本当の気持ち
(10)







 綾瀬は初めて若菜の家に行った時、その時の事は聞いてはいないが、
 そういった危険があるからと、帰る時に青葉に言われた。

 勿論、若菜の素顔を見た後だけに、青葉には学校にいる間は出来る
 だけ気を付けると約束していたのだ。
 そして、常に一緒にいて、何時もメガネを外さないようにと言い、若菜も
 大丈夫と言い気を付けていたはずなのに・・・・
 それだけに、今回のように目の前でメガネを外そうとした若菜の行動は、
 自分の認識の甘さを痛感させられた。
 今まで安心し、若菜のどこか惚けた所を忘れていたのだ・・・
 
もっと注意しなくては
特にこれからは・・・・・・・

 二人をあらためてキッと睨みつける。
 そして一層若菜と有樹を怯えさせた。

綾瀬が恐すぎる〜
でも何時も注意されてたのに外そうとした自分が悪いだけど・・・・
う〜でもにんなに知られたら、毎日送り迎えになるし・・・・ 
それは嫌かも〜〜

 そうなのだ。
 転校と同時にメガネをかけ始め素顔を曝さなくなったのに最初の一ヶ月
 は送迎されていた。
 本当は毎日晃司が送迎したがったが、仕事で家を空けることが多いの
 でそれは無理。
 なので晃司が送迎出来ない時には、晃司が自分の甥に送迎を頼むとい
 う徹底ぶりだった。
 新しい学校に危険がない事を一ヶ月かけ確認すると、ようやく送迎が
 なくなったのだ。

またそんな事になったら・・・・・

「ごめんね、綾瀬・・・・・・。 気を付けるよ・・・・・」

「うん。 僕も・・・・。 言われてたのにかえって外させるような事言っち
ゃってごめんなさい・・・・・」

 揃って項垂れ反省しているので、まあ良しとする。
 
「分かればいい。 さ、もうすぐ授業だ。 教室に入るぞ」

 二人を伴い教室に入ると、丁度チャイムが。
 少し遅れて担任が入って来てホームルームが始まった。
 綾瀬は少し離れた席から、前に座っている若菜を見る。

さて、放課後だよな・・・・・

 綾瀬はため息を吐き、思わず机に伏せたくなってしまった。
 
 若菜は放課後の事を考える。
 思い出したくなくても、身体に残った怠さが嫌が上でも思い出させる。 
 綾瀬は何時もと変わらず普通に接してくれているが・・・・・・

逢いたい・・・・・

 まだ一日しか経っていないが、貴章に会いたかった。
 こんな事で大丈夫なのだろうか。
 忘れられるのだろう。
 でも、大切な綾瀬を失いたくない。
 だが、弟の綾瀬と一緒にいれば何時も貴章を思い出してしまう。
 若菜も机に伏せたくなってしまった。

 そして、遂に放課後になってしまった。
 綾瀬を見ると鞄に教科書を入れている。
 今の内に帰ってしまおうと、ソロソロ歩き出す。

「若菜・・・・・」

 振り返ると綾瀬が立っていた。
 思わず「えへへ」と笑って誤魔化す。
 綾瀬はため息を吐き、若菜の腕を掴み歩きだす。

「家へ行くぞ」

 出来れば聞かないで欲しいのだが、綾瀬としては自分の兄の事なだ
 けに気になるは当然だと思う。
 貴章との事を話して綾瀬に嫌われたら、友達じゃないと言われたら。
 繋がれた手・・・・ 
 綾瀬の横顔を盗み見る。
 特に怒っているようは見えないが心の中は分からない。

 男二人が手を繋いだまま道を歩き、電車に乗るのはかなり不自然だ。
 一人はかなりな美形だが、もう一人は頭はボサボサで目元は半分隠
 れそこから覗くのは鼈甲のメガネ。
 回りの人もチラチラ見ている。
 しかし、綾瀬は若菜に逃げられる方がマズイので視線は全く気にしな
 い。
 一方の若菜は元々そんな事は気にもしていなかったし、視線も気にな
 らなかった。

 学校から綾瀬の家まで駅は三つほど。 
 それほど遠い距離ではないが若菜には辛かった。
 その様子を見て駅からはタクシーを使う事に。
 綾瀬の家は駅から五分ほどの閑静な住宅街の中にある。
 どの家もかなり豪華で大きいが、綾瀬の家はその中でも飛び抜けて
 大きかった。
 門の前で一旦止めて貰い、連絡を入れ門を開けて貰いそのまま入っ
 て貰う。
 タクシーの運転手もまさか自分の車で、久我山グループの自宅に入る
 事が出来るとは思わず一人興奮気味で喋っていた。
 年いった運転手は「冥途の土産になった」だの「後で同僚に自慢しよう」
 と。
 玄関に車を着け支払いを済ませる。

 ここまで来たら覚悟を決めるしかない。
 綾瀬の後を付いて家の中へと入る。 

いつ来ても凄い部屋・・・・・・・

 中は豪華なアンティーク家具で統一されている。
 暖炉までありその上には家族の写真が飾られている。
 思わず写真に目がいってしまう。
 そこには貴章が写っているから・・・・・

「さ、若菜そこに座って」

 急に話しかけられ、ビックリするが、大人しくソファーに座る。
 テーブルの上にはいつの間にか紅茶が用意されていた。
 
「先週の土曜日・・・・・・」

「ごめんなさい!」

 綾瀬がまだ話している途中で若菜が突然謝った。
 その勢いに驚く。
 何を思ってそんなに勢いよく謝るのか綾瀬には分からない。
 しかし若菜の顔を見ると血の気が引いていて、涙が零れている。

マズイ!

 咄嗟に思い、宥め始める。

「若菜別に怒ったり、攻めてる訳でもないんだ。 ただ何時から兄とそう
いう関係なのか、気になっただけなんだ。 ほら泣きやんで」

早く泣きやんでくれ
そうでないと・・・・・・・

 焦りと恐怖で綾瀬の心拍数が早くなる。
 綾瀬が怒っていないのだと分かると、若菜も取り敢えず落ち着く。

「本当?」

 メガネを外し涙を制服の袖で拭きながら上目遣いで綾瀬を見る。

若菜可愛すぎ・・・・・・・

 その気がなくても思わずクラッとしそうになる。
 そんな自分を叱責する。

「勿論だ。 ただ、少し驚いただけだから」

 優しい口調で話されすっかり落ち着いた。 
 全部綾瀬に話す事に決めた。





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