恋は盲目

(15)







 今までにない衝撃。
 確かに恭夜は女癖が良くない事は知っていた。
 しかし、いつも女の方から寄って来ていて、合意上。
 どんなに素行が悪くても強姦する事など今まで一度もなかった筈なの
 に。
 それを・・・・・

「お前・・・・・・」

 口の中がカラカラで、何を言っていいかも分からない。
 相沢も若い頃にはそれなりに、悪い事もしてきた為に多少の事では動
 じないつもりだったが。
 誰かを強姦した事はなかったし、周りにもそんな奴はいなかった。

「ラブホで一晩中犯し続けてさ、さすがに次の日の朝熱出したからタクシ
ーで家の病院に連れてったんだが、ちょっと目を離した空きに逃げやが
ったんだ」

 舌打ちをして稔を見る。

「まあでもこうやって見つけたからには、今度は逃がす訳ないがな」

 楽しそうに獲物を見る目になっていた。
 敬は不機嫌そうに恭夜を見ていた。
 そんな敬を見て相沢は気になった。
 稔は敬にとっても、お気に入りの筈。
 恭夜の告白を聞いても特に驚いた様子もない。
 知っていて、稔の側に許しているのか。
 そうでなければ、弟とは言え排除するのではないか。

「相沢さんの言いたい事は分かりますよ。 何故俺が許しているのかと」

「ああ、お前なら弟とはいえ、容赦はないだろうからな。 まあ、恭夜の
方も黙ってはいないし。 それが何もなく仲良くしてるんだ・・・・・」

 少しため息を吐く敬。

「本当なら側に置いておきたくはないですがね。 稔の人間恐怖症の元
凶ですから。 それに気づいてはいないとはいえ、稔は既に恭夜の事を
受け入れているんです。 会って2回目なのにも拘わらず俺が一緒では
なくても、話し、笑う事が自然にできたんです。 実際の事を知っても、稔
は恭夜を憎んだり、離れて行く事はないでしょう。 恭夜も稔の事だけは
真剣ですから」

 相沢には信じられなかった。
 自分を強姦した人物を憎まず、受け入れる事の出来る人間がいる筈
 ない。
 それなのに、稔は許し、受け入れるというのだ。
 首を横に振る。

「・・・・・そんなお人好し、見た事ねえよ」

「あなたには信じられなくても、稔は一端心の中に深く入れた人物は許
してしまえるんです。 俺や恭夜には絶対に出来ない事ですね。 だか
ら惹き付けられるんです」

「俺には分からん・・・・・」

「別にあんたに分かって貰う必要はない。 此奴の良さは俺達だけが
分かれば良い事だ」

 稔を見つめながら恭夜が言う。

「俺達だけがだ・・・・・」

 恭夜の、稔への執着を目の当たりにしそれ以上は何も言わない事に。
 稔の存在がこの二人、特に恭夜にとりいい方向へ向かっている事は
 確かなのだから。
 
気の毒だがな・・・・・・
 
 これ以上話す事もないし、稔もすっかり寝込んでしまったので、飲み会
 は終了となった。
 壁側に恭夜、その横に稔、敬、相沢という感じで四人が仲良く並んで
 布団に。
 寝る位置で少し、といっても恭夜と敬だけなのだが、揉めた。
 敬と恭夜、二人とも、稔を一番端にし、その横に自分が寝るのだと。
 結局どちらも引かなかった為、稔を挟んで両脇に二人が並ぶ事で決
 着がついた。
 あまりにも低次元な争いに、相沢は頭を抱えた。
 こんなに子供っぽい二人は見た事がない。
 同時に微笑ましくも思った。
 
なんか、可愛いじゃねーか

 次の日の朝、誰よりも早く起きた相沢。
 何気なく視線を稔達に向けると・・・・・

「うげ!」

 狭い稔の布団に入り、はみ出し寝る二人の姿が。
 恐る恐る布団を捲ると、稔の左腕に腕を絡め寄り添う敬。
 右側から、腕、足で稔を抱き込む恭夜の姿が。
 稔は眉間に皺を寄せ、とても苦しそうな表情で寝ていた。

「半端じゃねえよな、此奴ら・・・・・」
 
 改めて、激しい執着を感じた相沢だった。




「稔さん、いい加減機嫌直して下さい」

 昨夜と同じ席で、朝食を摂る稔達。
 ただ違うのは、稔の機嫌が悪い事だけ。
 稔は恭夜を「キッ!」と無言で睨み付け、黙々と食べていた。

「お前が悪いんだぞ、恭夜」

 敬の言葉に、隣に座っている相沢も頷く。

「爽やかな朝の挨拶なのに」

 少しふて腐れて言う恭夜。
 黙っていた稔が箸を置き、恭夜に文句を。

「俺に抱きついて寝ていた事は、百歩譲っていいとして許す。 最初の
日も二人で同じ様に俺に抱きついて寝てたからな。 あれはあれで驚
いたけど・・・・・今日は2回目だから馴れた。 でも今日のあれは許さ
ないぞ!」

 話しながら、最後の方には声も大きくなってしまう。
 それも顔を真っ赤にしながら。

「あれ、ですか?」

「そうだ、あれ、だ!」

「あれ、ってなんですか?」

 机の上に置かれた稔の手が震える。
 顔も更に赤くなっていた。

「あ、あれ、と言ったらあれなんだよ!」

「まあまあ、稔さん落ち着いて下さい」

「お前がそれを言うのか・・・・」

「・・・・・恭夜、稔をからかうな」

 黙って二人のやり取りを聞いていた敬が口を挟む。

「それに、稔が怒るのも無理ないだろ」

 恭夜を非難する。
 敬もムッとしていたから。



 事の始まりは、稔の寝起きから。
 余りの寝苦しさに目を覚ましたのだ。
 とても狭い所に閉じこめられている夢を見た。
 『早くここから脱出しないと!』と焦っている時に目が覚めたのだ。
 ホッとしたが、やはり狭かった。
 顔を左に向けると敬の寝顔が。

またか・・・・・・

 北海道、初日の朝を思い浮かべる。
 やはり同じように、別のベットで寝ていた筈の敬が自分の横で眠って
 いたのだ。

という事は・・・・・

 右を向くと恭夜の顔が。
 身体の大きな男二人に抱きつかれれば、狭くて寝苦しいのは当然だ。
 当時と違うのは、恭夜は既に起きていた事。
 稔の事を優しそうな目で見ていた。
 ボーッと『やっぱり格好いいな・・・・・』『もてるんだろうな』と見ていた。
 その顔が、もの凄くアップになったと思ったら「チュッ」っという音と共
 に離れていった。

な、何が起こった・・・・?

 呆然と恭夜の顔を見る。
 
「お早うございます」

 爽やかな笑顔だ。
 今のは気のせいだろうか等と思うくらい、何もなかった様な顔。
 無言で、ただひたすら見つめていた。

「稔さん、起きてますか? お早うございます」

 やはり無言なままの稔。

「目を開けたまま寝てるんですか? 器用ですね、じゃあ・・・」

 言ってまた稔に「チュッ」と。
 さすがに今回は早かった。

「うわぁ――――――っ!」

「ブゥ――――――ッ!」

 横で稔の腕にしがみついて、まだ寝ていた敬が飛び起きる。

「どうした!稔?」

 稔を見ると顔が真っ赤で、口をパクパクとさせていた。
 周りを見ると、とても機嫌の良さそうな恭夜が稔の横に座っていた。
 相沢を見ると、飲んでいたお茶を思い切り吹き出したらしくせっせと
 畳を拭いていた。

「恭夜・・・・・お前、何をした・・・・・・」

「朝のご挨拶です。 ね、稔さん」

 真っ赤になって、震える稔。
 手元にあった枕を掴み、力強く恭夜にぶつけた。

「稔さん、痛い・・・・・・」

「当然だ!」

 稔は怒りながら部屋を出て行った。
 
「・・・・・恭夜・・」

「つい我慢が出来なかった。 俺もまだまだだな」

「そういう問題か?」

 相沢が突っ込む。
 敬は頭を抱えていた。

 出て行った稔は、とても怒っていた。

「あいつは一体何を考えているんだ。 よくもあんな、キ、キスを・・・・・・」

 ひとしきりブツブツと文句を言っていたが、ふと気付いた。

なんで俺大丈夫なんだ?

 一端は部屋を出たが、パジャマ姿なのを思い出し、仕方なく部屋に戻
 った。
 
「お帰りなさい」

 恭夜に声を掛けられても、チラッと見ただけで無視。

俺は怒ってるんだ!

 その雰囲気を身体全体で表す。
 が、当の恭夜は全く気にせず、クスリと笑い、話しかけてくる。
 またその態度がカンに障る。

口なんかきくもんか!

 それは、食堂に行き食事の途中まで続けられ、今に至る。





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