恋は盲目

(18)







 少し離れた場所から鹿の写真を撮る稔。
 思った以上に人慣れしているようで、2m位の距離に近づいても逃げ出
 さない。
 折角なので交代で鹿をバックに記念撮影。
 
 最中にキツネまで登場。
 これもまた人慣れしていた。
 相沢から絶対に触るなと言われたので、可愛かったがその言葉に従
 った。
 なんでも「エキノコックス」という恐い病気があるからと言われたため。
 
 そして写真を撮った稔達は車で目的地まで。
 山の中を走ってきたのにも拘わらず、人が多かった。
  
 滝は割と大きい。
 天然の温泉はその滝を上って行くとの事。
 足下が滑りやすいので、上る人用に無料のワラジが置いてあった。

 行ってみたいのは山々だったが、そこまでして行かなくてもいいのでは
 と、上る事なくその場を後にした。

 そして今度こそ阿寒湖へ。
 
 阿寒湖と言えば「マリモ」。
 稔の頭の中にあるのは、お土産の瓶に入っている小さなイメージが。
 実際、阿寒湖の周りの土産物屋では大小の瓶に入ったマリモがイッパ
 イ。
 ショックだったのは、店の前で店員が藻を丸めていたのを見た事。
 
 何をしているのか、気になった稔が相沢に聞くと「ああやって丸めて、瓶
 に入れて売ってるんだ」と説明してくれた。
 瓶に入ってるマリモは、湖の物を取って売っていると思っていたのに。
 天然物だと思っていたのに。
 買うのを止める事にした。

「さあ、船に乗るぞ」

 ショックを引きずりながら船に乗り込む。
 
「・・・・・・・なんで、船なんですか・・・」

 暗い。
 暗すぎる。

「稔・・・・ショックなのは分かったから、そこまで落ち込むなよ。 もっといい
もん見せてやるから、な?」

 相沢がご機嫌を取る。

「そうですよ、驚くかもしれませんよ」

 恭夜はご機嫌をとるわけではないが、稔が見たらきっと 驚きはしゃぐ
 事を見越して言う。

「そうだな」

 敬にまでにも言われた事に、まだ見ぬ「良い物」に元気になって来る。

「なあなあ、そんなに良い物なのか?」

「勿論。 稔は喜ぶよ」

 先を見ると島があった。
 皆が良い物と言うからには、かなり期待がもてる。
 ワクワクする気持ちが抑えられず、島に着くと自ら恭夜の手を取り船を
 下りた。
 そして、敬達を急かし建物の中へ。
 中には大きな水槽。
 その中には大小様々なマリモが。
 大きな物は30cm。
 3人が思った通り、稔は一人はしゃいでいた。

「見ろよ恭夜。 凄く大きい! うあ〜、凄い。 あっちにも! みんな早く」

 目をキラキラ輝かせ、皆を急かす。
 その姿が微笑ましい。
 周りにいる者達も、稔の無邪気さに笑っている。
 そして、稔を取り囲む者達を見て息を呑む。
 
 中性的で冷たい美貌の敬、精悍な顔立ちの恭夜、3人よりは年齢は行
 っているが、それでもかなりいい男の相沢。
 とても目立っていた。
 
 その周りの視線に気付く稔。
 皆が見惚れる様を見て嬉しかった。
 誇らしくも思った。
 同時に不思議にも。
 恭夜の顔をそっと見つめる。

どうして、こんな俺に優しくしてくれるんだろう・・・・・

「どうかしましたか?」

 稔の視線に気付いた恭夜が、微笑む。
 
「あ・・・・・うん。 なんでこんなに優しくしてくれるんだろうと思って・・・・・
・。 俺なんかにさ」

 その言葉に眉間に皺を寄せる。

全く分かっていない・・・・・

 ため息を吐く。

「いいですか、稔さん。 俺なんかという言葉は二度と口にしないで下さ
い」

「でも・・・・・」

「でも、も言わない。 稔さんには稔さんにしかない魅力が沢山あるんで
す。 この気難しい敬が稔さんの事を気に入っているんですから、もっと
自分に自信を持って下さい。それに俺も稔さんの事を気に入っているん
です。 好きなんですから」

「そ、そうか」

 恭夜の迫力に頷く稔だった。 
 
「誰が気難しいって」

 振り返るとそこには敬が。
 微笑んでいたが、何処か薄ら寒いものが。

「お前に決まっているだろう」

 鼻で笑う恭夜。
 稔に話す時とは全く違う口調、態度、雰囲気。

「恭夜?」

 不安になる稔。

「そうだろう、昔からお前は気に入らなかった相手には容赦はないし、近
寄って来られるのも全て切っていただろう。 唯一はこの人だけだ。 そ
うだろう」

「それがどうした。 他人なんて鬱陶しいだけだ。 勝手に纏わり付いて、
面倒くさいから、俺が何も言わないのを良い事に優越感に浸って他の奴ら
を排除して。 良い迷惑だ」

敬もなんかいつもと違う・・・・・

 別人な二人の態度に唖然と固まる稔。

「それに比べて、稔は素直で優しくて奥床しい」

 稔に近づき抱きしめる。

「ただ、自分に自信のない所が欠点だ。 この俺が側にいる事を望んだ
のは稔だけなんだから。 もっと自分に自信を持っていいんだ」

 額を合わせ瞳を覗き込む敬の瞳は優しかった。
 言われた内容は恥ずかしかったが、そういう風に思っていて貰えたと
 知って嬉しかった。

 以前は違ったが、ここ1年の稔は暗く、いつもおどおどして人を寄せ付
 けない態度だったのに。
 そのせいで多くの友人達が離れていっただけに敬の言葉は嬉しかっ
 た。
 涙が出てしまった。
 敬に思い切り抱きついてしまった。

「ほら稔泣きやんで。 泣きやまないとキスするよ」

 もの凄い勢いで敬から放される稔。
 次の瞬間には恭夜の腕に収まっていた。

「人の物に勝手にキスしようとするな!」

「おや? 稔はいつから恭夜の物になったんだ?」

 「チッ」と舌打ちする恭夜。
 稔はただ恭夜の腕の中にいた。
 
 中3とは思えない体格の良さ。
 広い胸。
 
 その時急に去年の光景が蘇る。
 自分にのし掛かる若い男。
 嫌だと言ったのに、抵抗したのに敵わなかった自分。
 体に震えが走り、目の前が暗くなる。
 話している恭夜達の声が遠くなって行く。





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