恋は盲目

(21)






 確かに今日一日で既に3度もキスをしていた。
 だが回数の問題ではない。
 何故、恭夜とキスをしなくてはならないのか。

どうして、恭夜は何度もキスをしてくるんだ?

 稔は男で、恭夜も男。
 男同士でキスをするなど、罰ゲームでなら分かる。

 思い出したくはないが、男同士でセックスが出来る事も経験した今
 では、男が男に対して欲望を抱くという事も知った。
 稔には考えられないが。

 しかし、自分は実際に欲望の対象となってしまった。
 近寄りがたい程の美しい容姿を持つ敬なら対象に見られるのも分
 かるが、どう考えても自分は十人並みの容姿でしかない。
 
「と、とにかくキスは駄目だ。 男同士でキスだなんておかしい」

 恭夜には悪いが、思いだしてしまった為に悪寒が。
 全身に鳥肌が立つ。
 今でこそ触れられる事には馴れて来たが、今のようにあの悪夢の
 ような出来事を思い出すような仕種があると、体が先に人を拒絶し
 てしまう。
 本格的に震え出す前に、さも当たり前のように、肩を抱く恭夜から抜
 けだし、反対側の扉に背中を押しつけた。

 この稔の拒絶する態度に、車内の空気が凍り付く。
 恭夜の気配が変わったから。
 だがそれは一瞬で消えた。
 それに気付いたのは前にいる二人のみ。
 相沢はヒヤリとしたが、ミラーで見る恭夜の顔がまだ穏やかであり、
 敬も特に口出ししないようであったので、そのまま運転を続けた。

 拒絶される事は癇に障るが、恭夜に犯された時の事を思い出した
 のか、稔の顔色が悪い。
 男同士の恋愛を否定する稔をこれ以上刺激しては、この先やりにくく
 なる。
 自分で播いた種とはいえ腹立たしい。
 敬を伺うと鼻で笑われた。
 まるで自業自得だと言われているようで、苛ついた。

 この場で暴れ出したくなったが、それでは稔を怯えさせてしまうし、本
 性も、最悪であれば正体までもばれてしまう。
 それだけは避けたいし、今はまだその時でもない。
 
 確かに稔は恭夜に心を許し始めてはいるが、まだ完全ではない。
 敬の弟だから受け入れているという、微妙な時なのだ。
 弟ではなく、恭夜という人間として見て貰えて、始めて稔に受け入れ
 て貰えた事になる。

今はまだ、我慢だ・・・・

 青ざめている稔に対し、恭夜はニコリを笑って見せた。

「すみません、俺、海外生活が長かったんでついその時の癖が・・・。
稔さんも友人や、家族のように思えたのでつい・・・・」

 そう言って頭を下げる。
 海外生活が長かったのなら、その過剰なスキンシップも納得が出来
 る。
 テレビなどで見る海外のドラマ・映画では皆気軽に抱き合ってキスし
 いているではないか。

「・・・そうか、そうなんだ。 ごめんな、海外生活が長かったのなら、当
然だよな」

「いえ、いいんです」

 少し寂しげに笑う恭夜だが、これは当然演技。
 こうする事によって、稔へ罪悪を植え付け今まで以上にスキンシップ
 しようという計画。
 稔はまんまとそれに嵌った。

「ホント、ごめん。 でも凄く嬉しいよ。 恭夜が俺の事そんな風に思っ
てくれてたなんて。 ホントの事言うと、俺、人に触られたりするの苦手
なんだ。 だから調子が悪くなったりすると、つい人肌が気持ち悪くな
って。 今もちょっと、気持ち悪くて。 でも、もう大丈夫だから。 こっち
こそごめん」

 体を元の位置まで戻し、頭を下げる稔を見て恭夜はほくそ笑んだ。
 ここまでお人好しだとは思ってもいなかった。
 恭夜の言葉を鵜呑みにする稔が愛おしい。
 これが別の者であれば蔑むところだが、これも惚れた者に対する欲
 目。

「いいんです。 でも馴れて下さいね」

「・・・・恭夜」

 あくまでもスキンシップは止めないらしい。
 リハビリだと言って、手を繋いでくる恭夜にため息を吐いた。

 こんな二人の遣り取りに、前にいる二人が呆れていた。
 まず恭夜に対しては、よくまあそんな嘘がつけるものだと。

海外生活が長い?

 確かに海外には行った事はあるが、それは家族旅行。
 大抵は一週間で、一番長くても2週間。
 長期で海外にいた事などない。

それに、友人や、家族に親愛のキス?

 乳幼児の頃にならした事くらいはあるだろうが、物心ついてから、恭
 夜がキスをしたのはベッドを共にする相手くらい。
 家族に、敬にキスなどした事もない。

されたくもないけどね・・・・

 心の中で敬はボソリと呟いた。
 
 相沢にしても、ここ数日共に行動していたから恭夜が今何を思って
 いるのか分かるが、そうでなければ何を企んでいるのかと疑ってか
 かっただろう。
 また何か悪い遊びでも考えついたのではないかと。

 だが今の恭夜は分かりやすい。
 稔をどうやって手に入れるか。
 それだけしか考えていないのが分かる。
 兎に角稔が一番の状態。
 
 敬のように、顔が美人という訳でもない。
 確かに整ってはいるが、普通だろう。
 性格は真面目で、融通が利かない。
 良い子には間違いないのだが。

しかし、こんなに素直でどうするよ・・・・

 余りにも簡単に恭夜の演技に騙される稔が心配だ。
 まあ恭夜が、あれ程いい人を演じているのだから騙されるのも仕方
 ないかもしれないが。

 稔の何がそこまで恭夜を、敬を惹き付けるのだろう。
 だが、恭夜は確実に、これ以上ない執着を見せている。
 敬にしても恋愛感情はないが、恭夜同様執着を見せている。
 
 まあ、本気で誰かを好きになれば、相手がどんな顔で、何をしても
 気にならないのだろうが。
 痘痕も靨。
 恋は盲目という事だ。





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