恋は盲目

(9)







 自販機でジュースを買ってから部屋へ戻る。
 目敏い敬は直ぐに、稔の持っている蝋燭に気づくだろう。
 聞かれても誤魔化せるよう、ジュースでカムフラージュ。
 恭夜は無駄だと言い、稔はきっと誤魔化せると思ったのだが・・・

「稔、ジュースの他に何を持っているんだい」

 誤魔化せないように先に聞かれてしまった。
 恭夜の言った通り無駄な努力をしてしまった。

「・・・・・蝋燭」

「で、それは一つだけじゃないよね。 隠すって事は恭夜とお揃いで、俺
の分は無いって事だよね。 恭夜」

 恭夜に向かって確認する敬。

「当然。 どうして俺が買わなくちゃいけないんだ」

「そう・・・・・稔ペアなんだ。 ふ〜ん」

 やはり自分だけ無いのは気にくわないらしい。
 しかし、別な物で稔とペアの物を買い恭夜を虐めようと敬は考えあっ
 さり別な話しに切り替えた。

「ベットルームは二つあるから、俺と稔は右の部屋で寝るから。 恭夜は
左の部屋で寝な」

 敬が言った瞬間、恭夜が思い切り敬の事を睨む。
 幸い、稔は敬の方を見ていたのでその視線に気づかない。
 見ていたらきっと逃げ出すか、そのまま倒れてしまう様な、それほど
 殺気だった視線。
 稔には見せた事のない、本来の恭夜の姿。

 他の者ならいざ知らず、敬には全く通用しない。
 視線をサラリと交わし、稔の手を取りを連れて行こうとした。

「待てよ。 俺が稔さんと一緒に寝る。 これを機会により交流を深めた
方が、後数日間を楽しく過ごせるだろう」

「別に、お前と仲良くしなくても、稔には俺がいるからいい」

「なんだと」

 相変わらず当事者である筈の自分の事は蚊帳の外。

全くこの兄弟は、俺の事を何だと思ってるんだ・・・・・
男の俺を取り合ってどうするんだよ

「・・・・・俺は一人で、右の部屋で寝るから、敬達は左の部屋で寝な。 
じゃお休み。 俺は明日は7時に起きる」

 そう言ってさっさと右のベットルームに入り、ドアを閉めてしまった。
 その展開に、敬達はお互いに顔を見合わせ、ため息を吐く。

「本当に対人恐怖症なのか?」

「間違いないが、お前もすっかり稔の中で認められたんだろうな」

 敬にとっては有り難くないが、恭夜にしてみれば、稔に一歩近づけた
 という事。
 思ったより早く稔を自分の物に出来そうな気がした。




 稔は妙に息苦しくて起きた。
 嫌な夢を見たとかそういう事では無く、身体が重かったし、動けない。
 それに冷房がかかり、寝る時には快適な温度だった筈なのに、今は
 妙に暑苦しかった。
 今まで経験はないが、これが金縛りなのかと思ったくらい。

 目を開けると、部屋の中は暗かったが、カーテンの隙間から日の光
 が零れていた。  光の加減からは、まだ起きるには早い時間なの
 だろうと思い左側にある自宅から持ってきた目覚ましを見ようと顔を
 向けると、そこには恭夜の顔が。

「!?」

 心臓が止まるかと思うくらいの驚き。
 別な部屋で寝ている筈なのにどうして居るのか理解出来ない。 

・・・・落ち着こう

 自分に言い聞かせていると、自分の右横で動く物が。
 そちらに恐る恐る顔を向けて見ると、右横で敬が寝ていた。

「!!」

 あまりの事に事態が飲み込めず、顔を天井に向け深呼吸をし口をパ
 クパク。 
 身体が動かないので、首のみを動かし、現状確認。
 すると、両脇から二人が稔に抱きついて寝ていたのだ。
 どうりで暑苦しく、動けないはず。

勘弁してくれよ〜

 とほほな気分で、何とか動こうとするが両脇から押さえられているので
 動ける筈がなかった。
 通常のベットよりは大きいが男三人で寝るにはかなり無理がある。
 だから敬達は稔にべったり抱きつき寝ているのだろうが。
 いくら二人がいい男でも、自分も男なのだから嬉しくない。
 必至でもがいていると、敬が目を覚ました。

「・・・・・・稔。 煩い・・・・・」

 もの凄く不機嫌な声。
 思わず動きを止めた。
 敬は一言だけ言ってまた眠ってしまった。

頼む、起きてくれ・・・・・・

 その願い虚しく、結局二人は稔のセットした目覚ましが鳴るまで起き
 る事は無かった。
 起きた時には、二人はスッキリした顔で、稔は疲れ切っていた。

こんなんで、後数日大丈夫なんだろうか・・・・・・・




 朝食を取った三人は部屋へ戻ると直ぐに用意をし、ホテルを後にし
 た。
 別荘までは、車で10分位。
 敬達の自宅がかなり広く豪華だった為、もしや別荘も凄いのではと、
 ドキドキしていた。
 実際には想像していた物とは全く違い、平屋でまだそんなに年数の経
 っていないと思われる別荘。
 敬達にしてみたら割とこじんまりとした家だ。
 稔にはそれでも大きい様な気がしたが、取り敢えずは一安心。

「新しいんだな。 それに三人で泊まるには丁度いい大きさだし」

「あまり大きくても仕方ないし、いつも俺達が使っている家だと、絶対稔
が嫌がると思ってね」

 稔が嫌がる家とは一体どんな家なのか聞いてみた。
 あれだと指を指した先を見ると少し離れた場所にプチホテルの様な物
 が見えた。

「あれはホテルだろ」

「あれが家の別荘だ。 因みにこの家は物置用に建てられたが、まだ
荷物を入れてない為に今回の旅行用に改装した」

物置で改装!?

 こんなに大きいのに物置で、今回の為に改装という事は、敬はかなり
 前からこの旅行を計画していたのだろう。
 自分に何も言わずに、絶対に北海道に行くというのを前提として。

強引にも程があるぞ

 中に入ると床・キッチン全てが新しかった。
 当然備え付けの電化製品も。
 風呂場も新しく、ジャグジー使用には参った。

何もここまで新しくしなくても・・・・・ 
一体幾らかかったんだ・・・・・・

 敬の金銭感覚と行動力に頭痛までしてきた。

「どうしたんだ、顔色が悪い」

 心配そうに稔を見詰めるが、自分のせいだとは気付いていない。
 
「ちょっと頭痛が・・・・」

「それはいけない。 疲れたんだろう、早く横になった方がいい」

 腕を引っ張り寝室へ連れて行こうとする。

「そうじゃない。 お前の金銭感覚は一体どうなってるんだ。 今回の旅
行に一体いくらかけたんだよ」

「たいしてかかってないよ。 折角稔と旅行するんだから少しは綺麗に
しておかないと。 お前だってそう思うだろう」

 恭夜に同意を求める。

「勿論俺でもそうしますよ」

 この二人には普通の金銭感覚はないのか。
 それとも自分が間違えているのだろうかと一瞬思うが、絶対に自分
 の方が正しいと思い直す。

「もういい。 聞いた俺が間違いだ・・・・・・」

 脱力しつつ、どの部屋を使えばいいのか、敬に確認する。
 またホテルの時同様揉めるのかと思ったが、部屋はリビング・ダイニ
 ングの他に4部屋あったので各自一部屋とすんなり決まった。

 稔の頭痛は敬のせいであったが、初日から無理はいけないと言われ
 結局その日は出かける事はなかった。
 夕食は先に恭夜が言ったとおり、冷蔵庫に用意されていた食材を使
 い手際よくつくった。
 地元で作られたアスパラ、ジャガイモを奮段に使った料理はどれも美
 味しかった。
 食事の後は、二人に誘われ外へ。
 自分達の住んでいる所とは全く違う。
 民家も近くにはない為、車も人も通らない。
 人工的な音は無く、普段聞くことのない自然の音が耳に心地良い。 
 だが、外灯もなく闇夜に包まれ、その暗さに慣れていない稔には少し
 恐かった。

 外にはいつの間にか椅子とテーブルが用意されていて、中央にはラ
 ンプと横にはシングルバーナーにコトコトとコーヒーの香りを漂わせた
 パーコレーターが掛けられていた。

「寒いですから、これを着て下さい」

 フリースを恭夜から渡される。
 言われた通り、涼しいというより肌寒い。
 昼間はまだ8月なだけに暑かったが、湿度が無くカラッとしていたので
 暑さを感じず、時折吹く風も冷たく気持ち良かった。
 でもやはり夏を感じた。
 それが夜になると、こんなに寒くなるとは思ってもいなかった。
 
 渡されたフリースを着、恭夜からコーヒーを渡される。
 口にすると、温かさにホッとなる。
 三人静かにコーヒーを飲み自然の音に耳を傾けていた。

こんなに心が落ち着いてゆっくり出来る事なんてなかったな・・・・・

 特に一年前のあの出来事以来、自分にこんな穏やかな時間が来ると
 は思ってもいなかった。
 当時に比べてみれば、大分落ち着いたのだが、やはりいつも何処か
 緊張していた気がする。
 前に座り目を閉じている敬を盗み見、感謝した。

 敬と一緒に居ると、あの男を思い出すこともあるが、いなければこんな
 に早く立ち直る事もなかっただろう。
 時々とても強引だが、いつも自分を気遣ってくれる自分には勿体ない
 友人だ。

ありがとう・・・・・

 表だって口にするのは、恥ずかしいので、心の中で感謝の言葉を言
 う。
 それでもやはり恥ずかしく、照れを隠す様に、夜空を見上げた。





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