした。

「気を付けて行けよ」

「はい、相沢さんも気を付けて。 とても楽しかったです。 お世話に
なりました」

「おう、また会おう」

「はい」

 走り去る車が見えなくなるまで見送った。

「じゃあ、俺達も移動しよう」

「ああ、そうだね」

「行きましょう」

ここまで来てても、東京には戻れないんだよな・・・・

「何か言いました」

 ボソリと呟いた言葉だったが、恭夜に聞こえたらしい。
 何でもないと言って、荷物を持ち駅へと入って行った。





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