恋は盲目

(19)






 恭夜の腕が急に重くなった。
 見ると稔の顔が真っ青で、冷や汗を掻いている。

「稔さん!」

 恭夜の焦った声に敬達に緊張が走る。
 
「稔、どうした!?」

「いかん、貧血起こしてるぞ」

「どうして急に・・・・・・」

 恭夜が稔を抱き上げ事務室に駆け込む。
 事務室の横の休憩室のベットを借り稔と横たえる。
 血の気の引いた蒼白な顔。
 流れる汗を丁寧に拭う恭夜。
 片手は稔の手をしっかりと握りしめていた。

「稔さん・・・・」





『ねえ。 やらせてくんない?』

 体を這い回る手。

嫌なのに!

 嫌で堪らないのに体が熱くなり、自分の意志とは関係なく高まって行
 くなんて。

『ああ・・・・・・ん・・・・いいっ・・・・・』

 こんな声を出しているのが自分だなんて!
 
嫌だ、嫌だ、嫌だ!
誰か助けて!

 稔は暗闇の中で必死に助けを求めた。
 あの時は誰も助けてくれなかった。
 今も当然稔を助ける者などいる筈がないと分かっていても、助けを求
 めずにはいられない。

『お前は俺のもんだ、逃がさないからな』

聞きたくない!
 
『もし逃げても必ず捕まえる。 必ずだ』

 稔を呪縛する囁き。
 そんな囁きを稔は知っている気がした。
 
誰だ?

 必死でその声の人物を思い出そうとする。

分からない、誰!?


稔さん!

誰?

稔さんしっかりして下さい!

 必死な声で呼ぶのは誰なのか。
 それと同時に、体の中に温かさが広がって行く。




「稔さん!」

「恭夜」

 その声に振り返るとスポーツドリンクを渡された。
 だが、今の稔には自力でそれを飲み下す事は無理。
 恭夜は冷えたそれを口に含み、稔に口づけた。
 息苦しさの為に開かれていた唇。
 そこから流し込む。
 稔がそれを飲み込むまで、唇は離さなかった。
 暫くして飲み込まれ、今度はもっとというように、恭夜の唇の中に稔の
 舌が入り込む。
 柔らかい舌の感触にゾクリとなる。
 貪りたい気持ちに駆られるが、理性で押さえた。
 一端唇を離し、スポーツドリンクを含み、また稔の口へと流し込む。



・・・・・喉、乾いたな・・・・

 すると体に中に冷たく、求めていた物が流れ込んできた。
 
足りない・・・・
もっと、もっと欲しい。



「稔さん・・・・・」

「もっと・・・」

 その言葉に恭夜は同じ行動を3度繰り返した。

「ふぅ・・・・」

 大きなため息を吐く稔。
 目は閉じたまま。
 顔には血の気が戻っていた。

 艶めかしい吐息。
 口の中から覗くピンク色の舌。
 汗に濡れた前髪。
 全てが恭夜を誘っていた。

 今度は何も含まず稔にキスをした。
 開かれている唇の間から、舌を潜り込ませ稔の舌を絡め取る。
 
 暫くぶりに味わう稔の唇。
 旅行に来てからの軽くかすめるようなキスとは違い、今は思い切り稔
 を味わう。
 柔らかくふっくらとした唇は恭夜の欲情を誘った。
 絡め取った舌は温かく、交わされる唾液も甘く感じる。

 今まで青ざめていた顔に血の気が戻り、ほんのり色づいた頬は扇情
 的。
 時折漏れる声も恭夜を刺激した。
 周りには敬も相沢もいた。
 倒れた稔を心配し、事務所の職員も一人いたが全く気にならない。
 
 いきなり始まった男同士の熱いキスに、事務所の職員は驚き青ざめ
 ていた。
 

 稔の意識は完全に戻った訳ではないが、何か体が気持ちいい。
 遠くの方で何か聞こえる。
 それが何なのか意識を向けると甘い声が。

なんだろう・・・・

 さらに意識を近づける。
 とても近くから聞こえて来る。

「ん・・・・・・」

 この声は・・・・・

俺!?

 重い瞼を開けると間近に恭夜の顔が。
 稔の瞳が思い切り開かれる。
 同時に体もビクリと反応。

 すると恭夜の顔が稔から離れた。
 
 今のはキスなのか?
 それもそうだが、何故自分は恭夜とキスを。
 周りを見回すと先程とは違う建物の中。
 部屋は狭く、自分はベットに寝ている。
 敬と相沢の他に見た事のない人物。
 その男は蒼白な、引きつった顔。

 視線を恭夜に戻す。

「意識が戻ってよかった」

「俺・・・・?」

「貧血を起こして倒れたんですよ。 ここはマリモセンターの事務所で
す」

 逞しい恭夜に抱きしめられ、嫌な事を思い出し急に意識が遠くなった
 事を思い出した。
 恭夜とあの男は別人なのに。
 本当に申し訳ないと思った。
 敬や相沢にも迷惑をかけてしまった。

「ごめん」

「いいんだよ稔。 もう体は大丈夫なのかい?」

「うん。 あの・・・・ところで・・・・・・」

 どうして自分は恭夜とキスしていたのか?
 聞きたかったが聞けない。
 視線を彷徨わせる。

「喉乾きませんか?」

 恭夜がスポーツドリンクを差し出して来る。
 飲みかけだったが稔は気にする事なく受け取り飲む。
 少し温めだったが、それは体に心地よく吸収されていった。
 飲んでいる途中相沢が稔に言う。

「いや、マジビックリした。 顔は蒼白だわ、冷や汗かいてるわ。 恭夜
がそれ飲ませたら落ち着いてきたみたいだったけど」

飲ませた?

 そういえば苦しかった時、体の中に冷たい物が流れ込んで来たよう
 な。
 どうやって飲んだのだろう。

 その疑問がどうやら顔に出ていたらしい。
 相沢の顔を見るとなにやらニヤニヤとしている。

「飲まないもんだから恭夜が口移しで飲ませたんだが、飲む飲む。 足
りなかったみたいで『もっと』とか強請る姿なんか色っぽくって、おじさん
ドキドキしたね」

「ぐふっ!」

 その言葉に喉を詰まらせた。





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