恋は盲目

(3)







 去年の事には触れてほしくなかった。
 だから不自然にならないように・・・・・・

「大人しくじゃなくて、落ち着いたと言ってくれ・・・。 それに『猿』って何だ
よ! そりゃ、去年は、プールや海にかなり行ってたから真っ黒だったけ
ど・・・・・」

 最後の方は尻つぼみになっていた。
 確かに猿に見えなくもなかったから。

「そうなんですか。 今年は真っ白ですね、 行かなかったんですか?」

 恭夜につっ込まれ焦る。

「あっ・・・、そう・・・去年、焼きすぎて火傷して寝込んだ事があって。 キ
ツかったから止めたんだ。 あははは・・・・・」

 大丈夫だっただろうか?
 自然に話せただろうか?
 最後の方は下を向きながら喋っていたから気付かなかったが、恭夜の
 目は獲物を狙う目だった。
 そんな二人を面白そうに敬は見ていた。

話題をかえよう! 

 そう思い、顔を上げ恭夜に話かけた。

「恭夜君は、何処の高校に行ってるんだ? うちの高校じゃないよな?
君みたいに目立つ子なら絶対分かるから」

そうだよな
こんなに顔も良くて目立つんだから絶対いれば分かるはずなんだけど・・・・
 
 首を傾げながら恭夜をジィッと見ていた。
 そんな稔を見てクスッと笑う。

「こう見えても、まだ中3なんですけど。 そんなに老けて見えますか?」

「えっ! 嘘!? 中3!?」

 信じられない・・・・・
 敬に弟と言われなければ、絶対兄だと思った。
 弟と言われても、中学生だとは思わなかったし見えなかった。

それなのに中3、二つも下・・・・
この落ち着いた雰囲気は本当に中学生なのか・・・・?

 口を開けて、ポカーン、と暫く固まっていた。
 そんな稔を微笑ましそうに見ていたが・・・。

「可愛いですね」

はぁ?

 恭夜を見るとニッコリと微笑まれた。
 女が見たら一発で落ちるだろう。
 そんなフェロモン全開な微笑み。 
 可愛いと言われた気がするが、暑さで耳がおかしくなったのだろうか?
 しかし、顔の良い奴は笑うともっと良いんだな羨ましい。

これだったらモテまくりだろう? 

 そう考えいたが、自分がかなり失礼な事を言ったのだと思い出した。

「うわっ! ごめんな。 凄く落ち着いるから・・・・・」

 照れ笑いをしてごまかした。
 本人は気付いていないが、全開の微笑みをした稔を見て二人はため
 息を吐いた。




 稔は普段滅多に笑わない。 
 以前は表情も豊かで、何時もニコニコと笑い見ている回りの友人達は、
 その笑顔に癒されていた。
 しかし、去年の夏を境に、その笑顔は閉ざされた。
 笑ったとしても、何処か暗く、痛々しい笑い顔。
 友人達もあまりの急な変化に驚き、心配していたが距離を置くようにな
 り、それまで大勢いた友達もほんの一握りとなってしまった。
 最近になってようやく、以前の様に笑う事が出来るように。
 やはり、限られた人のみだが。
 
「ところで、今日はどうしたんですか? 兄さんが友人を連れて来るのは
初めてですね」

 そうなのか? と敬を見る。

「ええ、稔は一番お気に入りな友人なんです。 ですから・・・・ね」

 意味ありげに恭夜に見ると、ムッとした表情に。

「じゃあ稔、明日6時に迎えに行くから」

 急に話が変わり、一瞬何の事か分からなかったが。

「ちょっと待て。 暇だとは言ったが、行くとは言ってないぞ。 それに一
週間も北海道に行く金はない」

 ハッキリと敬に言う。
 そこに恭夜が入り込む。

「へー、明日から北海道に行くんだ? 何処?富良野?」

「そうだ」

「俺も行く」

「恭夜も?」

「ああ、構わないだろ」

「お前のバイクはないよ」

「向こうで買うからいい」

「そうか」

 自分を置いて話しがドンドン進んで行く。
 行かないと言っているのに。

買うって何だ?
バイクってそんなに安いのか? 

 付いていけない会話。
 このままでは黙っていてはいけない。
 北海道行きが決定になってしまう。

「・・・・だから行かないっていってるだろ。 人の話を聞けよ・・・・・」 

「気にしなくていいよ」

「気にするだろ、普通!」

 敬はとても良い友人だ。 
 特に何の取り柄もない、暗く地味な自分にとても良くしてくれる。
 敬のお陰で少しずつだが、以前の自分が戻って来た。
 最初の頃は、敬を避け、拘わらないように拒んでいた稔。

 他人との関わり合いを拒み、壁を作っていた敬が、唯一稔に興味を持ち
 積極的に行動に出た。
 稔にだけ優しく、親切に。
 他の生徒が嫉妬し嫌がらせをしてしまう位。

 怯えていた時の事も、少しづつ敬に癒されて来ている。
 とても、有り難いことだが。
 ただ、とても強引に物事を進める事がある。
 自分に拘わる事に限って。
 今回もそうだ。

「旅行に行くのは構わない。 近場で、一泊くらいなら行ってもいい。 北
海道には行ってみたいと思うけど、一週間は無理」

 敬にきっぱりと言い切り、今度は恭夜に向かって。

「君はまだ中学生だろう。 免許だって取れる年齢じゃないし、バイクに
だって乗れないだろう。 いくらお金があるからってそんな高価な物を買
って貰うのも違うと思うけど」

 何処までも真面目な稔に、フッと笑う。

「冗談です。 中学生の俺が乗れる訳ないでしょう。 因みにバイクを買う
としても、それは親が買うのでは無く、俺の金です」





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