恋は盲目

(2)







「初めて来る所だから、迷って遅くなるのも悪いかと思ってさ」

 少し照れながら真面目に返事をする稔に、優しく目を細める。 
 敬は表情を出さない。
 微かに目と口元が時々動くだけ。
 でも稔には何故だか敬の表情が理解できた。
 何時もジッと相手の瞳を見つめながら話しているからかもしれない。

「こっちに」

「お邪魔します」

 リビングに通されると中は和で統一されていた。
 高級旅館に来た気分。
 しかし落ち着いてゆっくり出来る雰囲気。
 それを壊さない感じでソファーが置いてある。
 座ってみるとゆったり包み込まれる感じで、革の冷たさが気持ちいい。

「ああ、涼しいな」

 直ぐに冷えたアイスティーが運ばれて来た。

「ありがとう、笹本さん。 ここはいいから」

 笹本と呼ばれた女性は失礼しますと言って、部屋を後にした。

「今の人は?」

 多分家政婦なんだろうとは思ったが、取り敢えず聞いてみた。

「通いの家政婦。 両親は仕事が忙しいからね」

「そうか。 二人とも医者だっけ」

「そっ」

 父は心臓外科医、母は脳外科医だと言っていたのを思い出した。
 敬は素っ気ない返事をして、アイスティーをを飲む。

「稔、明日から一週間暇かい?」

 唐突に聞かれたが、夏休みの宿題はとっくに終わっていたし、残り二
 週間の夏休みも特に予定もない。

「ないけど・・・・・・・」

「じゃあ、明日から一週間北海道に行こう」

「?」

北海道?
しかも明日から・・・・・
本当に唐突だよ

 唖然と敬を見詰めていると、後ろでリビングのドアが開く音がした。

「客?」

 声を聞いた瞬間、ゾクリ全身に寒気が。
 あわてて振り返ると、背の高い若い黒髪の男が立っていた。

「なんだ、恭夜(きょうや)いたのか」

「いたらいけないのか?」

兄弟なのか?

 敬を見た。

「ああ、稔。 弟の恭夜だ」

 弟・・・・

 振り返り、ジッと恭夜を見た。
 身長は180p近くあるだろう。
 均整とれた体格。
 少し長めでウェーブの掛かった黒い髪。
 メタルフレームをかけ理知的な風貌。
 パーツの一つ一つが整っていて、かなり男前で存在感があった。

 落ち着いた響きのいい声だったにも関わらず背筋がゾクリとした。
 一年前の、あの男の声に似ていたから。
 しかし、よく見ると雰囲気が違っていた。
 真面目で落ち着いた感じで、笑った顔は優しげだった。

「初めまして。 弟の恭夜です」

 丁寧な挨拶に、敬が面白そうに目を開いた。

話し方も違う気がする・・・

 少し安心し、慌ててソファーから立ち上がり挨拶した。

「あっ、初めまして。 高梨稔です」

 表情は変わっていないが、稔には敬がニヤニヤしているように見えた。

「何ニヤニヤしてるんだよ。 気持ち悪いな」

 今度は、恭夜が少し目を見開いて驚いていた。

「いや。 別に何でも・・・・」

 恭夜を見ながら、まだニヤついていた。

「へえ、兄さんの表情とか分かるんだ」

「兄さんね」

「・・・・・・・・・」

 よく分からない会話が兄弟の間で交わされていた。

「そりゃ分かるよ。 よく表情変わるし。 な?」

 同意を求め敬を見ると、目を細めていただけだったが稔には嬉しそうし
 笑って見えた。

「それにしてもデカイな。 何センチあるんだ?」

 敬を兄さんと呼ぶのだから、当然年下。
 言葉遣いも少し砕けたものになる。
 しかし年下とは思えない位落ち着いた態度だ。

「休み前に測ったときは179pでしたよ。 まだ伸びてる途中ですけど」

「そうなのか? 羨ましいな。 俺なんか去年から伸びてないのに」

「そうですね。」

えっ?
まさか・・・・・・・・

 冷たい汗が流れる。
 心拍数も早くなる。

「去年の体育祭の写真を見たらそんな感じに思えて。 兄さんは少し身
長が伸びてますから」

体育祭? 

「ああ。 クラスは違ったけど、組体操の時隣り同士だったんだよ」

 敬に言われて、ホッとした。

「でも、去年とは随分印象が違うんですね」

 ドキッ

「そうだね。 去年は元気で“真っ黒なお猿”だったよね。 真面目な所
はそのままだったけど。今は髪も長めで、色も真っ白だし。 大人しくな
った」

「・・・・そうなんですか」

 面白そうに稔を見た。





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