恋は盲目

(10)







「うわ〜」

 見上げた夜空は、見たこともない満天の星。
 稔の声に目を閉じていた敬と、ジッと稔の事を見詰めていた恭夜も顔を
 上げ見る。

「こんなに星が見えるなんて、凄い。 俺初めてだ」

「そうだね、ここには余分な光が無いし自然の中で大気も汚れていないか
らね」

「そうなんだ。 あっ流れ星! しまった、願い事・・・・」

 初めて見た一瞬の流れ星。
 感動のあまり願い事を忘れ悔しがる稔に、二人苦笑する。

「大丈夫ですよ。 まだまだ流れますから」

「そうなのか?」

「はい」

 次ぎに流れるのをワクワクした表情で見上げている。
 今まで見た中で一番楽しそうな顔。
 強引だったが稔を連れてきて本当に良かったと思う。
 恭夜を見ると、楽しそうな稔の顔を見て、同じく楽しそうに、かつ穏やか
 な顔で見守っていた。
 荒れすさんでいた頃からは考えられないその顔には、一種の感動を覚
 える。
 
人間、変われば変わるものだ・・・・・

 ただし稔限定だが。
 
「あっ!・・・・・・・・。 くそ、間に合わなかった」

「何をお願いしたんですか」

「言ったら叶わないだろう」

「ケチですね」

「うるさい・・・・・」

 隣同士に座り、仲良く言い合う二人を見て、自然と顔が綻ぶ。
 
すっかりうち解けて・・・・・

 もしかしたら、本当に上手く行くかも知れない。 こんなに優しく、稔を見
 守ってるのだから。

 暫くの間稔の流れ星探しに付き合っていたが、本格的に冷えて来た。
 願い事が掛けられたかどうかは分からないが、このままでは風邪を引い
 てしまう。

「稔、今日はこの位にして、また明日探そう。 風邪を引いたらどこも出か
けられないし、流れ星も探せないよ」

 敬に言われ、すっかり身体が冷えた事に気づく。
 それもそうだと、片づけ中へ入った。

「熱中して気づかなかったけど、冷えたかも」

「じゃあ、お風呂に入って暖まってから寝よう」

「そうだな。 でも別々に入ってたら時間も掛かるし、風邪引くと困るから一
緒に入ろう。 風呂広いから、男三人でも平気だろ」

 すっかり敬達に心を許した稔。
 安心しきって二人を風呂に誘った。
 修学旅行気分なのだろうが、自分が男に襲われた事を忘れていた。
 そして襲ったのは恭夜だ。
 誘われた二人はため息を吐く。
 
少しは警戒しろよ・・・・・・

 あまりの無防備な誘いに敬はため息を吐き、恭夜を見る。
 恭夜としてはその誘いはとても魅力的だが、稔の裸を見て自分が押さえ
 られるかどうか、かなり苦しい選択だ。
 顔には出ていないが、内心戦っているのが分かる。

ふぅ〜、困ったもんだ

「確かに男三人でも大丈夫だが、俺達はやる事があるから、稔先に入って
いいから」

「何があるんだ。 俺も手伝う」

 折角いい考えだと思い、言ってみたのにあっさり却下され少しむくれる。
 それに、自分のせいでかなりお金のかかった旅行になってしまったのだ
 から自分だけ先に入る事など出来ない。
 食い下がる。

「俺と恭夜は伯父に連絡を入れないといけないから」

「こんなに遅いのに?」

 納得がいかないとばかりの顔だが、稔と一緒に入る訳にはいかない。
 
「日中は仕事が忙しいからね、体があくのは夜中くらい。 それに俺達の
電話だって一応仕事なんだけどね」

 仕事だと言われれば仕方ない。
 敬達は伯父に頼まれて、色々なソフトを作ったりしているらしいから。

「分かった、今日は一人で先に入る。 けど、明日は一緒だからな」

 そう言って稔は自分の部屋に行き着替えを持って、一人風呂場へと向か
 った。

そうだよ、今日がダメでも明日もあるから、明日こそ三人で入るんだ!

 姿の消えた方向を見詰めていた二人は、互いの顔を見合わせ苦笑いし
 た。

「諦めてないよ、稔・・・・・・」

「そうだな・・・・・」

 明日はどうやって交わそうか悩んでしまう。
 
 その後広い風呂に入り、身体も暖まった稔はご機嫌な様子で出てきて、
 「お先に」と言いさっさと自分の部屋に入って寝てしまった。
 
 北海道に来てから、表情がとても豊かになっていた。
 それは、稔だけではなく、敬達にも言える事だった。
 その日は三人別々な部屋でゆっくりと休んだ。
 北海道二日目の夜・・・・・




 翌朝は前日とは違い、一人でゆっくりと寝たお陰で、爽快な目覚めだっ
 た。
 着替えて部屋を出ると、既に二人は起きており、敬は新聞を読み、恭夜
 は朝食の準備をしていた。

「お早う。 二人とも早いな。 何時に起きたんだ」

 敬は新聞に視線を向けたまま「5時半」、恭夜はキッチンから「5時です」
 と答えた。
 年寄りかよ、と思いつつ合えて口にはしなかった。
 言った後にきっと後悔すると思ったから。

「ふ〜ん、敬は何の新聞読んでるんだ」

「経済新聞」

「・・・・・渋いな」

 自分には全く縁のない新聞。 

「なあ、俺何か手伝うよ」

 食事は恭夜が全て作ると言ったものの、それでは申し訳がない。
 見えないが、自分の方が年上なのだから。

「いえ、いいです。 危ないですから、キッチンには来ないで下さい」

 すげなく断られる。
 それもその筈、昨日やはり同じ様に手伝うからと言ってキッチンに立った
 のだが、それは二人から見ればかなり危険なものだった。
 

 
 学校に授業の中に男でも調理実習の時間がある。
 敬は稔と同じ班ではないので、腕前等は分からなかったが、少しくらいは
 出来るだろうと高をくくっていた。
 それが実際には全く出来ないとは思ってもいなかった。
 ジャガイモの皮を剥いて欲しいと言われ、包丁を手に持ち剥こうとした
 瞬間、恭夜に包丁を取り上げられてしまった。
 
「なんだよ急に、危ないだろ」

 文句を言うと

「二度と包丁は持たないで下さい。 心臓に悪いですから」

 言われ、他の野菜を洗う様に言われた。
 ブツブツ文句を言いながら、レタスを洗おうとすると、今度は敬が横から
 野菜を取り上げた。

「なんだよ!」

「・・・・・・頼む、止めてくれ。 ここは俺が変わるから、稔は皿を出してくれ」

 ムスッとした顔で、食器棚から皿を出していく。
 学校でも同じ扱い。
 一年の初めての実習から、稔は一度も調理に携わった事が無い。

 二年になった時は、一年の時からのクラスメイトが先に他のクラスメイ
 トに「絶対に拘わらせるな」と言い含めていたのだが、 内一人が「そう
 いう訳にはいかない」と稔に包丁を持たせた。
 既にその時、対人恐怖症の稔。
 無理に持たされた包丁と馴れない人に怯えパニックがかっていた。
 「ほら、これ切ってくれよ」とまな板の上のカボチャを指さした。
 一拍おいて、稔は包丁を両手で持ち、大きく振りかざしそのまま勢いよく
 下に振り下ろした。
 見ていた友人が慌てて駆け寄ったが既に遅く、包丁はカボチャを掠った
 だけ。
 勢いで、カボチャは転げ落ち割れ、包丁が飛んだ。
 叫ぶクラスメート達。
 その時は誰も怪我する事なく終わったが、その日以来稔は実習に加え
 て貰えなかった。

 その時の騒ぎを、敬は知っていたが実際には目にしなかった為に「大げ
 さな」と気にもとめていなかったが、今回稔の包丁捌きを見て誇張され
 たものではなかったのだと実感した。
 稔はその時と同じ様に、包丁を振りかざしたのだ。
 そして、レタス・アスパラ等を、洗剤を付けたスポンジで洗おうとしたの
 だ。

腹壊すかも・・・・・

 絶対に稔には料理に手伝いはさせまい。
 固く誓った二人だった。



「もう少しで出来上がりますから、お皿出して貰えますか」

 渋々昨日と同じように皿を出す。
 その上に恭夜が出来上がった料理をのせて行く。
 トーストにサラダ、近くの牧場で作られたチーズを使ったオムレツにソー
 セージ。
 シンプルだが、どれも美味しそう。
 
「天気もいいですから外で食べましょう」

 皿を外のテーブルに並べて行く。
 少し肌寒く感じたが、青い空に澄んだ空気のもとで食べる朝食は最高に
 美味しかった。





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