本当の気持ち
(8)







 具だくさんのミネストローネをいっぱい食べた若菜。
 一晩ゆっくりと休んだお陰で月曜の朝には身体も楽になっていた。

 元気になったその姿を見て家族も一安心。
 紗英も朝早く綾瀬に連絡が取れ一安心していた。
 綾瀬は一言「大丈夫」とメールをくれた。
 紗英はその一言がきっと良い方向に進むと信じて疑わなかった。

「若菜ちゃん一緒に行こう」

 いつもは部活の朝練で1時間早く登校している紗英がリビングにいた。

 紗英は附属中学からエスカレーターで高校に上がってきた。
 美人で頭も良く今年の新入生の中でダントツの人気。
 登校はいつも別々なので若菜と紗英が兄弟だとは誰も思っていない。

「どうしたの? 初めてだよね」

 そう言いながら椅子に座り首を傾げて紗英を見る。
 メガネを掛けていない素顔の状態。 

若菜ちゃん可愛すぎる・・・・・・

 隣りで弟青葉がウットリして見ている。
 思わず引いてしまう。
 若菜が恋いをしていると知ったら、恋人が出来たら一体この弟はどうす
 るのだろう。
 ため息をそっと吐き横を向くと同じようにウットリとした父晃司の姿が。
 
「うっ・・・・」

 思わず呻いてしまった。
 もう一人若菜を溺愛している人物。

怖すぎる・・・・・・
 
 まだ見ぬ恋人候補に同情してしまう。
 この二人を押しのけ若菜を幸せにする人物は、はたしているのであろう
 か。
 まあそれは置いといて、今は若菜の初恋を何とかしてあげたい。
 違った意味で溺愛し、若菜を応援する紗英だった。

「若菜ちゃん昨日具合が悪かったでしょ。 今は良くても途中で具合悪く
なったら困るでしょ?」

「そうだよ若菜、俺も途中まで一緒に行く。 3年だから部活はもう出
なくてもいいし」

 今年中学3年の弟青葉。
 弓道部に所属。
 若菜達と同じ学校の付属中学に通っている。
 中学と高校の区別をつけるため制服は学ラン。
 制服が全く替われば同じ学校でも気持ちも新しいものなるだろうとの事
 で。
 普通ならあり得ない事だ。

 青葉は外部受験せず、そのまま内部進学する予定。
 部活もそのまま活動していても構わないのだが、外部進学する者のた
 めに、3年は出ても出なくてもどちらでもよかった。
 なので青葉は気の向いた時にのみ部活に出ている。

 普段の若菜は擬態しているからそれほど心配なかったが、昨日具合が
 悪かっただけに心配で仕方ない。
 もし転んでメガネが外れ、素顔が曝されたら・・・・・・
 大きな体に似合わず若菜に関しては小心者。
 寒気を感じ震えてしまう。

「そうだパパが送ってあげよう。 今日も休みだからね」

 フライトがなく、やはり若菜の事が心配だった父晃司が言う。

「え、パパが行くのならママも」

 結局家族揃って車で行く事になってしまった。
 過保護(自分を含めて)な家族にため息を吐く紗英だった。


 車で学校に行き門で降ろしてもらう事に。
 登校時間もピーク。
 正門前に着けられた黒塗りのベンツ。
 登校してきた生徒が驚き足を止める。
 ヤバイ人なのかドキドキしながらドアが開くのを待つ。

 中から最初に出たのは紗英。
 校内一の美少女紗英の登場に一同安心し、そして見惚れる。
 続いて青葉。
 中3とは思えない落ち着き大人びた風貌、未完成とはいえハンサムな
 容姿に女子が見惚れる。
 そして同時に彼等によく似た大人の美男美女が降りる。
 四人の美貌に騒がしかった校門が静まりかえる。
 そして最後にもう一人。

今度はどんな美形が・・・・・・・
 
 誰もがドキドキしながら見守った。
 だが寝癖の付いた髪に鼈甲メガネの若菜だった事でこけた。
 誰もが「嘘だ――――!」と心の中で叫んだ。
 それぐらいインパクトがあった。

「若菜大丈夫か? 辛かったらこのまま帰るか?」

 一緒にいる時間が少なかった事に不満な晃司は若菜を休ませようと
 色々言う。

「本当に大丈夫だから、心配しないでお父さん」

 抱きしめる晃司にクスリと笑う。

「じゃあ具合が悪くなったら直ぐ電話してね。 迎えに行くから」

「分かったよ、お母さん」

 会話を聞いていて親子に間違いないのだが、どう見ても・・・・・
 こんな美形ファミリーにこんなダサイ若菜。
 唖然呆然としている所に別な声が。

「大丈夫ですよ、何かあれば直ぐ連絡しますから。 お早う若菜」

 いつの間にか綾瀬が若菜の後ろに来ていた。
 一番信頼の置ける綾瀬の登場に家族が安心する。

「そうだね、綾瀬君は同じクラスだし。 じゃあ若菜を宜しく頼むよ」

 素直に若菜を離し、頬にキスを落とし名残惜しげに帰って行った。

「じゃあ、綾瀬さん。 宜しくお願いします。

 青葉も安心し中等部へ。
 紗英は綾瀬の顔を見る。
 綾瀬は少し微笑み「大丈夫」とメールと同じ言葉を口にした。
 それに安心し紗英も自分の教室に向かう。
 一方取り残された若菜は、突然の綾瀬の登場に落ち着かない。
 昨日一生懸命考えた言葉も何処かへ飛んでしまった。
 何を言っていいのか・・・・・
 綾瀬はジッと若菜を見ていたが特に何を言うでもない。

「さあ、俺たちも行こうか」

 そう言って歩き始める。

もしかして僕って分からなかったとか
だから何も言わないのかな・・・・

 横を歩きながら綾瀬を盗み見る。
 綾瀬は真っ直ぐ向いて歩いたまま若菜に一言。

「放課後ゆっくりと・・・・」

やっぱりバレテる〜〜〜〜

 ガックリ肩を落とす若菜だった。





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