恋は盲目

(8)






「ごめん敬・・・・・。 分割でもいい?」

分割?

 一体何の事だろうと思ったが直ぐに部屋の事だと気づく。

「気にしなくていいよ。 ここのお金は伯父の支払いだから」

「余計気にする!」

「俺達も支払わないんでから、いいだろう」

 敬達は身内だから支払わなくてもいいかも知れないが、自分は今日初
 めて会った赤の他人。
 そういう訳にはいかない。
 しかし、何時ものパターンで行くとこのまま上手く丸め込まれるのは目
 に見えている。

今度こそ、絶対何が何でもお金は払う!

 意気込みだけはあった。
 
「稔、本当なら今日俺達は別荘に泊まる予定だった。 でも、ここは俺が
稔の意見も聞かずに勝手に取ったんだから。 だから稔が払う必要は全
く無いんだ」

「そうですよ。 俺達が勝手にしたんです。 それに支払いは伯父が勝手
に支払うと言ったんです。 だから俺達は払う必要は無いんです」

 無茶苦茶な事を言う。 

「でも・・・」

「この話は終わり。 お金の話しは、今後一切受け付けないよ。 いいね
稔。 さあ、お腹が空いたから食事にしよう」

 敬がさっさと、打ち切ってしまった。 
 恭夜を見ても、敬と同じらしく、受け付けてくれそうにない。
 相変わらず、強引に決定されてしまった。
 敬が、「こうだ」と決めた事は絶対に変える事はない。
 割り切れないが、仕方ないと諦める。

「分かったよ。 帰ってからでも、直接お礼を言う。 いや、今直ぐ電話し
ろ」

 支払いの件は譲ったのだから、これぐらいは聞いて貰わないと気が済
 まない。
 稔の性格を把握しているので、敬は素直に伯父に電話をし、稔に変わ
 った。
 直接ではないが、本人にお礼を言う事が出来たので、取り敢えず気分
 も晴れた稔だった。

 バイキング方式のレストランでは、北海道の海の幸・山の幸をふんだん
 に使った和食・洋食・中華料理が。
 品数と量に驚いたが色々な物を少しずつ食べ、心ゆくまで堪能した。
 部屋に帰って来た稔はソファーに寝そべり、ちょっと苦しそう。

「食べ過ぎた・・・・。 苦しい」

 満足げな稔に、敬達は嬉しかった。

「稔さんは欲張りですね」

 クスクスと笑う恭夜にムッとする。

「いいだろ。 滅多に食べられない物ばっかりなんだから」

「そうかも知れませんが、まだ後6日も居るんですから。 でもまだ色々美
味し物もありますから、それも楽しみにしていて下さい」

 確かに、まだ旅は始まったばかり。
 日にちはある。
 指摘に気づき急に恥ずかしくなった。

それも、二つも年下の恭夜言われるなんて・・・

 フォローまでされてしまった。
 すっかり自己嫌悪。
 そんな稔に恭夜が声をかけてきた。

「まだ少し時間もありますから、食後の運動に外に行きませんか。 ホテ
ルの敷地内にお店があるんです。 小さなログハウスの店がかたまって
いて富良野にしか無い物とかがあるんですよ」

「へー。 じゃあ行ってみようかな」

「少し冷えますから何か羽織る物持って行ったほうがいいですよ」

「分かった」

 稔が荷物を取りに行ったのを見計らい、敬に話しかける。

「邪魔するなよ」

「なんだ、二人だけで行くつもりか」

「当然」

「・・・・・・そうか。 分かってるとは思うが」

 恭夜に念を押す。

「今はまだ大人しくしてるさ」

「ならいい」

「お待たせ。 行こうか」

 丁度話し終わった所で稔が上着を持って来た。
 当然二人の間で交された会話など知るよしも無かった。

「俺は興味無いから、二人で行っておいで」

「え、敬は行かないのか?」

 大分慣れたとはいえ、まだ恭夜と二人で行動するのには不安があるら
 しい。
 不安げな稔に敬は苦笑し、恭夜は苦い顔に。

「恭夜だけじゃ不安なのかい」

「そういう訳じゃないけど・・・・・」

「俺だけじゃ、役不足ですか? もし嫌なら止めておきますが」

 少し落胆がかった声に慌てる。

「ごめん、嫌じゃないんだ。 俺なんかと一緒に行ってもつまらないだろ」

 恭夜と行動するのが嫌ではない。
 ただ、何の面白味もない自分なんかと一緒に行ってもつまらないだろう。
 中3とはいえ、見た目とても落ち着いていて、顔も良い恭夜には、可愛
 い女の子の方がいいのではないかと思っただけだ。

「つまらないか、そうでないかは俺が決める事です。 それに嫌なら誘い
ませんよ」

 確かに物事をハッキリと言う恭夜ならそうなのかも知れない。

「悪かった、俺は全然嫌じゃないから。 じゃあ敬、ちょっと行ってくる」

 恭夜を促し部屋を出て行った。
 そのドアを見て敬は「忘れるなよ」と呟いた。




 恭夜に案内され、夜道を歩いて行く。
 夜、外を歩くのにはまだ抵抗はあったが、今は恭夜は一緒という安心
 感がある。
 しかし、一体何を話せばいいのか分からず、二人は無言で歩いてい
 た。
 少し歩くと前方に明かりと建物が見え、ホッとした。
 恭夜の言った通り、小さなログハウスの店がが集まった場所に出た。
 15p位の背丈の「森の知恵者達」が住むというコンセプトの可愛らし
 い場所。
 ライトアップされていて、とても良い雰囲気。
 宿泊者だけでなく、恋人達は良いデートスポットだろう。
 恭夜に申し訳ない気がする。
 横にいる恭夜を見ると、全く気にしていない。
 
「どうかしましたか?」

「いや・・、俺なんかで申し訳ないなと思って」

「俺は稔さんと一緒で嬉しいですよ」

 女の子が見たら、一瞬で虜になってしまうような、魅力的な微笑み。
 本当にカッコイイと素直に思ってしまう。
 自分にもこの位、男の魅力があればと思うのだが、その前に対人恐怖
 症を何とかしない限り、彼女も出来ない事は必至。

 本当に一握りの知人としか接触が持てないのだが、出会って数日しか
 経っていないのに、どういう訳か恭夜には恐怖感を感じるこが無い。
 これも敬弟だからなのか、それとも恭夜の醸し出す人を気遣う、優しい
 雰囲気のせいなのだろうか。

「そう言ってもらえると、安心するよ。 でも良かったのか? 一週間もこ
っちに来て。 彼女いるんだろ」

 こんなにカッコイイんだから絶対彼女がいるは筈だと決めてかかって
 いた。

「居ませんよ」

「嘘! 何で!?」

 苦笑しながら否定する恭夜に驚きを隠せない稔。
 からかわれているのかとも思ったが、嘘を吐いている様には見えなかっ
 た。
 
「もの凄く、ハードルが高いのか・・・・?」

「そんな事は無いですよ。 顔や頭では選びません。 只俺を癒して、包
み込んでくれる人がいいんです」

 中学生とは思えない恋愛観。 

「そ、そうか・・・。 『恋愛をし尽くした』って感じの言い方だな。 癒された
いだなんて。 羨ましいよ、俺も言ってみたいな」

「羨ましくなんてないですよ。 寄って来る女は俺の見た目だけですから」

 吐き捨てる様な言い方に、ビックリしてしまった。

「ごめんな・・・。 何か考えなしで言って。 でも恭夜君は見た目だけじゃな
くて、中身だって凄く良いじゃないか。 優しいし」

「恭夜でいいですよ。 優しいのは稔さん限定です」

 優しく言われ照れてしまう。
 稔が女なら直ぐにでも堕ちるだろう。
 残念な事に稔の頭の中には、恋愛は女とする物で、男との恋愛は頭の
 中に無かった。

「何だか口説かれてるみたいだな。 なあ、ここ何の店?」

 クスクスと笑いながら、恭夜の言った事をサラッと流した。
 実際には口説かれていたのだが、やはり稔は気付いていなかった。
 苦い顔をする恭夜をよそ目に、稔は目に付いた店の中に入って行った。

 入るとそこは蝋燭屋だった。
 ドングリ、木の切り株、フクロウと様々な形をした蝋燭が沢山置かれてい
 た。
 中でも『切り株』の蝋燭は、本当に良くできていた。
 欲しいと思ったが、けっこう良い値段。
 普段使わないので断念し他の店など見て回った。
 結局稔は何も買わなかったが、恭夜と二人楽しく過ごした。
 
「あの、『森の蝋燭』がもうチョット安かったらな・・・」

 名残惜しげに、切り株の蝋燭の事を言う。
 本当に残念そうな稔に、恭夜はクスクスと笑う。

「なんだよ、笑うことないだろ。 だって3500円もするんだぞ。 気に入っ
たけど絶対使わないし。 勿体ないだろ」

 ムッとして恭夜に言う。
 本人は気づいていないが「欲しい・・・でも、高い。 でもやっぱり欲しい
 」と思い切りブツブツ言い、その蝋燭を持ったり置いたりと一頻りしてい
 たたのだ。
 その顔と行動は、恭夜にはたまらなく可愛らしいものだった。
 自分で誓った思いなど忘れてしまいそうな程に。

「そうですね、確かに実用的ではないですね。 でも記念、インテリアだと
思えば高くないと思いますが」

「俺の部屋には相応しくないだろ」

 稔の両親に北海道旅行の了解を取るために敬と、稔の家に行ったの
 はつい数日前。
 その時に稔の部屋のも入ったが、そこは机、ベット、MDコンポしか置
 いていないとても殺風景な部屋だった。
 そこに置かれた蝋燭を思い浮かべると、確かに合っていない。

「相応しいとかではなくて、自分が欲しいかという事が大事だと思います
よ」

「でも高い・・・・・」

「はい、これ」

 包みを渡され開けて見ると、中身はその蝋燭だった。

「・・・なんだこれ」

「これは俺からのプレゼントです。 先に言っておきますけど、返却はな
しです。 今回の旅行の記念として、俺が稔さんとお揃いで買った物で
す。 同じ物が二つあっても困りますからね」

 自分で持っていた包みを開け稔に見せる。 形は多少違うが、同じ蝋
 燭。

「本当だ。 でも、俺何も出来ない・・・」

「別に、稔さんにお返しをして貰おうだなんて思ってないですから。 そう
ですね気になるというのであれば、俺と写真を沢山撮ってくれるって事
でいいです」

 自分と一緒に撮って何が楽しいのかは分からないが、恭夜がそれで
 いいと言うのであれば、なるべく沢山撮ろうと思う。
 そこで、気が付いた事が一つ。

「なあ、これって二つだけなのか」

「勿論。 俺と稔さんでペアです」

「・・・・・敬の分は?」

「どうして俺が兄さんの分まで?」

 あっさりと言い切るが、いいのであろうか。

「敬、絶対文句言うと思う」

「そうですね。 言わせておきましょう」

「・・・・・・・」

 絶対敬には言うのを止めておこうと思った。





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