恋は盲目

(12)







 移動距離はかなりあるのにも関わらず、思った以上に早くに着きそう
 だ。

 小樽運河を見る事が出来ても店や寿司屋が開いていない。
 やはりここまで来たら寿司は外せない。
 天気もいいので、ドライブがてらその先まで行き、神威岬まで行きロー
 ソク岩を見て恭夜と写真を撮り、小樽へと戻って来た。
 やはり時間は早かったが、少し散策していればあっという間に時間も
 過ぎるだろう。
 一旦相沢とは別行動に。
 小樽運河は既に観光客が大勢いた。
 敬と恭夜の二人はとても目立つ。
 一緒に男三人で歩いていると、逆ナンして来る女が後をたたなかっ
 た。
 高校生からOLまで幅広い年齢層。
 二人はすげなく断り続けた。
 中にはかなりしつこい者もいたが、恭夜が睨み付ける事でスゴスゴと
 離れて行った。
 稔は自分には関係のない事と、景色を見ていたので恭夜の睨んだ顔
 は見ていない。
 
「二人とも凄いな。 どんどん女の人が寄って来て」

 関心する稔に、さも嫌そうな顔をする二人。
 
「あんな奴らに寄って来られても迷惑です」

「どうして。 レベル高いだろ」

「見かけだけ磨いて中が全く磨かれていないからですよ」

 一言しか交わしていない、それも「あの」「ねえ」だけ。
 良く解るものだ。
 関心を通り越し呆れてしまう。
 それだけ多くの女達と過ごしているのだろう。
 嫌みとかでは無く自然と口から言葉が出る。

「ふ〜ん。 それだけもてて遊んでるって事なのか」

 当たっているだけに何も言えない。
 しかしそれは稔に会うまでの事。
 それ以降少しは真面目になっている。
 最低限だが。

「いいえ、知らない土地だからといって羽目を外して来る相手は頭の悪
い女でしょ。 旅行先での危険性を理解していない。 それに女から口
説かれるのも好きじゃないんで」

「そうだな、最近は海外だけじゃなくて国内でもいろんな事件が起きてる
もんな・・・・・・。 悪かったな」

 考えも無く恭夜を侮辱してしまう発言をしてしまった。
 いくら顔が良くても相手はまだ中学生。
 髪の毛も真っ黒、言葉遣いもとても丁寧。
 何処からみても優等生なのに。
 すっかり落ち込んでしまった。

こうも素直に謝られ、信じられるとは・・・・・・

 真面目そうな外見と、丁寧な言葉遣いは思った以上の効果をはたし
 た。
 二人揃って苦笑した。

「いいえ、気にしないで下さい。 そろそろ店も開きますから行きましょう」

 肩を抱き歩き始める。
 オルゴール館・硝子館・からくり館などを回っていると、敬の携帯に相
 沢から用が済んだと連絡が入った。
 途中で待ち合わせをし、寿司でも食べようという事になった。
 時計を見ると11時を過ぎていた。
 少し早いが、混む前に済ませる事に。
 稔のお腹も寿司と聞いた途端に鳴り二人に笑われた。

 待ち合わせ場所に行くと既に相沢が待っていた。
 寿司の街と言われるだけあって小樽の街には沢山の鮨屋があった。
 その中でもお勧めだと言われる所に入り、堪能する。
 お勧めと言うだけあって、どのネタも新鮮で美味しかった。
 一度食べたが、その時は消毒臭くて食べられずに大嫌いになったウ
 ニ。
 三人から絶対に美味しいからと勧められ、恐る恐る食べてみた。
 「あの時食べた物は何だったのか」と思うくらい全く違う味。 
 濃厚だが甘くとろける様な旨さだった。
 ウニの虜になった稔だった。
 お腹いっぱいに食べ、満足しその日はそのまま富良野へ帰った。
 
 相沢とはその日一にだけかと思ったのだが、まだ他のホテルを回る
 からと言って、結局最終日まで行動を共にする事に。
 足がある事はいいのだが、仕事の邪魔になるのでは。
 言ってみたが、現地では別行動になるのだから関係ないと言われ甘
 える事にした。
 実際は、相沢がとても真面目で丁寧な稔を気に入った事と、稔に一生
 懸命尽くし世話をする恭夜を見たいだけだった。
 何時も不貞不貞しく、子供らしくなく、蔑んだ目態度しか見たことがな
 い恭夜の事をもっと見たかったのだ。
 それだけ自分には価値のある物だった。

 部屋も余っていた為、結局相沢は別荘に泊まる事になった。
 それを最初に言った瞬間、恭夜は稔には分からないように、しかし相
 沢に対しては露骨に嫌な顔をした。
 相沢が残った理由が手に取る様に分かるから。
 夕食は当たり前だが恭夜と敬が作った。
 相沢も稔同様料理が全く出来ないから。
 二人が料理を作る事に驚き、そしてその美味しさに目を見張ってい
 た。
 そして一言。

「お前ら意外だな・・・・・・」

 当然その言葉に兄弟の視線、態度は冷たかった。
 翌朝荷物を纏め別荘を後にした。
 5日目の朝だった。
 

 行き先は聞いていないから分からない。
 後ろの席から外を眺めていると、道路標識には美瑛の文字が書かれ
 ていた。
 これぞ北海道というような風景。
 電線も無くジャガイモ、麦畑が何処までも続く。
 そして何処かの駐車場に着いた。
 白樺に囲まれた建物。

「ここ何処」

 恭夜に聞くと、有名な写真家のギャラリーだと言われた。
 9時なのに既に大勢に人が来ていた。
 中は土足禁止で、靴を脱いで入ると様々色とりどりの風景写真が展示
 されていた。
 こんな色が本当にあるのかと思うような幻想的な色の風景写真。
 その中で稔は教会の様な建物の写真に惹かれた。
 教会だと思った写真は、実は学校だった。
 朝靄の中に浮かぶ写真と、幻想的な夕焼けに佇む写真。
 思わず感動。
 その二枚の写真は幸運にもポスターとして売っていたので、稔は迷う
 事なくそれらを買う。
 一通り見終わり外に出て白樺林を散策する。
 そこでも稔は恭夜と一緒に写真を撮った。
 車の中で稔は何時になく興奮気味。
 余程写真がに入ったらしい。

「俺あんな写真見た事ないし、写真で感動したなんて初めてだ」

「それは良かったですね。 行った甲斐がありました。 偶には相沢さん
も役に立ちますね」

「駄目だ、そんな言い方。 年上の人に失礼だろ」

「そうですね。 でも本当に普段は役に立たないですから」

 窘められ少し口調を改めるが恭夜は何処までも恭夜だった。
 稔が喜んだ事に満足していたので、その位でやめておくことにした。
 
 その日の最終目的地は離れていたので、時間を掛けて寄るのは止め
 車からの景色を眺めての移動となった。
 層雲峡を通り抜け、途中有名な二つの滝に寄り写真だけ撮ってまた
 移動。
 昼食は途中コンビニに寄り、移動しながら食べた。
 そのお陰で思った以上に早い時間に目的地に着く事が出来た。
 最終地はサロマ湖だった。




 その日の宿は、サロマ湖の畔にある民宿だった。
 稔としては、豪華なホテルではないのでホッとしたが、後の三人はこ
 こで良かったのだろうか疑問に思う。
 最初の豪華なホテルや別荘に泊まっているだけに、ここの宿は違和
 感がある。
 取り合えず、チェックイン出来る時間らしいので中に入る。
 中はお世辞にも綺麗とは言えない。
 
「あの、俺はここで全く構わないんですが、良かったんですか?」

 相沢に聞いて見る。
 
「何でだ」

「俺はともかく、みんなはなんか似合わないっていうか、民宿って泊まっ
た事なさそうで・・・・・」

「こんな庶民が泊まる所にってか?」

 ちょっと意地悪そうの笑う。
 そんなつもりで言った訳ではないが。

「いえ、そんなつもりじゃ・・・・・・」

 相沢に鋭い視線が突き刺さる。
 お気に入りの稔に何をする、容赦しないぞと言う視線。
 肩をすくめる相沢。

「気にするな、こいつらは知らんが俺は一人だとこういう所にしか泊ま
らないんだ。 それに民宿だからって馬鹿にするな。 豪華なホテルで
は味わえない別な意味で豪華さがあるから。 ここの宿はまさにそんな
意味で豪華なんだよ」

「はあ・・・・・・」

 意味が良く解らないが、かなりお勧めらしい。

「いつも満室でこの時期なかなか泊まれないんだぜ。 それが何と運の
良いことに、昨日駄目もとで電話したら、急にキャンセルがあったらしく
て取れたんだよ。 これも日頃の行いだよね。 はははは」

 そうなのかも知れないが、相沢が言うと嘘くさい気がするのは気のせ
 いだろうか。

「ただ、お風呂がイマイチなんだよ。 でも大丈夫! ここから直ぐの所に
温泉施設が出来たんだ。 新しいのは当然だが、なんと言っても露天風
呂はいいぞ」

 一人で熱く語っている。
 いい大人なのに、一番子供らしいかも知れない。
 暗くなってからだと折角の風景が台無しだと言うことで、早速温泉へ。
 稔と相沢はサッサと服を脱ぎ入っていった。

「良かったのか?」

「良いわけ無いだろう・・・・・。 何の為に今まで別荘で別々に入ってたと
思ってるんだ。 抑えがきかなくなるのも困るが、素顔でばれるのはもっ
とマズイ。 仕方ないからこのダテ眼鏡掛けて誤魔化す」

「自分で蒔いたとはいえ、苦労するな」

「うるさい・・・・・」

 年齢と共に体格も以前に比べて良くなっている。
 顔もあの頃とは少し変わったし、髪の毛も黒いから大丈夫だとは思うが
 念には念を入れた方がいい。
 眼鏡を掛けたまま稔達より遅れて入った。
 稔は既に身体を洗った後らしく、洗い場にはおらず内湯にも姿は無かっ
 た。
 相沢の姿も見えない。
 どうやら二人で露天風呂に移動した後らしい。
 露天に行かずに内湯に入っていれば、稔と一緒になる事はない。
 そう思い、サッサと身体を洗い出ることにした。

 一方稔は、勢いで相沢と二人で先に入った事を後悔していた。
 露天風呂は確かに良かった。
 湖の一部に入っているみたいで、開放感があり景色も最高。
 忘れていたが人間恐怖症。
 恭夜と敬は全く問題ない。
 その二人と一緒だった事もあり、相沢とも何とか会話も出来気も遣わ
 なかった。
 ただそれが二人が一緒にいての事だと、相沢と二人露天風呂に入っ
 た後に気が付いた。
 折角相沢が色々と話しかけてくれているのに、まともに返事も出来な
 かった。
 その内に恭夜と敬が来るだろうと頑張ったが全くその気配が無い。
 結局我慢が出来ず、申し訳ないと思いながら適当に言い訳をして中に
 二人を捜しに行った。

いた

 敬と恭夜は二人少し間を開け内湯に入っていた。
 稔も慌てて湯船に入り後ろから二人の間へ身体をいれた。

「どうして二人とも外に来ないんだ」

 思った以上に稔の来るのが早かった。
 失敗したと恭夜は思ったが仕方ない。
 極力稔を見ない事にする。
 そんな恭夜を見て敬が苦笑する。
 
「折角来たんだからゆっくり入らないとね。 稔は相沢さんと先に入っち
ゃうしね。 相沢さんは?」

「・・・まだ外」

 ちょっと罰の悪そうな稔。

「外、良くなかったのか?」

「凄く良かった。 景色も最高だった・・・・・・」

「じゃあ外で入ってれば良かったじゃないか」

「・・・・・・・・・・」

 話していくうちに段々沈んでいく。
 二人には分からない。

「どうしたんですか?」

 なるべく見ないようにしていた恭夜も、稔の様子が気になる。
 その位稔は落ち込んでいた。
 入る時には楽しそうだったのに、この数分で一体何があったのか。
 まさか相沢に何か言われたか、されたのか。
 恭夜の顔つきが変わって行く。
 俯いている稔は全く気付かない。
 もう一度優しく問いかけた。
 
「・・・・・大丈夫だと思ったんだ・・・・」

 いきなりそれだけ言われても何の事か分からないし、検討もつかない。
 敬と恭夜は顔を見合わせる。
 
「何の事だ?」

「だから、大丈夫だと思ったんだ」

「稔さん、意味が分かりません」

「相沢さんとは昨日と今日一緒に行動してるから、二人で風呂とか入っ
ても平気だと思ったんだ。 でも、いざ入ってみると・・・・・」

「みると・・・・・・」

 二人は真剣な表情で稔を見つめる。

「喋れないんだ・・・・・」

「はい?」

「全く会話が出来ないんだ。 二人が一緒なら平気なんだ。 話したり笑っ
たり出来るのに。 でも今相沢さんと二人で入ったら、何話して良いか分
かんなくて。 怖くて・・・・。色々話しかけてくれるんだけど、俺どうしたら良
いのか分かんなくなって。 顔も引きつっちゃって。 二人が来れば大丈夫
だと思って待ってたんだけど全然来ないし・・・・・・。 悪いと思ったんだけ
ど先に出てきちゃった・・・・・」

 忘れていたが、稔は人間恐怖症。
 ここ数日の稔は良く喋り、笑いっていた。
 昨日初めて会った相沢にも特に人見知りせず、普通に話していたから
 二人も全く忘れていたのだ。
 根深い対人恐怖症に、敬は恭夜を睨み付けた。
 そんな稔をどうして放りだしてしまったのかと後悔した。

「それは・・・・・・・」

「何だよ稔君、先に行くなんて」

 稔の後を追って来た相沢。
 ばつが悪く黙り込む稔。
 敬が稔をフォローする。

「相沢さん、言い忘れていた事があります。 その話をする前に出ましょ
う。 このままだとのぼせてしまう」

 言うだけ言って敬はサッサと出て行く。
 稔と恭夜も後に続く。
 何の話か分からないが気になったので相沢も敬達に続いて出た。





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