本当の気持ち （１６）

明るかった筈の外は何時の間にか暗くなっていた。　 　もっと貴章と一緒に居たかったが家に帰らなくてはならない。 　その事を言わなくてはならないのが、躊躇われる。 　それともう一つ、貴章に言わなくてはならない事が。 　先程の行為で身体がベタベタ。 　少し身体を動かすと、奥から貴章の放った物が溢れてくる。 　恥ずかしいやら何やら、何も言えずモジモジとしてしまう。 　そんな若菜に気づかない筈がない。 「ん、どうした？」 　オデコを合わせ貴章が聞いて来る。 　覗き込む瞳は優しい。 「えっと・・・・お風呂・・・・・」 確かに 　そのままにして置くのは身体に悪い。　 　若菜を離し、ベッドから降り、隣接されたバスルームに行きお湯を入れ 　る。 　戻りベッドの上で気怠そうにしている若菜を抱き上げる。 「うわ・・・・あの・・・・・・」 「連れて行ってやる」 　服を着ている貴章に対し、自分だけ全裸なのが恥ずかしい。 　身体をちぢ込ませ、一生懸命身体を隠そうとする。 　既にいろいろな所を見られているのにも拘わらず。 　可愛らしく、往生際の悪い若菜に苦笑してしまう。 　バスルームの床にそっと降ろし、貴章も服を脱ぎ全裸になる。 　 　思った以上に逞しい身体。 　引き締まり、綺麗な筋肉の付きかたに見惚れてしまう。 　それに比べて自分の貧相な身体。 　真っ白で、筋肉は一体何処にというような細さ。 　まだ青白くないだけ、マシなのかも知れないが。 　ジッと見つめていた事に気づき、慌てて目を反らす。 　シャワーの温度を確かめ、そっと若菜にかける。 　 「自分でしますから・・・・」 　貴章からシャワーを取ろうとするが、やんわりと手を押さえられる。 「私が洗うから、大人しくしていなさい」 そ、そんな・・・・・・・・ 　いくら何でもそれは遠慮したい。 　どうしいいのか、ジリジリと後ずさる。 　貴章はニッコリと笑い、若菜の腕を掴み逃げられないように、囲い込 　む。 　 「嫌です〜」 「何故？　私は若菜を洗いたいのに」 「僕は自分で洗いたいです。　そ、そんな恥ずかしいこと・・・・・」 　全身を朱に染める姿は艶めかしい。 　もう一度抱いてしまいたい気持ちに駆られてしまう。 　しかし、綾瀬から「昨日家に電話したら、熱を出して寝込んでいる」と 　聞いた。 　今日も本当は抱くつもりはなかった。 　若菜の身体の事を考えるならゆっくり休ませてやるべきだったのかも 　しれない。 　しかし若菜と再会。 　この手から離れてしまった愛おしい者の顔を見て、抱きしめていたら 　堪らなく欲しくなった。 　全身で若菜を感じたかった。 「しかし、隅から隅まで見ているから今更だと思うが・・・・・」 あう・・・・・・ 　確かに、あんな事やそんな事をした後なだけに、今更なのだが。 　意識のトロけていない、素の状態ではかなり抵抗がある。 　どうしようかと考えている内に、抵抗する事も忘れていた。 　若菜の意識が逸れたのを幸いに、喜々としながら洗い始める。 　しまった、と思った時既に遅く、無駄な抵抗で終わってしまった。 　嫌だと本気の泣きが入ったが、その願いも聞き入れられず、蕾に指を 　入れられ、中に放った貴章の物を掻き出された。 　その時の貴章の顔は、もの凄く嬉しそうだった。 　普段の無表情の貴章からは想像もできないくらい・・・・・・ 　終わった後はグッタリとなり、力が入らなく、抱きかかえられたまま湯 　船に。 　案外意地の悪い貴章にプリプリと怒ったが、楽しそうに笑われ、その顔 　を見ていたら何だか嬉しくなって、どうでもよくなっていた。 　上がった後も、当然拭かれる事に。 　もうすっかり慣れていた。 　お風呂上りには、冷たいレモン水を貰い一息ついた。 「もう少ししたら送って行こう」 　お互いバスローブを羽織り、若菜は当然貴章の膝の上にいた。 　出来ることなら、もっとゆっくりしたいが、時計を見ると既に７時を過ぎて 　いた。 　今度は何時逢えるのだろうか。 　口にはしなかったが、その思いは顔に出ていた。 　上目遣いが可愛らしい。 　とても美人顔だが、その視線は子犬が縋る視線。 　ギャップに苦笑してしまう。 「そんな、目をするな。　帰したくなくなるだろう。　暫くは仕事が忙しくなる から逢う事は出来ないが・・・・・・。　これを渡しておこう」 　渡されたのは携帯電話。 　 「これは？」 「私と若菜だけの物だ。　これなら毎日逢えるだろう」 　確かに、このテレビ機能の付いた携帯なら毎日逢える。 逢えないと思っていた、昨日の事を思えば・・・・ 　直接は逢えなくても、画面では逢える。 　渡された携帯電話をそっと抱きしめる。 　嬉しくてどうにかなりそうだった。

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