恋は盲目

(4)







「は? 俺の金?」

 気のせいであろうか。

今『俺の金』と言われた気が・・・・・
そうか、きっと小遣いやお年玉を貯めたに違いない。
真面目そうだし、両親も医者だし、親戚も会社を経営していると言ってい
たから、自分とは違ってそれなりの金額を貰っているに違いない。

 そう思った。
 思いこんだ。

「折角貯めた金を、そんな簡単使おうとするのは良い事だと思えないが」

 恭夜のお金なのだから、恭夜がどう使おうが勝手なのだが、まだ中3、
 未成年。
 今からこんな簡単にお金の事を言うのは良くないと思い、お節介とは思
 いつつ、稔なりに考え言った。 
 敬はその稔の、真面目な考え方が好きだった。
 恭夜は苦笑している。
 
「別に小遣いを貯めた訳ではありませんよ。 自分で稼いだんです」

「稼いだって・・・・だってバイト出来る年齢じゃないし」

「そこら辺で、年齢を誤魔化して働いたりとかはしてませんよ。 ただプ
ログラミングしたり、ソフトを作っただけです。 身内の会社です」

プログラミングにソフトって何だ?

 身内って敬達の両親は二人共医者なのにどういう事なのかサッパリ分
 からない。
 敬に助けを求める。

「父の兄、俺達の叔父は医者ではなく、幾つかの会社を経営しているん
だよ。 何となく作ったソフトを伯父が見て商品化したんだ。 それがとて
も売れてね。 それで得た収入。 他にもゲームのソフトなんかも作った
りとかね。 稔も知ってると思うよ」

 そう言われて教えて貰ったゲームの名前は去年大ヒットとなった格闘
 ゲームとRPGゲームだった。

「嘘! RPGって普通何年もかかる筈だろ。 小学生か、中学入った位
じゃないか」

「構想は俺が中3の時、受験の合間の息抜きに。 プログラムはその時
恭夜が遊びがてらに作ったんだ。 別に売ろうと思って作った分けじゃな
いから、何年もなんてかけていないんだよ。 ゲームの売り上げは俺と恭
夜に入って来るんだ」

「・・・・・凄い兄弟だな」

 自分と同い年、それと2年も年下の二人に尊敬の眼差しを向ける。
 と、同時に、どうしてそんな奴が普通な自分を傍に置くのか理解出来な
 かった。
 そんな疑問が顔に出、敬が苦笑する。

素直だな・・・・・・

 こういう素直な所が敬のお気に入りなのだ。

「そう、だからお金はあるんだよ。 だからいいだろう別に?」

「それとこれとは別。 今の時期、宿だって混んでて取れないだろ」

 夏の北海道は人気があり、何処の宿も一杯だと、この間テレビで夏の
 北海道特集をしていてその中で言っていた。
 若干空きのある所もあるが急がないと埋まってしまうとも言っていた。
 その番組の放送から既に何日か経っているから、空きは無いだろう。

「心配ない。 俺達が泊まるのは別荘だから」

「別荘!?」

 やはり金持ちの家はひと味違う。
 
「そう。 富良野に別荘があるんだ。 だから宿は気にしなくていいんだ
勿論宿泊代も。 往復の飛行機代だけでいいんだよ。 それでもダメか
い?」

 飛行機代だけなら自分でも何とかなるが、一週間は親がなんと言うか。
 悩んでいる。
 その悩みをを察した敬。

「稔。 今家にご両親はいるのかい」

「ん? ああ。 今日は第二土曜日だから休みで家に居ると思う。 出か
けるとかも言ってなかったし」

「そう。 じゃあ今から家に行こうか。 電話でもいいけど、こういう事は直
接合ってお願いした方がいいから」

 どうしても北海道に連れて行きたいのだろう。 時々とても強引な敬だ
 った。



 その後「行く」「嫌だ」と一悶着あったが、恭夜までもが「行く」と言い出
 し、結局三人で、稔の家に行く事に。
 暑い中、電車に乗り最寄りの駅で降りる。
 稔は、ブツブツと文句を言いながら、敬達の少し前を歩いていた。
 後ろを、敬達が着いて来る。
 二人で何やらヒソヒソと話しをしていたが、稔には全く聞えなかった。
 
どうしてこんな事になったんだ・・・・・・

 茹だる暑さの中、疲れるので余り深くは考えない様にしようと。
 敬の家を出る前に、家には連絡しておいた。
 
「敬が母さん達に話しがあるって。 これから一緒に帰るから。 あと敬
の弟も一緒に行く」

 電話越しの稔の母は、大喜び。
 とても綺麗な顔立ちの敬。
 品があり、頭も良く、礼儀正しい為、気に入っていた。
 そんな敬がどうして自分の息子と仲が良いのか、とても不思議に思わ
 れていた。

 家に着くと、あの短時間でどうやって用意したのか、冷たいお茶と、滅
 多に口にする事の無い、高級水菓子が用意されていた。
 何時もは暑い部屋の中が涼しく、稔は苦々しく思った。
 
 リビングには父・母・そして何故か何時もは家に居ない、三つ年の離
 れた姉がいた。
 敬と、その後ろにいた恭夜を見て、母親はとても喜び、すっかり上条兄
 弟のファンになっていた。
 父は初めて見る稔の品のある友人と、その弟に驚き、失礼な事に『本
 当に息子の友達なのだろうか』と言ってしまった位だ。
 敬は、苦笑しつつ「お気に入りの、一番の友人なんです」と答えてくれ
 た。
 両親は一緒にいた恭夜が中3と聞き、稔同様とても驚いていた。
 
 敬は両親に、明日から一週間、稔に一緒に北海道旅行に誘った事を
 話し、宿泊先は自分の家の別荘で、費用は飛行機代だけで良いこと
 を話した。
 最初は子供達だけではと心配したが、敬が「途中から兄も来る」と言
 った事と、稔も「行ってもいいかな」と遠慮がちに聞いてきたので、仕
 方なくOKした。
 
 明るく、活発だった息子が、去年一時期学校以外は、引きこもり食事も
 取らずに痩せてしまった。
 病気かと家族中心配し病院に連れて行こうとしたが、断固として行か
 なかった。
 悩みがあるのかと聞いても、何も言わず、ただ「自分で何とかする」と
 言うだけ。
 その言葉通り、その後、少しずつ食欲も増え、全く笑わなかった顔に
 笑顔が段々と戻り、今になった。
 昔と全く同じという訳ではないが。 
 そして、今年学年が変わり『上条敬』という友人が出来た。

 稔は今まで休日には絶対外には出かけなかった。
 それまで呼んでいた友人達も家の呼ばなくなり自分も行かなかった。
 それが出かけ、お互いの家を行き来するまでになった。
 敬という友人が、稔を変えたのだと、家族中が喜んだのだ。
 その敬に、お願いされて断るのは難しい。
 稔も行きたがっているのだし。

「明日が楽しみだね稔」

「凄くな」

 投げやりな稔。

「一緒に行く事が出来て嬉しいですね」

 そんな稔を見て恭夜が微笑んでいた。
 その様子を、姉志帆が見ていた。
 顔を顰めながら。




  
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