本当の気持ち
(11)







「あの・・・・、軽蔑しないでね・・・」

 いきなりそんな事を言われ綾瀬は焦った。

軽蔑って・・・
若菜に一体何が起こったんだ、そんな凄い出会いなのか?
 
 惚けた若菜と、自分にも他人にも厳しく冷たい兄の馴れ初めに、もの
 凄く興味が湧く。 
 急かさず辛抱強く待つ。

「僕、今まで人に・・・・女の子に興味が全然なかったんだ。 特に気にもな
らなかったし気にした事もなかったんだけど・・・・・。 そしたら有樹が」

なぜそこに有樹が出てくる
いいからその先を早く言え!

 思わず貧乏揺すりをしてしまう。

「有樹が恋人が出来たって凄く嬉しそうに言ったんだ。 それで紹介され
たのが女の子じゃなくって、一年の葛城君だったんだ・・・・」

あ〜、確かに紹介されたな、葛城を

 その時綾瀬もその場にいたのだから知っている。
 恋人が男と紹介されても特に驚く事もなかった。
 何故なら綾瀬自身の恋人も男だから。

 若菜はそこで一旦区切ってお茶を飲む。
 少し考える様な態度。
 綾瀬は思わず訝しむ。

「まあ、幸せそうだったし、有樹凄く可愛いから男でもありなのかな〜なん
て思ったら・・・・・」

 急に口ごもり上目遣いで綾瀬を見る。
 可愛い態度はいいから、その先が早く聞きたい。

「それで?」

 と促す。

「それで・・・それで、その二日ぐらいした後に綾瀬に街で会って、その横
にいた人が『綾瀬の彼氏です』って言って。 で、もしかしたら僕元々女の
子に興味がなかったんじゃないかと思って・・・・。 男の人の方が実は好
きなのかなと思ってね、パソコンで調べて二丁目にそういうお店がある
って調べてみたの。 変装して二丁目に行ったんだ・・・・」

 そこまで聞いて、クラッとなってしまった。
 脱力し、ソファーの背もたれに寄りかかる。

素顔を曝して二丁目・・・・
なんて危険な事を・・・・
良く無事で
ん? それは俺達のせいなのか?
まさか俺達のせいでそんな危険な目に合わせたとは・・・・
・・・・それがもしバレたら
いやもうバレている
絶対!

 悪寒が走る。
 しかしそれと兄貴章の繋がりが良く分からない。
 先を急かせる。

「凄く感じのいい店があって、そこに入ったんだ。 お酒飲んでたら何人
かに話しかけられたんだけど、どの人もピンと来なくって。 あー、男の人
にも興味なかったんだなって思ってるうちに飲み過ぎちゃって、帰ろうっ
て思ったんだ。 それで、立ち上がったら足に来ちゃって、支えてくれたの
が貴章さんだったんだ・・・・」

そんな馬鹿な・・・・

 まさか若菜がそんな事をするとは思ってもいなかった。
 
いくら惚けていてもそれはないだろう・・・・ 
 
 それも驚いたが貴章がそんな店に出入りしていた事の方が驚いた。 

と、いう事は?

「・・・・まさかそれで?」

 若菜はポッと頬を染め、手を合わせ指をイジイジしている。

「この家に何回も来て写真見てたから顔は知ってたんだけど、かなり酔っ
てて最初は誰だか分かんなかったんだよ。 見たことあるな〜って思った
んだよ、でもそんな事どうでも良くって。 ただ、凄く好きだなって・・・・・・」

 初めて会って、一目惚れでそのままベットインとは・・・・・
 若菜と貴章は一気に燃え上がったのだろうが・・・・
 己の兄の行動と、若菜の行動に頭が痛くなった。

「それで、お互い付き合う事にしたんだ?」

 そう言った途端若菜は俯いてしまった。
 
もし付き合えたなら、どんなに幸せだろう・・・・

 悲しくて肩が震える。

「まさか、付き合ってないのか? どうして!? 好きなんだろう兄さんの
事」

 膝に雫が落ちる。
 俯いた瞳から涙が零れていた。
 綾瀬には分からなかった。
 席を移動し、若菜の隣りへ座る。

「・・・・・・・凄く好き・・・・。 でも綾瀬のお兄さんだから・・・・・・・・」

「俺の?」

 意味が分からない。
 何故自分の兄だと付き合えないのか。

「だって、綾瀬は大切な友達だから、僕なんかとお兄さんが付き合うなん
て出来ないよ・・・・・ひっく・・・・・」

 涙を流し隣りに座る綾瀬を見詰める。
 綺麗な涙だ。

「どうして・・・・、俺は全然気にしないよ。 若菜なら大賛成だよ」

「本当? でも僕なんかじゃ貴章さんに全然釣り合わないし、相応しくない
から。 綾瀬も嫌じゃないかと思って」

 まさか若菜がそんな風に思っているとは・・・・
 性格は自分と違って可愛いし、顔もかなり美人だ。
 頭だって、成績は常に学年トップ3に入っている。
 何処をどうしたらそんな考えになるんだか・・・・・
 ため息が出てしまう。

「兎に角。 若菜は兄さんの事が好きで、付き合いたいんだろ。 俺は反対
しないし、若菜が幸せになる事は賛成だ」

「でも・・・・・」

「でも?」

「僕黙って出て来ちゃったし、それに嘘も付いたから怒ってると思う・・・・・」

「どんな嘘?」

 口ごもって俯く若菜に優しく問いかける。

「名前・・・・。 名前聞かれて咄嗟に『岬有樹』って言っちゃった・・・・」

 項垂れた若菜。
 そんな若菜を見て綾瀬は微笑む。
 そして背中とトントンと優しく叩く。
 
「大丈夫そんな事くらいで怒ったりしない。 もっと好きになるはずだから。
俺たち兄弟の事を考えて、そう言ってしまったんだし。 若菜が兄さんに
釣り合わないなんて事は絶対ないから。 若菜が離れたがっても兄さんが
離してくれないから」

 そう言い切った。
 そして微笑みながら立ち上がり、少し離れた場所へ。
 なぜなら・・・・・

「若菜・・・・・」

 座ったままの若菜の事を後ろから抱きしめる人がいる。
 絶対忘れないと耳に残した声が。
 二度と聞く事は無いだろうと思っていた大好きな人の声と暖かい温もり
 が若菜を覆っていた。

嘘だ・・・・・・ 

 綾瀬を見詰めたまま若菜の瞳からは涙がいつまでも溢れていた。





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