本当の気持ち
(9)







 教室前まで来ると中はいつも以上に騒がしい。
 だが中に入ると急に静かに。

なに?

 どうしたのかと思っていると先に来ていたもう一人の親友、岬有樹が
 「おはよう」と、声をかけて来た。
 昨日、貴章に自分の名前を『岬有樹』と偽っただけに、ばつが悪い若
 菜。

「おはよう・・・・」

「何か凄かったんだって?」

 話が読めない。

「何が?」

 そう聞くと、有樹は目をキラキラと輝かせながら話し始める。

「え、だって家族揃って来たんでしょ。 あ〜僕もその場にいたかった」

 どうやら校門での事らしい。
 クラスメートもその事でざわめいていたらしい。
 今は二人の会話を聞き漏らさないよう耳を立てている。

「何言ってるの。 有樹、家に遊びに来てみんなに会ってるでしょ」

「そうだけど、家族全員揃ったとこ見たことないし」

そう言われるとそうかも

 父晃司はフライトで家を空ける事が多いし、紗英は一年ながら生徒会書
 記をしていてなかなか忙しい。
 青葉は部活で忙しく、弓道はかなりの腕前で中・高・大学部の中でトッ
 プの位置におり有望視されている。
 大会があるときは、家族全員がなるべく揃って応援に行く事にしている。

 いつも家にいるのは母佐織と若菜だけ。
 一緒にお菓子を作りお茶したり、夕食の手伝いをしているので今ではか
 なりの腕前。
 物によっては若菜の方が美味しい時もあったりする。
 
「でも、みんなには会ってるんだからさ」

「分かってないね。 若菜を入れて五人の揃った所が見たいんだよ。 そ
うそう見られないからね。 こんな美形家族」

美形?
ないない

 クラス全員が心の中で否定する。

 有樹も数少ない若菜の素顔を知る人物。 
 しかし、若菜の素顔を見たことのないクラスメート達は、誰もが『みにくい
 あひるの子』と思っていた。

「まあ、僕以外は確かにね」

「は、何言ってんの? 若菜が入んなくてどうするんだよ」

 家族全員を知っている有樹は憤慨する。
 若菜が一番あの家族の中では美形なのだから。

「メガネ外せば、少しはましかもね」

 そう言ってメガネに手を掛ける。 
 その行動に、全員の視線が若菜に向く。
 ゴクリと息を呑む音もちらほら。

 そんな若菜の行動に、少し離れた席に荷物を置いていた綾瀬がギョッと
 する。
 有樹も慌てる。

「待て若菜!」

 いつも物静かな綾瀬が叫んだ事にクラスメート達は驚き、全員の視線
 が綾瀬に向く。
 その隙に有樹が外しかけたメガネを元に戻す。

ナイスコンビネーション・・・・・

 視線を若菜に戻した時には、メガネはキチンと掛けられていた。

『残念・・・・・・・・』

 誰もが思った。
 慌てた綾瀬が若菜の元にやって来て、若菜と有樹の腕を掴み廊下へ
 と連れ出す。

「若菜、外でメガネ外すなって言われてるだろう。 それに俺も外すなと
言ったはずだが」

 綾瀬の冷たい眼差しとキツイ口調にビクリと肩を竦める。 

「あ・・・・うん・・・・・・」

「それに有樹。 お前にも気を付けるように頼んだはずだが」

 こちらも綾瀬のキツイ口調と視線にビクリと。
 二人は両手を繋ぎ身を寄せ合う。
 綾瀬の目の前で子犬が二匹怯え震えてていた。
 あまりの可愛らしさに微笑みそうになったが喝を入れる。
 若菜は兄貴章の唯一の執着者。
 今後の自分の事や若菜の事を考えると、下手にメガネを外し害虫が付く
 のは非常に困る。
 何としても隠さないと。
 それには、周りの協力も必要なのだ。

そのために有樹にも頼んだのに・・・
お前が外すようにし向けてどうする・・・・・・

 綾瀬によりキツイ視線を向けられ涙目になる有樹。

「また同じような事があれば皆に連絡するからな」

 この一言はかなりきた。 

もし連絡されられたら・・・・・・・・

ブルブルッ・・・・・・・・

 身震いしてしまう。
 

 
 若菜がメガネをかけ始めたのは中学に入って暫く経っての事。
 幼稚園、 小学校の時はスクールバスで通っていたが、中学生になっ
 てからは自転車通学。 
 家族(特に晃司と当時小5の青葉)はこぞって反対したが、若菜の強い
 要望と母佐織の口添えにより自転車学が叶った。 
 
 最初の半月までは良かった。
 だが慣れない自転車通学。
 疲れ気味のところに、偶々学校へ行く途中雨に降られ濡れてしまい授
 業の途中で熱を出し保健室で寝ることに。
 保険医が家に電話をし、その日は休みで家にいた晃司が迎えに来るこ
 とに。
 若菜は熱が高かったため意識が無く、その時の事は覚えていない。

 晃司が学校に着いた時は丁度授業中で廊下は静まりかえっていた。
 事務員に案内され、具合の悪い若菜に気遣い静かに保健室のドアを開
 けへと入る。
 ベットの回りはカーテンが閉められ中が見えない。
 不審な気配を感じた晃司。
 窓が開いていないのにも拘わらず揺れていた。

 足音を潜めカーテンを覗くと上級生らしき人物が二人意識のない若菜に
 のし掛かっていた。

「何をしている!」

 晃司はカーテンを引きちぎり中で若菜にのし掛かっていた二人を引き
 剥がしそれぞれ腹を一発づつ殴り気を失わせた。
 本当ならば再起不能なまでにしてやりたかったのだが、今後の事を考
 えるとそれ以上の暴力はマズイと、思いとどまった。

 一緒にいた事務員は慌てて職員室へ。
 直ぐに校長、教頭がやって来て謝罪する。
 気を失っている生徒を見て眉をしかめたが、どう見てもこの二人が悪い
 ので、この処置も適切な事だと納得する。
 この二人の親が来るまでいたかったが、熱を出している若菜をこのまま
 にしておく訳にはいかないので話し合い等は後日にし、急いで若菜を
 病院へ運んだ。
 肺炎を起こしかけていたのでそのまま入院。

 入院している間に、晃司と佐織は学校と二人の両親と話し合い、若菜を
 襲った二人は退学。
 被害者であった若菜も転校する事になった。
 学校側は、こんな不祥事は二度と起こらない、起こさせないから転校を
 思いとどまるよう晃司に言うが、拒否した。
 若菜の美貌はこの学校にいる者全員が知っている。
 また同じ事が起きるに違いないと。

 そしてコネを使い転校するには中途半端な時期に、若菜は今の学校鳳
 学園中等部に入った。
 その時からメガネを掛けるようになったのだ。
 レンズには度は入っていない。
 急な転校、メガネに戸惑い文句を言ったが家族全員が恐い顔で

「メガネは絶対外さない事!」

 と言うものだから仕方なくかける事に。
 前髪を伸ばし目元を隠し、だてメガネを掛けていたおかげで、すっかり
 目が悪くなり今では必需品となっていた。





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